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転職せずにスキルを伸ばす。「8つの仕事」で築いた会社と個人の幸せな関係とは?(エイブルホールディングス・赤星昭江さん)

人生100年時代、キャリアの選択肢は「転職」や「独立」だけではありません。不動産賃貸仲介大手のエイブルホールディングス社長室でブランドPRや共創・新規事業などを手がける赤星昭江さんは、フルタイムの正社員として働きながら、北海道ニセコ町のワーケーション推進、金融教育の推進、そしてWORK MILLの運営する共創空間「Open Innovation Biotope “Sea”」のブランディングマネージャーなど8種類以上の外部の仕事を同時に行っています。

それだけの仕事をしていたら、フリーランスとして十分独立できそうなもの。しかし、会社を辞める気は全くないとのこと。なぜ独立するのではなく、会社に籍を置きながら活動の幅を広げる道を選んだのでしょうか。そして、超多忙な日々をどのように回し、その経験をどう本業へ還元しているのでしょうか。

名刺入れからあふれんばかりの肩書きを持つ赤星さんに、会社と個人の新しい関係性、そして「個」として自立、そして自律して生きるためのヒントを伺いました。

赤星昭江(あかほし・あきえ)
株式会社エイブルホールディングス社長室 兼 ひとりぐらし研究所 所属。 現在は同社で他業種・自治体とのコラボレーション事業を推進する傍ら、ニセコ町ワーケーション推進協議会、日本金融教育推進協会など複数の団体で理事やアンバサダーを務める。2021年には総務省「地域活性化起業人制度」によりニセコ町役場へ出向。現在は「ひとりぐらし研究所」所長として単身世帯の課題解決にも取り組む。

名刺は5枚以上。会社公認の「イレギュラー」な存在へ

今日は、お時間をいただきありがとうございます。

よろしくお願いします!

赤星

こちらこそ、よろしくお願いします。お名刺をお渡ししたいのですが、たくさんありまして……。

これ全部ですか!

赤星

はい。今は、全部出すと5枚になりますね。

とはいえ、すべてを同時に出すことは滅多にないのですが……(笑)。

圧巻ですね……! これだけ多くの役割を持っていると、お仕事の中で混乱しそうです。

今のような働き方を始めたきっかけはなんですか?

赤星

そもそも、実はエイブルは副業NGなんです。

ですが、このような働き方を始めるきっかけになったのはエイブルの仕事なんです。

え!!? どういうことですか?

赤星

2021年に、社内役員から「ニセコに行ってみないか」と声をかけていただいて……。

それが総務省の「地域活性化起業人制度」を使ってエイブル社員でありながら、ニセコ町の公務員として町役場に出向するというプロジェクトでした。それでニセコの地域で活動する中で必要性を感じ、ニセコを盛り上げる外部団体を立ち上げたんです。

出向を終えて東京に戻ることになった時、その団体をどうしようかなと思っていたのですが……。「赤星なら外部での活動が本業にもプラスになる」と判断してもらえたようで、活動を続けることを認めてもらえたんです。

特例として認められるためには、やはり本業での成果や還元が不可欠ですよね。

赤星

おっしゃる通りです。会社に「副業をさせているメリットがある」と思ってもらえなければ続きません。

私の本業でのミッションは、コラボレーション担当として、他企業や自治体と連携し、エイブルの事業認知やブランド価値を高めることです。

具体的な事例があれば知りたいです。

赤星

たとえば、エイブルは「お部屋探し」のイメージが強いですが、実際は「暮らし全般」をサポートする企業を目指しています。

最近だと、P&Gのアリエールさんとコラボして、ひとり暮らしを始める方に「お祝いボックス」としてジェルボール洗剤をプレゼントする企画を実施しました。

これは、初めてのひとり暮らしで洗濯に不慣れな若者を応援したいP&Gさんと、入居者との接点を持つエイブルのニーズが合致した事例です。

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赤星

バーガーキングさんとのコラボも話題になりましたね。SNS上で「近くに店がないから作ってよ」というユーザーの声に対して、エイブルがもつ全国の物件をバーガーキング店舗を軸としたオリジナルお部屋探しサイトをリリースしたんです。

バーガーキングさんが「自分たちが新たに出店するのではなく、お客様にバーガーキングがすでにあるエリアに引越してきてもらっては?」という提案ですね。

提供画像

印象的だったので、覚えています!

赤星

こうしたユニークなコラボができるのも、複数の仕事を通じて社外にネットワークを持っているからこそ。

「何か面白いことやりたいね」という雑談から、「じゃあ来月やろうよ!」とスピーディーに企画が決まることも多いんです。

まさに「外の仕事での経験」が「本業」の武器になっているわけですね。

赤星

私は「ナイスシェア」の精神を大切にしています。

エイブルが持っている店舗網や顧客基盤といったリソースを、外部のパートナーにもシェアして、一緒に社会を良くしていく。逆に、外部で得た知見やつながりをエイブルに持ち帰って、新しいサービスを作る。この循環を作るのが私の役割だと思っています。

なるほど。そこから今のスタイルが確立されていったのですね。

これだけ多岐にわたるお仕事は、どのような基準で選んでいるのですか?

赤星

判断基準はシンプルで、「社会的意義があり、自分が共感できるか」です。報酬の有無は二の次ですね。

たとえば、アンバサダー活動などは必ずしも報酬が発生するわけではありません。それでも「これは世の中にとって意義がある」「応援したい」と思えば参画します。

逆に言えば、どんなに条件が良くても、共感できない仕事はお受けしません。

ご自身の中に確固たる判断基準があるのですね。

赤星

面白そうなプロジェクトがあれば「手伝いましょうか?」と自ら入っていって、気づいたら仕事になっていた、というケースも多いんです。

ご縁がご縁を呼んで、仕事が循環している感覚ですね。

なるほど。スキル面はどう考えていますか?

赤星

そうですね。私のベースにあるのは、新卒で入社して今も在籍しているエイブルでの仕事です。不動産の営業から始まり、賃貸情報誌の編集長を経て、新規事業の立ち上げ、そして今のブランドPRや他社との共創活動というキャリアを歩んできました。

そして、この仕事で培ったスキルや人脈を活かして、外部のプロジェクトに参画しています。ですが、私は「転職せずに複業でスキルを上げていく」という考え方を大切にしています。

どういうことですか?

赤星

今の時代、スキルアップや視野を広げるために転職を選ぶ人は多いですが、転職先で必ずしも理想の仕事ができるとは限りませんし、リスクもあります。

私はエイブルという会社も、一緒に働く仲間のことも大好きなんです。だからこそ、会社を辞めるのではなく、会社に籍を置いたまま、外の世界で新しい挑戦をさせてもらっている。そして、こうして外で得た知見やスキルを、本業であるエイブルに還元する。

このサイクルを回すことで、転職しなくても多角的な視点を持ち、自分の市場価値を高められると考えています。

では、本業でもやったことがない仕事もあるんですか?

赤星

はい。たとえば、ニセコ町での活動を通して「地方創生」や「補助金申請」のノウハウを学びました。

国の補助金申請なんて、やったことがなくて……。なんだか、すごく面倒くさそうに感じますよね(笑)。でも、実際に中の人として手を動かす中でスキルとして身につきました。

金融教育の活動では自分自身も投資や金融知識を一から学び直しています。

独自の「3分類」タスク管理と、香りでスイッチを入れる没入術

それにしても、これだけの仕事をしていると、1日のタイムマネジメントが気になります。

赤星

まず私は本業は裁量労働制なので、時間の使い方は比較的柔軟にコントロールできるんです。

それで、私はすべての業務を「調整」「作業」「企画」の3つに分類して管理しているんです。

まず一番簡単なのが「調整」です。ミーティングの日程調整や、ZoomのURL発行、簡単なメール返信などですね。これは頭を使わずにできるので、電車の移動時間や、お弁当をレンジで温めている数分の隙間時間にスマホで処理します。

赤星

次に「作業」。これは議事録のまとめや、資料の修正といった、少し手を動かす必要がある業務です。これは本業の隙間時間や、移動の合間にカフェに入った時などに集中して終わらせます。

一番大変なのが「企画」です。記事の執筆、企画書の作成、SNSの投稿文作成など、ゼロから何かを生み出すクリエイティブな業務ですね。これは脳がフラットな状態でないとできないので、環境を整えて一気に没入します。

環境を整える?

赤星

はい。実は私、匂いにすごく敏感でして……。「香り」をスイッチにしています。常にアロマディフューザーを持ち歩いていて。

オフィスのオープンスペースやカフェエリアなどで仕事をする時は、自分の周りを好きな香りで満たすんです。香りを嗅ぐと「よし、企画やるぞ」と脳が切り替わって、集中モードに入れます。

最近は柚子の香りがお気に入りなのだそう。

赤星

カフェ選びにもこだわりがあって、「ここは集中できる」というお気に入りの席が決まっていたりします。

香りまで持ち歩いているとは徹底されていますね!

他にも効率化のために工夫されていることはありますか?

赤星

生活のあらゆる「迷う時間」を削っています。実は、5着くらいしか服を持っていなくて、それをルーティンで着回しています。朝、「何を着ようかな」と悩む時間がもったいないので。

食べすぎると眠くなってパフォーマンスが落ちるので、平日の昼間はあえて空腹状態で集中力を高めています。その分、仕事が終わった後は好きなものを食べたり飲んだりしてリフレッシュしますよ。あと、元々ショートスリーパーですね。

想像以上にストイックですね……!

赤星

周りからは心配されることもありますが、自分の中ではこのリズムが定着しています。

もちろんしっかり休んだり、メンテナンスしたりする日も確保していますよ。

それを聞いて安心しました。

赤星

それに、全ての仕事をひとりで抱え込むわけではありません。仕事の優先順位をつけて、「これは自分じゃなくてもできる」と思ったものは、他のメンバーにお願いしたり、チームで分担したりしています。

自分がやるべき仕事、自分にしかできない仕事を見極めることが、複数のプロジェクトを回すコツかもしれません。

肩書きを捨てて「本音」で戦う。信頼関係の作り方

赤星さんは本当に顔が広くて、人と人をつなぐのがお上手ですよね。

そのコミュニティづくりの原点はどこにあるのでしょうか?

赤星

実は私、過去に大きな挫折経験があるんです。

20代後半で雑誌の編集長から法人営業の部署に異動した時のことです。編集長時代は、ちやほやされたり、いろんな方から連絡が来たりしていたのですが、営業として連絡した途端、全く相手にされなくなってしまったんです。

なるほど。肩書きが変わると、そういうこと、ありますよね。

赤星

その時、痛感したんです。「みんな私個人を見ていたのではなく、『編集長』という肩書きを見ていたんだな」って。それまでの関係がいかに表層的だったかを思い知らされました。

そこから、「会社の肩書きではなく、個人の想いや価値観でつながらないと、本当の意味での持続的な関係は築けない」と考えるようになりました。

だから今は、名刺交換から始まる形式的なお付き合いではなく、もっと深いところ、その人の「本気」が見える場面での交流を大切にしています。 その一環として主催しているのが、「イントロドン大会」です。

イントロドン大会……。曲のイントロを聴いて早押しするやつですか?

イントロドン大会の開催は赤星さんの趣味の一つなのだそう(提供画像)

赤星

そうです。仕事の関係者を中心に30人くらい集めて、本気で戦います。お酒を飲みながら、なりふり構わず早押しボタンを連打する。

そうやって「本気で遊ぶ」と、その人の素の人間性が見えてくるんですよね。「この人は負けず嫌いだな」とか「周りへの気配りがすごいな」とか。

素の人間性を知ることで深い信頼関係ができると、翌日からの仕事の話も驚くほどスムーズに進むんです。実際、この大会がきっかけで生まれた企業コラボもたくさんあるんですよ。

面白いですね!

「仕事」ではなく「遊び」から入ることで、逆に仕事が加速する。

赤星

私はよく、自分に直接メリットがなくても、相性が良さそうな人同士をつなぐ「お見合いおばちゃん」みたいなことをしています(笑)。

「あの人とあの人が出会ったら面白そうだな」と思ったら、すぐに紹介する。そこで新しい化学反応が起きて、世の中が少しでも面白くなればいい。結果的に、それが巡り巡って自分の信頼貯金にもなっているのかもしれません。

「お金がないから」で人生を諦めない社会へ

最後に、赤星さんがそこまで精力的に活動される、その原動力について教えてください。これからのキャリアで実現したいことは何ですか?

赤星

私の根底には、「経済的な理由で選択肢が狭まることのない社会を作りたい」という強い想いがあります。

私が学生の時に父が亡くなり、母子家庭で育ちました。経済的には決して裕福ではなく進学の際も、「東京の私立大学に行きたい」なんて言える状況ではなく……。地元の国公立大学しか進学の選択肢はありませんでした。

新卒で就職して大阪に出てきた時も、お金がなくて。母への仕送りのために食事を減らしていたら、栄養失調で倒れたこともあります。

そんな壮絶な過去があったのですね……。

赤星

だからこそ、お金がないという理由だけで、学びたいことが学べなかったり、挑戦したいことができなかったりする人を減らしたいんです。

私がエイブルで立ち上げた「ひとりぐらし研究所」や、金融教育の活動も、すべてそこにつながっています。

提供画像

赤星

ひとり暮らしをしている若者、特に女性たちが、金融リテラシーを身につけ、経済的に自立すること。会社やパートナーに依存するのではなく、自分の足で立ち、自分の人生を自分でコントロールできる力を持つこと。

「ひとりでも生きていける強さ」を持った上で、誰かと一緒に生きることを選べる。そんなしなやかな強さを持った人を増やしていきたいんです。

それが、赤星さんが目指す「自立」であり、「自律」の形なんですね。

赤星

そうです。会社員としても同じです。「会社に働かされている」のではなく、「自分が会社というリソースを使い倒して、やりたいことを実現している」という感覚を持ってほしいんです。

複業もその手段の一つ。会社に依存せず、個としての名前で勝負できる力をつけながら、会社という場所も最大限に活用する。そんな「したたかで自律した働き方」が当たり前になる世の中を作っていきたいですね。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
赤星さんは、WORK MILLが運営する共創空間Seaのブランディングマネージャーも務めてくださっており、日々のお仕事の中で顔を合わせることの多い方です。
あるとき、たくさんの仕事を抱えてアップアップにならないのだろうかと声をかけてみたところ、「A社の企画のことを考えていると、不思議とB社のアイデアが思い浮かぶんです!」と返してくださったのが、とても印象に残っています。
仕事と仕事を、まるで気分転換をするかのように軽やかに行き来しながら、相乗効果を生み出している。その姿を見て、こんな働き方が日本の“当たり前”のひとつになっても面白いな、と思いました。(もちろん、身体が一番大事ですが!)
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)

2025年12月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト