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クリエイティブ・カンパニーをつくる3つの方程式 ― 3XN, kontrapunkt, ReD Associates

 

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE02 THE DANISH WAY デンマーク 「働く」のユートピアを求めて」(2018/3)からの転載です。

 

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1月、デンマークの空にはどこまでも雲が広がっていた。私たちは起業家や大企業社員、クリエイターたちに話を聞いて歩いた。幼稚園からビジネススクールまで、学びの現場を訪ね、一般の家庭にも上がり込んだ。そして探した。幸せの源泉は、働き方の理想郷は、どこにあるのか―。 

 

世界的トイメーカーのLEGOに気鋭の建築事務所Bjarke Ingels Group(BIG)、世界15の都市にオフィスを構えるデザインコンサルファームDesignitと、グローバルで活躍するデンマーク発のクリエイティブ・カンパニーを挙げれば切りがない。果たして何が、この北欧の小国を強くしているのだろうか? 世界一幸せな国で、人々は「ライフ」と「ワーク」をどのように両立させているのだろうか? 彼らの「働く」に対する姿勢から、日本は何を学ぶことができるだろうか?

 

デンマーク滞在中に編集部がたびたび耳にした3つのキーワード─サステイナブル・デモクラティック・アンソロポロジー―をヒントに、デンマークの創造性の秘密に迫る。

 

働くをサステイナブルにする「集中と協働」のオフィス設計 ― 3XN

 

かつて海軍に使われていたコペンハーゲンの湾岸エリア、ホルメン。運河沿いには「砲艦の家」と呼ばれる古い木造の小屋が並び、それらは現在、デザインファームやスタートアップのオフィスとして使われている。そのひとつ、3XNのオフィスに入ると、約2,000m2の開放的な空間が広がっている。リバプール博物館やベルリンのデンマーク大使館、デンマーク国内ではオフィスから学校、病院、アリーナに水族館まで。「建築が人の行動を形づくる」との信念のもと、サステイナブルな建物をつくり続ける建築事務所ではいま、20カ国から集まる約100人のスタッフが働いている。

 

「オフィスでは、とにかく集中するように努めているんだ」と語るのは、3XNのシニアパートナーでデザイン部門を率いるジャン・アムンドセン。彼らのオフィスは極めて静かで、チームメンバーはスクリーン越しではなく背中合わせに座ることで、振り返れば常にディスカッションができるような空間として設計されている。ランチの時間になるとすべてのスタッフが食堂に集まるため、自然と雑談が生まれる環境がつくられている。

 

またオフィスの至るところには、彼らがこれまでに手がけた作品や進行中のプロジェクトの模型が並ぶ。面白いのは、作品が完成するまでに生まれたアイデアもすべて置いていること。プロジェクトがどのように発展してきたかを視覚化することで、より建設的なディスカッションが可能になるのだという。

 

夕方の6時にはオフィスは空っぽになる。「クリエイティブであるためには、家族との時間や外で遊ぶ時間も大切だと信じている」とジャンは言う。そして彼は、10年や20年といった長い期間にわたって創造性を保つためには、仕事と暮らしの「正しいバランス」を取らなければいけないと繰り返す。そのバランスが失われれば、クリエイティビティは数年で尽きてしまうものだと。

 

「ぼくらはサステイナブルなアプローチで建築を手がけている。そのためにはまず、ぼくら自身がサステイナブルな働き方をしなければいけないんだ」。

 

デンマークを代表するデザインファームにクリエイティブディレクターがいない理由 ― kontrapunkt

デンマーク政府の各省庁や王立図書館のロゴから、公共機関のサイン、国を代表するレストラン「Noma」やビールカンパニーのカールスバーグ、国営エネルギー企業Ørstedのブランディングまで。kontrapunktが手がけた仕事を振り返れば、彼らが行ってきたこととは、まさにデンマークのアイデンティティをつくってきたことだと言っても過言ではないだろう。ちなみにkontrapunktとは、音楽用語で「さまざまな音をうまく調和させる技法」のこと。彼らはいかにして調和するデザインを生み出しているのか? 答えを探るべくコペンハーゲンのオフィスを訪ねた。

 

kontrapunktでは仕事を進めるうえで2つの大きな特徴がある、とパートナーでシニア・クリエイティブマネジャーのニレ・ホールディングは教えてくれた。ひとつ目はチームビルディング。グラフィック、タイポグラフィー、UXなど、さまざまな専門をもつデザイナーから成るチームをつくることで、ただ表面的にロゴやタイプフェイスをデザインするだけでなく、コンセプトレベルから考えたモノやコトの設計が可能になる。

 

もうひとつは「クリエイティブレビュー」と呼ばれる制度だ。週に2回、すべてのプロジェクトの進展を社内に向けて発表する時間のことで、発表後には、社長からインターンまでみなが自由に意見を交換する(とはいえ、助言を採用するかどうかはプロジェクトリーダーに任される)。これによって民主的にフィードバックを取り入れると同時に、ほかのチームがどんな仕事をしているのかを知る機会にもなるという。「kontrapunktにはクリエイティブディレクターはいません」とニレは言う。「クリエイティブレビューが、私たちにとってのクリエイティブディレクターなのです」。

 

2016年、kontrapunktは南青山に初の海外支局を設立している。最後に、日本のデザインについて聞いてみた。「美的センスやクラフトマンシップという点で、日本とデンマークには通じるところがあります。私たちは、シンプルさの価値を共有していると思っています」。

 

「人類学的コンサルファーム」はいかにしてLEGOを救ったか? ― ReD Associates

 

2003年に倒産寸前だったLEGOが自己変革を経て復活したことは有名な話だが、その立役者が一風変わったコンサル企業であることはあまり知られていない。ReD Associatesは、人類学的アプローチを用いる戦略コンサルファームだ。LEGOのほかにも、アディダスやサムスンといった大企業をクライアントにもつ彼らのミッションは、ヒューマンサイエンス=人間科学によって人の行動を理解すること。チームには、文化人類学者、哲学者、経済学者といった多様なメンバーが揃っている。

 

ReDはプロジェクトにおいて「センスメイキング」と呼ばれる5つのプロセスを行うのだと、コペンハーゲン中心部にある築200年の古い建物に入るオフィスで、パートナーのイアゴ・ノグエル・ストーガールデは言う。現状を理解するための「フレーミング/リフレーミング」、データを収集するための「リサーチ」、集めたデータを分類する「パターン認識」、データの意味を考察する「インサイト」、そして顧客がとるべき方針を考える「ビジネスインプリケーション」の5つである。

 

彼らはデータや仮説ありきで進めるのではなく、まずはユーザーの行動観察やフィールドワークといった徹底的な人類学的アプローチによって、本質的な問いを立てる。たとえばLEGOの場合では、「子どもはなぜ遊ぶのか?」という問いを考えることからプロジェクトは始まった。LEGOは世界中の子どもたちの行動を調べ、MRIで彼らが遊んでいるときの脳の働きも見たという。そうしたリサーチを基に、子どもたちにとって意義のある体験を構築していったのだ。

 

社会にますますデータが応用されていく時代に、人間科学がより求められることになるとReDは考えている。イアゴは言う。「今後は『Big Data』だけでなく、それが人間にとって何を意味するかを理解するための『Thick Data』(厚いデータ)が必要になります。テクノロジーは人間性を奪うものではなく、人間をよりよく理解するためのもの。私たちは『More Tech More Human』だと考えているのです」

 

2020年7月1日更新
2017年1月取材

 

テキスト:宮本裕人
写真:キム・ホルターマンド、デイビッド・シュヴァイガー
※『WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE02 THE DANISH WAY デンマーク 「働く」のユートピアを求めて』より転載

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