他人を理解するために、自分の正しさを脇に置く。フリーランス国際協力師・原貫太さんが世界を取材して見えてきた「異なる価値観」との付き合い方
仕事の中では、価値観の異なる人と関わる機会は少なくありません。「相手を理解したい」と思っていても、考え方や経験の違いに戸惑うこともあるのではないでしょうか?
アフリカのウガンダをはじめ世界各地の社会問題を取材し、YouTubeや執筆活動を通じて国際協力活動を行う「フリーランス国際協力師」の原貫太さんは、これまで多様な背景を持つ人々と向き合いながら、「他者を理解するとはどういうことか」という問いと向き合ってきました。
そんな原さんが人と向き合う上で大切にしているのは、「共感」よりも「理解しようとする姿勢」だと言います。
自分とは違う価値観を持つ人と向き合うために必要なこと、そして自分の中にある「当たり前」とどう付き合っていくのか。原さんの働き方や生き方を通して、そのヒントを伺いました。

原貫太(はら・かんた)
1994年生まれ。フリーランス国際協力師。フィリピンで物乞いをする少女と出会ったことをきっかけに、学生時代から国際協力活動を開始。アフリカを中心に世界各地で取材し、国際協力の情報発信に力を入れている。YouTubeチャンネル登録者は40万人超(2026年6月現在)。著書に『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』『世界は誰かの正義でできている アフリカで学んだ二元論に囚われない生き方』がある。YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@kantahara
フィリピンで見た少女の姿が国際協力の原点に
原さんの「フリーランス国際協力師」という肩書きは珍しいですよね。
普段はどのような活動をされているのでしょうか?


原
今の活動の軸になっているのは、YouTubeでの情報発信ですね。
世界各地を取材しながら、貧困や紛争、難民問題などの社会課題について現地の人々へのインタビューを交えながら発信しています。


原
YouTube以外にも、書籍の執筆や講演活動を行っていますし、年に2回はアフリカなどを訪れるスタディーツアーの運営もしています。
ただ、自分の中ではそれぞれが別の仕事という感覚はあまりなくて。すべて「世界で今起きていることを伝える」という活動の延長線上にあるものなんですよね。

そもそも、原さんが国際協力に関心を持つようになったきっかけは何だったのでしょうか。


原
大学1年生のとき、就職活動の話題づくりという意味合いもあって、フィリピンのスタディーツアーに参加しました。


原
その最終日、空港に向かう車の窓から見えた、ボロボロのワンピースを着て裸の赤ちゃんを抱きながら、お金を乞う少女の姿に衝撃を受けて。
そのとき初めて、自分が目を向けてこなかった現実に気づき、「見て見ぬふりはできない」と思ったんです。
そして帰国後は大学生活のかたわら、バングラデシュで活動する学生団体を立ち上げたり、アフリカでインターンを経験したりするなど、国際協力の活動にのめり込んでいきました。
学生時代からかなり精力的に活動されていたんですね!
卒業後は企業やNPOへの就職という選択肢もあったと思いますが、フリーランスになったのはどうしてですか?


原
フリーランスは選んだというより、流れの中でそうなったという感覚に近いですね。
実は私、大学卒業後すぐに過労が原因で適応障害になってしまって。半年ほど休養したのですが、その後も組織に戻るイメージは湧きませんでした。
そうだったんですね。
休養を経て、ご自身の働き方に対する考え方にも変化があったのでしょうか?


原
休養中に「じゃあ自分は何をしたいのか」を改めて考えたとき、学生時代から取り組んできた国際協力や発信活動への思いは残っていて。
それに学生時代からブログを続けていたり、自費出版したりしていたこともあって、個人でも少しずつ収入を得られていたんですよ。
そうした取り組みを続ける中で、少しずつ仕事の幅が広がっていき、気がつけば組織に頼らない「フリーランスの国際協力師」として活動するようになっていました。
仕事を減らして見つけた、感性を育てるための「余白の時間」
原さんの活動の大きな柱となっているYouTube活動は、いつ頃から始められたのでしょう?


原
大学卒業後の2020年4月頃ですね。
ちょうど新型コロナウイルスの影響で海外に行けなくなった時期で、「現地に行かなくても自分にできることは何だろう?」と考えた結果、独学で動画制作を学び、発信するようになりました。


原
それまでは主にブログなど文章で発信していたのですが、社会問題って文字だけではなかなか伝わりづらいなと感じていて。
その点、動画なら映像の動きや音を通して、現地の空気感や自分がその場で感じたことをよりリアルに伝えられるんじゃないかと思ったんですよね。
単に出来事を伝えるのではなく、その場で感じた空気感まで届けることを大切にされているんですね。


原
はい。やっぱり遠い世界の問題に目を向けてもらうためには、「知ってください」と訴えるよりも「もっと知りたい」と思ってもらうことが大切です。
YouTubeでは普段から視聴者がその世界に入り込めるような没入感を感じてもらうために、BGMやエフェクトを使いながら、シネマティックな世界観をつくっています。そういった点でも動画という表現は自分にしっくりきましたね。
YouTubeでの活動が軌道に乗ったことで、働き方や仕事との向き合い方にも変化はあったのでしょうか?


原
経済的に余裕が生まれ、自分が大切にしたい仕事に集中できるようになったのは大きかったです。YouTubeを始めた最初の2年間はカツカツで、苦手な事務作業や経理なども含めて、すべて自分でやっていました。
ただ、ある程度YouTubeが軌道に乗ってくると、事務作業などはアシスタントや税理士の方にお願いできるようになり、自分が本当に力を発揮できることに時間を使えるようになりました。
すべての仕事を自分で抱え込むのではなく、周囲に頼るようになったんですね。


原
そうなんです。時間に余裕ができたことで旅に出たり、一人でゆっくり過ごしたりする時間も増えましたね。やっぱりクリエイターの仕事って「余白」がないと続かないと思っていて。
一見するとひとりの時間って非効率で非生産的に見える時間かもしれませんが、自分にとってはそうした時間こそ、感性を保つために欠かせないものになっています。

他者を理解するために、自分の正しさを脇に置いてみる
原さんはこれまでさまざまなバックグラウンドを持つ人々を取材されてきましたが、他者と向き合う上で大切にされていることはありますか?


原
私が取材してきた人たちの中には誰かの命を奪ったことのある人や、想像を絶するような人生を歩んできた人もいます。
だから正直、共感できないことの方が多いんです。むしろ、そうした人たちに対して安易に「あなたのこと分かります」と言うのは、どこかおこがましい気もしていて。
なるほど……。


原
この仕事をしていると、「共感が大事」と言われることもありますが、私は必ずしもそうではないと思っています。
もちろん共感できるに越したことはありませんが、それ以上に大切なのは相手を「理解しようとする姿勢」。
なぜその人がそう考えるのか、なぜそうした状況に置かれたのか。その背景や文脈に目を向けながら理解することを意識しています。

共感することよりも、相手を理解しようとする姿勢を大切にしているんですね。


原
もう一つ大切にしていることがあって。それは「ジャッジしないこと」です。
相手の話を聞いたとき、自分の価値観で良し悪しを判断しない。自分の正しさを一旦脇に置いて、まずはその人の話を聞くようにしています。
そうすると、自分が当たり前だと思っていたことが揺さぶられることもあるんですよね。
そうした姿勢は、取材を続ける中で少しずつ育まれていったのでしょうか?


原
両方だと思いますね。私はASD(自閉スペクトラム症)の特性もあり、もともと共感が苦手なタイプでした。
ただ、この仕事を続ける中でその特性を強みに変えてきた部分もあります。それに、この考えは自分の心を守るためでもあるんですよ。
心を守る?


原
YouTubeには日頃からさまざまな批判や誤解も寄せられますし、取材では相手の感情や出来事をすべて自分ごとのように抱え込んでしまうこともある。そのたびに反応していたら、心が持たなくなってしまうんですよね。
長く活動を続けるためにも、ある程度の距離感は必要だと思っていて。そうした姿勢が、結果的に他者をジャッジしないことにつながっているのかもしれません。
自分の価値観を持ちながらも、それに縛られない
これまでお話を聞いてきて、相手を理解しようとする姿勢と自分自身を受け入れることは、どこかつながっているようにも感じました。
原さん自身は、自分と向き合うことと他者を理解することの関係をどう考えていますか?


原
やっぱり自分の中の「こうあるべき」に縛られていると、他者を理解するのは難しくなると思うんです。
私自身も自分の考えにも偏りはあると思うので、思い込みすぎないようにしています。
たとえば、自分と違う価値観の人に出会ったとき「そういう考え方もあるのか!」と受け止められた方が、自分の世界も広がるんです。
たしかに! 新しい視点を得られるというか、自分が当たり前だと思っていたことを見つめ直すきっかけにもなりそうですね。


原
他にも、アドラー心理学でいう「自己受容」も大切だと思っていて。
完璧ではない自分を受け入れられるようになると、自分とは異なる価値観にも向き合いやすくなるんですよ。
なるほど。


原
あと、最近知った言葉で「Strong Opinions, Weakly Held(強い意見を持ちながらも、それに固執しない)」という考え方があるんですが、私はすごく共感しています。
自分なりの考えは持ちながらも、それを絶対に正しいものだと思い込まない。その姿勢は大切にしたいなと思いますね。


原
私自身も自分なりの価値観はありますし、毎日たくさん悩みます。
でも、自分の考えを唯一の正解だとは思わないでいられるのは、日頃から少し距離を置いて物事を見る時間を大切にしているからかもしれません。
最後に、原さんの今後の目標などあれば教えてください。


原
正直、あまり目標や取材計画は立てていないタイプなんです(笑)。
というのも、目標を考える時間があったら、今日やりたいことに時間を使っていたい。そうやって目の前のことに向き合い続けてきた結果が、今につながっている気がします。


原
昨今のAIの進化を見ていても分かるように、未来は予測できない。だからこそ目標に縛られるより、その時々で大切にしたいことに向き合い続けたいんですよね。
ただ、今は「現場で見てきたリアルと、ニュースやSNSによって形づくられる認識とのズレ」をテーマに3冊目の本を執筆中です。どんな反応が読者から返ってくるのか、今から楽しみですね。
2026年6月取材
取材・執筆=吉野舞
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代(ノオト)


