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異能とのコラボレーションのカギは「さらけ出す力」にあり ー 米ハーバード大学 ロバート・キーガン教授

 

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE01 WHY COWORKING? コワーキングと働き方の未来」(2017/9)からの転載です。

 

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知性には3段階あり、最上位レベルまで発達する人は5%に満たないという。では、どうすれば高い知性が獲得できるのか。ハーバード大教授にその方法を聞いた。

 

人の「知性(マインド)」の成長は長らく成人期を境に止まるものだと考えられてきました。しかし実は成人後も「知性」は大きく分けて3つの段階を踏んで発達する可能性があることが、長年の研究の結果わかっています。その段階とは、環境順応型知性、自己主導型知性、自己変容型知性です。

 

一般的に、幼児期や10 代前半までの児童期の発達段階では、世界を固定的なものとして見がちで、目先の目標達成を重視し、自分のニーズを満たすことに一生懸命です。それが、青年期に入ると、自分自身の関心よりも、他者との関係や、より大きなコミュニティーにおける利益を優先するような段階へと成長します。

 

青年期のこのような発達を、我々は環境順応型知性への移行と呼んでい囲の人の期待を裏切ることなく自分の責任をきちんと果たすことができる、信頼できる大人になるために非常に重要な発達で、成人における知性の発達の第1 段階です。多くの大人は、この環境順応型知性の段階で一生を終えるのですが、一部はまた別のプロセスを経て、さらなる発達段階へと成長します。それが、自己主導型知性です。

 

 

現代には知性の発達が必須

 

知性の発達の第2段階である自己主導型知性への成長は、人がより多元的な環境に置かれることで起こります。社会が多元的になると、人は何を信じ、どう行動し、どう生きるべきか、多様な意見が交わされるようになりま性だけでは誰の期待に応え、何を優先すべきなのかを判断できなくなり、判断の限界に達してしまいます。自己主導型知性の持ち主は、外部からの期待に応えるだけでなく、内的な判断基準、行動規範、理論を発達させ、アイデンティティーを確立し、内的なゴールに向かって、自発的な行動がとれるようになるのです。

 

自己主導型の知性を手に入れることができるのは、成人の半数以下です。では、一般的な働く大人は環境順応型知性のままとどまっていてもよいのでしょうか。ひと昔前のように会社や組織が完璧に機能していて、役割もプロセスもゴールも明確であり、イノベーションや効率性が求められないようなビジネス環境であれば、環境順応型知性以上に発達する必要はなかったかもしれません。ビジョンや戦略を構築する自己主導型知性をもったリーダーが1 人いて指示を出せば、それでよかったのです。

 

しかし、より変化が激しく、複雑で、曖昧で、不確かな現代社会においては、きっちりとした枠組みやたった一つの明確な答え、すべてが滞りなく動くようなことは期待できません。以前にも増して、個人の独創力と自律的思考、イノベーティブな考え方をもって問題解決に当たる人材が必要とされています。それはすなわち、より多くの人に自己主導型知性への発達が求められているということになります。また、我々は、自己主導型知性の持ち主のうち1 割に満たない人々が、さらにもう一段階上、第3ステージの知性に発達することを突き止めました。この発達段階を、自己変容型知性と呼んでいます。

 

これは、自身が発達させてきた判断基準や理論、枠組みはしっかりともっていながらも、そうでない考え方やものの見方があることを認識し、矛盾や対立を受け入れることができる段階です。組織の規範や使命、文化、システムを組み替える立場にいるトップリーダーのマインドともいえます。日本を含めた全世界で多様性が増し、コラボレーションがますます大切になっている今、知性の発達の問題は避けて通れません。

 

 

発達指向型組織が知性を発達させる

 

では、「知性」の発達を促すためには、どのような環境、条件が必要なのでしょうか。我々は、そのような風土のある組織をDDO(発達指向型組織Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。これらの企業には、共通するいくつかの特徴があります。一番重要な特徴は、「個人の成長と会社全体の成長は、別々のゴールではなく、一つの同じゴールなのである」という深い信念をもっていることです。つまり、個人の知性の発達を、組織の発達に結びつけているのです。 

 

また、従業員の幸福感に対する考えも独特です。DDOでは、「幸せは一定の状態ではなく、成長していることを実感し、幸せを感じるプロセスにある」という立場をとり、よりよい自分になっていると実感するところに幸せがあると考えます。しかも、他の人の成長を助けることにも幸せを感じるのです。それは、個人のポテンシャルと組織のポテンシャルが表裏一体だという信念をもっていることの表れです。

 

DDOのもう一つ重要な特徴は、従業員の行動に「裏の目標」がないということです。「裏の目標」とは見栄を張ったり、上司に好印象を与えようと弱みを隠したりすることです。これらは目標の実現を妨げるばかりで、誰も得をしません。社員が就業時間の30~40%を、「裏の目標」に費やしていたとすれば、個人にとっても会社にとっても大きな損失です。これを防ぐため、DDOでは、CEOから中間管理職、新入社員に至るまで、誰もが欠点を抱えていると認識し、それぞれの課題にオープンに取り組み、自分の弱みをさらけ出せるような企業文化を醸成しています。

 

そして、お互いにポジティブにもネガティブにも驚くほど多量のフィードバックを交わすことで、恥ずかしさやエゴ、「こんなことをしたら嫌われる」などの思い込みや「変化をはばむ免疫機能」を乗り越え、「環境順応型知性」から「自己主導型知性」への発達を促しているのです。強調しておきたいのは、DDOは従業員の「知性」の発達という面だけでなく、経営面でも非常に成功しているということです。

 

 

日本も「脱・集団思考」が可能

 

日本には、会社が第二の家族となり何十年も一緒に過ごすような組織文化があります。30 年、40 年と長期にわたって、同じ組織、同じ同僚、同じ職場で働く人が多く、まだまだ多様性の低い職場が多いように思われます。

 

こうした環境下では、反対意見を述べることはリスクとなります。帰属意識を抱く対象に忠実に従うほうが関係を保つことに役立つため、環境順応型知性にとどまることを選択するようになりがちです。そして、権力のある人の意向や集団の空気を忖そん度たくし、それに沿ったかたちでできるだけ早く同意する「集団思考(group think)」マインドに陥る可能性も高くなります。こうした「集団思考」の環境下では、間違っていると思っても反対意見は出せず、クリエイティブなアイデアは生まれませんし、有意義なコラボレーションも難しい。グローバル化が進み、技術の進歩が加速し、競争が激化するいまのビジネス環境に対応することが難しくなっていきます。

 

では、長期雇用が中心となっている日本の組織の中では、人は環境順応型知性にとどまったままで、それ以上の発達は見込めないのでしょうか。そんなことはありません。もしもいま、硬直化した組織に限界を感じているのであれば、会社が働く人々の成長により深くコミットし、そこに最善を尽くせているかどうかを問うてみてください。それができていないのであれば、組織風土改革に着手するべきです。

 

私は日本の組織文化を残しつつも、DDOで行われているような方法論を取り入れることは可能だと考えます。例えば、会社側から「新しいアイデアは歓迎する。どんな意見を言っても大丈夫。失敗しても安全だから、もっとイノベーティブな試みをしてほしい」というメッセージを発信してみる。新たな挑戦をしたり失敗をしたりしながら、日々、互いにフィードバックしあう中で成長の限界を乗り越える経験ができるようなオープンな組織風土に変えていくのです。それは洋の東西を問わず、できないことではありません。

 

今、日本でも多くの企業が硬直的な組織のあり方に限界が来ていることに気づき、オープンイノベーションやコワーキングなど、より多様で開かれた環境を提供することに積極的な企業も少しずつ増えていると聞いています。企業は、どうすればより深く個人の成長にコミットできるか。経営者や組織のリーダーが、個人の成長を組織の成長につなげる視点をもつことが求められているように思います。

 

 

―ロバート・キーガン 米ハーバード大学教育学大学院教授

発達心理学者。30年に及ぶ研究を通じて、人は成人以降も心理面で成長し続けることは可能であるということを突き止めた。近著に『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(英治出版)。

 

取材月:2017年8月
2020年9月3日更新

 

テキスト:井上 佐保子

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