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スーツケースブランドが編集者を雇った理由 ― AWAY

 

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE04 LOVED COMPANY 愛される会社」(2019/4)からの転載です。

 

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100年後も愛される、最高のトラベルブランドにしたい─創業者のステフ・コーリーは力強くそう話す。いま全米で注目を浴びているスーツケースブランドの秘密。

 

創業からわずか3年。世界40カ国でスーツケースの売上数は約100万個。世界に10カ所以上の実店舗をもち、米Forbes誌によると2017年には黒字化を達成し、18年の売上高は1億5,000万ドル(約170億円)に達するスタートアップがある。2人の女性が創業したスーツケースブランド、AWAY(アウェイ)だ。アウェイはオンラインと実店舗の両方で、スーツケースのみならず旅用品の販売やイベント、旅雑誌の発行までを手がけるなど旅全体をデザインし消費者へ「旅行の素晴らしさ」を届けている。

 

共同創業者はステフ・コーリーとジェン・ルビオ。ふたりの出会いは運命的だった。ステフは米百貨店大手やケイト・スペードニューヨークで、バイヤーやマーケティングを歴任。その後ステフは、創業直後のアイウェアブランド「Warby Parker(ワービーパーカー)」に転職。くしくも同じ日に入社したのが、いまチーフ・ブランド・オフィサーも務めるジェンだった。ふたりはすぐにうちとけたが、ステフは2年半後にコロンビア・ビジネススクールに入学を決め退社。その後はマットレスのD2C企業「Casper(キャスパー)」でも商品戦略の経験を積むなど、ジェンとは別の人生を歩んでいた。ステフいわく「リテールのすべての経験が集まったとてもいいタイミング」に、ジェンから一本の電話が入った。

 

当時スイスを旅行中だったジェンは、スーツケースが壊れたとステフに不満をもらした。安いスーツケースを買ったらすぐに壊れるし、高品質なものは高額なものしかない。どうしてなのか、と。「もっと他のオプションがあるべきだって、ジェンから相談を受けました。私もそう感じたし、市場として可能性がありそうだと思ったんです」

 

市場調査をしているうちに、中間マージンが価格を引き上げていることを知った。そして、D2Cの業態をとることで高品質な製品をリーズナブルな価格に抑えることができる点に活路を見いだした。気をつけたのは「一方的な販売にしないこと」である。積極的に顧客とコミュニケーションをとり、フィードバックをもらうことで商品の良さや求められているものを素早く知り、改善できるようにすること。そして、100年後も愛される最高のトラベルブランドにするために、旅好きのコミュニティをつくることを掲げた。

 

真逆だから最高の決断ができる

ジェンとの関係性をステフは「びっくりするほど真逆のタイプ」と表現する。「ビジネス的な合理性や生産性を考えてしまう私と、ブランドやカスタマーエクスペリエンスなど感覚を重視するジェンの思考はまったく異なるんです」

 

意見が対立することは多々あるが、そのたびに話し合いを重ね、互いを知り合うのだという。理解し合おうという姿勢があるからこそ、より強固な決断ができるのだろうとステフは語る。そんな関係性を象徴するような成功事例が2つある。ひとつは「雑誌づくり」だった。

 

―幅広いサイズを展開。顧客の声から生まれた、スーツケースの表にラップトップが入るタイプが特に人気。

 

自社メディアが必要なワケ

ジェンはある日、旅をテーマにした美しい紙の雑誌をつくることをひらめいた。「アイデアを聞いたときは即反対しました。お金になるの?と。でもジェンの熱意のこもった話を聞いているうちに、雑誌を通じて私たちの世界観や新しい旅を提案できることに魅力を感じていったんです」

 

そうして誕生したのが「HERE」マガジンだ。ステフの想像をはるかに超えるものだった。ただのガイドブックではない、ハイセンスで美しい誌面、濃い内容、そして記事広告を入れてマネタイズも行う。「もし私がいなかったらお金がかかるだけの雑誌ができて、ジェンがいなかったら雑誌をつくることさえしなかったでしょう」とステフ。創刊から1年半で7号を発刊。旅先、人、文化を発信し、さまざまな切り口で旅の想像をかきたてる。現場で雑誌づくりを担当しているのは、約2年前に入社したアリー・ベトカー。アリーは「HERE」を1人でゼロからスタートしたが、現在編集部は8人に。オンライン版も今年1月にスタートしたばかりで、まさに急成長中だ。

―店舗ではHEREマガジンを購入することができる。価格は10ドル。空港のラウンジなどにも置いている。他にも旅にまつわる書籍や、アイマスクなど旅の必需品も陳列されている。

 

アリーはこれまでVOGUEやWWDなどの雑誌でキャリアを積んできた。そんな彼女は「私も旅が大好き。こんな素敵な雑誌をつくれることは私の誇り」と胸を張る。「HERE」は、表面的な旅先のレポートをしている雑誌やガイドブックではない。アリーをはじめとする編集スタッフが現地を訪れ、そこに住む人々と対話して現地の声に焦点を当てたり、文化やコミュニティーを掘り下げたりした特集を組んでいる。毎号決めているのは、テーマではなく目的地。「携帯電話やラップトップは一切禁止」という編集会議で、自分たちの食指が動く旅先をピックアップ。世界の人気観光地から、編集部が独断で選んだマイナーな旅先まで織り交ぜて紹介。次の4月号ではダブリン、グアダラハラ、ニューオリンズを特集するそうだ。

 

リアル店舗を持つまで

もうひとつ、ジェンの感覚的なアイデアから生まれた成功事例、それは、いまや5都市に構える「実店舗」である。「実は、最初のころは必要性を感じなかったの。私たちは試着が必要な服や靴を売っているわけではないから」とステフは話す。しかし、それが間違いだと気づくまでに時間はかからなかった。インターネット上での販売を始めて3カ月後、ジェンのアイデアで、期間限定のポップアップストアを開くことになった。

―オンラインでの購入がほとんどを占めるというが、店舗に訪れる顧客との会話を通じて細かいニーズを把握できることが実店舗の大きな役割だと話す。

―オリジナルのステッカー。組み合わせて自分だけのスーツケースをつくり、楽しむ人も多い。

―観光客も多く訪れるソーホーエリアに位置する実店舗

「次々に人がやって来て『ウェブサイトを見たけど重さがわからなかった』『感触を触って試したかった』という方々がとても多くて驚きました」とステフ。顧客の貴重な声が聞ける場所を持つことの重要性を感じ、すぐに実店舗を持つことを決めたのだった。雑誌や実店舗のように、ブランドにとってよい効果をもたらすものに投資は惜しまないと言い切るステフ。実はオフィスも人の増員に応じて、数週間前にマンハッタンの一等地に引っ越したばかり。「賃料がとても高いから苦渋の決断でしたが、私とジェンで意見が合ったのは、仲間たちが毎日ワクワクして出社するような場所が必要だということ。ソーホーは歩くだけで刺激をもらえるエリアだし、出勤も便利。多少高くても価値がある場所だと思っています」

 

―シンプルな内装ながら、緑が置かれた温かみのある店内。まるでカフェのような休憩スペースでは、ゆっくりお気に入りの旅について話し合うのだろう。店員が丁寧に、楽しそうに接客している様子が印象的だった。

 

次の目標は?との問いに、「たくさんありますが、ひとつは事業を世界中に広げることですね。いま世界中の空港で私たちのスーツケースを見ることも多く、とてもうれしいです」と、ステフは笑顔をみせる。ただ、やみくもに数を広げすぎないように、というのがジェンとの共通意見だ。「国外展開をするときに卸を通じて販売することは簡単だけど、一歩間違うとブランドメッセージの伝え方をコントロールできなくなったり、カスタマーエクスペリエンスの場を失ってしまう。伝えたい世界観を損なうことはしたくないですから」

 

そんなステフは「マーケットリサーチのために、4月にジェンと初めて日本に行くんです。とても楽しみ!」と目を輝かせる。彼女たちの旅と、アウェイを世界へ広げ続ける情熱は、世界中に広がる旅好きのアウェイユーザーと共にこれからも羽ばたき続けていく。

 

 

―ステフ・コーリー Co-Founder兼CEO
Bloomingdale’sやKate Spade New Yorkでバイヤーとして活躍後、アイウェアのD2C企業・ワービーパーカーに入社。当時の同僚であるジェンと創業。

 

―ジェン・ルビオ Co-founder兼ChiefBrand Officer
ネット広告代理店やファッション系企業を経て、ステフと共に創業。アウェイのブランドコミュニケーションの中枢を担っている。

 

―アリー・ベトカー 雑誌「HERE」のエディトリアル・ディレクター
VOGUE、WWDなどでキャリアを積み、2016年11月に入社。翌年1月に創刊し、現在は8名を抱えるチームリーダー。

 

2019年12月10日更新
取材月:2019年2月

 

テキスト:安部かすみ
写真:金東奎(ナカサアンドパートナーズ)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04 LOVED COMPANY 愛される会社』より転載

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