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【クジラの眼-未来探索】 第12回「ネクサス・コモンズ」イノベーションを発動できるチーム創りとその環境

 

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による”SEA ACADEMY”潜入レポートシリーズ「クジラの眼 – 未来探索」。働く場や働き方に関する多彩なテーマについて、ゲストとWORK MILLプロジェクトメンバーによるダイアログスタイルで開催される“SEA ACADEMY” を題材に、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

―鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』、『「はたらく」の未来予想図』など。

 

 

イントロダクション(オカムラ 前田明洋)

前田:本日はイノベーションの起こし方を議論していきます。グローバル社会の只中「イノベーションを起こす」ことは企業・個人の必須の命題となっています。ところが、なかなか上手くいかないのが現実のようです。どうすれば本当にイノベーションが起きるのでしょうか。具体的にどんなチームを組織して、どのような場を用意すれば良いのかを解き明かしていきたいと思います。

 

本日ご登壇いただく栗本先生は、名古屋大学で「ACE Project」という活動を通して大学院共通科目を構想し、思考を鍛え、想像を働かせることによって学生の意識を変える活動を続けています。この中から私たちは、体験型講義におけるファシリテーションやイノベーション発動型実習の実例をもとに、ワークショップを活性化させる方法や協創のプロセスを計測する手法、気づきを起こす仕掛などについて研究し、新たな価値を創生する考え方をまとめてきました。その成果を記した『ネクサス・コモンズ』という書籍の内容に沿って本日は議論していくことにします。

 

 

プレゼンテーション(前田)

共生型イノベーション

前田:イノベーションはどうすれば起きるのでしょう。私たちはイノベーションを、本質を入れ替えてしまう「価値の転換」と本来それが在るべきところではない場所にある「環境の転換」、この二つの転換を同時に起こすことだと考えています。

 

クレイトン・クリステンセンは著書『イノベーションのジレンマ』の中で、イノベーションには、破壊的イノベーションと持続的イノベーションの二つがあるとしています。前者は既存のものを駆逐するため痛みや苦しみを伴う考え方であり、後者は永遠に発展することはなくいずれ 行き詰まってしまう傾向があります。つまり両者とも欠点があると考えられるのです。

 

そこで私たちは、第三のイノベーションとして「共生型イノベーション」を考案しました。これは新しい知を「創造」するのではなく「創生」するというものです。そして、これが起きる場が新しい絆(=ネクサス)をつくっていく共同体「ネクサス・コモンズ」になります。

 

 

共生型イノベーションを起こす組織と空間環境

「共生型イノベーション」を実現するためには、どのような人財を集めどうやって協働させればいいのでしょう。イノベーションを創生する組織は、プロジェクトの中核をなす「強いつながり」、そこに多様な情報をもたらす役割を担う「弱いつながり」、さらに客観性を確保し、ときに意外性のある情報をもたらしてくれる「緩いつながり」の三つのつながりで構成されることが望ましいと私たちは考えています。

 

三つのつながりの構造を見ていきましょう。真ん中に「強いつながり」で結ばれたコアメンバーがいて日常的にワークをしています。そこに状況に応じて「弱いつながり」のサブメンバーが参画して助言を与えられる体制をとります。さらにその外側にオブザーバーという立場の「緩いつながり」の人がときとして登場しコメント(無責任でも)を与える。そして、ファシリテーターが全体を見渡して組織をコントロールしていく。このような構造を持つ組織がイノベーションを創生していくのです。

 

次に絆を維持しつつ組織が機能するための空間について考えてみます。イノベーションを創生する場には二つの要素が必要だと私たちは結論づけています。一つは目的に応じて「特設」された空間です。あらかじめ設けられた空間をそのときのタスクに合わせてメンバーが選択して利用していきます。二つ目はメンバー自身で作業環境に手を加えていいを「可変」空間です。イノベーションを起こすには多様な人財が欠かせません。個々の特性に応じて使いやすい環境に変えることのできる空間も必要とされるのです。

 

組織を構成する「強いつながり」「弱いつながり」「緩いつながり」と「特設」「可変」の二つの環境要素がオフィスにどのように配置されるのか概念図(ゾ-ニングプラン)をつくってみました。中央には三つのつながりすべての人が混在して意見交換するエリアを設けます。ここには「特設」「可変」両方のコミュニケーション空間が配置されます。その外側は「強いつながり」「弱いつながり」を持つ人、つまり実質的なプロジェクトチームが利用する空間で、「可変」できるコラボレーション空間になっています。一番外側は「強いつながり」のコアチームが使う「特設」のコラボレーション空間で、ここで実験や他の人に試してもらい評価を受けるエリアです。

 

共生型イノベーションを起こすには、こうした三重構造のゾーニングが必要だと私たちは考えています。このような空間環境の有効性やイノベーションが実際どのようなプロセスで生まれるのかを栗本先生から話してもらいましょう。

 

 

プレゼンテーション(名古屋大学 栗本英和

アカデミアから協創の方程式(モデル)を「考想」してみる

栗本:前田さんが話した結論を私たちがいかにして導き出したのかを説明したいと思います。ある協働の場で行われている協創のプロセスを方程式で表すと次のような関数fになります。

 

y(t)=f (x(t), xI(t), xC(t), xM(t))

y :場からのアウトプット(到達度、達成度、満足度など)
x :場の状態(発言や対話の量や質、活発度、親密度など)
xI:場へのインプット(参加者の属性、知識・技能、資質・能力など)
xC:場のコントロール(課題の設定、編成の方法、進行の制御、助言や示唆など)
xM:場のメカニズム(学修環境、付帯設備、スタッフや支援者など)
t:時刻

 

場のアウトプット/アウトカムであるyが最大化するような場では協創がうまく進んだと考えられます。そのために右辺、なかでも操作可能な変数であるxI、xC、xMをどのように設定すれば左辺のy が大きくなるのかを私たちは大学院生向けのワークショップを対象にして検証してきました。

 

 

知の創生やイノベーションを発動する想像を育む「ACE Project」

仲間と主体的に話し合いながら学習する場にラーニング・コモンズがありますが、今回、協働による協創プロセスの検証を試みた名古屋大学の「ACE Lab.」はそれとは少し異なります。この場は、参加者が能動的・積極的に発言・参画し、協働の場を牽引していくリーダーを育てることを目指して整備したものであり、単なる共同作業ではなく真の協働(コラボレーション)を実践する場としてデザインされています。

 

「ACE Lab.」という考想空間で参加者は、素材を集めて考想を萌芽させ、発想を繋げて考想を展開し、協働体で構想を固めて合意を形成していきます。それぞれの段階に応じてテーブルと椅子を移動させ、組み替えて最適なコミュニケーションが可能な配置にできる環境を整えています。初対面でリーダーが決めがたい時は赤い椅子の着席者がリーダーになる仕掛もしています。

 

 

ワークショップの中で重要なのは、先に示した協創の方程式のxCにあたる、場に働きかけるリーダーシップ役の存在で、俯瞰性、公平性、手際よさ、自発性・自律性などを持ってチームを牽引・先導していかなければなりません。一方、ファシリテーション役の人も必要です。触媒作用を果たし参加者に意欲を起こさせ、中立性を持って議論の偏りを正していくスチュワードシップがその役割です。

 

実際のワークショップは、課題(例:今までにない、商品やサービスを発案し、ビジネスモデルを構想する)を示した後、①アイデアの発想(90分)、②アイデアの収束(90分)、③アイデアのまとめ・発表・評価(90分)の流れで行っています。

 

 

協創プロセスの計測と解析

私たちは協働における協創プロセスの動的変化を可視化するために、発話の内容、発話の長さと回数、笑顔の数、立位の周密度(議論が盛り上がると椅子から立ち上がり寄り合う傾向がある)などを計測し数理情報学的な解析処理をしました。その結果、協創プロセスの状態を表す主な指標として、集団の親密度、議論の活発度、集団の緊張度の三つがあることがわかり、その中でワークショップの指導やファシリテーションを行っている私たちの実際の身体感覚に合うものは「議論の活性度」だと結論づけました。

 

 

ワークショップを通じて得られた知見を基に冒頭で述べた協創の方程式の解、すなわち成果であるアイデアの創生を最大化するためにどうすればよいのかを考えて行きましょう。

 

まず、参加者に関する変数xIについて言えることは、多様性を確保した協働体の編成が大切だということです。偏った人たちで構成される集団では往々にして偏った結論に陥ってしまいがちです。イノベーションを発動するためには見方や考え方の多様な人を集めなければなりませんが、その場合、参加者同士に共通基盤(コモン・センス)が薄い場合が多いため、チームとして自律的にコントロールしていくことが求められます。

 

次に、物理的な環境(仕組)に関する変数xMには日常的思考をいったんリセットしてくれる、協働が心地よい場であることが望まれます。私たちが設置した「ACE Lab.」のような日頃のマインド・セットを変えてくれるような環境であれば、知や概念の創生はより円滑に進んでいくと考えられます。

 

さらに、協働の場をコントロールする論理的な環境(仕掛)に関する変数xCは、脱線しそうな時に協働する目的と約束を確認したり、迷走したら原点に戻り振り返るように操舵していくことが大事です。そして、いきなり議論を始めるのではなく、まずは個人で構想する時間を確保することが必要です。その後に協働で協創し、そして自己観照して本質を見つめ直す時間を確保する。これらを繰り返すようにしていく、時間配分をマネジメントすることが大切です。

 

 

最後になりますが、冒頭に提起したイノベーションを発動する「魔法の杖」があるとしたら、それは異分野の人との「協働」かもしれません。異なる見方や考え方との遭遇によって価値と環境の転換が促進されるからです。集まった人の知識や技能、資質・能力、価値観を足し合わせるのではなく、掛け合わせるところにイノベーションにつながる斬新なアイデアが生まれる。私たちはそう考えています。

 

クロストーク(栗本×前田)

 

 

前田:視聴者から「協創や協働という表現を使われていますが『共』ではなく『協』という字にしている意味を教えてください」との質問がきています。

 

栗本:「共」という文字には、「あなたと私で」つまり限られた「二人で」というニュアンスがあります。一方の「協」だと「みんなで」、「社会を含めた、三方よしで」力を合わせてやっていくという想いを示すことができるので、イノベイティブなコラボレーションを表すときは『協』を使うようにしています。

 

前田:私もACE Projectのワークショップで、単に仲良く「共」にやるのではなく、みんなで「協」力してやるように助言をしていました。「ワークショップ中のファシリテーションが議論の活性化に大きく寄与するとのことでしたが、実際にどのようにファシリテートすればいいのか。ポイントをお聞かせください」との質問があります。

 

栗本:ファシリテートする適切なタイミングと示唆する内容についてお答えします。ファシリテーションに入る一番いいタイミングは、そのグループがぎりぎりの場面を迎えたときです。ワークショップ中は常に各グループの間を巡回して発話や笑顔の状況をさり気なく観察します。そして、閉塞感を感じていると思われるグループがあれば、その時にファシリテーションするのが良いと考えています。そもそもファシリテーションの目的は、参加者に真の成功体験を積ませることにあります。ぎりぎりの状況を克服したときにこそ彼ら彼女らに感動や気づきが生まれ、活きたノウハウをつかむことができるのです。

 

与える示唆は、議論の方向性を変えるようなものにすべきです。具体的な問いかけとしては「もし、私だったら?」、「こんな場面ではどう?」といった視点を変えて考えることを促す助言が有効だと思います。また、出ているアイデアの実行可能性についても示唆します。本当に実現できるのか、利用者がはたしてそれで買うのかを問うたりもしています。一番気をつけているのは、尖った案に収斂していくように導くことです。グループワークをしていると、どうしても議論は面白みのない妥協案に向かって進んでいってしまいます。尖った案に出会ったら、それを補強し、洗練していくような助言をしています。

 

 

前田:ファシリテーションしていると、他のメンバーを気づかうあまり発言を控えたり、反撥を恐れて議論するのをためらっているグループに出会います。こうした状況ではコミュニケーションをかき混ぜてやる必要があります。ファシリテーターとしてアドバイスしたり、場合によっては新しいメンバーをそこに加えることで議論を活性化することができます。それでは最後に栗本先生から一言いただいて本日のセミナーを終えようと思います。

 

栗本:巷では日本にはICT分野でイノベーターがいないと言われます。本当にそうでしょうか…。実は3Dプリンターの技術を開発したのは日本人(小玉秀男氏)ですし、世界初のCPU開発に寄与した日本人技術者(嶋正利博士)もおられます。決してアイデアを生み出せていないわけではないのです。大きな成果につながらなかった理由は、逸材の創造をうまく育む文化や土壌がなかったからなのかもしれません。世界を変えるイノベーションは、小さなイノベーションをつなぎ合わせて生まれるのです。個々のプチ・イノベーションをつなぎ育む仕組が我が国には必要だと私は考えています。

 

 

おわりに ~私たちですら新たな価値を生み出すことができる~

コペルニクスやダーウィン、アインシュタインほどの大天才であれば、たった一人で世の中を変えられる。エジソン、本田宗一郎、スティーブ・ジョブズほどの才覚があれば、画期的な製品やサービスを世に送り出すことができる。でも、残念なことに、私たちのほとんどはそんな偉人伝が出るような選ばれた人間ではありません。ですからイノベーションを起こすには、みんなが集まり、無い知恵を絞って、なんとかアイデアを捻り出していくほか打つ手はなさそうです。

 

そこで肝心なのは、集まった集団を「烏合の衆」にしないことかもしれません。そこに陥ることなくアイデアを創生していくためには、新たな価値を生み出していくためには、本日の協創プロセスを実践していかなければならないのです。誌面(と私の能力)の関係でこのレポートに書ききれなかったノウハウは、『ネクサス・コモンズ』にまとめられていますので、そちらもご一読の上、みんなで協創していきましょう。

 

「ネクサス・コモンズ」
日本型イノベーションはどうすれば生まれるのか?
それに欠かせないコラボレーション空間=ネクサス(絆)・コモンズとは?
具体的なツールや実践プログラムなど、オフィスや教育現場ですぐに活かせる提案が満載。デザイナー(実務者)とアカデミアン(学究者)のコラボレーションが生んだ、創生的革新のための提案書。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!(鯨井)

 

登壇者のプロフィール

-栗本英和(くりもと・ひでかず)名古屋大学教養教育院 教授・副院長
1956年生まれ。1981年に名古屋大学工学研究科博士前期課程修了後、化学プロセスの動的最適化の研究に従事する。1993年に創設された情報文化学部(現、情報学部)で文理融合の教育研究に携わる。教養教育院にて資質・能力の醸成を目指すLiberal Arts教育の開発を始め、大学院共通科目の体験型講義を担う。日本学術振興会プロセスシステム工学143委員会委員、中部生産性本部・中部経営品質協議会運営委員長、日本ナレッジ・マネジメント学会理事ほか、日本e-Learning大賞(第8回奨励賞、第9回アクティブラーニング部門賞)、工学博士。

 

-前田明洋(まえだ・あきひろ)株式会社オカムラ ワークデザイン研究所
1962年生まれ。1985年明治大学卒業後、株式会社オカムラに入社。空間デザイナーとしてオフィス環境、教育環境、とくに大学施設を中心とした設計・デザイン業務に携わる。2006年に知識創造空間に関する分野の研究職に着任。国内外の先進的な創造的空間環境の視察・調査を行ない、理想的な協創環境の模索を始める。2013年に大学教育環境における知識創造空間についての提案書である書籍『ナレッジ・コモンズ』(日経BP社)を出版。名古屋大学招へい研究員。

 

■クジラの眼「未来探索」シリーズ 過去掲載記事
第10回「“遊びの精神”がもたらす場づくり」
第11回「ニューノーマル時代のセンターオフィスの位置づけとは?」

 

2020年11月5日更新
取材月:2020年9月

テキスト:鯨井 康志

 

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