働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

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分断から統合へ。ライフとワークが重なっていく未来に向けた働き方

これからの働く見方を変えて、価値を挽きだすウェブマガジン「WORK MILL」が多様な働き方を実践している先駆者を招いての座談会の模様をお伝えする企画。 

シリコンバレー、スタートアップ、主婦、地域など、活躍フィールドは異なるものの、既成概念や常識に縛られることなく理想の働き方を追求し続けている方々をゲストに招き、お話をうかがっていきます。

第一回では、働き方のカルチャーについて。第二回では、働くための空間について語っていただきました。第三回である今回は、働くことと暮らすことの関係について話をうかがっていきます。

仕事のストレスは仕事で発散

WORK MILL:『WORK MILL』はテーマのひとつに、「ライフ」を掲げています。インターネットやスマートフォンが普及し、場所や時間を選ばずに仕事ができるようになりました。以前にも増して、仕事と生活を分断することが難しくなってきているのではないかと感じています。みなさんは生活と仕事の関係について、どう考えていらっしゃいますか?

ブランドン:私は、「ライフワークインテグレーション」だと捉えています。生活と仕事の一体化。特に、スタートアップというのは、ライフ=ワークなんですよね。どれだけ働くかが大事(笑)。私は、他の人にもタフに働くことを強要するつもりはありませんが、自分自身は最低でも起きている間は基本仕事をしています。

WORK MILL:ずっと仕事をしていてストレスが溜まってしまったりしないのですか?ずっと働いていたら発散もできなさそうですが。

ブランドン:仕事をしていてストレスが溜まって、それを飲みに行って発散するというのは、非常に効率が悪いと思うんです。飲みに行かなくても、いい仕事をしてストレスを発散すればいいわけで。いちいち飲みに行っていたら、お酒代がかかるし、時間もとられちゃうじゃないですか。そもそも、アメリカには飲みに行くという文化がないですから。基本はコーヒー文化なので。

WORK MILL:日比谷さんはスタートアップでありつつ、日本の会社でもあるSansanで働かれているわけですが、仕事のストレスについてはどうお考えですか?

日比谷:仕事でストレスを溜めてしまうことを仕方ないと思わないで、仕事のストレスは、つぶしてしまえばいいんですよ。ストレスを受けないように、改善する。

ブランドン:そうそう。ストレスの原因を排除することに力を使った方が、問題は解決されますよね。

仕事と生活を分けるほうが大変

市川:「日本人は給料を慰謝料として考える人が多い」という話を聞いたことがあります。自分が我慢した分だけお金をもらえると考えるそうなんです。仕事によって得られる対価が喜びじゃないみたいなんですよね。

日比谷:みんな仕事や労働を「我慢」するものだと思っているんですね。

市川:そうなんです。我慢した結果の慰謝料として給料をもらう。

ブランドン:我慢料としてお金をもらっていると考えてるんだね。それは大変だ。

WORK MILL:仕事は我慢するもの、という認識で働いていたらストレスも溜まってしまいそうですね。

市川:「はたらく」ことと、「楽しい」ということを分けなくてもいいと思うんです。仕事でストレスを感じたから違うことをして発散するのではなくて、一体化することで喜びをもって働けるはずだと思うんですよね。

ブランドン:そうですよね。子育て中の女性なんて、子育て自体が大変じゃないですか。子育てのストレスもあるだろうから、生活の中でのストレスを発散できるような、心地よい仕事をしないとずっとストレスが溜まっている状態になっちゃいますよね。

市川:子育て中の働く女性たちのストレスを軽減するために、私たちは活動しているんです。子育ても大変なのに、その上働くなんて無理、と言って日本の女性は働けなくなっています。もっと仕事そのものが楽しくなればいいなと強く思っています。

WORK MILL:仕事が楽しくなれば生活も充実しそうですね。

市川:仕事と生活はもっとうまく重ねられるのではないかと思います。子育てが大変で仕事ができないという人もいますし、逆に仕事が好き過ぎて子どもや家庭のことを疎かにしてしまいそうだから働くことを自制しているという方もいます。もっと仕事と生活をうまく重ねられたらいいのに、と思いますね。仕事と生活を分けようとするから、大変になっちゃう。

ブランドン:日本社会はまだ、母親が子どもの面倒を十分にせずにキャリアを積むべきではない、という雰囲気があるのかもしれないですね。

WORK MILL:こうした仕事と生活の統合のような動きは、アメリカの西海岸ではどのような状況でしょうか?

ブランドン:基本的には仕事はハッピーじゃないといけないですよね。なので、オフィス設計も、マネジメントも、従業員をどれだけハッピーにできるかということにフォーカスしています。最小限のインプットで、最大限のアウトプットを出すことを目的にして、効率化を進めています。

市川:仕事をするなら我慢が前提じゃなくて、心地よく働きたいですよね。スタートアップの仕事もそうだと思います。でも、仕事において「心地よさ」というワードを出すと、「ゆるい」とか「ぬるい」って思われてしまったりして。立ち上げてすぐのころは、「仕事で心地よいとか言ってるんじゃないよ」って言われたりもしました。最近は減りましたけどね。

人間の自然な価値観に寄り添う働き方

WORK MILL:『WORK MILL』としては、人が自然にいられる空間や違和感のない価値観のもとで働けるような、「心地よいはたらき方」を軸にしていきたいと考えています。

市川:「心地よさ」って大事ですよね。子育て支援の活動をしていた時に、保育園の先生が「子どもは快・不快の世界で生きているから大人社会の善悪を押し付けてはだめですよ」と話していたのを聞いて考えさせられたことがありました。もともと、子どもの近くにいる私たち母親が善悪で生きている限り、子どもたちをそれで縛ってしまうんだよなぁと考えていたこともあって、新しい仕事の場、地域のあり方を作りたいと考えたときに「心地よさ」を大切にしようと考えたんです。

WORK MILL:「心地よいはたらき方」というのは、どうしたら実現できるのでしょうか。

日比谷:まず、既成概念や知らず知らずのうちに自分を縛っている事象に気づく経験をいかにするかが大事だと思います。そして、これはなるべく若い時にしておくのが大事。既成概念の枠から外れて思考できるようになると、本当は自分は何をやりたいのか、どういう役割を担っている時が心地よいのか、といった自分が感じる快適さや心地よさに気付きやすくなるんじゃないかと思います。あとは失敗をすることですね。

WORK MILL:失敗ですか?

日比谷:失敗しないと、気付けないじゃないですか。「やってみたけれど、本当にやりたかったことはこれじゃなかった」とか。行動して、失敗を積み重ねていって、少しずつ自分にとっての居心地のよさというのがわかっていくんだと思います。

市川:「レジリエンス」ですよね。精神的なしなやかさや回復力。失敗したときは、ちゃんと失敗として受けとめて、次に活かす。すぐに次にチャレンジするほど強くなくてもいいかもしれませんが、失敗から立ち戻るだけの弾力性はあってもいいと思います。ゆるく働くだけでは、なかなか戻ってこられなくなってしまいますから。こうしたレジリエンスは、心地よく働くこととセットだと思います。

先駆者に聞く

Brandon K. Hill

Founder and CEO, btrax, Inc.

アメリカ人の父・日本人の母の下、北海道札幌市で生まれ育ったブランドンは、アイディアとクリエイティビティ、パッションをもって、2004年に米国・アジア間ビジネスの架け橋となる会社・btraxを設立しました。btraxはサンフランシスコを拠点とし、世界の市場をターゲットにデザインソリューションでビジネスのグローバル展開をサポートするグローバルデザインコンサルティングサービス、コミュニテイ型ワーキングスペース「D.Haus(ディーハウス)」の運営、世界最高峰のイノベーション環境メソッドをお届するイノベーションプログラムの3つのサービスを提供しています。

市川 望美

非営利型株式会社Polaris代表取締役 CEO / 日本ファンドレイジング協会認定 准認定ファンドレイザー

1972年生まれ。短大卒業後IT系企業へ入社。2002年長男出産後、育児休業を取得したのち退職。2003年からは“当事者発信型・循環型”の子育て支援に従事。NPO 法人せたがや子育てネット理事、アミーゴプリュス合同会社代表社員などを経験。2011年内閣府地域社会雇用創造事業ビジネスプランコンペで採択され、地域における多様な働き方を支える基盤づくり事業を開始。2011年8月「ここちよく暮らし、はたらく為の拠点」として”cococi”Coworking Space立ち上げ。「セタガヤ庶務部」等育児中の女性たちによるあたらしい組織づくりや、暮らしを価値に換える「ロコワーキング事業」に取り組む。「女性」「地域」「新しい働き方」などをテーマにした講演も多数。中1男児、小6女児の母。

日比谷 尚武

Sansan株式会社 コネクタ / Eightエヴァンジェリスト

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループにてICカード・電子マネー・システム開発等のプロジェクトに従事。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、開発マネジメント・営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。現在は、EightおよびSansanのエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。趣味はサバイバルゲーム、BtoB / IT広報勉強会の主催、アナログレコードでロックを聴く素晴らしさを啓蒙する活動など。

テキスト:モリ ジュンヤ
写真:押尾 健太郎