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「愛」こそがビジネスを加速させる ― 不確かな時代の関係構築のありかた

2019年4月11日に発刊された『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04』。第4号では「LOVED COMPANY 愛される会社」をテーマに、顧客や社員、地域や社会との強い関係性をつくりだしている国内外の「愛される会社」を探求しました。

 

4月16日、その発刊記念カンファレンスとして行われた「FUTURE WORK STYLE SESSION 2019 SPRING」。「愛」という人の根源的な感情をキーワードに、「ブランド」「チーム」「体験」の3つの切り口からいかにそれを醸成するか、トークセッションを行いました。

 

今回はセッションの様子を振り返りながら、ビジネスにおける「愛」を基軸とした新たな関係構築を考えていきます。

 

「愛されるブランド」をつくるなら、顧客との末長い関係構築を

第1セッションは「愛されるブランドのつくりかた」をテーマに、日本でも広がりつつあるD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドを運営する株式会社Zokei代表取締役の沼田雄二朗さん(以下、沼田さん)とFABRIC TOKYO代表取締役社長の森雄一郎さん(以下、森さん)、そして数々の企業の新規事業コンサルティングやブランディングを手がけるTakramのディレクター佐々木康裕さん(以下、佐々木さん)が登壇しました。

 

「2018年は言わば『D2C元年』だった」と表現する佐々木さんは、SNSの登場によって企業と消費者の関係に「革命」が起き、5年後になれば、今が「ターニングポイントだった」と振り返ることになるだろう、と話します。「SNSによって個人の力が高まり、相対的に企業の存在感は弱まっています。これまで企業が『これこそがいいプロダクト』と“上から目線”で提示していたのが、友人のような距離感で、パートナーとして消費者と末永く関係構築をしていく。そういったパラダイムシフトが起こっています」

 

 

オンラインでカスタムオーダーできるスーツブランド「FABRIC TOKYO」を運営する森さんは、SNSの登場によって「ビジネスの『LTV(ライフ・タイム・バリュー:生涯顧客価値)』を意識するブランドが増えてきたと語ります。「雑誌やカタログでは、年に4回のシーズンチェンジ、あるいは毎月など顧客との接点が限られていましたが、SNSによって毎日のように接点が持てるようになった。そこで顧客との関係性が変容してきたように感じます」

 

FABRIC TOKYOではインスタグラムのストーリー機能を活用し、ビジネスポロシャツのアンケートを取ったところ、リアルタイムでユーザーから意見が寄せられ、クイックに商品へ反映することができたといいます。その他、2016年以降、オムニチャネル化を進め、オンラインだけでなくリアル店舗も関東中心で展開。来店した顧客が「お店に来てみた」と写真つきでSNSに投稿するなど、オフラインの接点を設けることで、リアルな顧客動向を測りながら、より密接な関係構築を図っています。

 

さらに森さんはFABRIC TOKYOを「ITサービス」と定義していると語ります。クラウド上に顧客のサイズデータを保存し、「いつでもどこでもフィット感のある服を購入できる」という安心感を提供。顧客のエンゲージメントを醸成しているのです。

 

 

一方、SNSでは「ニッチなニーズ」でも一定の興味関心を引き寄せ、「人を集める」ことが可能になったと語るのは、株式会社Zokeiを創業した沼田さん。もともと土屋鞄製造所のSNSディレクションを担当していた沼田さんは、若手職人に協力を呼びかけ、レコードケースや自転車のサドルバックなど「マニアック」なレザーグッズをSNS投稿のためだけに制作。ユーザーから大きな反響を得たことが、事業立ち上げのきっかけになりました。

 

沼田さんが立ち上げたレザーグッズブランド「objcts.io(オブジェクツ.アイオー)」では、デジタルデバイスに特化したバックパックやユーティリティケースなどを開発。プロダクト開発には「テックフレンドリー」なユーザーを巻き込み、プロトタイプ段階からチャットツールのSlackでチャンネルを開設して、モニターとして随時フィードバックをもらい、開発に活かしているといいます。

 

 

新規事業開発やプロダクト開発を行ううえで、モニターテストや想定ユーザーからのフィードバックは欠かせないものですが、もう一つD2Cブランドを語るうえで見逃せないポイント。それは「創業者の切実な思い」がプロダクトに反映されていることだと佐々木さんは指摘します。

 

たとえば、ペーパーマガジン本誌でも紹介したスーツケースブランドの「AWAY(アウェイ)」は、共同創業者の一人であるジェン・ルビオ氏が、旅先の空港でスーツケースが壊れ、荷物が散乱したのに辟易して、同じく共同創業者のステフ・コーリー氏に協業を持ちかけたもの。それから800名ものユーザー・インタビューを行い、徹底的に「顧客がハッピーになる」商品づくりを追求し、創業わずか3年で世界40カ国において約100万個を売り上げるほどの成長を果たしました。

 

「創業者の切実な思い」に同意するのは森さんです。「僕は腕が長いため、既製品のジャケットやシャツが合わないのです。不動産ベンチャー時代、自分の体型に合う洋服が欲しくてもサイズが合わなくて買えない、という悩みがあった。FABRIC TOKYOではその原体験をもとに、欲しいサービスを自分で作ったのです」。また、その強い思いを社員とも共有。社員たち自ら商品を試し、「組織全体としてテンションが上がる」ほど商品の良さを実感することで、顧客にもそれがストレートに伝わり、熱狂を生み出すといいます。

 

沼田さんは土屋鞄製造所時代に1年間アメリカへ渡り、現地のD2Cブランドをリサーチ。多くのブランドに共通して見られたのは「語りたくなるような内発的なストーリー」を持ち、共有しやすいような形で伝えていることだったと言います。「プロダクトが優れていることはもちろん、世界観の作り込みと、それを伝えることで差別化を図っている。『AWAY』でも外部から編集長を招聘し、『旅』をテーマにした雑誌を制作して、そのコンテクスト(文脈)を豊潤に伝えているのです」

 

SNSをはじめとするオンライン、そして実店舗や雑誌といったオフラインの接点を複合的に活用し、顧客と末長い関係構築を行うD2Cブランドこそ、まさに「愛されるブランド」と言うべきもの。日本でもその流れが加速しようとしているなか、これからどんな展開が考えられるのでしょうか。

 

佐々木さんは「無数の勝者が生まれる可能性がある」と表現します。「SNS上では既に無数の熱狂的なトライブ(部族)がいて、断片的なニーズがある。たとえば『左利き用の釣り竿』を開発すれば、それは日本に限らずスコットランドやネパール……どの国でも一定のニーズがあるはず。もはや日本にこだわらなくとも、世界中に可能性は広がっているのです」

 

「世界」という言葉を受け、森さんは「現状は日本のみでの展開だけど、ニーズは感じる。日本に在住する外国人の方からは『自分の体型に合うものがない』という声をよく聞きます。いつかスーツの本場であるイギリスでも勝負をしかけられたら」と頷きます。

 

沼田さんも「アメリカのD2Cブランドのプロダクトと比較しても、日本のディテールやこだわりは非常に優れていて、世界的にも評価されています。可能性は確かにあると思いますね。僕らはまだ日本国内でもこれから、というフェーズですが、ゆくゆくは海外へ展開できたら」と話し、今後への期待も高まったセッションでした。

 

 

「不確かさを許容するチーム」こそが新たなものを生み出す

続く第2セッションは「愛されるチームのつくりかた」をテーマに、株式会社BIOTOPE CEOでChief Strategic Designerの佐宗邦威さん(以下、佐宗さん)と、株式会社DAncing Einstein代表取締役の青砥瑞人さん(以下、青砥さん)が登壇しました。

 

佐宗さんがCEOを務めるBIOTOPEは、戦略デザインファームとしてさまざまな企業との共創プロジェクトを進めています。そのチーム構成もユニークで、「雇用」という形でのつながりに留まらず、起業家やフリーランスなど各業界のプロフェッショナルともパートナーシップを結び、社内外の垣根を越えた協働関係を構築しています。その中で佐宗さん自身は、「メンバー一人ひとりが新たな仕事と出会い、世の中に認められるきっかけをつくる『プロデューサー』でありたい」と語ります。

 

「たとえば小林武史さんはMr.Childrenのプロデューサーとして知られていますが、ミスチルが最初にブレイクした直後、『奇跡の地球(ほし)』という曲でボーカルの桜井和寿さんをサザンオールスターズの桑田佳祐さんとコラボさせて、さらにスターダムにのし上げるような機会を用意した。そんなふうにメンバー自身が持っているポテンシャルをストレッチさせて、自己認識が変わってステップアップできるような場を提供していきたいんです」

 

 

脳神経科学とIT、教育をかけ合わせた「NeuroEdTech」を推進するDAncing Einsteinもまた、雇用形態の異なるさまざまなメンバーがプロジェクトベースで社内外のパートナーや企業と協業していると語る青砥さん。アメリカ在住のメンバーもいるため、基本は各自リモートワークで、オンラインによるコミュニケーションがほとんどだといいます。詳しい働き方については以前、WORK MILLでも紹介しましたが、青砥さん自身が特に意識しているのは、「オフラインでの会話」。新しくチームに加わったメンバーとははじめの数カ月、重点的に会う機会を設けるのだといいます。

 

「信頼は脳が後天的に学習することで生まれる反応で、人はさまざまな『エピソード記憶』を海馬に、そのときにどんな感情だったかという『感情記憶』を扁桃体に刻みます。その感情がポジティブなら信頼につながりやすいのです。実際に会話する際、このエピソード記憶と感情記憶を積極的に共有することにしています。それは仕事に限らず、プライベートな内容も含みます。エピソード記憶は事実ベースなので振り返りやすいのですが、感情記憶は『感情』という脳の非言語的反応を言語化しなければならないので、表現が難しいことも確か。けれどもそれを内省し、なんとか言語化して相手に伝えることで、その人との関係性をより近しくし、信頼を育むことができるのです」

 

 

佐宗さんは理想的なチームのあり方を、2010年サッカーワールドカップ南アフリカ大会に出場した日本代表チームを例に語ります。「イビチャ・オシム監督が健康上の理由で退任し、代わりに岡田武史さんが監督に就任したものの、大会前の国際試合では低迷していました。そこから選手たちが自発的にミーティングを行い、戦術を議論するなかで士気が高まり、最終的にベスト16まで勝ち残ることができた。そこではある種、グループ・ダイナミクス(集団力学)がはたらき、パッションが一気にチーム内で充満したのだと思います。そういった『グループ・フロー(没頭)』のようなものをどうやって生み出せるか、非常に興味があります」

 

それを青砥さんは脳神経科学の視点から見解を示します。「人の脳は言語だけでなく非言語情報を学習しているため、言動や振る舞い、その時の表情など微妙な要素が個々のアクションに影響を与え、チームをドリブンしている可能性は大いに考えられます。そもそも日本人は『空気を読む』とも言われるように、言語だけではわからない文脈を感じ取り、言語化する能力を培ってきました。そういったハイコンテクストな文化は素晴らしいと思います」

 

ただ、そのハイコンテクストな文化は近年の環境変化で、難しい側面も出てきていると佐宗さんは指摘します。「それまで『本音と建前』の文化で、仕事の中では建前を前提に進めながらも、飲み会で本音を話すとか、『背中で語る』ことでバランスを取ってきたのです。けれどもいわゆる『飲みニケーション』や『喫煙所での会話』が少なくなってきたことで、非言語情報を伝える手段が限られてきました。すると、仕事の中できちんと非言語情報を伝えることを意識して、建前文化の中でも本音を伝えられるような関係を構築しなければならないのです」

 

その方法の一つとして佐宗さんが例示したのは、「チェックイン」。会議のはじめに「今日は少し疲れている」「週末に家族と出かける予定なので楽しみ」などと、いまの気持ちを率直に伝え合うことで、「その人らしさ」を出せるような関係構築に取り組んでいるのだといいます。

 

一見、仕事には関係のないようなことですが、これからますますそういった「曖昧さ」が重要になってくると青砥さんは語ります。「自分の内なる違和感や発露に意識を向け、言語化するのが重要。そこに『AIに置き換えられない』我々の強みがあるのです。僕らは理想のチーム像として『不確かさにニヤニヤできるオタク集団』を掲げているのですが、不確かなものはまずAIによって『選択されない』意思決定をされる可能性が高い。ただ、人の脳には『RLPFC(吻側外側前頭前野)』という“不確かさドリブン”の機能があって、この機能をうまく使えている人とそうでない人がいると研究でわかっています。曖昧なものや不確かさに直面したとき、僕らはそれを回避するのではなく『面白そうじゃん』とニヤニヤして、立ち向かえるような集団でいたいんです」

 

「不確かさ」とはつまり、根拠に基づいておらず、まだ何かに規定されていないもの。それは「これまでなかった新しいもの」が生まれるきっかけになるかもしれない。そしてその不確かさを許容することこそ「愛」と呼べるかもしれない、と佐宗さんはいいます。「『愛』というと母性をイメージしますが、不確実な状況を受け入れてくれる環境こそ、『愛』なのでしょうし、そういった環境をチームで育めるといいですよね」

 

青砥さんも「これまであまり脳神経科学の視点から『愛』を深く考えてこなかったけど、愛というものがチームにポジティブな影響をもたらす部分も大いにありそう。解明されてないところは多いけど、これからもっと突き詰めていって、ビジネスのあり方へヒントを提示できたらと思います」と話し、まだまだ議論も続きそうな中、結びの時間となりました。

 

 

徹底した「顧客至上主義」から「愛される体験」は生まれる

そしてラストとなる第3セッションでは、アマゾンジャパン合同会社 Amazonビジネス事業本部 事業本部長の石橋憲人さん(以下、石橋さん)が登壇。「愛される体験のつくりかた」と題し、プレゼンテーションを行いました。

 

 

「愛される体験」とは、企業活動に置き換えると、「お客様から愛される体験をサービスや商品として提供すること」。Amazonは企業理念として「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を掲げており、とにかく「Customer Satisfaction(顧客満足)」を高めるためにあらゆる可能性を追求しているといいます。

 

「Amazonには『Our Leadership Principles(アワー・リーダーシップ・プリンシパル』という14の行動指針があり、その第1条が『Customer Obsession(お客様を起点に行動する)』というもの。会社のイノベーションは、このCustomer Obsessionを実践するうえで欠かせないものであり、お客様のお悩みをいかに解決するかがすべての起点になるのです」

 

その一例が、Amazonがアメリカ本国で展開する「Amazon Go」。「JUST WALK OUT=商品を持ち出すだけ」でセンサーとディープラーニングシステムが働き、自動的に会計処理が済むシステムを開発しました。「Amazonでよく使われる言葉に『Good intention doesn’t work. Only mechanism works.(善意は機能しない。機能するのは仕組みだけだ)』というものがあるのですが、『スーパーやコンビニのレジで並ぶのが苦痛だ』といったお客様のお悩みを解決し、より快適なショッピング環境をお客様にご提供しようといった考えから、この事業が生まれたのです」

 

Amazonプライム会員向けのPrime MusicやPrime Videoのほか、「Kindle Unlimited(読み放題)」、「Amazonフレッシュ」など、近年、Amazonが積極的に事業領域を拡大しているのも、すべては「Customer Obsession」に基づいているからだといいます。

 

その延長線上にある事業として、2017年9月から日本でスタートしたのが、法人・個人事業主向けの購買専用サイト「Amazonビジネス」。日本の商習慣である「請求書払い」にも対応し、経費精算や領収書の照合など事務処理を軽減。BtoB向けの商材も拡充することで、ビジネス顧客の利便性と効率性を高めました。ある導入企業では事務処理や購入にかかる時間を、年間にして約9000時間を短縮することができたと石橋さんはいいます。

 

「付帯業務を効率化して無駄な時間を廃し、本来もっと時間をかけるべきお客様対応やサービス提供に時間を割くことができれば、さらなる顧客満足につながるはず。それこそが『愛される体験』への近道ではないでしょうか」

 

「ブランド」「チーム」「体験」といった異なる切り口から、ビジネスにおける「愛されること」を議論した今回の「FUTURE WORK STYLE SESSION 2019 SPRING」。

 

現在発売中の『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04』では、セッションでも話題にのぼったAWAYをはじめ、「顧客」「従業員」「地球環境」といった3つの異なる視点から見た国内外さまざまな「愛される会社」を取り上げています。ぜひご覧ください。

 

2019年5月23日更新
取材月:2019年4月

テキスト: 大矢 幸世
グラフィックレコーディング:成田富男(グラフィックカタリスト・ビオトープ )
写真:WORK MILL編集部

 

 

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