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働き方研究者がおすすめするビジネス書 ― 働きがいと経営におけるパーパス

はじめに

「働く」に関する社会の関心・課題は時代とともに変化し続けてきました。近年、日本では働き方改革が大きなテーマとなり生産性の向上を求めいまやパンデミックをうけて改めて「安心、安全」が見直されています。社会で起きている変化と、働く人々やライフスタイルの在り方を見つめながら「働き方」を考えていきます

 

働く場においてもオフィスだけでなく、私たちが生活する空間すべてにおいて、健康でいきいきとした人間らしい働き方や過ごし方ができることが、今の時代に問われています。この連載では、これからの働き方や働く場を語るうえで考えるべきテーマをもとに、参考になる書籍を「働き方」の研究者が選定し、ご紹介します。 

 

今回のテーマ : 「働きがいと経営におけるパーパス」に関する書籍

 

おすすめ図書① 『パーパス経営 30年先の視点から現在をとらえる

著  名和高司 
発行 東洋経済新報社  2021年4月23日

 

この本のおすすめポイント 

      ・近代資本主義の変遷と考え方を詳しく解説、これからの資本主義を問う  
・資本主義の大きな転換点と言われる現代社会の課題を解説  
・日本の失われた30年を解明する              
    ・フレデリック・ラルーのティール組織とホラクラシー理論が分かる  
・世界のパーパス経営企業はどこか、欧米と日本の企業を紹介 

   

 

パーパスは「存在意義」と訳されることが多いようですが、本書のパーパス経営とは、長期計画を見据え、企業理念を持った「志本経営」を目指すことです。

 

本書では、「パーパス」と言う言葉の意味にとどまらず、資本主義の成り立ちから、新しい資本主義を目指してどのようにしていったら良いかを、豊富な事例を使って説明します。経営・経済、哲学、地球環境、DX、グローバル化そして日本企業への提言、さらに経済・経営全般に対して論理を展開しています。本文では「志(こころざし)」がいかに重要で、欧米理論の流用ではなく日本独自のものでなければいけない、としています。

 

渋沢栄一の「論語と算盤」、新渡戸稲造の「武士道」、宮本武蔵の「五輪書」、カール・マルクスによる「資本論」などと世界の学識者、著名人が多数登場して詳しく説明します。その中でも経営の鍵を握る企業の無形資産として五つ挙げ、さらに最も重要な資産として三つを選んで解説します。

 

経営理論としての解説では「自律分散」→「中央集権」→「創発」と進化していく組織論を取り上げ、野中郁次郎の「知識創造企業」や「ホラクラシー理論」の紹介をしながら組織の進化プロセスを解説しています。そして、「パーパス」は単なる時代のバズワード(流行語)ではなく、次の時代を担う「志」を基本とした「志本主義」を次世代モデルとして見据えていきたいとしています。

 

パーパス経営 30年先の視点から現在をとらえる』の読後感は?

本書は、従来の欧米伝来の経営理論ではなく、日本独自の革新的経営理論を展開していかないとこれからは立ち居ゆかなくなるのではないかと書かれています。最近書店のビジネスコーナーではカール・マルクスの「資本論」が再注目されています。筆者はマルクスが「日本には渋沢栄一がいる」と語ったことを採り上げ、私たちは「論語と算盤」を読み直すべきで、日本独自の経営理論を構築すべきなのだと言っているのです。

 

渋沢栄一は、481社の設立に携わり500以上の慈善事業に関わり後世「日本資本主義の父」と呼ばれ、現在、存在する名だたる企業に多く関わっています。彼の書いた「論語と算盤」を早速紐解いてみると、企業理念のもとになるのは「論語」や日本人の倫理観であり、「日本教」と呼ばれる無宗教人口の多い日本人の原点は「志」でないかとも説明されています。私ももう一度「論語と算盤」を読み見直してみようと思います。

 

 

おすすめ図書②
『ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 働くことのパーパス』

編 ハーバード・ビジネス・レビュー編集部    
訳 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 
発行 ダイヤモンド社 2021年02月

 

この本のおすすめポイント 

簡潔に要点がまとめられているEIシリーズの最新刊です。

「パーパス」とは何かをしっかりと基本から解説     
  ・「やりがい」や「生きがい」をデータお使って説明してくれる 
・やる気が起きない時の立ち直り方も伝授         
・なぜパーパスが必要なのか豊富な事例を使って紹介    
 ・自分のパーパスと仕事のパーパスは別物だと気づかせてくれる

 

本書では、大学教授、ビジネススクール教授、実業家、心理学者、講演家と多様な専門家が執筆を担当しています。冒頭に「あなたは生きがいを感じていますか」YES、76%、「働きがいを感じていますか」YES、30%と、生きがいと働きがいの大きな意識の違いを提示し、現代人の悩みを垣間見せながら個人の「働きがい」を分析。その要点として、いくつかの分野とポイントを挙げて仕事の意義を説明しています。

 

さらに仕事の意義、情熱を失った時の対応・工夫や、個人のパーパスと組織のパーパスとの接点を見つけるにはどのようにして目的意識を持てばよいのか、その方法を提示しています。さらに「パーパス」についての誤解も指摘。なぜ人は仕事選びに失敗してしまうのか、仕事に求めていること・仕事の意義・幸福における失敗理由も分析します。

 

パーパスやモチベーションとエンケージメントとの違いは何だろうと思わせる内容です、経営や実務面での人と人との関連性、経済・経営学、心理学、社会学との関連性を総合的に解説している点が近年における変化と言えるのではないでしょうか。単純に心理学だけではなく、そこに経済・経営、社会といった複雑で多様な要素が加味されたものとなってきています。

 

ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] 働くことのパーパス』の読後感は?

本書には、生きがい、やりがい、幸福、といった言葉が所々にちりばめられています。自分が一番得意な事、楽しい事はなにか、人の役に立つ事や前向きに成長していることはあるか、そんなことを考え直してみようと勧めています。このような事を改めて考えてみて、何が大事か決断することが次に進むことにつながるのでしょう。

 

11章の「トムスは『WHY』を信じる」では、3カ月から半年の長期休暇で自分を見つめ直す時間を持つ事を勧めています。日本ではそのような制度がある企業は少ないので、休暇によって失うもの「過去の成果」と得るもの「未来予測」とのバランスを考えるとそう簡単には決断、行動できません。そのため「強い動機付け」が必要になってきますが、なにか新たな行動を起こすときにはパーパスやモチベーションといったものを強固に持たないと結果につながらないのは確かです。

 

おわりに

今回は、最近書店のビジネスコーナーで目にする「パーパス」について書かれている本のご紹介でした。「パーパス」とは個人の意図、目的、組織の目標、人の生きがい、働きがい、などと訳されています。組織と個人とでは必ずしも同一視点で語ることはできませんが「パーパス」の言葉の意味を考えれば、組織、個人それぞれ千差万別の答えが有っても不思議ではありません。今回ご紹介した「パーパス経営」は、組織が社会に対する利他の精神で長期的な視点に立った「志」の経営をするにはどのようにしたら良いか、欧米の横並びではなく独自の日本流経営は、どのようにしたら良いか解説しています。もう一冊の「働くことのパーパス」では、個人の人生の目的と、会社における仕事の目的とをどのようにすり合わせたら良いかを採り上げています。

 

また、それぞれの本の「パーパス」に対する取り組み方も、一人で内容をまとめた「パーパス経営」と何人もの大学教授、著述家、経営者らの意見をまとめた「働くことのパーパス」を比較して読んでいただくのも面白く、広い視野で物事を考える良い機会になると思います。

 

 

著者プロフィール

ー田尾悦夫(たお・えつお)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 研究員。企業のオフィスや金融機関店舗のスペースデザインを長年、現場中心に携わりクライアントと一体となる空間づくりを心掛け支援する。その後、オフィス構築のノウハウを生かし、人々の「モチベーションやウェルビーイング」を主軸にこれからの「働き方」の研究に従事。 また、研究活動の傍ら「オフィス学会」、「ニューオフィス推進協会」、「日本オフィス家具協会など多くの関係団体で研究や教育研修、関連資格試験制度の運営にも携わることで、業界全体の啓蒙活動にも積極的に活動している。 

 

2021年9月28日更新

テキスト:田尾悦夫(オカムラ)
イラスト:前田豆コ

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