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WORK MILL

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いつもの仕事だけど、自然とワイガヤな対話が生まれる。ホンダの風土改革プロジェクト「MOVE ON」が、WORK MILLと一緒に「ワイガヤキット」を作った理由

長年、株式会社本田技術研究所のイノベーションを支えてきた独自の対話文化「ワイガヤ」。

役職や年齢に関わらず、全員が対等な立場で、「仕事のあるべき姿」や「あなたはどうしたいのか」などの本音を、腹を割って議論し思考を深め、新しい価値を生み出す場として機能してきました。しかし、そんなワイガヤの機会が減っているという課題も。

そこで今回、日常の中で人と人との対話を始めやすくし、ワイガヤにつながるきっかけをつくる社内ツール「ワイガヤキット」を開発しました。これは、風土改革プロジェクトを運営する中で、紆余曲折を経てホンダとオカムラの共同で作り出したものです。

今回は、このプロジェクトを手がけた株式会社本田技術研究所の名倉哲志さん、柴田理香さん。そして、株式会社オカムラでWORK MILLリーダー兼Sea共創ディレクターを務める岡本栄理、デザイナーの浦口昂久、渡邊拓実に話を聞きました。

「一緒に何かやりたい」想いからスタートしたプロジェクト

自動車メーカーのホンダと空間作りをするオカムラ。この2社が、ワイガヤキットを共創で開発することを意外に思う方もいるかもしれません。

まずは、プロジェクトのきっかけから教えてください。

Evoto

名倉

まず2024年頃に、私が本田技術研究所の研究開発領域の風土改革プロジェクト「MOVE ON―想い・興味・好奇心を、誰もが行動につなげられる―」の担当になったことからスタートしています。

名倉哲志(なぐら・てつじ)。株式会社本田技術研究所の戦略企画部門に所属し、技術戦略に関わる企画・推進業務を担当。風土改革の取り組み「MOVE ON」ではプロジェクトリーダーを務める。

Evoto

名倉

世の中の変化が激しいなか、それに対応するため、研究開発にもスピードや効率が求められています。その一方で、新しいことを考え、試してみる余白を持つことが難しくなっていると感じています。

そんな中、本田技術研究所で働く人たちが、積極的にチャレンジできる“風土”を生み出すためには、誰と何をしたらいいのか? そんなところから始まったプロジェクトです。

Evoto

柴田

私は、2025年に名倉さんから「MOVE ON」プロジェクトへのお誘いをいただき、プロジェクトメンバーになりました。

普段は、SDV研究開発センター(Software Defined Vehicle:ソフトウェアを中心に、クルマの機能や価値を継続的に進化させていく考え方)に所属し、その組織の中における研修を通じた人材育成を担当しています。

柴田 理香(しばた・りか)。株式会社本田技術研究所 SDV研究開発センターにて人材育成・組織開発を担当。社内で有志活動「Mori」- 自走する人材育成コミュニティ -を立ち上げ、部門や場所を超えて一人ひとりの可能性を拓く場づくりを行う。同コミュニティは、2024年心理的安全性アワード シルバーリング受賞。

Evoto

柴田

お声かけをいただいたのは、もともと社内の有志コミュニティ「Mori」を運営したり、ワークショップデザイナーとして活動をしていたことがきっかけですね。

Evoto

名倉

柴田さんをスカウトしたのは、プロジェクトの2年目のタイミングでした。

そして、柴田さんがWORKMILLチームを推薦してくださったんです。

では、柴田さんはWORK MILLやオカムラとお仕事をしたことがあったんですか?

Evoto

柴田

いえ。実は、オカムラさんとのお仕事は初めてでした(笑)。

ただ、WORK MILLの岡本さんとは、栃木で行われたコミュニティマネージャーの講演会で知り合って。岡本さんが講師としてお話されている様子を見て、「何かできそう!」と共鳴しちゃったんです。

岡本

懐かしいですね!

出会った頃の柴田さんは、「組織で働く人たちの輝きを探したい」「一人ひとりの可能性を広げたい」という強い気持ちで、色々な困りごとに向き合いながらお仕事されていて……。

そのお話を聞いて、「私もこの人と何かやりたい!」と思っていました。

岡本 栄理(おかもと・えり)株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 WORK MILL統括センター コミュニティマネージャー。株式会社オカムラでは経理、営業事務、秘書を経て2017年6月よりWORK MILLコミュニティマネージャーに。関西の共創空間・Open Innovation Biotope “bee”において社内外をつなぐ、さまざまな「はたらく」にまつわるイベントの企画・運営を担当。2023年4月よりWORK MILL統括センターに異動。Open Innovation Biotope “Sea”を拠点に、より全国規模の共創を創発するリーダーとして活動中。

岡本

ただ、その後はお互いバタバタしていて、なかなか具体的な話は進められなかったんです。

でもある日、オカムラの共創アンバサダーでスペースデザイナーの浦口さんから唐突に「岡本さん! 僕、ホンダさんと共創したいんですよね。何かつながりないですか?」って聞かれたんです。

すごい偶然!

浦口

僕も驚きました(笑)。

もともと別拠点の空間づくりの仕事でお付き合いがあったんですが、ホンダのみなさんの情熱にすごく惹かれるものがあって……。それで、岡本さんに気持ちをぶつけたんです。

浦口昂久(うらぐち・あきひさ)。株式会社オカムラ スペースデザイナー。2017年入社後、オフィスデザインとディレクションを担当。ウェブマガジンや雑誌、共創空間を展開するWORK MILLや社内新規事業など広く携わり、ソリューションや経営の視点も加えた多角的なオフィス構築を手掛ける。

浦口

そこからはトントン拍子に話が進んで、すぐに僕と渡邊さんと、もう一人のデザイナーを交えて柴田さんとお会いすることになりました。

オカムラの共創空間「Open Innovation Biotope “Sea”」に来ていただいたんですよね。

Evoto

柴田

その時から、ものすごく盛り上がりましたよね。もう、浦口さんの炎が見えたというか……(笑)。

商談ではなく、熱い想いをぶつけあった不思議な時間だったと思います。

Evoto

名倉

ちなみにこの会議は柴田さんをスカウトする前なので、私は参加していないんです(笑)。

それで、柴田さんをスカウトしたあとに軽い気持ちで「共創ってどうしたらいいですかね?」と相談をしたら「ぜひ、オカムラさんと一緒にやりましょう!」ってものすごい熱量で言われて(笑)。

それで、私も実際にご紹介をいただいて今に至ります。

最初は「共創空間」を作ろうとしたけれど……?

振り返ってみれば、始まりからある意味で「ワイガヤ」だったんですね!

そこからどうやって進んでいったんですか?

Evoto

名倉

当時、MOVE ONでは、人と人がつながり、対話や挑戦のきっかけが生まれる「共創スペース」をつくりたいと考えていました。

その実現に向けて、空間づくりだけでなく、共創の場づくりにも知見を持つオカムラさんが、本プロジェクトのパートナーとして最も合っていると考え、ご一緒することになりました。

なるほど。

Evoto

名倉

Hondaの研究開発の現場には長い歴史がありますが、働き方や求められる役割も変わってきています。そんな中で、部署を越えて人が集まり、気軽に対話したり、新しい発想を広げたりするような場がもっとあってもいいのでは、と感じていました。

そこで、そうした「共創スペース」をつくることで、人と人とのつながりや新しい挑戦のきっかけを生み出せないかと考えたんです。何度もオンラインの打ち合わせを重ねていくなかで、それはもうワクワクする提案をたくさんいただきました。本当に楽しかったですね。

あれ? 

今回は「ワイガヤキット」であって、空間ではありませんよね……。

Evoto

名倉

そうなんです。

ある日、オンラインの打ち合わせで、「空間づくり、もうやめましょう」と伝えたんです。

え! 急にですか?

Evoto

名倉

実は一旦、私たちだけで試験的に空間を使った施策を自分なりにやってみたところ、大失敗をしてしまいまして……。現場で働く方々からお叱りを受けたんですよね。

それで「共創空間」という場所だけ作っても、今のままでは誰も寄りつかないだろうと思ったんです。

なるほど……。

では、そこで一旦プロジェクトは白紙に?

渡邊

いえ、そこでプロジェクトは終わりませんでした。

その後すぐ、「場所を使わない何かに方針を切り替えたい」と名倉さんがすぐにおっしゃったんです。

渡邊 拓実(わたなべ・たくみ)。株式会社オカムラ スペースデザイナー。2021年入社以降、関西地区でオフィスの新築・移転・改装のプロジェクトを中心に担当。2024年 日経ニューオフィス賞 全国ニューオフィス推進賞。2025年 空間デザイン賞 入選。

渡邊

ホンダさんでは、「どんな場所でも勝手にワイガヤできる」と聞いていました。それなら、お金をかけてすごく整った場所を作らなくてもいけるんじゃないか?

デザインの力で、もっとスモールに、みなさんの共創を促すこともできるんじゃないか、と頭を切り替えて。僕たちデザイナーとしてもターニングポイントになりました。

Evoto

名倉

お二人はスペースデザイナーなので、「さすがに断られてしまうかな?」とも思っていたのですが、受け入れていただけて本当にほっとしました。

浦口

逆に燃えましたよね?

渡邊

ですね。「チャンスをいただけた!」って感じました。

それで、いろいろとヒアリングしながらご提案したのが今回の「ワイガヤキット」です。

そして生まれた「ワイガヤキット」はどんなアイテム?

大規模な方向転換の末に生まれたのが、「ワイガヤキット」だったわけですね。

具体的にはどんなアイテムなんでしょうか?

渡邊

みなさんとお話をしている中で、「ワイガヤが起こるのに必要なことって、空気感とリズムづけじゃない?」という結論になったんです。

そこで、このアイテムたちにも何か尖った機能をつけるのではなく、話している時にそっと背中を押してくれて、気がついたらワイガヤが起きているというイメージで作っていきました。

言い方はちょっと難しいのですが、「ルールを作らない」ことをルールにしています。

出来上がった「ワイガヤキット」はこちら! カードと砂時計、そしてボールがセットになっています。

なんだか、かわいくてワクワクしますね!

みなさんのお気に入りポイントを教えていただけますか?

渡邊

僕はやはりボールですかね。思わず触ってしまって、そこから会話が生まれていきます。

「これは硬すぎる」「もうちょっと反発がほしいかも」など本当にワイガヤしながら作っていて、その過程自体もとても楽しかったです。

硬さが少しずつ異なる4種類のボール。触り心地もちょうどいいため、ついつい触ってしまう存在です。

ボールの握り心地がたまりませんね。

この場にあるだけで、思わずみんな握ってしまうという(笑)。

浦口

僕は、本田宗一郎さんの100のフィロソフィーから選んだ言葉を現代風にアレンジして「背中を推してくれるワード」として掲載したカードですね。

出来上がった時に名倉さんから「デザインのすごさを感じた」とコメントをいただいたんですよ。この上ない言葉で本当にありがたかったですね。

本田宗一郎さんの100のフィロソフィーから選んだ言葉を現代風にアレンジし「背中を推してくれるワード」として掲載されているカード。実はトランプにもなっています。

Evoto

名倉

言葉を選んでいる段階では「本当に良いものができるのか?」と不安な部分もあったんですよ。

でも、カードの形になった時に、「余白」の美しさに感動し、「遊び心ってこういうことなのか」って衝撃を受けました。

できてみると、感じるものってありますよね。実際にキットは使っていますか?

Evoto

名倉

これまでに2度、ワークショップイベントなどを実施して、ブラッシュアップしてきました。今も、会議室にワイガヤキットを持っていくと、「これなに?」とよく聞かれます。

出しておくと、ボールや砂時計を使ったり、時には使わなかったり。これまでにいろんなパターンがありましたが、とにかく会話が生まれて、空気を柔らかくしてくれるのを感じますね。

3種類の異なる時間がはかれる砂時計。どういう場面でどれを使うかも自由です。

Evoto

柴田

SDVの仕事の中で、自己紹介をする機会があったのですが、「こういうのを作ったんですが、やってみません?」と言って、カードを出してみたりもしましたね。

仕事の中で、自然に馴染んでいる状態が作れたらいいなと思っていて。私はカバンにこのカードを入れていて、会議ですっと出してみたりしています(笑)。それが、MOVE ONの風土改革なのかな、と思っていて。

「ワイガヤキット」が風土を創造する未来へ

「仕事の中で、自然にワイガヤできる風土をどう作るか?」という当初のミッションを考えると、本当に課題にマッチしたキットが出来上がったと言えますね。

結果、空間のデザインにもつながっているというか。

Evoto

名倉

紆余曲折ありましたが、このプロセス自体が共創活動だったんだな、と実感しました。

仕事って、目標を決めて計画を作り、予算組んで、管理して一つひとつを固めながら進めていくのが一般的じゃないですか。でも、「きちんと進める」にこだわりすぎず、余白を残しておくのも一つのあり方。WORK MILLチームと一緒に進めながら、勉強させてもらったところです。

岡本

「絶対にやり切る」という熱量があったからこそ、これだけ素敵な「ワイガヤキット」ができたと思っています。

スペースデザインだけにとらわれずに、デザインの力でお客様にご提案できたというのは、自分たちにとっても素晴らしい経験となりました。色々な課題を乗り越えた先につくれる、いい仕事があるんですね。

浦口

柴田さんも名倉さんも“自分ごと化”するのがすごく上手で、手段に固執していないのがかっこいいなと思っていました。

今回、場所からキットへと方向転換しましたが、それができたのもお二人のおかげです。もしかしたら、近い将来、「風土改革のためにお菓子作りましょう!」とかになる可能性も全然ありえると思います。

Evoto

柴田

MOVE ONのお菓子! やりましょうよ!

Evoto

名倉

え、お菓子!? 

……やっちゃいます?(笑)

面白そうです!(笑)

今日はみなさん自身が、楽しくワイガヤしながらプロジェクトを進めたことが伝わってくる時間でした!

最後になりますが、これからやってみたいことを教えてください。

Evoto

名倉

取り組みが広がって、社会全体の課題解決に本気で楽しく取り組めることが大事だと感じています。

これからは、WORK MILLチームと体験した共創の楽しさを、会社の中に広めていくことをテーマに頑張っていきたいですね。

Evoto

柴田

「ワイガヤキット」をもっと自然に使ってもらえるように取り組んでいきたいですね。

今回、やってみて改めて思ったんですけど、共創って本当に楽しいですね。同じものを見ているのにこんなにも違う気づきが得られる。これからもコミュニケーターとして、どんどん社内の共創を促していきたいです。

渡邊

いつの日か、ホンダさんとオカムラのデザイナーで、このキットを使ってワイガヤしながら新しいプロダクトを作れたら面白いですよね。

共創で生まれた「ワイガヤキット」がさらなる共創を生む、そんな未来に期待したいです。

浦口

オカムラは、オフィス家具やスペースデザインが中心の会社ですが、領域すらも関係なくデザインで何かを解決できるパートナーとしてご一緒できたらうれしいですね。

これが終わりではなく、ここから始まる。ぜひ、これからも共創していきましょう!

岡本

共創は、お互いの文化が混ざり合って生まれるもの。「何か一緒にやりたい」という想いから、いろんな縁が生まれて形になる。これって、ものすごく尊いことですよね。

「これからも一緒にやろう」と声をかけてくださった名倉さん、そして共創の可能性を信じて走り続けてくれた柴田さん。

お二人の熱意に感化されて楽しくお仕事できたことは私にとって貴重な体験になりましたし、これからもご一緒できればとてもうれしいです。

座談会後も、メンバーのワイガヤは止まりません!

2026年7月取材




取材・執筆=つるたちかこ
写真=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト