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仕事とは、遊ぶように働き、働きながら遊ぶもの ― 黒崎輝男さん

これからの仕事や仕事場は、どうなっていくのでしょうか。仕事を起点に、遊びとの関係や「面白い」ということは変化するのでしょうか。今回WORK MILLでは、イデー創業者で、ファーマーズマーケットや自由大学、みどり荘といったさまざまな場を創造してきた黒崎輝男さんに「仕事」や「働く」をテーマにシンプルな問いを投げかけました。

 

WORK MILL:まず、仕事とはなにか? ということを考えたいと思います。黒崎さんの初めての仕事はどのようなことをしていたのでしょうか。

 

黒崎:中学生のころに、自分で企画した新聞を作っていました。小遣いを稼ごうというのもあったけど、エジソンが好きで。エジソンは最初、新聞を作ったでしょ。自分もああいう生き方をしたいと思って、新聞を作って売っていたんです。振り返ると、その頃から編集的なことをやってきて、いろんな要素を集めて、組み立てて、会社もいっぱい作ってきました。イデーも、世界中からデザイナーとアーティストを集めて、自分たちの工房で家具を作って、売っていました。今やっていることも編集に近いですね。

 

WORK MILL: では、今やっていることを代表する、直近のお仕事としてはどのようなものがありますか?

 

黒崎:日本橋兜町にあった第一銀行別館のビルをリノベーションしました。ファサードをアルミニウムでふさいで外観だけモダンに見せていたものを剥ぎ取り、建物のありのままの美しさを見せるように改修。さらに、投資チーム、ホテル運営チームを入れて、2020年2月にオープンした、K5という施設の立ち上げ時のプロデュースをやりました。

 

WORK MILL:さきほど、会社もいっぱい作ってきたとおっしゃっていましたが、黒崎さんがはじめて作った会社について教えて下さい。

 

黒崎:学生時代に立ち上げた会社で、当時は、海外に旅行して、向こうで好きなものを買ってきて、日本で売ることをやっていました。エジソンが発明したみたいな蓄音機を、日本だと、ジャズ喫茶の主人が高く買ってくれたりして。5〜10万円のものが、10倍くらいの値段で売れました。日本の骨董屋だと、100万円くらいで売っていたもので、30台とか50台くらい売りまくった。

 

あとは、ダンヒルのオイルライター。日本では高かったけど、ロンドンにはいっぱいあったんですよ。夏目漱石が使ってきたオノトの万年筆も、向こうだと3000円。ガラクタ市や道具屋から探し出して、綺麗に洗って日本に持って帰ると、1本10万円で売れました。そうこうしているうちに、古い家具を買ってくるようになって、ライフスタイルとかインテリアをやるようになった。

 

その頃からですね、学校じゃなくて社会で学んで、自分の興味を追いかけながら一生生きていこうと思い始めたのは。今の日本の教育は学習であって、学問ではない。学習は学ぶを習う、問うを学ぶのが学問で、これは大きな違いです。学習の延長に学問があるわけではなく、学問するには、子供の頃から問いかけ続ける必要がある。すると、問題意識がぜんぜん違ってくるわけです。

 

与えられた問題をどう解くかを勉強と思っている人が多いのですが、この構図のなかにはそもそも問いかけがない。これが、今の日本が抱える課題の根底にあると思っています。僕は就職したことはないけど、仕事の中で、目の前が明るくなる瞬間をいっぱい経験してきました。

 

−黒崎輝男(くろさき・てるお) 流石創造集団代表
1949年東京都生まれ。イデー創業者。世田谷ものづくり学校に開校したスクーリング・パッド/自由大学やファーマーズマーケット@UNUのコンセプト立案や運営、みどり荘など、さまざまな場のプロデュースを手掛ける。

 

仕事においても「面白い」が中心になり得る 

WORK MILL:自分の興味を追うことを人生のテーマとされた黒崎さんにとって「働く」とはどのような意味を持っていたのでしょうか。

 

黒崎:人間は本来、面白いということを中心に、遊ぶように働き、働きながら遊ぶものです。面白いは、「ファニー」や「インタレスト」と直訳されるかもしれませんが、面白いという言葉の本来の意味は、面の前が白むこと。つまり、何かを理解したり、課題解決したりした瞬間に目の前が急に明るくなることを、面白いと表現していたわけです。だから、仕事においても面白いが中心になり得るんですね。

 

紀元前に繁栄した古代ローマには、奴隷と自由人がいました。奴隷といっても別に手足を縛られているわけではなく、自由人と同じ格好をしている。その違いは何だと思いますか? 自由人は、1日にやることを自分で決めていい。反対に、やることが決められているのが奴隷で、そういう違いがありました。

 

日本社会の、いい学校を出て、いい会社に入ってサラリーマンになるというのは、自らを奴隷に落とし込んでいる状態と見ることもできます。誰かに問題を出してもらって、それを解く行為が今、多くの人にとって働くことになっています。

 

そういう固定してしまった認識をぶち壊すために、みどり荘みたいなこういう場を作って、一緒に作って食べたり、ちょっと休んだり寝たりしながら、本もあって、みんなで仕事をしています。遊んでいるんだか仕事をしているんだか分からないような、遊ぶように仕事の話をして、笑ったりしている。仕事中に食べたり笑ったりするのは不真面目とされていたけど、食べて笑えるときこそ、いろんな知恵が出てくるというのが僕の考えです。

 

(注:みどり荘は、黒崎さん率いるMIRAI INSTITUTEが運営するコワーキングスペース。さまざまな仕事や国籍、バックグラウンドを持つメンバーが集い、その混沌から生まれるものまでを楽しむ場を目指している)

 

WORK MILL:「遊ぶように働き、働きながら遊ぶ」を実践するために必要なことを黒崎さんはどのように考えていますか。

 

黒崎:遊びのもとになる、面白い、という概念をどこまで掘り下げられるかですね。自分で自由に考えて、面白いと思うことを発見するには、問題を設定する必要があります。問いかけをするには、ひらめきとかセンスが必要で、「その問いかけがいいね」っていうのを競い合うのがいいと思います。

 

仕事だからといって課題に対して売上がこうなると答えても、そもそもそれは事業計画ではなく利益計画になってしまっている。事業を本質的にどうするかという話ではなく、利益をどう出すかという話ですよね。本来は、自分がこの組織や社会でどうやっていきたいかに興味があるべきで、金儲けをすること自体が企業の本質というのは、違うのではないかと思います。

 

そういう本質的なことを考えられるのは、哲学書やアートの本を読んで、物理や存在論をやりながら、音楽を聴いて、退屈を知っている人というのが僕のイメージ。遊ぶように仕事をして、仕事の中に遊びを見つける。そういう人が引っ張っていくと、仕事も世の中ももっと面白くなって、目の前が明るくなるようなことが起きるんじゃないでしょうか。今の時代、問題とはなにかが問題です。

 

鳥小屋があるから鳥がいるわけではない

WORK MILL: では、そんなひらめきやセンスを育み、よい問いかけを生むことができるオフィス空間とはどのようなものだと思いますか?

 

黒崎:世界中ぐるぐる回って、いろんなクリエイティブな空間に身をおいてきて思うのは、環境よりも「状況」が大事だな、ということです。企業が作業効率で競う時代は終わり、これからはいかにクリエイティブに、その先に行くかという考え方が大切ですね。

 

個人の知恵をひっぱり出して、それをいかにまとめるかが企業の力になっている。だから、オフィスをどうレイアウトするかよりも、どういう働き方を目指して、どういう方向に会社を持っていくか。鳥小屋を作れば野生の鳥が増えるわけじゃなくて、もっとオフィスを超えたものが必要とされています。クリエイティブな状況を作ることに注力したほうがいいですね。

 

それにはやっぱり、一緒に料理して、一緒に食べる時のリアルな会話を大切にすること。グーグルやナイキのオフィスにも、いいレストランがあって、食べ物には不自由しない。会長も社長も、一緒に働いているみんなが、同じ空間で一緒に食事をしています。日本だと、エグゼクティブと一般の社員で食堂が分かれていたりしますね。みんな平等で、みんなで話をするのがいい。結局、仕事にどんどん熱中すれば、遊びだか仕事だか分からないような状態になる。

 

みどり荘はどこも、自由を感じる場。あっちでは笑いながらコーヒーを飲んでいる人がいれば、お菓子を食べながら話している人もいる。ワインを飲んで酔っ払っていてもいいし、そういう自由な空気を作ることが状況を作るということです。

 

WORK MILL:オフィスでの会話のひとつの形に、会議があります。よい会議をする秘訣はあるのでしょうか。

 

黒崎:そこにいる人達の表情や反応を見ながら、目が輝く瞬間を見逃さないことですね。会議中もノートPCの画面を見ているだけでは、面と向かって話す意味がない。会話からクリエイティブなインスピレーションが生まれてくるわけだから、「それ、いいからやろうよ」ってなるのが、本来の会議だと思います。

 

30人集まっても、誰も何も言わなくて、一人二人がしゃべって合意して、それで稟議を回すっていうのはなんの意味もないじゃないですか。儀式ですよ。議事録はあるけど、新しいことやインスピレーションがない。新しい知恵もなく、ただただ、合意を得るためだけの会議になってしまう。それで、1日の時間が埋まっちゃっているのはバカバカしいですよね。しかも、そのための会議室があって、いつも埋まっている。

 

今は、金利がゼロみたいなものだから、お金を持っていることには意味がなくて、お金をどうやって生かすか。労働よりも知恵。いろんな事を考えて、クリエイティブに価値を作り出すのが、富の源泉であり豊かさ。会議も、クリエイティブにするための状況を作る必要があります。

 

 

WORK MILL:クリエイティブな会話が行われるための状況が重要である、その認識が広まると企業が採用する人材も変わっていくのでしょうか?

 

黒崎:学歴偏重ではなく、好奇心がある人とか、ホラ吹きみたいに面白いことを言う人がいてもいい。それぞれに役割があるんです。問題を解くことができない人は、今までの企業だとアウトだったけど、思いつきがいっぱいある問題設定の専門の人は、解決能力がなくてもいい。いろいろ思いつくのがうまい人と、それを解決するのがうまい人は別で、分けて考えてもいいと思っています。

 

すべての能力を一人で持っている人を探すのは難しいけど、真面目と不真面目、労働と遊び、いろんなタイプの人がいて、多様な働き方があって、それらを複合的に考えて、3人とか5人のチームでやると組織がうまくいく。醸造して、発酵させるイメージです。

 

WORK MILL:最後に、新型コロナウイルス感染症の影響もあって組織をはじめ社会で精神的な分断が始まっています。これからの時代の働き方で大切なことはなんでしょうか?

 

黒崎:もっと信頼をベースにするということでしょうか。大勢で集まるのではなくて、3人とか5人で物事を考える。今回のコロナが、そういう集いが基本なのだと気付かせてくれたと思います。人は100人いたら意見はまとまらないし、せいぜいスポーツチームくらいの11人が限界で、何万人も集まって盛り上がっても、空虚じゃないですか。

 

少人数で食べて飲んで、じっくり話して、合意して「一緒にやろうね」っていうことを見直すチャンスと思えば、今の状況もけっこうポジティブに捉えられる。日本の労働状況が、これをきっかけにちょっと変わっていくと面白いですね。そうならないと、日本はやばいと思います。

 

WORK MILL:さらに一歩進めて、仕事と遊びと、暮らしや人生との関係はどのように変化していくでしょう。

 

黒崎:働くことと遊ぶことが合わさって、コミュニケーションしたり、体を動かしたり、いろんなことがあって、暮らしや人生もひとつながりになっている。本来、これから遊びの時間、これから仕事の時間とはっきり分かれるものではないと思います。

 

昔の百姓は、100の仕事をしていました。米や野菜を作ったり、醤油、酒を作ったり、工芸品を作ったりしていたわけです。能力がいっぱいあった農民の力が明治維新を支えたといっても過言ではないと思います。いろんな能力がうまく混ざり合うことで、明治以降も戦後も日本はうまくやってきたけど、今、そして次の時代の流れとしては、それぞれの人がもっとクリエイティブにならないと。

 

仕事に遊びの心を入れて、新しい企業文化、労働文化といったカルチャーを作るのがすごく大切で、それが一番大きな問題でありチャンス。仕事と遊びを混ぜて熱中することで、人生も社会もうまくいくというのが僕の分析なんです。

 

2020年10月6日更新
取材月:2020年3月

テキスト:廣川淳哉
写真:淺田創(secession)

 

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