好き×得意で需要を生み出す。おひとりプロデューサー・まろさんが唯一無二の仕事をつくるまで
友人やパートナー、家族と過ごす時間だって有意義だけれど、自分だけの「ひとり時間」を過ごす瞬間だって素晴らしい。
そんな「ひとり時間」の喜びや大切さを発信し、仕事に昇華させたのが、まろさんです。
Instagramでの発信を中心に、漫画『おひとりさまホテル』(新潮社)の原案や、『ひとりホテルガイド本』(朝日新聞出版社)の出版、有料会員コミュニティ「おひとりくらぶ。」の運営など活動の幅を広げ、「ひとり時間」の伝道師的存在として活動してきました。
どうやって唯一無二の活動をつくりあげてきたのか。まろさんのお話から見えてきた、素朴でまっすぐな「ひとり時間」との向き合い方から、自分らしい人生を歩むためのヒントを考えます。
まろ
早稲田大学卒。新卒でテレビ朝日に入社後、番組プロモーション等に従事し、2023年9月に独立。現在は、ひとり時間の楽しい過ごし方を提案するメディア「おひとりさま。」をInstagram中心に運営し、 WEB媒体で連載など執筆活動を行うほか、ホテルなどとコラボして、おひとりさま向けプランの企画・プロデュースも手掛ける。
「発信したい」という気持ちが、キャリアの起点に
まろさんが「ひとり時間」の大切さを発信するようになったきっかけから教えていただけますか?
まろ
わたしは新卒でテレビ朝日へ入社したんですが、当時は事務仕事が中心の部署で働いていました。
テレビ局というと激務の印象がありますよね。ちなみに、当時はどのような業務に携わっていたのでしょう?
まろ
系列局との番組調整等を担当する「ネットワーク局」という部署でした。時折イレギュラーも発生はしますが、ある程度決まった仕事をコツコツ担当するようなイメージでした。
まろ
周りに合わせてそつなくルーティンワークをこなすことが求められていたうえに、番組制作のように手や足を動かすタイプの部署ではなかったからか、多くの人がテレビ局勤務と聞いてイメージするような忙しさもあまりなくて。
ただ、組織規模も相当大きくて、会社のなかで積極的に企画を提案したり、新しい挑戦を試みたりするのはむずかしいなと、勝手に諦めてしまったんです。今思うと、そこもやっておけば良かったなとは思いますが(笑)。
ただ、「いずれにせよ、このままではまずいな」と危機感は芽生えていて、とにかくもっと手足を動かして、自分らしさを発揮したいという思いを強く抱いていました。
なるほど。もやもやとくすぶった気持ちを抱えながら働いていたんですね。
まろ
そこで、自分の好きと得意を掛け合わせて、何か需要のあることをやりたいと思いました。
まず得意はなんだろうと思ったとき、もともと自分の好きなことや人に知ってほしいことを発信することだなと。
大学時代はスポーツ新聞会に入っていて、選手の魅力を伝える記事を書いていましたし、立ち上げ初期の「LINE NEWS」でアルバイトとして働いて、ニュースをわかりやすく伝える取り組みに携わったりもしていて。「伝えたい相手にどう届けるか」をたくさん学んでいました。
「発信すること」がまろさんの軸にあったんですね。
まろ
そうなんです。いろいろと思案した結果、「う〜ん、やっぱりなにかを発信しよう!」と思いました(笑)。
すごいバイタリティですね……! この時点で、「おひとりさま」というテーマは決まっていたのでしょうか?
まろ
そうですね。発信するテーマについて考えていたときに、ふと「ひとり時間はどうだろう?」と思うようになって。
というのも、自分自身がひとり時間を過ごすのが好きだけれど、そういった情報がなかなか見つからなくて困っていたんです。
ご自身にとっての興味関心から、発信内容を検討していた、ということですか?
まろ
はい。自分が好きな領域で発信したいこと、そして世の中の需要を考えたときに「ひとり時間」っていうテーマはなかなかいいな、と。
ちょうど雑誌で「ひとりおでかけ特集」が結構組まれたりしていて、私だけではなく、世の中的にもニーズはありそうと思ったんです。
ひとりで過ごす時間の豊かさに気づけることを発信できたら、とても有意義だし、誰かの役に立てて、やりがいにも繋がるのではないかと考えるようになりました。
なるほど。
まろ
発信のターゲットになる相手はまさに自分自身だったので、「どんな内容が知りたいのか」も考えやすかったんですよね。
結果として、Instagramで写真と文章を交えた発信をしてみようと思い、アカウントを立ち上げたんです。それが、社会人2年目の頃でした。
アカウントを立ち上げるだけなら、ノーリスクでしかもすぐできるので、思い立ったらすぐ行動!という感じでしたね。
アドバイスを受け入れて、低迷を打破
最初からコンセプトが決まっていると、発信内容も自ずと決まり、順調に進められそうですね。
まろ
私も、これはもう良いところに目をつけたからすぐ軌道に乗るだろうと思っていたのですが、そう甘くはなかったです(笑)。
コンセプトの良さに気を取られて、アウトプットの手段をまったくといっていいほど考えておらず、今見返すと最初の頃はただの「OLのランチ日記」。正直誰に何を発信しているのかすら、わからない状態でした。
友達と繋がっているプライベートアカウントの方がフォロワー数が多いっていう、ちょっと情けない時期もありましたね(笑)。
コツをつかむまでには多かれ少なかれ時間がかかりますよね。発信を続けるモチベーションを保つのは大変だったのでは?
まろ
「ひとり時間」の魅力を伝えたいという想いは強かったので、フォロワー数の伸び悩みにも負けずに続けていこうと思っていました。でも、やっぱり反応が少ないとがっかりすることもありましたね。
自分がしっくりくるテーマだったので、立ち上げ半年間でフォロワーが100人程度だったのがショックで……。「どうしてなんだろう?」と悶々と悩んでいましたね。
昔と今の投稿を比べてみると、じわじわと雰囲気が変わっていますよね。どのようなことを実践して改善されたのでしょう?
まろ
発信について悩んでいたときに、すでにInstagramで
インフルエンサーとして活躍している方に相談をする機会があったんです。
いただいたアドバイスは2つ。まずは写真のクオリティを上げること。それと、「おひとりさま」に向けた発信であることがわかるように、投稿する画像に“文字入れ”をしてみることでした。
今の発信の礎になるアドバイスですね……!
まろ
とはいえ、当時のわたしにはデザインの経験がほとんどなかったので、新聞の折込チラシのような文字入れしか知らず、「どうしたらターゲットに届くのだろう?」と考えて。
そこで、ターゲットにしたい女性が読んでいそうな女性誌で取り入れられている写真・デザインの見せ方や文字の入れ方をたくさん研究して、真似しながら学んでいきました。
まろ
そうして、いただいたアドバイスを素直に実践したところ、驚くほどフォロワー数が伸びて。改善してからすぐの投稿では、一気に300人近くも増えたんです。
そのとき「アウトプットの細部までコンセプトを行き渡らせれば、もっと多くの人に届けられる」という手応えを感じましたね。以降は、大きな変化なく発信を継続しています。
すごく地道な活動を続けてきたからこそ、得られた結果のようにも感じますね。
まろ
決して順風満帆にあらゆることを進められるタイプではないんですよ。うまくいかないこともたくさんあるし。
けれど、「ひとり時間」というコンセプトは間違っていないという確信があったのと、少しずつ数字もついてきたことが自信になったからこそ、コツコツ続けられているのかなと思います。
私は、自分が好きならそれでいい!というタイプではあまりなく、「誰かに届けられている」という実感がモチベーションになるので、反応があるから続けられている気がします。
『おひとりさまホテル』(漫画:マキヒロチ)の原案者を務めるなど、活動の幅も一気に広がっていますね。
この先も根底の想いは変わらず、まろさんなりの発信を続けていくのでしょうか?
まろ
そのつもりです。理想を言えば、わたしの発信をきっかけに「ひとり時間」の輪がもっと広がったらいいなと思っているんです。
「ひとり時間」の過ごし方は人それぞれなので、みんなで自分なりの楽しみ方を共有し合える、そんなコミュニティをつくれたら素敵だと思い、有料会員コミュニティ「おひとりくらぶ。」も運営しています。
わたしの発信や企画などを通して、一人でも多くの人に「ひとり時間」の心地よさを感じてもらえたら──。そんな願いを込めて、これからも発信活動を続けていきたいです。
企業との協業で「ひとり時間」の可能性を広げる
最近は、企業とのコラボレーションにも積極的に取り組まれていますよね。
まろ
はい。Instagramでの発信を通して、多くの企業の方々とコラボレーションする機会をいただけるようになりました。
ホテルや飲食店、鉄道会社など、さまざまな業界の方と一緒に、「ひとり時間」を切り口にした新しい商品やサービスを作っています。
どういった背景で、コラボレーションのお仕事が生まれているのでしょう?
まろ
きっかけは本当にさまざまです。企業の担当者さんからお声かけをいただけることもあれば、わたしからご一緒したい企業の方にメッセージを送ることもあります。
というか、わたしは「ご一緒したい!」という企業さんに対しては、相当積極的にご連絡しちゃうほうだと思います。
ええ〜! いわゆる「営業活動」のようなものも、ご自身でされているんですね。
まろ
そうなんです。ひとりニーズがありそうで、もう少し魅力的にプロモーションできそうだなと思うサービス業の企業さんに提案したりしています。
ただ“ひとりプラン”ができればいいとは思っていなくて。たとえば、「平日や閑散期の集客に困っている」というケースの解決方法として、ひとり客層の取り込みを行うことで集客効果を実感してもらうなど、ウィンウィンの関係性を築きたいと思っています。
そうすることで、他の企業さんも“ひとりプラン”を取り入れようという動きになれば、よりひとりで外出しやすくなるかもと思っているので。
そういったことをゼロから考えて企画したり、企業の方と話したりするのが苦ではないので、楽しく進められています。
企業とやりとりするうえで、会社員として組織で働いた経験も活きているものなのでしょうか?
まろ
それはもう、めちゃくちゃ役立っていると思います。特に、会社員時代に鍛えられたのはコミュニケーション力でした。
組織のなかだと、上司や同僚、ときには社外の方とも密にコミュニケーションを取る必要がありますよね。相手の立場に立って物事を考え、時と場合に応じて適切な言葉を選ぶ。そういったスキルは、今の仕事においても欠かせません。
テレビ局のように大きな組織だと、なおさらそうですね。
まろ
また、部署間の調整のような、組織ならではの仕組みを理解していることもフリーランスで働く際の強みになっています。こちらが提案した企画がクライアントの社内で通るためには、どういった調整が必要かを想像できるんです。
だから、企画段階からスムーズに進めやすい形で提案ができるんですよね。「どうしたら社内の稟議を通せますか、一緒に画策しましょう!」みたいな(笑)。
Win-Winの関係を築くためには、相手の立場に立って考えることが大切ですね。
まろ
自分の考えを大切にしつつ、相手の視点も取り入れながらアイデアを膨らませていく。その作業はすごく難しいですが、だからこそ達成感があるんです。
考えた企画がお客様に届いたり、喜びの声があったりすると、とにかくうれしいなって思います。
そういった言葉から、「届けること」に対する、まろさんの強い意思が垣間見えるように思います。
まろ
根本的には「知ってほしい」みたいな感情が強い人間なので、ちょっとお節介な性格なのかもしれませんね(笑)。
「自分が好きなこと」を仕事にしているだけでなく、それ以上に「自分の発信した情報で誰かがしあわせになっていること」で感じる喜びは、ひとしおだなあと思うんです。
「ひとり時間」の提案の幅を広げたい
まろさんにとって「ひとり時間」は単なる発信のテーマというだけでなく、生き方そのものなのかもしれないですね。
今から取り組めるおすすめの「ひとり時間」の過ごし方って、なにかありますか?
まろ
そうですね。わたしがよく実行するのは、一人で出かけた先で、リサーチや想像を膨らませる過ごし方。
たとえば、カフェに行ってお客さんの様子を観察したり、席配置を眺めてお店なりの工夫を見つけたり。世の中のニーズとか、ターゲットによって変わる店づくりとかを学んでいます。
一人だからこそできる観察ですね。
まろ
わたしの場合は、そういったリサーチで得たヒントを、仕事に活かしているんです。たとえば宿泊プランを考える際も、必ず現地へと足を運んで、「お客さんの立場だったら、どんなサービスがあるとうれしいだろう?」と想像を膨らませていて。
そういう時間を設けるだけでも、人と過ごすのとは異なる感覚や学びがあるので、すごく楽しいですよ。
人間観察ならぬ、空間観察ですね。
きっとまろさんには、まだまだ企画したいことや実現させたい世界観があるのではないかと思います。今後の展望についても教えていただけますか?
まろ
「ひとり時間」をより多くの人に体験してもらえるよう、企業とのコラボレーションはますます増やしていきたいなと思っています。
自然に触れて自分と向き合う機会を提供できるプランや、子育て中のママさん・パパさんに向けた「ひとり時間」プランなど、宿泊に限らず、ひとり時間だからこそ叶う何かがある企画をより一層考えていきたいなと。
一人で過ごすための選択肢がたくさんあると、より日常を楽しく過ごせる人も増えそうです。
まろ
日本では、茶道や写経のような「ひとり時間」をベースにした文化が昔から根付いていますよね。そういった時間の心地よさを本質的に知っている人も多いのではないかと思うんです。
だからこそ、「ひとり時間」の過ごし方を、改めて提案していきたいです。海外でも、「自分のための時間」を意味する「ME TIME」という言葉が流行っているので、インバウンドの方への提案もしていきたいですね。
一まろさんの活動が、多くの方の朗らかな人生を助けることになるのではと思います。
まろ
ありがとうございます。そうなれると嬉しいです。これからも失敗を恐れずに、積極的に行動していきたいですね。
2024年4月取材
取材・執筆・撮影=鈴木詩乃
編集=桒田萌/ノオト