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日本人とデンマーク人は似ている? 似ていない? ふたつの国から見えてくる「花」との微妙な関係性

WORK MILL編集長の遅野井が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。今回は、日本と韓国で「Nicolai Bergmann Flowers &  Design」を展開しているフラワーアーティストのニコライ バーグマンさんをお迎えしました。 

WORK MILLでは北欧のワークスタイルに注目し、これまでウェブ・ペーパーマガジン両媒体でその価値観や働き方について探ってきました。ニコライさんはデンマークで生まれ、19歳の時に来日し、25歳で自らのブランドを立ち上げました。以降、日本のフラワーデザイン業界に新風を吹き込み、モダンでスタイリッシュなフラワーデザインを提案し続けています。前編では、大きな夢を描くことで偶然が重なり、成功を引き寄せたと語ったニコライさん。後編では、デンマークにおける「花のある暮らし」と、日本におけるフラワーデザインについて、そして日本人とデンマーク人の違いについて話をうかがいます。

春を待つ長い冬が、家族で過ごす時間と空間を豊かにする

遅野井:ところでそもそも、ニコライさんが花に興味を持つようになったきっかけはなんだったのですか。

ー遅野井宏(おそのい・ひろし)WORK MILL編集長
ペルー共和国育ち、学習院大学法学部卒業。キヤノンに入社し、レーザープリンターの事業企画を経て事業部IT部門で社内変革を担当。日本マイクロソフトにてワークスタイル変革専任のコンサルタントとして活動後、岡村製作所へ。これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、さまざまな情報発信を行う。WORK MILLプロジェクトリーダー、ウェブマガジン・ペーパーマガジン 編集長。

ニコライ バーグマンさん(以下、ニコライ):私が生まれたのは、コペンハーゲンから車で20分ほどのところなんですけど、辺り一帯が大自然でした。海も草原もあります。父親の仕事(園芸植物の卸業者)をよく手伝っていましたし、祖父もリンゴ農家で、祖母と一緒によく水をあげていました。何かきっかけがあったというより、自然とお花が好きになった、という感じです。

ーNicolai Bergmann(ニコライ バーグマン)フラワーアーティスト
1976年デンマーク・コペンハーゲン生まれ。デンマークで花や園芸の専門学校で学んだ後、卒業旅行で19歳の時に初来日。埼玉県川越市のフラワーショップ等で経験を積んだのち、2001年にNicolai Bergmann Flowers & Design 1号店を有楽町にオープン。2011年にフラッグシップストアを南青山にオープンし、現在日本と韓国で15店舗を展開。ヨーロッパのフラワーデザインスタイルに北欧のセンスと和の感性を融合した独自のスタイルを確立し、スタイリッシュなフラワーデザインと、花を楽しむライフスタイルを提供し続けている。2017年には新たに植物の魅力をジュエリーに昇華したジュエリーブランド「NATUR & NICOLAI BERGMANN」を立ち上げた。

遅野井:デンマークへ行ったとき印象的だったのが、さりげなくお花があるところで。文化としてとても豊かだと感じました。

ニコライ:確かに、家でもよく祖母が飾っていましたが、国全体として週末に花を買って帰る習慣があります。それこそ、高速道路のサービスエリアやガソリンスタンドでも花が置いてある。例えば、海老名SAにお花がいっぱい売っているような感じです。スーパーマーケットにも置いてありますし。
やはり花に水をやったり、ちょっとしたていねいな手入れが、気づかないうちにポジティブな影響をもたらしていると思います。花に水をやる代わりに、私たちは栄養をもらっている、というか。そんな大それた花束でなくてもいい、ほんの2、3本でいいから、何か生きている植物を家に置くといい影響があると思います。

遅野井:日本における花ってどうしても「花束」で完結してしまっていて、空間の中、暮らしの中に溶け込んでいる光景というのは、さほど多くないですよね。私自身はなんでもないときでも、よく花を買って帰るんですよ。テーブルに飾って、キャンドルを灯して、食卓をみんなで囲むというのは、日常であり、豊かなものだな、と実感していて。

ニコライ:それは素晴らしいですね。でも本当に、そういった文化はとても大切だと思います。日本に来て思ったのは、光が冷たい。蛍光灯がなぜここまで広がったのか、私にはちょっとわからないですが、どこに行ってもそう感じます。

遅野井:確かに。デンマークでは暖色系の照明ばかりで、どこも暖かい雰囲気でした。蛍光灯は「病院の光」って言いますよね。

ニコライ:デンマークは冬が長いのもありますし、暖かい光のほうがいいですよね。

遅野井:厳しい冬の寒さを耐え、家の中で過ごす時間が長いぶん、春を待つ気持ちを花に託しているのかもしれませんね。

ニコライ:期待感はあります。それに、家族との時間、毎日を豊かなものにする時間を楽しんでいるところはあります。

遅野井:デンマークは「世界一幸せな国」と言われていますが、ニコライさんはどうお感じですか?

ニコライ:どうでしょう。おそらくそれは、デンマーク人が重要視しているのが、家族だということだと思います。日本人は仕事を大切にしているように思います。基点となる目線が違うから、考え方、感じ方も異なるのだと思います。
ただ、そういう意味では、私はデンマーク流といえるかもしれません。家族との時間を大切にしていますし、どんなに仕事が忙しくても、極力休みの日は、家族との時間を優先します。年に数回は必ず、デンマークへの帰省も含めて、家族で旅に出ます。

花を愛でる習慣があったからこそ、受け入れられたフラワーデザイン

遅野井:私からすると、デンマークのように、日本でももっと花のある暮らしが定着するといいなと思うのですが、どうしてもまだ「花=女性が好きなもの」というイメージがある気がします。

ニコライ:女性が花を好きなのはもちろんなのですが、そもそも日本人自身、花や自然に対する愛がとても大きいと思います。普段の会話の中で、「お花見に行った」「紅葉を見に行った」なんて出てくるのは、とても素晴らしいことです。私のスタイルがこれだけ受け入れてもらえたのは、日本に花を愛する文化があって、贈り物をすることが習慣づいていたからだと思います。男性も取り立てて「ブーケが好き」というわけではないかもしれませんが、おそらく誰もが潜在意識的に、花へ対する愛着を持っているのだと思います。

遅野井:男性が花束を持っていると、どうしてもキザに思われてしまいがちなところもあって。

ニコライ:それはヨーロッパでもそういうところはあると思いますよ。でも、私が「フラワーボックスアレンジメント」を提案したことで、男性からとても喜ばれているようです。別に花を贈ることは恥ずかしいことではなく、かっこいいことなんだ、とプライドを持てるようになった、と。
以前、私が出演した番組を見て、お店に70歳前後の男性のお客様が来られたんです。ちょうど私が店頭にいたところ、「これをお願いします」とフラワーボックスを購入されました。「奥様にはよくお花を贈られるのですか?」と訊ねてみると、「いや、実は生まれて初めてなんです。テレビであなたの作品を見て、お花をあげてみたいな、と思った」と。おそらく50年くらい夫婦として一緒に過ごして、初めて花を贈る……そんな影響を与えることができたのか、と、涙が出るほどうれしかったですね。

遅野井:人生の大切な1ページに立ち会えたような、素敵な瞬間ですね。

ニコライ:そうですね。

遅野井:ご年配の男性の方にとっては特に、花は縁遠いものだったのかもしれませんね。生け花や華道、茶道など、格式ある日本文化には花と密接に関わっているものがありますが、お花見は花というより「飲んで騒ぐ」ほうがメインになってしまっている。格式と大衆的なものの間を取り持つような文化があまりないというか。

ニコライ:でも私が日本に来てから、花を取り巻く状況は大きく変わって来たように思います。この5、6年でモダンなフラワーショップが一段と増えて、お金を払ってでも良いものを手に入れたいという人が増えてきました。

遅野井:確かに、20年ほど前は普通のお花屋さんくらいしかなかった気がします。

ニコライ:私が2001年に有楽町でお店を開いたときは、かなりの異端でした。今以上にミニマリズムに惹かれていたので、空間もとてもシンプルでした。「フラワーショップにはたくさん花があって、いろんな種類から選べて……」という先入観があったお客様からは、驚かれました。でもそれがかえってインパクトがあったのかもしれない。良いスタートだったと思います。

遅野井:それまでの既成観念を覆すようなショップに、周囲から反発の声はなかったのですか?

ニコライ:その時に限らず、日本人からは「そんなの無理だよ」というネガティブな意見をもらうことが多い気がします。デンマーク人はわりと「とりあえずやってみる」人が多い。独立する前に、小さなフラワーショップを任されていたのですが、常に完成したブーケやフラワーアレンジメントの見本をたくさんお店に置いていました。当時は切り花を並べているだけのお店がほとんどだったので、「売れないままの作品がもったいない」という意見もあったのですが、信念を貫いて置きつづけていたら、次第に私のフラワーデザインを理解して、作品も売れるようになった。今もブランドの世界観をお客様に知っていただくために、店内のディスプレイには力を入れています。

「控えめな日本人」の良さはあるけど、もっと自信を持って

遅野井:デンマークへ行く前にいろいろと調べている中で、「ジャンテ・ロウ(ヤンテの掟)」というものに行き当たって、とても日本人の集団力学と似たところがあるように感じたんです。「人より優れていると思うな」と謙虚さを説いたものですよね。

ニコライ:私はあまり日本人と似ているとは思いません。デンマークの場合、標準があって、そこから出過ぎてしまうと、白い目で見られてしまう。

遅野井:それはまさに「出る杭は打たれる」みたいな感じもしますが。

ニコライ:たとえば、日本で成功を収めた経営者が高級車に乗ってても、「あぁ、成功して良い車に乗ってるんだな」と捉えられることが多いと思います。でもデンマークだと「高級車に乗るなんて!」というような、がんばって成功を収めた人がその成功をひけらかすことに対する冷ややかさがあります。

遅野井:うーん、それも似てる気がしますけどね……。

ニコライ:ただ、2008年の金融危機以降、ジャンテ・ロウ的な価値観はどんどん追いやられているような気がします。というのも、「みんな出過ぎず、平等に」というシステムに限界が来ていて、経済成長率の低迷で金銭的な余裕がなくなってきているのです。

遅野井:デンマークは福祉の国だと思うのですが、その点ではいかがでしょう。

ニコライ:確かに、その点では非常に恵まれています。ただ、ビジネスをするには難しい。なんでも「自分たちでできる」と思っているところがあります。日本では、結婚式を挙げるなら式場やホテルで、美味しいディナーをシェフに作ってもらって、お花はフラワーアーティストに頼んで……となりますが、デンマークでは「料理は得意な親戚の〇〇さんに作ってもらいましょう」といった感じになります。

遅野井:はは、それはニコライさんとしては困りますね(笑)

ニコライ:インスタグラムでもデンマークの方から「うちの国であなたの花を買えないのは寂しい。ショップを作ってください!」というメッセージをいただくこともありますが、実際にはなかなか買わないのがデンマーク人です。

遅野井:社交辞令みたいなところも日本っぽいですけどね、いや、面白い。なんかお互いに「隣の芝生は青い」みたいなところがあるのかもしれませんね。

ニコライ:でも難しいのが、日本人とデンマーク人を一様には比べられないところがあると思います。というのも、同じ日本人でも、ワーキングクラスとクリエイティブクラスとでは、価値観もライフスタイルも全然違います。

遅野井:確かに。

ニコライ:日本のワーキングクラスはもっと家族との時間を大切にしたほうがいいと思います。現実として、お金のために働かざるを得ないというのはありますが、そこで心をすり減らしていくのはつらい。それは経営者が考えるべきことなのかもしれませんが、家族との時間を大切にできるような環境を整えるべきだと思います。あと、東京と地方でも状況は違います。日本の中でも、東京は「別の国」みたいに感じます。

遅野井:東京のクリエイティブクラスはどうすべきだと思います?

ニコライ:彼らはもう、家族の大切さをわかっていると思います。既に家族との時間を楽しんで、仕事もプライベートも大切にしている。ただ、それは日本全体で見るとごく限られた層だと思います。

遅野井:なかなか「日本人」とひとくくりにするのも難しいのかもしれませんが、日本人のクリエイティビティについてはどうお考えですか。

ニコライ:非常に高いポテンシャルを持っていると思います。ただ、良いものを作っているのに、アピールの弱いところがある。うちのスタッフにもいます。「え、こんなことできたんだ。それって仕事にも使えるはず!」という人が。でも、本人があまりアピールしていないから、全然気づかない。もっと「私、こんなことできます!」と自信持って言えばいいのに、と思います。デンマーク人は、わりとみんな自信を持っています。

遅野井:日本では「クリエイティブ」という言葉が、ごく限られた人にとってのものになっているのかもしれません。

ニコライ:控えめなところにも良さがあって、だからこそ素晴らしいものが生まれたりすることもあります。気品があって、普遍的な良さがある。そういうものは、価値が長持ちします。それにしても、もうちょっと一押ししてもらいたい。

遅野井:押しが弱い、ですか。

ニコライ:弱いです。もっと自信を持った方がいいと思います。そういう意味でもやはり、外から見るのが大切です。日本人はもっとバカンスで海外に出てみると、日本の良いところが見えてくると思います。そこから得られるインスピレーションもきっとあるはずです。

遅野井:働くだけでなく、ちょっと休んでチャージしないと、ですね。今日はありがとうございました。

 2018年3月27日更新
取材月:2018年1月

テキスト:大矢 幸世
写真:
岩本 良介
イラスト:
野中 聡紀 


Nicolai Bergmann HANAMI 2050 -花を愛で、未来を想う-

フラワーアーティスト ニコライ バーグマンが2018年太宰府天満宮にて自身最大規模の展覧会を開催

デンマーク出身のフラワーアーティスト、Nicolai Bergmann(ニコライ バーグマン)は、2018年3月29日(木)~4月1日(日)に、自身最大規模となる展覧会「Nicolai Bergmann HANAMI 2050 -花を愛で、未来を想う- Floral Exhibition in Dazaifu Tenmangu」を福岡・太宰府天満宮にて開催いたします。

太宰府天満宮での展覧会は2014年、2016年に続き、3回目となります。2016年に開催した3会場に、新たに柳川藩主立花邸 御花を加え、4会場で同時開催いたします。

今回の展覧会のテーマは「HANAMI 2050」。Nicolai Bergmann独自の視点から生まれるフラワーアートの世界で、日本人が愛してやまない花見の“未来”を表現します。100点以上の最新作が会場全体をピンクに染め、春の華やぎを魅せると同時に、アクリルやスチールなど、異素材と花を組み合わせたコンテンポラリーなスタイルで驚きと感動をお届けいたします。Nicolai Bergmannが提案する2050年、未来の花見をぜひご体験ください。 

■開催日時
2018年3月29日(木)~4月1日(日) 
9:00~17:00(一部閉館時間変更の可能性がございます)

場所
太宰府天満宮、宝満宮竈門神社、志賀海神社、柳川藩主立花邸 御花

■イベント詳細はこちら
https://www.nicolaibergmann.com/hanami2050/