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理想と現実は、折り合いをつけるのではなく、高め合うもの | 山川咲(CRAZY)

「あなたは、意志のある人生を送っていますか? 意志を持って仕事をしていますか?」ウェデイング業界に革命を起こした「CRAZY WEDDING」の創設者・山川咲さんは、自身が手がける事業を通して、世の中にそう問いかけ続けています。彼女の仕事観、組織のつくり方、場のつくり方には、これからの「はたらく」を考える上で大切なヒントが、たっぷりと隠されていました。全3編にわたる山川咲さんへのロングインタビュー。後編では、山川さん個人の仕事観や思想、今後の展望について、じっくりお話を聞かせてもらいました。  

「誇れる仕事」に就くことが、当たり前になる世の中を目指す

WORK MILL:山川さんは今年に入って、これまで大切に育ててきた「CRAZY WEDDING」を卒業する、と発表されましたね。どんな心境の変化があったのでしょうか。

―山川咲(やまかわ・さき)
1983年東京生まれ。大学卒業後、新卒でベンチャーのコンサルティング会社へ入社。5年間勤めた後に退職し、2012年に株式会社CRAZY(旧:UNITED STYLE)創業。コンセプトウェディングプロデュース事業「CRAZY WEDDING」を立ち上げ、わずか一年足らずで人気ブランドに成長させる。2016年に同事業を卒業し、現在は新たな挑戦に向けて準備しながら、数々の企業のイベントをプロデュースしている。2016年5月「情熱大陸」に出演。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)。

山川:「変化」と言うよりは、思いが自分の中で「進化」したのかなと。創業当初は「一人ずつ、意志を持った人を増やしていこう」という目標に向かって、目の前のことに夢中に取り組んでいました。そこから、少しずつブランド全体、会社全体のことも考える経験を積んできて。その結果、俯瞰的にビジネスを見つめられるようになったからなのか、今は「もっと早く、大きく、時代を動かすことができるはず」って感じているんです。

WORK MILL:CRAZYの業績を見ると、ベンチャーとしては十分な速度で成長しているようにも思えます。

山川:そう言っていただけるのはありがたいです。ただ、私たちの当初の構想からすると、「想像以上に時間がかかっている」というのが本音で。この4年間で、事業をビジネスの軌道に乗せていくことの難しさを痛感しました。このペースじゃ、私たちの理想にいつまでたっても追いつけない気がしています。

WORK MILL:理想へと向かうスピードを上げるために、今回の決断があると。

山川:そうですね。今よりもっとシンプルに「誇れる仕事」に従事する人が増えたら、世の中はよくなるはず。誇りを持てるような仕事の選択肢を増やすこと、誇れる仕事に就くことが当たり前の社会にしていくことが、私の直近の命題です。そのために新しい事業をつくりながら、CRAZYが地球に対してよりインパクトを持てるように、アクセルを踏み込んでいきたいですね。

どんな未来のために、今を積み重ねていますか?

WORK MILL:山川さんはビジョンや理想を明確に持っていて、だからこそ「なかなか変わらない」「間に合わない」といった歯がゆさを感じられているのかなと思います。少し抽象的な聞き方ですが、「理想と現実の折り合いのつけ方」って、どうされていますか。

山川:難しい質問ですね……こちらも抽象的になっちゃいますけど、考えていること、そのまま言ってもいいですか?(笑)

WORK MILL:ぜひ、お願いします。

山川:まず、現実っていうのは「今」の状況のことで。一方、理想は「未来」の状況を指す言葉ですよね。私は、人間って「今」の連続の中にいる存在だと捉えています。だから、未来は「今の積み重ね」だと思っていて。さらに言えば、「今」だって、これまでの「今」の積み重ねの上にある。

WORK MILL:わかります。

山川:「今」も「未来」も完全な地続きであること、刻一刻と変化し続けるものであることを、忘れちゃいけないんです。地続きだから、「今」行動しなければ、「未来」は変わらない。「今」が変化し続けるから、「現実」の認識も絶えず変化する。「今≒現実」と「未来≒理想」は地続きだから、「現実」が変われば、合わせて「理想」の在り方も変わるはずです。

山川:だから、理想と現実については「折り合いをつける」というより、「どちらも振り切って高めていく」というのが、私の感覚としては正確なのかなと。「理想と現実」、「未来と今」の間を高速で行ったり来たりして調整しながら、竜巻みたいに両方とも上昇させていくイメージです。

WORK MILL:現実の改善と理想の軌道修正を、どちらかに偏ることなく、絶えず交互に繰り返す……という感じでしょうか。

山川:そうです。理想と現実のバランスが取れることなんて、ほとんどないですよね。日々の業務で忙しくなると、現実ばかりに目がいってしまったりする。それを嘆く必要は、まったくないです。もとよりバランスなんか取れっこないものだから、行ったり来たりするんです。「どんな未来のために、今を積み重ねているのか」を、見失わないように。

「理想をあきらめないこと」が、世界にとっての希望

WORK MILL:現時点での、山川さんが理想としている世界への到達度って、どれくらいまで来ているのでしょうか。 

山川:全然ですよ!メディアではすごくカッコよく切り取ってもらっていますけど、その裏にはうまくいっていないことも山ほどあって、全部が未熟で。けれども、私たちは見失うことなく、ちゃんと各々の理想に向かっていて。そのことは紛れもなく、希望そのものだと感じてます。

今が完璧じゃなくてもいい。そもそも、世の中に「完璧なこと」なんて、ないじゃないですか。未熟だから、無理そうだから、完璧には程遠いからと妥協してしまった瞬間、希望は消えてしまう。「理想をあきらめないこと」が、きっと世界を動かす一番の原動力です。

WORK MILL:「理想をあきらめないこと」が、「CRAZY(≒熱狂的)」な仕事と人生につながっていくのですね。

山川:そうなんです。こういう信念の共有ばかりしてるからか、「宗教っぽい」って言われることも結構あるんですよね。ただ、信じているのは「各々の理想」であって、課しているのは「変化し続けること」だから、宗教とはちょっと違う構造なのかなと。

WORK MILL:そうですね。一概には言えませんが、多くの宗教は「不変の存在・ルールに対する信仰」がベースになっています。

山川:うちは「それは今でも貴方の中で正しいの?」「これから貴方どうするの?」って問い続ける場所なので、やっぱり真逆だ(笑)。見られ方を気にして「熱狂」を控えるなんてことは、まったく考えていません。「熱狂して取り組まなきゃ、社会の仕組みなんて変えられない!」って、私は思っているので。 

感情を大切に、直感を信じる道を

WORK MILL:ウェディング事業を卒業した今、これからどんなことをやろうと考えていらっしゃいますか。

山川:正直、あまり具体的には決まっていないです。今まで以上に「感情」や「直感」を大切にしていこう、とは考えています。私はものすごく感情的な人間なので、会社を立ち上げてからは「他人にちゃんと説明できるように、もっとロジカルに考えよう」と意識してきたところがあって。一方で夫の森山(CRAZY共同創業者、現CEO)は論理寄りの人間なんですけど、何か大きな決断をする際には必ず私や、ほかの女性の意見を聞くんですよ。

WORK MILL:それは、どうしてでしょうか。

山川:彼は「ロジカルな説明を抜きに、直感的に『これがいい!』と思わせられることは、ほとんどが正しい」と言っていて。私も同じように感じています。ロジックも大事だけど、それ以上に感情は、人間にとって不可欠な要素だよなと。だって、感情を失くしたら、意志なんて生まれないから。これからは自分と、たくさんの人たちの感情を大事にしながら、直感でやるべきことをつかみ取りたいと思っています。ずっとエモーショナルに、仕事をしていたいし、生きていたいですね。

WORK MILL:最後に、今の社会に対して、何か伝えたいメッセージはありますか。

山川:うーん……意外とないのかも。自分でも、何かしらあるかと思っていたんですけど(笑)。私の中に「こうしたらもっと世の中よくなるかも」ってビジョンはいくつかあるんですが、それをいま言葉にして「こうした方がいいよ」と押し付けるのは、違うんですよね。私はそれを実現できるように、行動するしかなくて。もし、私のビジョンが多くの人に共感されるのであれば、自然と仲間が集まって、大きな流れになって、その末に社会が変わっていくはず。だから、あれこれ言葉にするのは、やめときますね。私たちがこれからすることを、どうか見ててもらえたら嬉しいです。社会に対するメッセージは全部、行動の中にギュッと詰め込んでいきます。

テキスト: 西山 武志
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀