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余計な雑談の中にこそ、真理がある。ポッドキャストが「本音の居場所」をつくる仕掛け(株式会社雑談・渋谷優さん)

いま、多くの企業がポッドキャスト(音声コンテンツ)を始めています。その中には、一見無駄と思えるような雑談が深い共感を生み、強固なファンコミュニティを形成している番組も。

株式会社雑談の代表取締役・渋谷優さんは、自身もポッドキャストを20年配信しながら、企業のポッドキャストを多数プロデュース。他にもスタジオやバーの経営、ポッドキャスターが一堂に会するイベント「PODCAST EXPO」を開催と、音声カルチャーを全方位で牽引しています。

なぜいま、雑談が求められているのか? 企業におけるポッドキャストの利点とは? 雑談の本質的な価値について、渋谷さんにお聞きしました。

渋谷優(しぶたに・すぐる)
株式会社雑談 代表/TOCINMASH(トッキンマッシュ)主宰。2006年より、音声コンテンツ制作を開始。デザイナー・エンジニアなどさまざまな仕事の傍ら、TOCINMASH名義で数々の番組制作を手掛ける。2022年に東京・東中野にてビアバー付き収録スタジオ「雑談」を創設。2022年に国内最大級のポッドキャストイベント「Podcast Weekend」を立ち上げ、2026年より「PODCAST EXPO」として全体を牽引するなど、音声コンテンツの可能性を広げる活動を展開中。

「放課後のバカ話」の続きをやりたくて始めたポッドキャスト

渋谷さんがポッドキャストに惹かれた原体験って、何でしょうか?

Evoto

渋谷

3歳からずっと続けているのが、ラジオと絵を描くことなんです。

自分では覚えていないんですが、誕生日プレゼントで画板を欲しがったらしくて。首から画板を下げて神社で絵を描いていました。

絵画教室にも誘われたけど、「好きなものが描けないから」と断った。マセた子どもですよね(笑)。

与えられたテーマじゃなくて、自分で選んだものを描きたかった?

Evoto

渋谷

そうかもしれません。父親がDIYや工芸をやっているのを見て育ったので、作ることが好きだったんでしょうね。

中高生の頃はデッサンをしていて、その後は美術予備校に入りました。

Evoto

渋谷

そうやって絵を描いている間、両手が塞がっていても楽しめるのがラジオだったんです。当時はYouTubeもないし、テレビも夜中2時ぐらいには終わっちゃう。

ラジオだけが唯一、深夜の同じ時間に生きている人を確認できるメディアでした。安心感を得ていたのかもしれません。

2006年に、自分でポッドキャストを始めたきっかけは?

Evoto

渋谷

当時は「コンテンツを作ろう」という発想はなく、「友達に聞かせたい」という理由でした。

僕は徳島で育ったんですが、放課後にいつもの同級生5人でバカ話をしていて。でも、そのうちの3人が東京へ行ってしまった。

それで、残った2人で「あいつらを羨ましがらせよう」と思ったんです。放課後の続きをやりたかったんですよね。目的がとても小さくて、マスにも向いていない。そこが逆に良かったんでしょうね。純粋なものづくりというか。

2006年から続いているTOCINMASH のポッドキャスト「月曜トッキンマッシュ」(提供画像)

まだスマホすら普及していない時代ですよね。どうやってポッドキャストを聞いていたのでしょうか?

Evoto

渋谷

iPodですね。ポッドキャストの由来って「iPodで聞けるブロードキャスト」なんです。

最初はみんな、iPodに音楽を入れて聞いていた。その後、誰かが「これって音楽じゃなくてもいけるよね」と、声をMP3データにしてラジオの真似事をしたのがポッドキャストの始まりです。

YouTubeのようなプラットフォームがあったわけではなく、普通の人たちが仕組みをハックして作ったのがポッドキャストなんです。

そこに惹かれた?

Evoto

渋谷

それはありますね。当時はiPodでポッドキャストを聞くこと自体、ある程度のITリテラシーがないと難しい時代です。

クラスの人気者ではなく、隅っこでコソコソ面白い話をしている人、というイメージでした。

ポッドキャスターとリスナーが会える場所を

株式会社雑談。面白いネーミングですよね。なぜ「雑談」にしたのでしょうか?

Evoto

渋谷

コロナ禍に仲間3人で、「ポッドキャストの次のアクションとして、何かしたいよね」と話していたんです。

イベント、お店、ウェブメディア……と次々にアイデアを出し合っていた、そのチャットの部屋名が「雑談」でした。

結果として、クラフトビールとポッドキャストスタジオをくっつけたお店をやることになり、「名前どうしよう?」「雑談でいいんじゃない?」と。

2022年8月、東京・東中野にオープンしたポッドキャストスタジオ&バー「雑談」。当時、日本にはポッドキャストスタジオという業態は他に存在していなかったのだそう。

この会社を始める前は、デザイナーやプログラマーをやってらっしゃったんですよね?

Evoto

渋谷

はい。美術の先生をしていた時期もあります。

ただ、以前から「AIが仕事を奪う」という話があり、デザイナーやプログラマーをこのまま続けても単価は下がっていくだろうな、と。

それと同時に、10年やってきた音声コンテンツが盛り上がりつつあるのを感じていたので、「こっちにかけてみるのも楽しいかな」と思ったんです。それで、2016年に音声コンテンツへ舵を切りました。

2022年からは、イベント「Podcast Weekend」を企画・運営されています。

なぜ、ポッドキャストのイベントをやろうと思ったのでしょうか?

Evoto

渋谷

音楽フェスって、いろんなアーティストを1日がかりで見るじゃないですか。それをポッドキャストでやりたいと思って。

10年前は、ポッドキャスターがステッカーを作って販売するなんて、鼻で笑われる世界でした。「素人が何カッコつけてんねん」「プロの真似事をしているダサい奴ら」みたいな空気があったんですよ。

でも、絶対ここに未来があると思っていた。なぜなら、めちゃくちゃ面白かったから。

カルチャーとして魅力を感じていたんですね。

Evoto

渋谷

いろんな番組が集まって、リスナーさんが来る場所を作れば、何か生まれるんじゃないか。それが、Podcast Weekendを始めた動機でした。

第1回は2022年で、来場者は900人ぐらい。でも、「砂漠のど真ん中で日本人に出会う」みたいな感動があるんです。なぜなら、周りにポッドキャストを聞いている人がいないから。それで年々、参加者も増えていきました。

今年開催した「PODCAST EXPO 2026」には1万2000人を超える来場者が集まった(提供画像)

Evoto

渋谷

スタジオとバーをくっつけたのも、「リスナーとポッドキャスターさんが365日会えるように」という理由です。

店を始めた最初の年は、あらゆるポッドキャスターさんに声をかけて、公開収録やイベントをやってもらいました。

今も第一線で活躍している人気ポッドキャスターが集まった、あの日の感動はすごかったですね。もちろんお互いの存在や番組は知っているんだけど、初めて出会う。その場面に立ち会えたので。

これまでに300組以上のポッドキャスターがこの店に集まったのだとか。

Evoto

渋谷

近所に住んでいた人が、「こんな世界があるんだ、面白そう」といってポッドキャストを始めたり、番組同士でコラボしたり。

Podcast Weekendで知り合って結婚した人もいるらしいです。やっぱり「場所」が生み出す価値ってすごいな、と日々実感しています。

Evoto

渋谷

僕自身、20年ポッドキャストを続けてきたことで人生が変わったから。

この世界に恩返しする年齢になってきたのかな、と思っています。

採用、ブランディング……企業ポッドキャストのメリット

最近では、企業ポッドキャストのプロデュースもされていますよね。

ただ、別のインタビューでは「再生数を追うな」とおっしゃっていました。

Evoto

渋谷

正確に言うと、「再生数だけではポッドキャストの価値は測れない」と思うんです。

再生数をKPIにすると、上司と現場担当者に乖離が生まれるから、絶対に長続きしません。「そういうものじゃない」と説明することは多いですね。

わかりやすい指標のように感じるのですが……。

Evoto

渋谷

ポッドキャストは、長時間リスナーと一緒に過ごすメディアなので、フォロワー10人でもすごいことなんです。

自分の話を週1回、必ず30分聞いてくれる友達って、なかなかいませんよね。でも、ポッドキャストには毎週聞いてくれる人がいる。たとえ少人数だとしても、それって大事なことだと企業も気づきはじめたんです。

スタジオは時間単位での貸し出しも実施。ここからもさまざまな番組が生まれている。

Evoto

渋谷

そういう関係は短期間では作れません。

少し前までは「2カ月の期間限定でポッドキャストをやりたい」といったご相談もあったんです。でも、「無理ですよ。短期的な効果は得られません。長期で効果を出したいならご一緒しましょう」とよく話していました。

どんな番組でも、週1回配信で100本続けたら絶対何かが起きるので。そこは自信を持って言えます。

なるほど。では、具体的にはどういう効果があるんでしょうか?

Evoto

渋谷

一つは採用です。きれいな採用情報ページを作って「社員の1日」や「社長インタビュー」を載せるより、社長と社員が1時間ポッドキャストでしゃべった方が、社風や人となりはよっぽど伝わるはずです。

インナーブランディングに使う企業もいます。ポッドキャストを真ん中に置いたコミュニケーションを何十時間も経ているので、「社員のAさんは、誰よりも社長のことを知っている」みたいなことが起こったり。

Evoto

渋谷

いろいろなポッドキャストがありますが、東京都北区の城北信用金庫が運営している『しぶさわくんFM』も面白いですよ。

あえて「城北信用金庫ポッドキャスト」とは名乗らず、ローカルFMラジオ風に配信していて。日本酒やサウナ、防災など、従業員がそれぞれ好きな話をしています。

信用金庫とは、直接関係ないテーマばかりですね。

Evoto

渋谷

もし北区に住んでいる人が『しぶさわくんFM』でファンになって、何か商売をするときに城北信用金庫を思い出してもらえたら、それで元が取れる。

濃度の高いコミュニティを作るのが彼らの勝ち筋なので、すごく理にかなった施策ですね。

なるほど。

ポッドキャストの番組をやっている企業同士で共創が生まれた事例はありますか?

Evoto

渋谷

ポッドキャストの担当者同士で仲良くなることはありますね。

ポッドキャスト制作って、孤独なんですよ。進行台本を作って、しゃべって、編集して、配信して、でもコメントしてくれる人は少ない。「聞いてる人はいるはずだけど……」と自問自答しながらやっているので。

だから、「普段どうやってるんですか?」みたいな話で盛り上がることはよくあります。一般の人がやっているポッドキャストとはまた違う苦労がありますからね。

取り繕った表向きの会話に、みんなもう飽きている

Evoto

渋谷

あと、声って嘘がつけないんです。「この人は何が好きで、何が嫌い」「この人は嘘をつかない」ってことも、聞いていたらわかってしまう。

だったら逆に、リスナーが「この人がおすすめしているなら、買ってみよう」と思える番組を作れたら、無敵じゃないですか。

たとえば、それをやっているのが「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムのポッドキャスト『チャポンと行こう!』です。

普通に生活者として話している途中、たまに「うちでも売ってるやつだけど……」とポロっと出る。それって本音であり、嘘じゃないから、リスナーは安心して買える。

たしかに。

Evoto

渋谷

これがポッドキャストの価値観です。だから、本音を出せない企業は向いていないかもしれません。

社長さんが「これ、使えないんだけどね」と話した内容がめちゃくちゃ面白い、なんてことがよくあります。もちろんカットするけど、もったいない。本音の価値が光るのがポッドキャストなので。

Evoto

渋谷

逆に言えば、広報やプロモーションで本音を出せてない。打ち合わせで、社員さんが「本当はこれが面白いんですけど、たぶん会社的にはNGなんですよね」とお話されることもすごく多い。

でも、失敗談や本音を聞けるからファンになるんです。

リスナーは「完成された会話」よりも「本音」を求めている?

Evoto

渋谷

みんな、取り繕った表向きの会話にはもう飽きている。

絵を描くとき、最終的にはパキッとした輪郭で完成させるけど、途中に鉛筆で当たりをつけます。余計な線がいっぱいあって、でもその中に真理がある。

それが雑談であり、ポッドキャストの魅力だと思うんです。

「誰も興味ないだろう」「私だけだろうな」に本音が隠れている

リスナーは、ポッドキャストに何を求めているんでしょうか?

Evoto

渋谷

答えではなく、問いではないでしょうか。答えを知りたいなら、YouTubeで「大根 昆布 作り方」と検索して、5分見れば済む。

そうじゃなくて、いま起きている身の回りの出来事について、「この人はどう思ってるんだろう?」「私はどう思うんだろう?」を知るのに向いているメディアです。

「あれこれ話したけど、結局答え出なかったね」と、決めつけじゃなく、一緒に悩む。その空気感を作れるのって、ポッドキャストならでは、なんです。

企業もそういうマインドでポッドキャストを作れたら、豊かで面白いものができそうですね。

ただ実際には、「雑談=無駄なもの」「本音を出せない」といったことが起こりがちです。

Evoto

渋谷

本音って「誰も興味ないだろう」「私だけだろうな」という話の中に隠れています。

刑事ドラマで「これはあまり関係ないけど……」というセリフがあって、でもそれが事件解決の手掛かりになるシーンってよくありますよね。本人が「面白くない」と自覚している話の、なんと興味深いことか。

「誰も興味がない」と切り捨てそうになる話にこそ、その企業らしさや人間味が詰まっているってことですね。

雑談の価値を再認識することができました。ありがとうございました。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
最近、音声メディアにチャレンジしようとしている方も多いんじゃないかなと思います。「この配信で自社の何をPRしよう」「こんないい話を聞かせたい」なんて軸で考えてしまいそうですが、音声メディアの醍醐味はそこではないんだなと、渋谷さんのお話を聞いて気づきました。
AIがキレイな言葉をいくらでも生成してくれるからこそ、文法や語彙がちょっとおかしくても、生身の人間が紡いだ「本物っぽい言葉」に、人は魅力を感じる時代なのかもしれません。WORK MILL編集部でも、「編集後記」的ポッドキャストを始めてみたいです!(ちなみに、今回は編集後記をAIの校正に頼らず自分の言葉で書いてみました。少し人間の匂いがします?どうでしょう??)
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年8月取材

取材・執筆:村中貴士
撮影:栃久保誠
編集:鬼頭佳代(ノオト)