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「怒り」から生まれたロックなサステナブル ー MINIWIZ

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE05 ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道」(2019/10)からの転載です。

 

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世界はアジアを見ている。それなのに私たちは、その価値をあまり知らない。少し拍子抜けしたものの大事な気づきだった。やみくもに規模を拡大するのではなく、働く人や地域と共存する。目先の数字より事業の意義を優先する。そんな「資本主義のその次」を見据えたオルタナティブな経営哲学を探しに、韓国、台湾、日本の企業を訪ねた。

AI搭載のごみステーションに、世界初の移動式リサイクル工場。
試作品であふれる美大のアトリエのような空間は、ごみが生まれる構造を変えるアップサイクルの実験場だった。

 

モノを買い、使い終わったら、分別して捨てる。日本でも台湾でも、一連の流れは「環境保護のために」と徹底して行われる。そしてこれで「リサイクル」ができていると思われてきた。ところが—。
「ごみの回収率における世界ランキングでは、ドイツ、日本、台湾が上位3 位にランクインしていますが、回収した後に大きな問題があります」

 

こう指摘するのは、家庭や事業系のごみを素材としたアップサイクルを行う台湾のスタートアップ、Miniwiz(小智研發)CEOのアーサー・ホワンだ。
彼の原動力は「anger(怒り)」。「私は世代によって取り組むべき課題は異なると考えています。現代社会、今の世界には、さまざまなノイズがあって、それに対して『いったい、どうなってるんだ!』と怒りが湧く。その怒りをエネルギーとして、自分なりに正しいと思える方向に向かって、持ちうる限りの技術を駆使しながら課題に取り組んでいる。その方向に意味を見いだしていれば、どんどん力は湧いてくると思うんですよ」

 

例えばコンビニなどで使われている弁当容器。実質的な使用時間を、消費者の手に渡ってからごみ箱に入れられるまでと仮定すると、ほんの20 分ほどにすぎない。そして使用済み容器を回収するまではできているものの、回収したものを再利用はしていない。つまり、単なる回収で終わっていて真の「リサイクル」にはあたらない。アーサーは言う。
「回収されたものをどうしているのか。ヨーロッパでも中国でも日本でも、世界の大部分では焼却処理されているんです」

 

これをアーサーは「don’t make sense(理解不能だ)」と切り捨てる。理由は、プラスティック焼却による毒性を考慮していないからだ。
「日本のプラスティック利用率の高さは、本当に異常だと思います。スーパーマーケットに行くと、容器はほぼプラスティック製ですよね。ぞっとしますよ。トレイだけではありません。食品、衣料品、そして建築にも大量のプラスティックが使われているんですから」

 

弁当容器の素材となるプラスティックは、第2次世界大戦前後に、鋼鉄に変わる軽くて耐久性の高い素材として開発された。いまや、人類の生活に欠かせない生活用品をはじめ、暮らしの至る所に存在する。しかし便利な一方でさまざまな弊害も認識され始めている。レジ袋やストローがやり玉にあげられがちだが、顔を洗う洗顔料にも含まれているし、衣類を洗濯すればマイクロプラスティックが発生する。日常のあらゆるものにプラスティックが使われている現状を、アーサーは「構造的な問題ですよね。何かひとつを解決すれば終わる問題ではない」と眉をひそめる。

 

―オフィスフロアとは離れた倉庫のような空間をラボとして使用。中央のいすも、アップサイクルされた素材を使ったMiniwizのプロダクト。

 

古代ローマの建築から着想

 

「短時間の利便性のために永遠に消えないものを生産する意味はどこにあるのか」と問いかけるアーサーがMiniwizでやろうとしているのは、不完全なリサイクルのプロセスを変えることにある。

 

創業は2005 年3月。サステナビリティやリサイクル、環境への一般的な関心が高まっているにもかかわらず、現実的な解決策がないことに疑問を抱いたアーサーが、共同創業者のジャービス・リューとともに立ち上げた。

 

11歳でアメリカに渡った後、アメリカやヨーロッパで建築やプロダクトデザインを学んだ。1999年に考古学を学ぶために向かったイタリアで、ローマの地下遺跡の建築に不用品が使われていたことを知る(この、「建築に不用品が使われていた」という表現には、少し説明が必要だろう。古代ローマ遺跡のレンガ造りの壁の施工法は「opus reticulatum」と呼ばれる。まず厚みのない外装材を両側に置き、その内側にがれきや廃棄物などの不用品を入れ、コンクリートを流し込んで施工していく。アーサーによれば、古代中国でも似たやり方が採用されていたという)。そして「現代建築でも同じことができないか」と考えるようになった。これがアーサーと不用品との付き合いの始まりだ。

―海外プロジェクトやグローバル企業のクライアントを抱え、スタッフも多国籍。訪れたのがオフィスの引っ越し前ということもあってさまざまなモノであふれていた。「デザイナー、調達、エンジニア、バックオフィスなど職種によってデスク周りの雰囲気も全然違う」と広報スタッフ。

 

150万本のペットボトル

 

実際に「不用品を使った建築」を、アーサーはやってのけている。台北市の北側に位置する花博公園にある、EcoARKと呼ばれる長さ約130m、幅26m、高さ26mの建造物だ。

 

2010年11月〜11年4月の半年間開かれていた台北国際花の博覧会の展示会場としてアーサーが引き受けたもので、外壁は、ペットボトルを再利用したボトル。1つ30cm大のリサイクルボトルが組み合わさってできている。

 

「現在の建築物には、多種多様な建築用接着剤が用いられています。ただし、その接着剤には化学的な素材が用いられているため、自然分解ができず、資源回収の対象になりません。また、接着剤を利用することで建物内にがんを誘発する有害物質を生み出すことも指摘されています。そこで、我々は不用品を利用しながらも、健康的な建物を造ろうと考えました」

 

外壁に使用したリサイクルボトルは全部で27万本。原料として使われた使用済みのペットボトルは150 万本だ。ボトル回収には、台湾の大手百貨店、遠東デパートとタッグを組んだ。その回収方法とは、デパートの顧客がペットボトル20本を持ち込むと、お返しに1本のオリーブオイルを渡す、というもの。回収には当初1カ月を要すると試算していたが、この仕掛けは想定していた以上の反響を呼んだ。
「5日で集まったんです。びっくりですよ。デパートは中高年層を含め、とにかくものすごい行列でした」

 

予想を上回るといえば、完成時期もそうだ。花博の開催は10 年だが、工期はわずか4カ月、09年のうちにでき上がってしまった。だが早くできたからといって、道のりが楽だったわけではない。何しろ台北市政府肝いりの国際的プロジェクトである。一般的な建材を用いるのではなく、不用品を再利用して建材にするという前例のない工法など、行政側が難色を示さぬわけがない。そこでアーサーは、素材の試験結果を報告書にまとめて証明していった。「報告書の数字は、すべて市政府の定めた建築基準を上回る結果でした。博覧会という期間限定の建物とはいえ、結果的に建築基準の厳しい医療施設と同程度の強度に相当する結果をたたき出したんです」

 

最終的に半年間で700万人が会場を訪れ、その大胆な手法は海外メディアからの注目を浴び、ナショナルジオグラフィックではドキュメンタリー番組が制作、放送された。建物は、建設から約10 年がたったが、補修工事さえ必要としない現役として活躍している。

―ワンフロアのオフィスには、機材が備え付けられたガラス張りのラボがある。すぐ隣にはデスクが並んでいて、スタッフは出入りしながら気軽に試作品が作れる。

 

再利用の難易度を下げる

 

Miniwizはその後も、数多くの国際的なプロジェクトを手がけている。14年に発足した、ナイキによる新コンセプトのリテールスペース「NikeLab」の内装はその代表例だ。しかし彼らの活動は、単にデザインやプロダクトを作ることにとどまらない。
「私たちが取り組んでいるのは、身の回りにあるプラスティック素材を再利用して別の素材に作り変える工作機械です。やりたいのは、突き詰めると機械の研究開発であり、プロセスの設計です。建築や内装はアウトプットにすぎません」

 

エンジニアリング、デザイン、調達など専門分野を持った40人のスタッフと一緒に、数え切れないほどのテストを重ねてきた。その結果、例えば加熱式たばこIQOSの使用済みフィルターからサングラスができ、廃棄されたスマートフォンや、ムギやコメの殻などさまざまな素材を回収し、開発した工作機械で素材に作り変えられるようになった。

 

17年には世界初の「モバイル・リサイクル工場」を発表。使用済みのプラスティックや布を回収してタイルなどを成形することができる移動式の大型マシンで「TRASHPRESSO」と名付けられた。

 

これまで長い時間を費やしてごみと格闘する中でアーサーが気づいたのは、廃棄後に時間がたって汚れがひどくなったり、複数の材質が使われたりしているものは再利用の難度がぐんと上がる、ということだ。

 

例えば東京ではタピオカミルクティーが爆発的な人気だが、容器のごみが問題となっている。「ストロー、ふた、ボトル部分、どれもプラスティック製ですが、その材質はすべて異なります。そのため、3つを一緒にした再利用はできません」とアーサーは言う。

 

いま挑戦しているのが新たなプロジェクト「ROBIN」だ。「 rob your bin(あなたのごみ箱を奪う)」をもじった名前をつけられたAI 搭載のスマートごみステーションで、使用済みのプラスティック製品をきれいにしてから分別して捨てるとご褒美がもらえる、という仕組みが備わっている。提案先は、ホテル、デパート、レストランなどの商業施設だ。施設で出たごみを回収し、再利用の資源とする。さらに消費者は協力のご褒美として、その商業施設のポイントを受け取る。10年前に遠東デパートでペットボトル20本とオリーブオイル1本を交換した手法を発展させたわけだ。

 

回収にとどまっていたこれまでのリサイクル。その概念を根底から問い直し、不用品を資源として再利用する。これこそが、目指すべき真のリサイクルだ—。アーサーたちの取り組みに賛同する企業は増え続けている。

 

もともときれいなものが好きで、それを長く使いたいというのが彼のスタンス。取材時に身に着けていたものも、「かなり前に買って使い込んできたものばかり」だと笑う。

 

「きれいだしすてきだけど、あっという間に使えなくなってしまうなんて、やっぱり残念じゃないですか。どんなものでも、ずっと使えるものであってほしいんですよね」

 

―ミニワイズ
2005年3月に、CEOのアーサー・ホワンが、CTOのジャービス・リューとともに創業。プラスティックなどの素材を再利用したプロダクト開発やコンサルティング、アップサイクルの仕組みづくりを手がける。ナイキなどのグローバルブランドとのコラボレーションのほか、公共セクターからのオファーも多く、2015の世界経済フォーラムでは、エネルギー、環境、インフラの分野における「テクノロジー・パイオニア」として選出。

 

―アーサー・ホワン Miniwiz共同創業者、CEO。
台湾で生まれ、11歳でアメリカに移住。コーネル大学で建築を学び、ハーバード大学で建築修士号取得。2005年にMiniwizを立ち上げ、ニューヨーク市ベンチャー・フェローズへの選出をはじめ、数多くの賞を受賞している。

 

 

取材月:2019年7月
2020年4月1日更新

テキスト:田中美帆
写真:金 東奎(ナカサアンドパートナーズ)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05 ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道』より転載

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