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一人ひとりが「企業の思いを自分ごと化」する ー LIFULLが取り組むインナーブランディングの実践知

 

企業には理念が重要である、という意見に異論を唱える人は少ないでしょう。自社は何のために存在しているのか。どのような価値を社会へ提供していくのか。それを社内外へ発信していくために企業は理念を掲げています。しかし、「掲げた理念に沿って従業員が行動できているか」と問われると、自信を持って首を縦に振れる企業は少ないかもしれません。

 

この点で参考にしたいのが、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」(ライフル ホームズ)で知られる株式会社LIFULLの取り組みです。同社は2017年に旧社名(ネクスト)から現社名へ変更。さらに「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げ、個人が抱える課題から、その先にある世の中の課題まで、安心と喜びをさまたげる社会課題を、事業を通して解決していくことをめざしています。

 

 

前編記事では、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方をめざすコミュニティ「LivingAnywhere Commons」事業や、多様な生き方を選択できるようにするための人事制度の策定にまつわる動きを紹介しました。こうした取り組みの背景には、共通目的としての理念や言葉が共有され、従業員一人ひとりの行動を支える基盤になっていることがあります。

 

社名変更をはじめとした大きな変化の連続の中で、LIFULLが大切にする思いはどのように従業員へ共有されていったのでしょうか。同社のインナーブランディングの過程を取材しました。

 

・記事前編_大切なのは「生き方を自分で選択できる」こと。テレワークの向こう側でLIFULLが考える社会課題解決

 

 

サービス認知度やSEO……さまざまなリスクを踏まえて決断した社名変更

 

2017年4月1日、株式会社ネクストは株式会社LIFULLへ社名変更するという大きな決断を実行しました。

 

それまでは旧社名の「ネクスト」に主要サービスの「HOME’S」(現LIFULL HOME’S)、海外事業や新規事業の「LIFULL」という3つの名称を展開していましたが、この社名変更を機に、グループの子会社や運営サービスはすべて「LIFULL」というマスターブランドに統合されることとなります。

 

この一大プロジェクトに向け、代表取締役社長の井上高志氏から「特命担当」として白羽の矢を立てられたのが宮田大介さん(クリエイティブ本部 クリエイティブ戦略室 ブランドマネジメントグループ長)でした。

 

「2016年1月から、マスターブランドの統合に向けて代表の井上と2人でプロジェクトを動かしました。統合の可否を検討するところから始まり、さまざまなリスクを考慮しつつ、商号変更などを進めていきました」(宮田さん)

 

最大の懸念点は、主要サービスである「HOME’S」への影響だったといいます。すでに高い知名度を獲得しているブランドが「LIFULL HOME’S」へと変わる中で、どのように一致性を担保していくのか。マッチングビジネスとしては、認知度や利用意向の低下は致命的です。SEOの観点ではサービス名が長くなること自体もリスクでした。

 

「それでもLIFULLというマスターブランドへの統合にこだわったのは、社内にも社外にも、私たちがめざしている姿を一元化して発信していきたいと考えたからです。社内においては、もともと経営理念や社是に対して非常に高い意識を持ってはいましたが、さらに一歩踏み込んで『LIFULLとしてめざす新しい未来を従業員それぞれが自分ごと化する』状態をめざしたいと考えていました」(宮田さん)

 

 

「大切にしたい言葉」をたくさん流通させたがゆえに直面した課題

 

2018年に入ると、LIFULLは社外へ向けて新たに「ブランドパーパス」を発信します。

 

「手つかずの問題でも、視点を変えた発想で豊かさに変える。その結果として、あらゆる人が無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを実現できる社会へ。」

 

LIFULLがめざす方向性を定義し、社会へ高らかに宣言するメッセージでした。一方で、「社内的にはうまくいっていない部分もあった」と宮田さんは振り返ります。

 

「社是や経営理念、ビジョン、ガイドライン、さらにブランドパーパスと、発信するメッセージやキーワードが多岐にわたり、社内では体系的な理解が追いつかなくなっていたのだと思います。従業員からは『パーパスはどんな役割なの?』『経営理念とはどう違うの?』といった率直な疑問の声も聞こえてきました。大切にしたい言葉があり、たくさん流通させてきたがゆえに直面した課題でした」(宮田さん)

 

せっかくのメッセージも、従業員に浸透しなければ意味がありません。こうした背景から、LIFULLはパーパスという言葉を使うことをやめ、それまでに流通させてきた言葉や思いを再整理して、2020年10月に「新ステートメント」として発表しました。同時に、新ステートメントを表現したブランドムービー「LIFULL VISION 2025」を公開しています。

 

(LIFULLが発表した新ステートメントの全文)

ブランドムービー「LIFULL VISION 2025」より)

 

2020年10月は、LIFULLの新たな中期経営計画が発表されたタイミングでもあります。新ステートメントやブランドムービーは、この中期経営計画と連動するものでした。

 

「私たちはそれまで、不便や不安といった『不』の解消をめざすと宣言してきました。新たな中期経営計画ではそれを『社会課題』と置き換え、社内はもちろん、社外との共創も含めて『100の社会課題を解決する』と明記しています。しっかり個人と社会を見つめ、課題を発見していこうというメッセージなのです」(宮田さん)

 

 

議論の場を通して、自分ごと化と行動変容につなげる

 

社外への発信だけでなく、社内へも明確にメッセージを伝えるインナーブランディングの取り組みは、企業にとってどのような意味を持つのでしょうか。宮田さんは「言葉を流通させることではなく、従業員一人ひとりの自分ごと化、そして行動変容につなげることに意義がある」と指摘します。

 

「LIFULLの場合は、新ステートメントで掲げる『社会課題の解決』を、従業員一人ひとりがいかに自分ごと化できるかが課題だと思っています。何をもってインナーブランディングの成功とするのか、定義づけるのは難しいものですが、とにかく私たちは、企業がめざす方向を従業員が自分ごと化できるように日々取り組みたいと考えています」(宮田さん)

 

こうした考えに基づき、LIFULLでは今、さまざまな施策が進められています。

 

その一例が「コンパ」と名づけられたイベント。年に4回開催し、全ての回に全員が参加できるようにしています。代表が新ステートメントに込めた思いを話したり、例えば「身近な人が抱える社会課題」といったテーマを挙げて参加者同士で議論したりする場です。

 

 

 

「同じ企業でも、一人ひとりが考えていることは違って当然です。また、自分が担当している事業の目線だけで課題を考えると対象範囲が狭まってしまいます。そこでコンパでは、担当事業とは関係なく自由に社会課題を考え、自分の言葉で議論できるようにしています。企業の将来に向けた課題を話し合うことも多いですね」(宮田さん)

 

管理職層向けには「ミドルマネジメント研修」を実施し、新ステートメントを自分ごと化するワークショップなどを開催しているといいます。こうした場で得た視点がメンバーとの日々の1on1でも活かされ、「自分ごと化して考える」習慣が伝播していくのです。

 

一連のインナーブランディングの取り組みの先に、LIFULLはどんな未来像を描いているのでしょうか。

 

「社内全体で、LIFULLが大切にする思いへの共感は高いレベルで広がっていると感じます。今後は新規事業を含め、LIFULLが展開していく事業の幅やスピードに対する従業員のモチベーションを整えることで、世の中への貢献にダイレクトにつなげていきたいと考えています。社会課題と真剣に向き合うことは、事業やサービスの価値を高めることと深く連動しているのです」(宮田さん)

 

 

(プロフィール)

 

ー 宮田大介(みやた・だいすけ)

クリエイティブ本部クリエイティブ戦略室ブランドマネジメントグループ長

2009年株式会社ネクスト(現LIFULL)入社。HOME’S事業本部(現LIFULL HOME’S)サービス企画・営業戦略部門において事業戦略立案、ToB・ToCイベント立ち上げ。ブランドプロモーション部門にてプロモーション戦略立案、プロモーション施策推進。社内事業提案制度にて提案の新規事業立ち上げを推進。ブランド統合に向け、リブランディング含むブランド構築に向け牽引し2017年LIFULLブランドへ統合。現在もブランド構築に向け同部門にて推進中。

 

2021年3月16日更新
取材月:2021年1月

 

テキスト:多田 慎介
イラスト:野中 聡紀

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