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シンプルな理念が、万人の働きやすさを生み出す ― スターバックス コーヒー ジャパンが追求する「Our Mission and Values」

職場の多様性を確保するダイバーシティマネジメントは、「働き方改革」を推進していく上で、大きなテーマのひとつとして位置づけられています。さまざまな個性を包括し、誰もがいきいきと働ける環境づくりのために、私達はどのようなことを考え、実行していくべきなのでしょうか。

今回は、ダイバーシティに富んだ現場のマネジメントの実践例として、スターバックスコーヒージャパンで働く山田哲嘉さんと藤田友樹さんにお話を伺いました。前編では、スターバックスの職場の働きやすさの根幹を成す「Our Mission and Values」についてフォーカスします。

職場が、働く人にとっての「居場所」であるために

左から松本なぎさライフサイト店 ストアマネジャー※ の藤田友樹さん、組織人材開発部の山田哲嘉さん。今回、現場と組織運営とそれぞれの視点からお話をうかがうべく、おふたりにインタビューさせていただきました。
※ ストアマネジャー=店長

WORK MILL:スターバックスは全国に1300以上の店舗を持ちながらも、どの店舗でもパートナー(従業員)の方々がいきいきと働いていて、きめ細かいサービスを提供されているように感じます。多くの店舗でそのような環境を維持できている秘訣は、どんな所にあると思われますか。

山田:パートナー1人ひとりが弊社の企業理念Our Mission and Valuesを大事にし、定期的に自分の価値観の重なり合う部分をすり合わせながら働いています。又、パートナー全員がお互いに尊厳と威厳を持って常に働きやすい環境を作り出せるよう、スターバックスにおけるコミュニケーションスキル〝スタースキル″を意識し、日々のコミュニケーションを行っています。秘訣と明確に言えるかどうかはわかりませんが、Our Mission and Valuesやスタースキルに適った行動をすることが、いい職場環境の維持に繋がっているのは確かだと思います。

WORK MILL:Our Mission and Valuesとスタースキルについて、それぞれ内容を教えてください。

藤田:企業理念であるOur Missionは、「人々の心を豊かで活力あるものにするためにひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」と定めています。そして、そのOur Missionを達成するための5つの行動指針をValuesとして明文化しています。

参照:スターバックス Our Mission and Values 

藤田:また、社内ではこのOur Mission and Valuesを体現するために「自信を保ちさらに高め、「相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない」、「困ったときには助けを求める」という3つのスキルを意識し、日々のコミュニケーションを行っています。これらを「スタースキル」と呼んでいます。

WORK MILL:それぞれ、シンプルで力強い言葉ですね。少し抽象度が高いのも印象的です。

山田:そうですね。個人的には、スターバックスのOur Mission and Valuesの根幹のメッセージは「人間らしさを大切にする」という部分に集約されると思っているのですが、この「人間らしさ」についても、会社で明確に定義されているわけではありません。ほかにも「居場所」や「人々」などと、意味に広がりのある言葉が散りばめられています。これらをどう解釈して、どう行動に生かしていくかは、それぞれ個人が考え続ける課題になります。

WORK MILL:Our Valuesの中には「お互いに心から認め合い、誰もが居場所と感じられるような文化をつくります」という一文がありますね。今回のお話のテーマである「ダイバーシティマネジメント」に通じる項目かと感じます。「誰もが居場所と感じられる」とは、どのような状態だと考えられていますか。

山田:「居場所」であるためには、居心地がいいだけではなく、そこで自ら進んで「何かしたい、貢献したい」と思えるような、オーナーシップが持てる環境であることが必要だと思います。

藤田:その点は、スタースキルが生きてきますね。3つのスキルについて、もう少し具体的に言及すると……「自信を保ちさらに高めていく」は、できることや長所を見つけて認め合うこと。「相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない」は、ただ話をウンウンと聞のではなく、発言の意図や背景まで想像して理解する努力すること。「困ったときには助けを求める」は、できないことをダメだと捉えずに、できないままにしないよう積極的に周りに助けを求めていくことだと、私は解釈しています。これらが現場で実践できると、どんなパートナー(従業員)にも「ここで働きたい」と思ってもらえるような居場所に近づくと思います。

理念は覚えるものでなく、理解して行動に落とし込むためのもの

WORK MILL:実店舗の運営にあたって、「多様な人材を積極的に活用しよう」というダイバーシティの意識は、意図して持たれていますか。

藤田:それは持っていますね。スターバックスにはあらゆる年代、属性の方がお客様としていらっしゃいます。特に私の店舗では多様なお客様の気持ちに寄り添うためにも、現場で働くパートナーの属性に偏りが出ないように、さまざまな背景を持った方を採用するようにしています。

山田:採用については、お店の立地の影響も受けます。たとえば大学の近くの店だと、パートナーは必然的に学生さんが多くなります。そういった場合でもシフトを調整して、なるべく幅広い年齢層と属性のパートナーが働いている環境をキープできるよう配慮しますね。前述のようなお客様へのサービス面の意図はもちろん、パートナーの皆さんには、多様なタイプの人と一緒に働く経験から、たくさんの学びを得てほしいと思っているので。

WORK MILL:さまざまな属性の人が一緒に働くように調整した環境下では、その違いから何か問題が起きたりはしないのでしょうか。

藤田:最初は、お互いに話しかけづらそうにしていて、働く上で少し連携が取れにくくなることもあります。ただ、お店にOur Mission and Valuesの考え方が根付いていると、次第に積極的にコミュニケーションを取るようになり、程なくして打ち解けてくれます。経験上、それほど大きな問題になったことはありませんね。

WORK MILL:Our Valuesの中の「誠実に向き合い、威厳と尊厳を持って心を通わせる、その瞬間を大切にします」といった考え方が、職場内での相互理解を促しているのですね。ともあれ、Our Mission and Valuesのような抽象度の高い理念を職場に浸透させるのは、そう簡単なことではないように感じます。Our Mission and Valuesを根付かせる施策として、何か店舗で取り組まれていることはありますか。

山田:Our Mission and Valuesの理解を促し、それに則った行動を強化していく仕組みとして、スターバックスでは「グリーンエプロンカード」というものを各店舗に置いています。このカードは5種類あって、それぞれがOur Mission and ValuesのOur Valuesに述べられている要素を1つずつ表しています。

個人の人生を尊重し、企業の目標との重なりを探る

WORK MILL:シンプルですが、理に適ったシステムですね。ほかにもOur Mission and Valuesに寄り添った取り組みなどがあれば、ぜひお聞かせください。

山田:たとえば……弊社では4カ月に1回、社員だけではなくアルバイトも含めパートナーの人事考課を行うのですが、そこで最初に聞くのが「5年後、10年後に自分がどうなっていたいのか?」という質問なんです。

WORK MILL:それは、お店の中での行動目標ではなく、その人の人生の目標として聞くと?

山田:そうですね。まず、パートナーの「こんな人間になりたい」という理想像を、対話から引き出していきます。それから「じゃあそこに近づくには、お客様や一緒に働く仲間たちに、どんなことができますか?」と、日常的な業務での目標に落とし込んでいきます。その際に、「その目標を達成するには、Our Valuesのこの部分を意識できるといいね」などと、Our Mission and Valuesを照らし合わせていくんです。

WORK MILL:なるほど。

藤田:会社の理念を「ここで働くなら、こうしてください」と一方的に押し付けても、なかなか受け入れてもらえません。まずは、現場で働く一人ひとりの個人の生き方や思想を理解し、尊重する。その上で「その考え方はうちの会社の理念のここと繋がるね」「この店でこういう働き方ができると、お互いハッピーだね」という落とし所を、一緒に考えていくことが大切です。

個人の理想と企業の理念の共通点を探し出し、「自分の成長が会社への貢献と一致する」といった状態をつくれているからこそ、ほとんどのパートナーが無理なくOur Mission and Valuesを受け入れられているのだと思います。


前編はここまで。中編では店舗におけるダイバーシティマネジメントの実践について、具体的なエピソードを交えながら深掘ります。

2018年7月10日更新
取材月:2018年5月

テキスト: 西山 武志
写真:岩本 良介
写真提供:スターバックス コーヒー ジャパン
イラスト:野中 聡紀