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第7話「ピラミッド」から「フラット」へ

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による連載コラムです。働く場や働き方に関するテーマを毎月取り上げ、『「〇〇」から「××」へ』という移り変わりと未来予想の視点から読み解きます。

AKB48はグループorチーム?

女性アイドルグループといえばキャンディーズ(古くてどうもすみません)。我が阪神タイガースはプロ野球のチーム。みなさんは、このグループとチームって言葉をきちんと使い分けていますか。一般的に、グループは共通の性質で分類した一団で、チームはある目的を達成するために行動する一団を指すようです。そういえば、AKB48は女性アイドルグループと言われていますが、彼女たちは確かチームA、チームK・・・とチームで構成されているんですよね。どうでもいいかもしれませんが、彼女たちって一体どちらなんでしょう。

アリストテレスが「人間は社会的動物」と言ったように、人はみな社会、つまり人の集まりをつくって、その中で生きていく種族です。幼稚園に入って仲良しグループをつくるところから始まり、小・中・高・大と進む。このときのクラスはグループで、部活は大概がチームとしての活動。大学の研究室はチームでしょうか。会社に入ったらチームの一員として迎えられることになります。こうして改めて考えてみると、私たちは大人になるにつれて目的を持った生産活動をするようになるので、グループ所属からチーム所属へと軸足を移していっているのかもしれません。

企業においては仕事を行う小さなチームが集まって事業が遂行されていくのが一般的です。そして個別のチームも企業全体もひっくるめてこれらの集まりを組織と言っています。この組織をいかに組むかによって業績が大きく左右されることは当然のことですが、実はこの組織の形態はオフィスレイアウトにも大きく影響しているんです。今回は、組織のかたちとオフィスレイアウトの関係について書いてみることにします。

 組織ってなんだっけ

米国の経営学者チェスター・バーナードによれば、組織とは「共通の目的と互いに協力する意思を持ち、円滑なコミュニケーションを取り合うことのできる人の集まり」のこと。①組織目的②貢献意欲③情報共有、これらの三要素が揃ったとき初めて組織として成立するのだそうです。一人では達成できない難しい仕事でも集団で取り組めば成し遂げられるだけでなく、そこにより高い付加価値を生み出すこともできる。だから私たちは組織をつくって事に当たっているのです。
バーナードの定義からすると、組織は目的の数だけいくつでも存在できることになります。大きな目的を持ったひとつの大きな組織がつくられ、その中に個別の小さな目的ごとに組織がつくられる。事業部があり、部があり、課・係があるというやつですね。

こうやってどんどん組織が細分化されていくと、それぞれの目的を達成するのに必要な知識や技術が個別の組織の中に蓄積され磨かれていく。組織に所属する人たちがより高度な専門性を発揮することで、高い付加価値を提供できるようになっていきます。こういう仕組みのことを官僚制と呼び、このときの組織の形状はピラミッド型になっています。

ピラミッド型のオフィスレイアウト

ピラミッド構造をそのままデスクレイアウトに写し取ったのが島型対向式のレイアウトです。目標や指示が上から下へ落ちていき、報告は同じルートを逆に辿って上がっていく。組織内の情報経路に沿ってデスクが配置されているのでとても機能的ですし理にかなっています。他方で面積効率もとても高いため、狭い日本のオフィスに適しているので我が国のオフィスレイアウトといえば島型対向式です。以前に比べれば減った感もありますが、調べてみると今でもこのレイアウトを採用しているオフィスの割合は8割台をキープしています。組織のかたちをそのまま展開すればいいのですから、組織図さえあればデスクレイアウトは描けてしまうと言えなくもありません。ですから、オフィスを設計する立場にいる人間にとってピラミッド型の組織は、ある意味とてもありがたい存在なのかもしれません。

いつまでも不動の地位を占めているかに思われたピラミッド型の組織。消費者に向けて提供する製品・サービスがはっきりとしていた時代、世の中が経済成長し続け企業が量の経営を主軸とした戦略をたてていた時代には確かに最適な組織形態でした。けれども物が広く行き渡り、右肩上がりの成長を望めなくなってきた時点で様子は変わっていくことになります。

フラットなオフィスレイアウト

ーbp vol.22より

ピラミッド型組織の欠点、それは大きな組織を構成している個々の組織それぞれが、前述した三つの要素を強化する方向に走るため自らを硬直化させてしまってイノベーションを起こすことができなくなることと、階層が深くなることで上下の情報伝達に時間がかかるようになることです。結果として巨大で高度に階層化されたピラミッド型組織は、市場の環境変化に追いついていけなくなってしまいます。バブル経済が崩壊した後、景気が上向きになるまで低迷期が長く続きました。長期化してしまった一因に、変化に順応できない企業の組織形態があげられるのかもしれません。

1990年代以降、企業が取り組んだ変革に組織のフラット化があげられます。ピラミッドの上の方、つまり中間管理者層を可能な限り薄くすることと、底辺を支える大多数の人たちの裁量を大きくすることによって、意思決定のスピードアップを図ることが大きな狙いでした。ピラミッドを上下にぐっと潰したかたちになるので、文鎮型組織とも呼ばれる組織形態です。
この形に呼応するレイアウトは、中間管理職の席を取り払った対向島型レイアウトでした。以前ならデスクの島の端には必ずと言っていいほど課長席(係長席)があったものですが、今やそれがあるオフィスは実は25%ほどしかありません。これに対してフラット化に対応して課長席を無くしたレイアウトにしているオフィスは60%にも及び主流になっているのです。ちなみに、管理者席を排してワークステーションの標準化を図るオフィスづくりはユニバーサルプランと呼ばれていて、すっかり市民権を得ているように思われます。

でも組織のフラット化も実際やってみるとうまくいかないことが...。フラット化を進め中間管理者層が抜け落ちると、それまで部下に対して行っていた教育・指導ができなり、次代を担う人材育成機能が弱体化してしまいます。また、ポストが減ることで若手の昇進意欲が失われてしまうので、仕事に対するモチベーション低下につながるなど、行き過ぎたフラット化にも問題があったのでした。

フラット化の先にあるもの

bp vol.22より

フラット化に傾きかけた針は再びピラミッド型へと揺り戻された感はあるものの、イノベーションが求められる今の世では、もとのガチガチのピラミッド型が復権することにはならないようです。特に新しい価値の創出が希求される組織においては、フラット化をさらに先へと進化させています。

構成メンバーそれぞれが異なる専門能力を持っている部門が複数あるのであれば、部門という組織の枠を超えて必要な人材が集結し、タスクフォースチームを組んで仕事をしていく。そんな組織形態・組織運営がここのところずいぶんと増えてきたように思われます。求心力を持つ人のまわりに人が集まってできた集団のことをトライブなどと称しますが、こうなってくると従来の上下の主従関係はまったくもって希薄になっていきます。ここでオフィスに必要になるのは、トライブ(プロジェクトチーム)が活動するための空間であって、これまでのようなずらりとデスクが並んだオフィスではないはずです。世の中の動きに追従して変わっていくトライブの活動や人員の増減に対して柔軟に対応できるワークプレイスが用意されなければなりません。そこでは働く環境を自由に自分たちでつくれるような仕組みが求められるようになるはずです。

一人の人間、複数の組織

トライブ化の流れは一つの企業内で閉じる話ではありません。これからは一人の人間がいくつかの企業の特定の人とチームをつくってビジネスを展開するようなるはずです。
生まれるときは一人だし、死ぬ時も一人。でもその間私たちは何らかの組織に所属して生きています。
また、Aというビジネス領域においては同じ組織に属するXさんが、Bというビジネス領域ではライバル関係にある別の組織にいるといったややこしいことが起きる可能性もあります。これって「昨日の敵は今日の友」の関係が現在進行形で出現するような面倒な事態です。そんな複雑な人間関係の中で組織の三つの要素を維持していくのに頭を悩めるようになるのかもしれません。

組織とは何なのか。組織の一員であることにどんな意味があるのか。そんな根源的なことを再び議論する日がやってくるのです。

ちなみに複業といえば、名刺の数がよく話題に上ります。私はプライベートなものも含めると4種類持っているんですが、世間の平均ってどれくらいなんでしょう。どなたかご存知でしたらぜひご一報ください。個人的には名刺が、つまり所属する組織が10種類を超えたら、私の頭はパンクしてしまいます。

さて、組織のかたちとオフィスレイアウトの変遷を見てきた今回の話はこれで終わりです。今月も最後までお読みいただき、ありがとうございました。それでは来月またお会いしましょう。ごきげんようさようなら!

第7話 完
2017年1月26日更新

テキスト:鯨井 康志
写真:岩本 良介
イラスト:
(メインビジュアル)永良 亮子
(文中図版)野中 聡紀