社員に愛されるスターバックスのエンゲージメント
職場の多様性を確保するダイバーシティマネジメントは、「働き方改革」を推進していく上で、大きなテーマのひとつとして位置づけられています。さまざまな個性を包括し、誰もがいきいきと働ける環境づくりのために、私達はどのようなことを考え、実行していくべきなのでしょうか。
今回は、ダイバーシティに富んだ現場のマネジメントの実践例として、スターバックスコーヒージャパンで働く山田哲嘉さんと藤田友樹さんにお話を伺いました。店舗の実践にフォーカスした中編を受け、後編ではスターバックスの全社的な取り組みを紹介しながら、組織としてインクルージョンしていくための視座に迫ります。
店舗による違いも「人間らしさ」、唯一の正解はない
WORK MILL:多店舗展開をする企業として、各店舗の足並みを揃えるのはなかなか骨の折れる課題かと思います。そういった全体的なマネジメントについては、スターバックスはどのように捉え、どんなテコ入れをしているのでしょうか。
藤田:Our Mission and Valuesの「人間らしさ」を尊重する考えに則れば、店舗ごとに差があるのは当たり前のことだとも捉えています。そもそも、Our Mission and Valuesについて「こう体現したらベストだ」という正解はないんですよね。店によって働いている人も違うし、地域によって求められる接客の質感も変わってきます。
WORK MILL:店舗による差異も、人間らしく働いているからこその個性差だ、というわけですね。
山田:だから、店舗によって差がある状態を「どこかが正解で、どこかが間違っている」とは考えていません。それぞれの店舗がその店らしいやり方でMission and Valuesを実践していけばいいのかなと感じています。
藤田:スターバックスの店舗は「ディストリクト」と呼ばれるエリアで区切られています。10店舗ほどが1つのディストリクトにまとめられていて、定期的にその地区内のストアマネージャーが集まって、各店舗の現状について共有・相談し合う機会が設けられています。ほかの店舗がどんな考え方でどんな店づくりをしているのか、その違いを知れることで、より自分たちらしい店への理解が深められているなとも感じています。
ストアマネージャーの立場にいると、普段なかなかお店全体のことを相談する相手はいないので、そこで考えていることをつらつらと話し、共有することが助けになっています。店長にもいろんな属性の人がいるので、お互いのことを知っていると「これから育休を取ろうと思うんだけど……」「それならあそこの店長が取ったことあるから相談してみたら?」と、フォローし合えることも多くなり、コミュニケーションの重要性を感じます。
会社が社員に愛されるためには
WORK MILL:ここまでは主に店舗でのダイバーシティマネジメントのお話を伺ってきましたが、全社的なダイバーシティマネジメントにおいて、何か直近で新しく取り入れた制度などはありますか。
藤田:それで言うと、2017年10月からストアマネージャーの人事考課の方法が変わりました。それまでは営業成績などのいくつかの項目でレーティングをつけて相対的に評価を行なっていましたが、それが上長との対話によって評価が決まるようになったんです。
新しい評価方法の制定にあたり、各ストアマネージャーは「パフォーマンスゴール」という1年後に達成するべき目標を設定します。その上で、パフォーマンスゴールをストアマネージャー同士で開示し合って、他のマネージャーであっても「私は貴方に対してこんなサポートができるよ」と話し合う機会「ギャラリーウォークアクティビティ」が設けられるようになりました。これが、社員であるストアマネージャーの働きやすさに結びついているかなと感じています。
WORK MILL:スターバックスで働いている方は、皆さん会社に愛着を持たれているように感じます。会社が愛される秘訣って、どんな所にあると感じますか。
藤田:Our Mission and Valuesの繰り返しになってしまいますが、自分の好きなことや長所、目標が認められているからだと思います。自分が楽しくて、やりたくてやっていることが仕事に繋がって、しかも称賛される。その充実感が、愛着に結びついているのかなと。
山田:「あなたのやっていることは素敵だよ」と会社、環境が認めてくれているから、自信が生まれるんですよね。そして、スターバックスにいる自分を、自分が好きになれる。だから、そんな自分でいられるスターバックスのことも、結果的に好きになるのかなと、僕は思います。
藤田:お店だと、誰かが辞めるとなったら一大事ですもんね。みんな号泣です(笑)。辞める人に「最後に一言お願いします」と振ったりすると、延々とお店に対する思いを語ってくれます。それくらいお店や一緒に働く仲間のことを好きになってくれるのは、ありがたいことだなと感じます。
ダイバーシティの表層だけを捉えない、一人ひとりが皆違う誰もが活躍できる居場所に。
WORK MILL:お二人のお話から、スターバックスの働く現場としての居心地のよさが、とてもよく伝わってきました。その上で、現状これからの課題として捉えていることはありますか。
藤田:「スターバックスの仕事は、ただ接客をするだけではなくて、自己実現に繋がるんです」ということをもっとわかりやすく伝えて、幅広い方から「ここで働きたい」と思ってもらえるような機会をつくれたらいいなと考えています。スターバックスで働くことのやりがいは、外から見ただけでは伝わりきらないので。私は「スターバックスで働いた経験のある人が増えたら、世の中が少し豊かになっていく」と信じているので、より多くの人に興味を持ってほしいです。
山田:私は、スターバックスを現状よりさらに多様性に富んだ店舗、会社にできたらと思っています。とりわけ日本では、人種の違いが少ない分「同じ人種の中でも価値観の違いがある」ということへの理解を促していく必要があると感じていて。ダイバーシティというのは、人種や性別など、わかりやすい違いのことだけを指すわけじゃないですから。
藤田:それは表層的なダイバーシティでしかないんですよね。私たちが尊重にしていくべきなのは、「一人ひとりがまったく異なる思考や個性を持っている」という前提に立つ、深層的なダイバーシティだと感じています。
山田:スターバックスは、誰もが活躍できる居場所になりたいと考えています。これから日本国内の多様化が進んで、さまざまな年齢、人種、性的指向や価値観の方がパートナーとなって職場に入ってきても、これまでとやることは変わらないと思います。「偏見は基本的に思い込みから生まれるものだ」と認識して、フィルターをかけずに接するのが大切です。これは「相手が外国人だから」「障害を持った方だから」という話ではなくて、「皆それぞれに違うのだから」という前提で、いつでも、誰に対しても持つべき意識じゃないかなと、私は思っています。
2018年7月24日更新
取材月:2018年5月