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最小の表現で、最大のインパクトをもたらす。「図解」で共創を生み出す方法(図解総研・近藤哲朗さん)

言葉や文章にしづらい情報をうまく伝えたい……。そんな言葉だけでは伝えにくい情報や複雑な構造をわかりやすく整理し、直感的に伝えられるのが「図解」です。アイコンや矢印、簡潔な言葉を使って情報を視覚化することで、物事の全体像やつながりが一目で理解できるようになります。

しかし、実際にプレゼンや会議など、現場で取り入れようと思っても、結局文字ばかりの図解になったり、どこかピントが外れてしまったり……。

実際にビジネスの現場で活きる図解のコツとは何か、取り入れるにはまずどんなことをすればいいのか。株式会社図解総研の代表取締役で、10万部を超えるベストセラーになった『ビジネスモデル2.0図鑑』(KADOKAWA)の著書でもある近藤哲朗さんに伺いました。

近藤 哲朗(こんどう・てつろう)
株式会社図解総研 代表取締役。千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻修士課程修了。面白法人カヤックでディレクターを務め、独立。2020年にビジュアルシンクタンク「図解総研」を設立。大手企業・研究機関・行政とともに環境問題や政策、共創など社会の複雑な情報を可視化する図解に取り組む。共著に『会計の地図』、(ダイヤモンド社)、『政策図解』(日経BP)などがある。

図解に興味を持ったのは建築の勉強から

そもそも近藤さんが図解に興味を持たれたのはなぜでしょうか。

近藤

私は大学・大学院では建築を専攻していたのですが、建築を設計する際に、どんな建物をつくるのかを関係者に説明するために、コンセプトなどの抽象的な概念を図で表すことが多かったんです。

建築は図を描くことと、すごく密接なんですね。

なるほど。まずは建築の図から始まった、と。

近藤

はい、この頃から、実際の建物の設計とは別に、図で物事を表現することも好きになっていましたね。

今では建築物に限らず、ビジネスやお金、政策など、あらゆるものを図解されていますよね。

たとえば、書籍『ビジネスモデル2.0図鑑』では、さまざまなビジネスの仕組みを分かりやすく説明されていました。

近藤

あらゆるものの仕組みや構造を可視化したい、という気持ちが強くあります。

たとえば、複式簿記のように、会計の仕組みを全世界で共通の言語で表現できる方法がありますが、こうした仕組みは美しいなと感じます。

同じように、ビジネスモデルも図解にすることで、複雑だと思われがちな仕組みをより簡潔に理解できるようになります。こうした図解には独特の美しさがあり、それを表現することに魅力を感じてきました。

これは、方程式や簿記の持つ美しさと似たものだと感じています。

図解総研が運営するWebサイト「Bizgram」ではさまざまな企業のビジネスモデルの図解を随時掲載している

数字や関係性が一目でわかる

具体的に、図解はどのような場面で活きるのでしょうか?

近藤

図解は、そもそもコミュニケーションを助けるためのものです。

普段のコミュニケーションは、音声や文字などの言葉が中心ですよね。しかし、言葉だけでは複雑な概念や事柄を伝えるのが難しい場面があります。

そこで図解を使うと、情報をわかりやすく整理して「理解すること」と「伝えること」の両方が可能になります。

図解にしやすい情報の種類があるものですか?

近藤

主に2つあります。

1つ目は「数量やデータ」といった情報です。

たとえば、10桁以上の大きな数字がいくつも並んでいたら、それを見ただけでは頭に入りませんし、それぞれの数字がどんな関係にあるかもすぐにはわかりませんよね。

でも、それを図にして整理すれば、数字の意味や関係性が一目でわかるようになります。

数字だらけでややこしくなりそうな比例代表の仕組みを図解でわかりやすく表現(引用元:https://note.com/tck/n/n0c1e592d9bde

近藤

そしてもう1つは「複雑な概念やシステム」です

たとえば、人物相関図を思い浮かべてください。「誰が誰に対して何をしているのか」といった関係性や仕組みは、言葉だけでは理解しづらいですよね。

ビジネスモデル図解における関係性の明示方法(引用元:https://note.com/tck/n/n1ca59d6ecdc9

確かに、ドラマの登場人物の関係図を見ると、一目でわかりますよね。

近藤

そうなんです。あれを文章で説明するのはとても大変です。

実は以前、X(Twitter)でマンガ『HUNTER×HUNTER」』の構造を図解したことがあるんです。この作品は登場人物が多く、あらすじも複雑に絡み合っています。それを図解で整理してみたところ、たくさんの方に「わかりやすい」と反響をいただきました。

必要なのは「国語力」

言葉では表せないものを図解にしてみたいと思ったとき、まずはどんなことをすれば……?

近藤

僕自身、もともと何でも図にして考えるのが好きで、図解を作るときも、頭の中にいきなり図が浮かんでしまうんです。でも、これだとあまり参考にならないですよね(笑)。

あえて図解に必要な力を言葉で表すとするなら、「国語力」だと思います。

言葉で表せないものを図解にするのに、国語力が必要……!?

近藤

はい、図解というのは、物事の概念を整理して、構造化したものです。最終的に図として表現されますが、その素材になるのは「言葉」です。

ということは、近藤さんは国語が得意だったんですね。

近藤

いえいえ、全然そんなことはないです(笑)。特に作文なんて、授業で1文字も書けないくらい苦手でしたよ。

そんな近藤さんが、国語力が大切という理由をもう少し詳しく教えてください。

近藤

たとえば、「コップとは何か」を図解で他の人に説明しようとする場面を想像してください。

まず、「コップは水を飲むために使うものだ」というような基本的な知識がなければ、図にすることはできませんよね。実際には、「人はコップを通じて水を飲む」という文章があり、それを図に変換する作業をしているわけです。

確かに、頭の中でコップを思い浮かべると、同時に「水」や「飲む」といった言葉も出てきますね。

近藤

そのコップが花柄だったり、特別なデザインだったりしたら、「花柄の」「コップで」「水を」「飲む」というように、形容詞や関連する他の品詞も浮かんでくるはずです。

その思い浮かんだ言葉を分解して構造化する作業が、図解の第一歩なんです。この構造を理解していないと、図に変換するのは難しいですね。

行為を示す際の図解。「図解総研は」「(図解の)フレームワークを」「つくり」「さまざまな形で」「提供」という行為を図解にしている(引用元:https://note.com/tck/n/n1ca59d6ecdc9)

なるほど、言葉が図解の土台になるということですね。

近藤

そうです。そのため、まず図解したい事柄について、論理的に文章を書ける力が必要だと思います。これが僕のいう「国語力」です。その上で、論理構造を図に変換する技術や、見栄え良く整えるデザインの技術が続いてきます。

最小の表現で最大のインパクトを

実際に図解を作るとき、きれいな図に仕上げるにはどうトレーニングすればいいのでしょうか?

近藤

ただ図解をつくるだけなら、絵が得意である必要はありません。

再びコップの例で言えば、コップの絵を正確に描けなくても、四角形を描いて中に「コップ」と書くだけで十分です。僕もイラストは全然描けませんよ。

そうなんですか!

近藤

本当に重要なのは、情報の構造や優先順位をしっかりと捉え、それをビジュアルで正しく表現することです。

たとえば、文字のサイズが異なる2つの図があったとします。見る人はそのサイズの違いに何らかの意味を見出そうとするかもしれません。「大きな文字の方が重要だ」といった具合に。

このように、図を見た人が情報の重要性や関係性を直感的に理解できるよう、文字の大きさや配置を調整し、情報の構造をわかりやすく整理する工夫が必要になります。

それって、一見すると簡単な工夫のようにも思えますね。

近藤

そうですね。僕が考える「いい図解」とは、最小限の表現で最大のインパクトを与えるものです。

逆に、言葉や線、イラストをたくさん使うなら、それは図解ではなく、鮮やかなグラフィックレコーディングとして表現する方が適していると思います。

SNSでは図解のためのツールキットも販売している。画像はサンプル。(https://zukai.co/products/bmitk)

最小限の要素で効果的な図解を作るには、どうすればよいのでしょうか?

近藤

まず、最小の要素で効果的な図解を作るためには、情報を分解し、優先順位をつけることが重要です。このプロセスが図解の基盤となります。

たとえば、起業家が投資家に出資を依頼する際、資料を用意するとします。普通は、業績の数字や利益の仕組みを文章で説明したり、箇条書きにしたりしますよね。

しかし、それでは情報が多すぎて相手に全体像が伝わりにくく、重要なポイントが埋もれてしまいます。

確かに……。

近藤

図解を使うことで、単なる情報の羅列ではなく、全体の構造や因果関係が一目で分かるようになります。

たとえば、将来的なビジネスモデルを図解にすると、「収益を支える要素」が明確になり、投資家も意思決定をしやすくなります。

結果として、信頼を築きやすくなり、プレゼンの成功率も高まります。図解は単に情報を伝えるだけでなく、優先順位を明確にし、相手の理解を深める強力なツールになるのです。

なるほど、それが図解の本質なのですね。

近藤

実際、企業向けの研修でビジネスモデルを図解する場面では、現場の人が自社のビジネスモデルをあまり理解していないケースがよくあります。

また、同じ部署内でもメンバーごとにビジネスモデルの認識がずれていることも少なくありません。

チーム内で認識がずれていたら、効果的に結果を出すのは難しそうですね。

近藤

はい、他部署や他社と共創していくには、目の前の仕事だけではなく、自社のことを理解することも大切です。

図解を使えば、ビジネスモデルを直感的に伝えることができる上、コミュニケーションコストも下がります。共通の理解を持って仕事を進めるうえで、大きな助けになると思いますよ。

何を図解するべきかを考えてみよう

最後に、図解を使いこなしたい人に向けて、コツやメッセージをお願いします。

近藤

実は、「どう図解するか」の前に「何を図解するべきなのか」「何を図解したいのか」が分かっていない人が多いんですよ。

図解のスキルを磨きたいなら、まずは自分がよく知っていることを題材にして練習を始めるのが良いと思います。

たとえば、どのようなことが練習に向いていますか?

近藤

自分の身近にある、当たり前だと思っている知識を思い出してみてください。たとえば、自社のビジネスモデルや、自分の仕事に関する専門用語、日常的に使っている仕組みなどです。

まずは自分が論理的に理解していることを図解するフェーズから始めるんですね。

近藤

そうです。文章で表現できないものは、そもそも図解もできませんからね。

自分にとっては当たり前すぎてわざわざ図解する必要がないと思えることでも、専門外の人にとっては新鮮で貴重な情報だったりします。図解にして誰かに見せてみると、思いのほか喜ばれることが多いですよ。

こうした「伝わった!」というポジティブな体験を重ねることで、図解に対するモチベーションが高まり、自然と上達していくはずです。

ありがとうございます。まずは身近なテーマで、図解にチャレンジしてみます!

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
近藤さんのお話の中で特に心に残ったのは「国語力」が図解に必要であるという点でした。そういえば、学生時代の塾で、国語教師から「現代文の問題文を読んだら図式に見える目をもて」と口酸っぱく言われていたことを思い出します。また図解は、データやビジネスモデルの整理だけでなく、日常生活の様々な場面でも役立つかもしれないと思いました。例えば、自分が人間関係や仕事でモヤモヤした時に、図解を使って状況を見直したり、1on1の際に部下の悩みを図解しながら一緒に考えを深めたり。私も図解を効果的に使いこなせるよう、国語力をさらに磨きたいと思います!

2024年10月取材

取材・執筆=奥野大児
写真=塩谷哲平
編集=桒田萌/ノオト