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水道水を飲んでSDGsに貢献。タップウォーターカンパニ ー KRNWTR(カランウォーター)

ペットボトルに入った水がどこから、どれくらいのコストをかけて運ばれてくるか考えたことはあるでしょうか?私はつい最近まで、まったく考えたことがありませんでした。このことについて考えるきっかけをくれたのは、オランダのタップウォーターカンパニー KRNWTR(カランウォーター)です。タップ・ウォーターとは水道水のことで、カランウォーターは水道水をブランディングすることで利益を得ているユニークな会社です。その企業姿勢からは、いま話題のSDGsへの取り組みだけではなく、社会の一員として働く私たち自身も多くのことを学ぶことができます。

 

遠くから来るものが良いものとは限らない

皆さんは普段、どんな時にペットボトルに入った水を購入しますか?デザインされたペットボトルはおしゃれで持ち運びしやすいですが、輸送のためにCO2を排出し、ペットボトルの消費量を増加させます。「遠くから来るものが良いものとは限らない」と、このペットボトル文化に真っ向から異を唱えるのが、オランダ発のカランウォーターです。

 

ーTom Niekamp(トム・ニーカンプ)
カランウォーター創業者。オランダのマーストリヒト大学を卒業後、大手銀行ABN AMROに勤務。その後、商業コミュニケーションを学び広告会社に勤務した後、2010年にカランウォーターを創業。現在に至る。

 

カランウォーターの事業コンセプトは「ペットボトル入りの水を飲むのをやめて、水道水を飲むことを推奨する」こと。オランダの水道水は日本と同じく安全で、マイボトルを持参すればどこでも補給可能です。しかし、オランダでは毎年3億本のペットボトルが捨てられています。 使い捨てボトルは自然に投げ捨てられることもあれば、店舗に並ぶまでに長距離輸送もされます。「一度しか使用しないパッケージのために、廃棄物とCO2の排出をすることをやめて、持続可能なKRNWTR水道水や水筒を飲みましょう。」と創業者のTom氏は呼びかけます。

 

カランウォーターは月額75ユーロから上記の機器を貸し出ししています(1,735ユーロから購入も可能)。この機器からはろ過された水、冷たいスパークリングウォーターが出てきます。バーの隣には、代表的なミネラルウォーターがどれくらい遠くから運ばれてきているかを示す札が掲げられています。KRNWTRは水道水なので0km。ペットボトルも使わないのでプラスチックを消費することもありません。

ーバーの横にはミネラルウォーターが運ばれる距離が掲げられている

 

初めてこのバーを見たときは、てっきりウォーターサーバーの一種かと思ったのですが、水道水をこのバーに接続し、左のレバーをひくと炭酸水、右のレバーを引くと普通の水が出てくる仕組みになっています。

 

世界に貢献したくて起業

カランウォーターは、2009年にTom Niekamp(トム・ニーカンプ)氏と宮崎哲郎氏の2人が創業しました。2人は大学の同級生です。「水道水も十分に安全で美味しいのに、なぜわざわざ輸送コストをかけてまでミネラルウォーターを飲むのか?」と疑問を持ったことが起業のきっかけです。宮崎さんは現在はフォトグラファーとして活動しており、数年前からカランウォーターの事業からは離れてしまっていますが、今回の撮影は宮崎さんが担当しており、変わらず良い関係が続いているそうです。

ー他メーカーとコラボレーションしてスタイリッシュなボトルも販売

 

カランウォーターの水を飲むことは、SDGs(持続可能な開発目標)を考える上でもとても役立ちます。社会課題の解決を目的としているため、爆発的な収益は望めませんが「世界に貢献したい」と事業を立ち上げたそうです。その理念に共感し、オランダを代表する大手企業やレストランがカランウォーターを導入しています 。

 

一番美味しい水道水は?

オランダには13の州があるのですが、どの自治体の水道水が一番美味しいのか、カランウォーターは独自のアワードを4年に1度開催しています。昨年は、3月22日(世界水の日)にTilburg(ティルブルグ)が一位を獲得しました。審査員はワインジャーナリストやビール醸造家、水ソムリエ、コーヒーの専門家など。

ーテイスティングの様子

プロがテイスティングをしても水道水は十分に美味しいという証明にもなりますし、何より自治体が提供する水道水の品質への意識を高めることができます。

 

タップポイントでコミュニケーション

 

カランウォーターのタップは竹製で、地元アムステルダムの家具メーカーが手作りしています。環境に優しい事業運営のために、地元企業に生産を依頼している点からも徹底した企業姿勢を感じます。このユニークなタップは、水を飲む人たちが気に入ってくれるように、家具として部屋に溶け込むようにデザインしたそうです。企業だけではなく、学校やスポーツジムにも設置されており、このタップポイントを通して、オランダの水道水についてコミュニケーションをとることができます。

 

社会的に良いことだったとしても、ただ「水道水を飲もう」と言われただけではなかなかピンときません。しかし、このタップポイントやマイボトルのように機能もデザイン性も備わっているものがあれば飲んでみようという気持ちになります。仕事中にきちんと水分補給をすることはパフォーマンスにも影響するでしょうし、小休憩の時に水を汲みがてら周りの人とコミュニケーションをとるきっかけにもなるでしょう。何より、普段の生活の中に自然とSDGsへの貢献を取り入れることができる点が魅力です。

 

企業だけではなく、学校やスポーツジムにも積極的に営業活動を行なっており、啓蒙活動をしています。「The Healthy School Canteen(健康な学校食堂)」に署名し、健康的で持続可能な食事・栄養について学校に知識や仕事を通して得た経験を提供しているそうです。

 

レストランでの啓蒙活動

オランダのレストランで食事をする際、日本のように「お冷(タップウォーター)」をお願いすることは、あまり歓迎されません。オランダ人の友人と一緒に食事をした際、「タップウォーター、プリーズ(お冷ください)」と言ったところ「タップウォーターを頼んでもいいけど、お店のことを考えたら何か飲み物を頼むほうがいいんだよ」と言われたことがあります。「日本と考え方が違うんだな」と、それ以来タップウォーターではなくメニューに記載されたミネラルウォーターを飲むようにしていました。しかし、カランウォーターは水道水を推奨する活動をしています。レストランに於いてもそれは同じで、ミネラルウォーターと並び、「カランウォーター 2ユーロ」と記載されています。レストランに来店した方は、オランダの水について知ることができますし、利益も得ることができます。

 

カランウォーターの働き方

このように、水に関わるあらゆるところで啓蒙活動もしているカランウォーター。創業から10年が経ち、順調に成長しているそうです。昨年は社員が8人増え、これまでに企業、学校、ケータリング施設などの200以上の企業・団体がカランウォーターを利用、10,000人以上の消費者がステンレス製の水筒を購入しました。これにより、1800万本のペットボトルを節約したそうです。2020年はオフィスをアムステルダム中心地、運河沿いのビルに移転し、ヨーロッパの他国への展開も積極的に検討しています。

 

9人のメンバーのうち3人は女性で、社内にはオープンでフラットな空気が流れています。「性別や年齢関係なく、誰もが意見を言うことができる」と代表のTomさんは語ります。オランダといえばワークシェアリングが有名ですが、フルタイム(正社員)の人たちは基本的に副業などはしておらず、平日の9時から17時まで働きます。繁忙期には残業をすることもありますが、誰か1人に負荷がかからないよう、仕事は全員で片付けるよう心がけているそう。社員のなかには業務時間外でスニーカーを売るなどしている人もいるそうですが、基本的には本業に専念しています。売上の5%はプラスチックスープを減らす活動に寄付し、従業員みんなで海にゴミを拾いに行く活動もしています。

 

前述したように、カランウォーターを利用することで使い捨てのペットボトルを使うことなく、水道水を飲むだけでより良い世界を作ることに貢献できます。ウォーターサーバーやペットボトルを購入し冷やしておくよりもコストを抑えることもできるため、企業にとっても社員・消費者にとってもメリットがあります。ウォーターサーバーは、プラスチックのタンクを取り替えるために輸送コストがかかりますが、カランウォーターの場合は一度導入してしまえば輸送のためにコストはかかりません。

 

コップ一杯の水から考える働き方

カランウォーターの活動からは、私たちの働き方についても考えるヒントが得られます。それは、私たちの身近にあるものや生産するものが、元々はどこからきて、どう廃棄されるのかということです。SDGsへの取り組みが進むヨーロッパでは、生産からエンド・オブ・ライフ(廃棄)まで考えられた商品設計が始まっています。水一杯とっても、その水自体がどこで生産されてどれくらいの距離を旅してCO2を排出するのか、水が入った容器はどのように生産され廃棄されるのか、様々なことを考えるきっかけになります。

 

ここ数年、どのように働くことが個々の幸せや家族の幸せに繋がるのか考えることは増えましたが、自分たちの生産や消費行動が環境や世界にどう影響を与えるのかまでは考えを巡らす余裕はまだないように感じます。ヨーロッパはこの点で一歩進んでいて、自分だけではなく、その周りの人々や世界にとっても良い働き方とはなんだろうと考える起業家や従業員、消費者が少なくありません。自分たちが普段触れる商品は一体どのように生産されてきたのか、自分たちが生産するものは他者や自然を侵害していないか、一歩立ち止まって考えてみるだけでも違うはずです。日本の水も、オランダと同様に安全で品質が保証されています。マイボトルを持参して、ペットボトルを出来るだけ買わないよう心がけてみませんか。

 

2020年3月31日更新
取材月:2020年1月

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テキスト:佐藤まり子
写真:宮﨑哲朗

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