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WORK MILL

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シェアリングエコノミーがオフィスを変える

これからの働く見方を変えて、価値を挽きだすウェブマガジン「WORK MILL」が多様な働き方を実践している有識者を招いての座談会の模様をお伝えする企画。既成概念にとらわれず、自由に働き方をデザインしている人たちは、「はたらく」をどのように捉えているのかをお聞きしていきます。

前回は、アメリカ、スタートアップ、地域、主婦など、従来の日本企業とは背景が異なる人たちはどのように働いているのかをうかがいました。第2回である今回は、少し空間に視点を向けてお話をうかがっていきます。

人は80%の時間、オフィスで自分のデスクにいない

ブランドン:コワーキングスペースといえば、最近、西海岸では普通の会社なのにオフィスがコワーキングスペースのようになるところが増えているんですよ。そこの会社の人と話をしたら、自分のデスクや自分の部屋をオフィスに作った場合でも、ビジネス系の人は会議が多いから、 エンジニアの人は机で仕事したくなくてソファーで座りながら作業したいから、という理由でデスクにいないことがわかりました。この割合がなんでも80%近いらしいんです。

WORK MILL:80%近くもデスクにはいないんですか!

ブランドン:そうなんです。デスクにいないってことは、つまりデスクがいらないってことですよね(笑)。人はタスクによって場所を選びます。リラックスしながらやりたいタスクもあれば、 集中したいタスクもあって、 人と関わりたいタスクもあれば、1人で取り組みたいタスクもある。それぞれの目的にあった空間を会社の中に複数設けておいて、タスクに応じて働く場所を変えるぐらいがいいみたいですね。

WORK MILL:目的に合わせて場所を変える、と。

ブランドン:そうです。これは、SquareやTwitterの創業者であるジャック・ドーシーも提唱しています。実際にオフィスに遊びに行ったら目的に合わせて空間を作っていました。ジャック・ドーシー自身も自分の机がオフィスにいないんですよね。彼はCEOで、基本的に人と接することが仕事になってくるので、個室や専用デスクはいらないと言っています。こうしたオフィス空間に対する考え方は普及していくと思います。人が移動して、目的にあった空間で仕事をする、オフィス内を動き回るようになっていくんじゃないでしょうか。全部同じデスクで違うタスクをやることの方が違和感がありますよね。

WORK MILL:そう言われると、たしかに違和感があるかもしれません。Sansanではオフィスはどのように使われているのですか?

日比谷:Sansanもハンモックや屋根裏状のスペースにビーズクッションが置いてあったりして、寝転がって仕事をしてもいいし、ご飯を食べながら仕事してもいいし、昼寝をしてもいいことになっています。利用ルールは結構柔軟にしていて、それもあってフル稼働していますね。あと、キャビネットを廃止したんですよ。紙もデスクにおかないで、ゴミ箱やコート掛けなんかもまとめて全部オフィスの中央に寄せちゃって。それで自分が使う身の回りのちょっとした資料やノートだけをも持って移動する。

ブランドン:こうした働き方ができるようになったのって、ラップトップの発達とスマートフォンの影響が大きいです。この2つがすごく大きくて、仕事をしたい場所にこれらを持って行けばいいだけだから。そうなると場所を選ばない。技術の進歩に合わせて、働き方も変わっていくべきですよね。どう考えても。

WORK MILL:ラップトップをもって色々なところで仕事をされていると思いますが、外での仕事でも集中できますか?

ブランドン:僕は一番仕事に集中できる場所は飛行機の中なんです。もちろんオフィスも集中できますけど。フライト中って着陸までに時間が限られてるじゃないですか。限られた時間に終わらせないと、というプレッシャーがいいんです。

日比谷:わかります。僕も、カフェで人と打ち合わせする前に仕事をしていて、「あと30分で相手が来るからその前の残された時間でブログ書かないといけない」とプレッシャーがかかるとちゃんと終わります。

ブランドン:仕事が終わるまでの時間って掛け算らしいんです。集中力×作業時間だから、集中力を10倍にすれば、同じ作業をするのに作業時間は10分の1で済む。

空間をシェアすることがもたらす恩恵

WORK MILL:市川さんがピックアップしたキーワードに「Airbnb」と「パブリックコモン」がありました。なぜこの2つのキーワードをピックアップしたのかを教えてください。

市川:私のテーマのひとつが、街で共有していく、 違うカテゴリの人と共有していく、といったものなんです。女性や空き室といったものは地域に眠っている資源だと考えています。こうした資源をうまく活用することで、地域に新しいつながりや、新しい仕事を生み出していければと考えているんです。

WORK MILL:テーマとされていることに、「Airbnb」と「パブリックコモン」といったキーワードが関係してくるのですね。

市川:はい。今後、2020年のオリンピックの開催に向けて、観光客が増えていく一方で、cocociがある調布市は街の規模が小さいのでホテルもなく、泊まる場所もない。そこで、地域の未活用の空間をどう活用するのかという話になっています。「Airbnb」で部屋を貸し出したいと考えても、分譲マンションの中の1部屋を貸し出したりすると、クレームが来るんです。コワーキングスペースにいると、シェアするという発想は当たり前のもののように感じますが、街場に出ると当たり前ではない。地域の未活用資源をシェアすることができれば、新しいものも生み出せるだろうに、まだ限られた人しかその発想を持てない。

WORK MILL:なるほど。「シェアリングエコノミー」といった単語も聞かれるようになってきていますが、まだほんの一部。余ったリソースをうまく活用できるとメリットがあることはわかってきている一方で、多くの人に受け入れてもらうためにはハードルがありそうですね。コワーキングスペースが先に広まっていたアメリカでは今どんな状況なのでしょうか。

ブランドン:最近、サンフランシスコでは、オフィス内の余ったデスクだけをシェアする、なんてことが起こり始めてますね。これは、コワーキングスペースではなく、普通の会社のオフィスで行われています。オフィスって、大抵デスクが余っていますよね。その余ったデスクを1時間単位で貸したりしています。そのためのウェブサイトも生まれたりしていて。日本の大企業のようにセキュリティをガチガチにしなくてもいい会社もあるので、アプリで予約してその間だけ使うといったケースが出てきています。

日比谷:コワーキングスペースの逆ですよね。普通のオフィスを人にちょっと貸し出す。日本では『スペースマーケット』などのサービスで貸し出されてますよね。細かい単位で。

ブランドン:オフィスの余った空間を貸し出すことで、外部の人とのゆるいつながりが生まれたりするんですよね。

日比谷:うちの会社のオフィスには、ハンモックが置いてある広いスペースがあるんですけど、そこが夕方以降はほとんど使われてなかったんですよ。

ブランドン:Sansanのオフィスではイベントを開催されてますよね。

日比谷:そうなんです。先ほどお話ししたハンモックのあるスペースは、1年以上前に全然使われてないことに気づいて、もったいないなと思っていました。そこで夜の空き時間を利用してイベントやセミナーをやったりエンジニア勉強会など社外の人とコラボして使ったら、だんだんと外部の人に認知してもらえるようになったんですよ。

ブランドン:うちもオフィスの貸し出しをやっていますが、本当にいろんな人が来てくれるんですよね。それで、貸し出していると会社の知名度が上がる。日比谷さんも「イベントに来てSansanを知りました。あのかっこいいオフィスの会社でしょう」って言われるでしょう?

日比谷:言われますね。

ブランドン:オフィスをしっかりデザインして、外部に貸し出すと会社の認知度向上になるし、人材獲得につながったりするんですよね。

WORK MILL:余っている空間を有効活用できるだけではなくて、それに付随して色々なメリットがあるのですね。

ブランドン:そうそう。日本の企業も、絶対イベント会場として使える空間を持つようにしたほうがいいと思いますよ。余っている空間はいっぱいあるでしょうから。今はやってないだけで、やろうと思えばできるところは多いはずです。こういうことを、よく話になるのが、不特定多数の人がオフィスに入って「誰が責任取るんだ」「パソコンを盗られたらどうするんだ」なんて0.1パーセントくらいの確率でしか起こらないことを懸念する人がいるということ。「窓ガラス割られたらどうするんだ」って言う人がいるということ。「いやアメリカでも割らないから!」って思います。日本人なんて絶対割らないよ(笑)

「コワーキングスペース」が抱える課題から得られるヒント

WORK MILL:日比谷さんにはキーワードとして「横断利用できるコワーキングスペース」というものを挙げていただいています。その理由をおうかがいしてもよろしいですか?

日比谷:あるときはコワーキングスペース、あるときはカフェ、あるときは飛行機の中など、隙間の時間になんとか場所を見つけて仕事をするじゃないですか。コワーキングスペースはそれぞれの場所で契約するとちょっと割高。かといってカフェは席が埋まってたりするから、いちいち探さなければならないときもある。いろんなコワーキングスペースを横断的に利用できたらいいな、と思います。みなさん一度は考えたことがあるんじゃないかな。

ブランドン:うちの会社も、サンフランシスコでコワーキングスペースを始めました。2つ、3つのスペースとパートナーシップを結んで、サンフランシスコの他のコワーキングスペースを利用している人も自由に出入りできるようにしたんです。そうすると、訪れた別のスペースの会員が、うちが運営するスペースの会員と関わり始めるんです。絶対いいと思う。

日比谷:運営側にもメリットがありますよね。自分たちのスペースだけで人を抱え込む必要がなくなりますし。

WORK MILL:先ほどのオフィスの余ったところをシェアする、という考え方に似ているのかもしれないですね。会員のシェアというか、コワーキングスペースの余った空間をシェアするというか。

日比谷:そうかもしれません。ただ、日本のコワーキングスペースを訪れて、「周遊チケットにしましょうよ」と話をしたら、「料金体系が違う」「あそことは方針が違うから」って言われたりしてしまって、まだ難しいみたいですね。

市川:実は既に「コワーキングビザ」という仕組みがあって、40カ所くらいのコワーキングスペースを利用することができるんですよ。ビザに登録されているコワーキングスペースの入居者だけですが、コワーキングスペースオーナーにコンタクトして加盟店同士で相互利用させてもらうことができる仕組みです。日本でも利用できたと思います。

ブランドン:「Impact HUB(世界70都市以上に展開する英国発のコワーキングスペースネットワーク)」というコワーキングスペースに似てますね。あそこもロンドンから生まれて、世界中に展開しているコワーキングスペースのネットワークで、一箇所に会員登録していると、他のスペースも利用できる。

日比谷:それでも、せっかくそんな仕組みがあるのに知られていないってことですね。

市川:そうなんですね。2012年からスタートしていて、上手に使っているスペースもあるのですが、コワーキングスペースのオーナーが、「明日、うちの会員の誰々さんが行くのでよろしくお願いします」と紹介するような仕組みだったりして、うまく活用できてないようです。その頃はオーナー同士のやり取りも多かったのですが、コワーキングスペースもだいぶ入れ替わったりしていますし、改めてゆるく交流できればいいなと思います。

WORK MILL:コワーキングスペースが抱える課題も色々あるんですね。その課題に企業の余ったオフィスを有効にシェアをするためのヒントもありそうです。

先駆者に聞くvol.3 「分断から統合へ。ライフとワークが重なっていく未来に向けた働き方」に続く


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Profile

Brandon K. Hill

Founder and CEO, btrax, Inc.

アメリカ人の父・日本人の母の下、北海道札幌市で生まれ育ったブランドンは、アイディアとクリエイティビティ、パッションをもって、2004年に米国・アジア間ビジネスの架け橋となる会社・btraxを設立しました。btraxはサンフランシスコを拠点とし、世界の市場をターゲットにデザインソリューションでビジネスのグローバル展開をサポートするグローバルデザインコンサルティングサービス、コミュニテイ型ワーキングスペース「D.Haus(ディーハウス)」の運営、世界最高峰のイノベーション環境メソッドをお届するイノベーションプログラムの3つのサービスを提供しています。

市川 望美

非営利型株式会社Polaris代表取締役 CEO / 日本ファンドレイジング協会認定 准認定ファンドレイザー

1972年生まれ。短大卒業後IT系企業へ入社。2002年長男出産後、育児休業を取得したのち退職。2003年からは“当事者発信型・循環型”の子育て支援に従事。NPO 法人せたがや子育てネット理事、アミーゴプリュス合同会社代表社員などを経験。2011年内閣府地域社会雇用創造事業ビジネスプランコンペで採択され、地域における多様な働き方を支える基盤づくり事業を開始。2011年8月「ここちよく暮らし、はたらく為の拠点」として”cococi”Coworking Space立ち上げ。「セタガヤ庶務部」等育児中の女性たちによるあたらしい組織づくりや、暮らしを価値に換える「ロコワーキング事業」に取り組む。「女性」「地域」「新しい働き方」などをテーマにした講演も多数。中1男児、小6女児の母。

日比谷 尚武

Sansan株式会社 コネクタ / Eightエヴァンジェリスト

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループにてICカード・電子マネー・システム開発等のプロジェクトに従事。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、開発マネジメント・営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。現在は、EightおよびSansanのエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。趣味はサバイバルゲーム、BtoB / IT広報勉強会の主催、アナログレコードでロックを聴く素晴らしさを啓蒙する活動など。

テキスト:モリ ジュンヤ
写真:押尾 健太郎