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義務からサービスへ ― 未来の公衆衛生がつくるオフィスや都市の片鱗

 

WOTA株式会社が開発した「WOTA BOX」は、水道管をつながずに清潔な水を繰り返し使うことができる自律分散型水循環システムです。そしてこの技術を手洗いに特化させた水循環型手洗い機「WOSH」は、いつでもどこでも手洗いができるプロダクト。新型コロナウイルスによる衛生意識の高まりを受け、WOSHの開発は急ピッチで進められたと言います。

 

2020年9月にはGINZA SIX、ルミネ、マルイなど、銀座にある6つの施設に合計15台を設置(現在は期間終了)。その後も商業施設を中心に設置実績は増えていき、今では働く場であるオフィスにも導入が広がっています。

 

今年4月より、WOSHは東京都職員が勤務する東京都庁のオフィスフロアにも設置されました。本稿では、都庁への導入について、東京都デジタルサービス局戦略部戦略課長の小澤洋之さんからコメントをいただきました。またこれを受けて記事後半では、WOTAのCEOである前田瑶介さんに、WOSHの開発背景や公衆衛生の未来についてお話を伺います。

 

前編記事:素朴な疑問が起こす、水インフラの変革 ― WOTA 前田瑶介

 

シン・トセイの働き方改革に資する存在として、都庁にWOSHを導入

 

 

WORK MILL:東京都庁にWOSHを導入した背景を教えてください。

 

小澤:東京都は今年3月に「シン・トセイ」という構造改革戦略を公表しました。その一つである「未来型オフィス実現プロジェクト」では、生産性を向上させながら、新しい働き方を実現できる機能を実装した未来型オフィスの整備を掲げています。これらの検討自体は昨年夏頃から行っており、当時から「都庁の中だけでなく民の力も借りたらいいんじゃないか」という意見があったんです。そこで「UPGRADE with TOKYO」というスタートアップによるピッチイベントを開催し、都庁の働き方改革に資するツールや仕組みを各社に提案していただきました。

 

WORK MILL:「都庁の働き方改革に資するツールや仕組み」とのことですが、タイミング的にはやはりコロナがキーワードになりましたか?

 

小澤:はい。イベントのテーマも『ウィズ、コロナ社会における「新しい日常」の定着を目指して 都庁の働き方改革』と設定していました。そうして各社からいただいたご提案の中で、我々が最も共感を抱けたものが、WOTAさんの提案する「WOSH」でした。

 

WORK MILL:他の企業からはどのような提案があったのか、可能な範囲で伺えますか?

 

小澤:体温管理やCO2濃度などの空調管理、また三密回避関係のツールなどをご提案いただきました。各社の提案の共通点としては、「オンラインにすべて移行できるわけではない」「どうやって対面で集まる際の感染リスクを行っていくか」という視点が挙げられます。

 

WORK MILL:WOSHは、都庁のどこに設置しているのでしょうか?

 

小澤:オフィスフロアの入り口ですね。体温管理システムや消毒液も一緒に置いて、クリーンな状態で勤務できるようにしています。出勤時に必ず通る所となっています。

 

WOSHの良い所は、配管にとらわれずどこにでも置けることです。例えばトライアル段階で「ここがダメならこっちに動かしてみよう」と考えたときに、普通の手洗い場だと動かすのに大掛かりな工事が必要になったり、そもそも水回りのレイアウトがビル側で決まっていて動かせなかったりしますが、WOSHは大人1人で運べますからね。

 

WORK MILL:今後、オフィスの導線やレイアウトの変更があっても、変わらず溶け込んでいけそうですね。実際に導入しみて、いかがですか?

 

小澤:デザイン性が優れていて、目にしたときに興味を引きますよね。ものづくりにおいてデザインが持つ影響力は非常に大きいですが、WOTAはそういった意味でも成功事例と言って良いと思います。

 

職員だけでなく、登庁されるお客さまに対しても効果を発揮しています。「これは何ですか?」と興味を持ってくださるので、「これはこういう製品なんですよ」と会話したりするじゃないですか。そういったやりとりが、都庁が取り組んでいる感染症対策そのもののPRにつながっているという面もあります。

 

WORK MILL:東京都として、WOTA社に期待していることがあれば教えてください。

 

小澤:現状給電がコンセント式なので、バッテリー式になれば、もっといろいろな場面での汎用性が増していくと思います。また水をきれいにする仕組みって、災害時には特に有効なのですよね。給水が止まってしまった避難所では応急給水というものを使うのですが、どうしても水がもったいないという心理が働いて、手洗いが十分に行われないケースがあります。貯水タンクから消費して終わりではなく、循環する仕組みがあることは、行政の視点からすると大きな期待感がありますね。

 

さらに、国際貢献にもつながる可能性があります。水が足りていない地域や、水そのものが汚染されてしまっている地域が、世界にはたくさんありますから。水の確保は国際的にも大きな問題ですが、WOTAさんの取り組みはそこへのアプローチにもなると思います。

 

手洗いは、最も基本的な衛生対策

 

WORK MILL:水循環型手洗い機「WOSH」の開発はいつ頃から動いていたのでしょうか?

 

前田:改良前のデザインは、2019年の9月にできあがりました。開発のきっかけは、「車でどこにでも持ち運べるような、手洗いに特化した水循環システムをつくりたいな」と思ったことです。循環の仕組みごと積んでおけば水を使ってもなくならないし、車内でも車外でも使えて、便利だろうなと。そうしたら、2019年の9月に台風15号が来て。千葉県の避難所で、仮設トイレの手洗いに使いたいというお話をいただき、試作段階のWOSHを提供しました。

 

―前田瑶介(まえだ・ようすけ)

1992年徳島県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学研究科建築学専攻(修士課程)修了。幼少期より生物研究に明け暮れ、高校時代には食用納豆由来γポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を行い日本薬学会で発表。大学・大学院在学中より、大手住宅設備メーカーやデジタルアート制作会社の製品・システム開発に従事。その後起業し、建築物の省エネ制御のためのアルゴリズムを開発・売却後、WOTA株式会社に参画しCOOに就任。現在同社CEOとして、自律分散型水循環社会の実現をめざす。過去に、東京大学総長賞、グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、「30 UNDER 30 JAPAN 2020(主催:Forbes JAPAN)」を受賞。

 

WORK MILL:その後、今のドラム型のデザインになったのは、どのような経緯だったのでしょう?

 

前田:2020年の1月頃から新型コロナウイルス感染症が広がりを見せ始めました。人々の感染予防・衛生に対する意識が高まる中、ある飲食チェーンの経営者が「WOSHを店舗の前に置きたい」と言ってくださって。「それならお店の前に置くのにふさわしいデザインを考えます」ということと、ものづくり自体もサステナブルにしたい、ということで出てきたのがドラム缶を活用するというアイデアです。

 

 

WORK MILL:プロダクトの試作機は2019年から動いていたということですが、やはりコロナの影響によって開発も加速しましたか?

 

前田:はい、意識的に加速させましたね。第二波、第三波に間に合うような開発をめざしました。水道管を引かなくても手洗いを行えるようになることで手洗いを習慣化すること、それが社会情勢として重要な命題のように感じました。

 

手洗いは最も基本的な衛生対策ですし、どこでもできて然るべきなんですよね。これはコロナに限った話ではありませんが、手洗い場を分散配置することでさまざまなウイルスの接触感染経路が遮断され、空間衛生が実現する。そして一つひとつの空間衛生の積み重ねが、全体の公衆衛生につながります。

 

 

WORK MILL:一般家庭向けの展開は考えているのでしょうか?

 

前田:もちろん、将来的には考えています。水循環システムが各家庭に定着したら、お風呂なども自由に動かせるようになる可能性があります。夏はベランダで入浴する、なんてこともできるかもしれませんね(笑)。

 

集合住宅では、パイプスペースが決まっていることで、間取りもほぼ固まっています。もし50平米あったとしても、そのうち15~20平米くらいは動かせなくて、実際にカスタマイズやリノベーションできるのは残りの30平米ぐらい。水の仕組みが移動できるようになれば、住んでいる空間全部、自分の好きなようにカスタマイズできるようになるでしょう。

 

「やらないといけない」ではなく「あってよかった」

 

WORK MILL:人々の安全感覚や、日常生活における衛生意識のプライオリティも変化してきていると思います。さらにその先のニューノーマルに向けて、前田さんが見据えていることは何ですか。

 

前田:公衆衛生が義務だった段階から、おもてなしやサービスへ変化していくと思います。そもそも人と人との接触によってなんらかのウイルスが感染することは、人類が移動を始めた頃から根源的に抱えているリスクです。土着の病気のようなものがあって、ずっとそこで生活し続けていると免疫ができていきますが、人がいろいろなところに移動すると、風土病でしかなかったものが他の地域へ広がっていく。

 

都市は人と人とを接触させ、出会いやコミュニケーションを生み出す装置としての役割を担っていますが、同時に感染など、接触にともなうリスクも孕んでいます。特に昨今のグローバル都市は、物理的状況で言えば、どうしても全世界の感染症を急速に広げる培地になりやすい。そんな中コロナによって人々の衛生意識が高まったのは、根源的に存在していたリスクが顕在化した、ということだと思っています。

 

WORK MILL:公衆衛生が義務ではなく「おもてなし・サービス」へ変われば、衛生への意識自体が変わっていきそうですね。

 

前田:世の中に広がって、人の目にふれて、興味を持って使ってもらうことで、社会がより衛生的になっていく……これが望ましい循環ですよね。だから、義務ではない新しい形の衛生の仕組みがこれから重要ですし、それは私たちだけじゃなくいろんな人が提案していくべきだと思います。

 

 

大切なのは、やらないといけなくなった状態に対して、どういうビジョンを持つか。自分たちが提案していきたいのは「やらないといけない」という義務ではなく、「あってよかったなと思える衛生インフラ」です。やらないといけないことだからこそ、もう少し気持ちよくやれるように、もっと簡単にやれるように。そういうことを提案していきたいです。

 

 

 

更新日:2021年7月15日
取材月:2021年6月

 

画像提供:東京都、WOTA株式会社
テキスト:プレスラボ
写真:安井信介

 

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