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コロナ禍での働き方・オフィスへの意識の変化はあったのか ー 未来を示すリアルな声

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE06 Creative Constraints 制約のチカラ」(2021/04)からの加筆・修正しての転載です。


長期化するコロナ禍で、人々の働き方やオフィスへの意識はどんな変化を見せているのだろう。経営者とワーカー、『WORK MILL』読者に対して実施したアンケート結果をオカムラ ワークデザイン研究所の池田晃一・主幹研究員が分析する。

見える変化と、見えないダメージ

ー図1
ー図2

図1と図2のグラフはそれぞれ経営者とワーカーに聞いた「ニューノーマルの働き方」へのアンケート結果です。ニューノーマルにおいて採用したい人材や一緒に働きたいメンバーとして高い支持を集めているのが、リモート環境においてパフォーマンスを出せる人材や同僚だとわかります。

池田:2020年の調査なので少しだけ注意が必要です。21年の最新調査で判明した問題は「コロナ禍の長期化に伴っていろんな人にダメージが蓄積している」現状でした。リモートで働くことの長期化によって身体面や精神面にダメージが出てきています。そのように“ 傷んでいる人”に対し、個人個人がストレスなく働ける環境づくりをすることが重要です。

一方、ポジティブな変化も「自律性」をめぐって生まれました。21年の調査では、「リモート率が高い人ほど、自分が自律的に働いている感覚を強くもっている」ことがわかりました。コロナ禍の前でも、経営者が採用したい人材、ワーカーが一緒に働きたいメンバー、ともに「自律して行動できる人物」が求められてきました。それが今回のリモートを経験することで、実際にワーカーの能力として身についた可能性があるのです。

働く場所における「偏在性」について興味深い変化もあります。例えば、ある仕事について「オフィスでやったらはかどるか」「リモートでやったらはかどるか」という設問に対し、コロナ禍に突入したばかりの1年ほど前は回答が二極化していたんですね。

―図3

しかし、図3の「長期化する新型コロナ対策下での働き方・働く場 データ集」(2021年)から作成したグラフを見ると、真ん中の「オフィスでやっても、リモートでやっても変わらない」と答えた人が2倍ほどに増えています。つまり「どこで仕事をしても平気な人」や「オフィスが偏在化しても大丈夫な人」が増えているのです。

リモート環境で、失われるものとは

同じ図3ではリモートで減少するとされる「偶然発生する雑談」について、オフィスのほうがはかどる人と、リモートのほうがはかどる人がほぼ同数です。リモートでも雑談は活発に起こると考えてよいでしょうか?

池田:そういった側面はありますが、リモートワークだと「会議の前や後に立ち話でされる会話」などがゴソッとなくなってしまう。仕事の潤滑油になるコミュニケーションが減って、状況の共有がしにくくなってきています。その結果、価値観を共有できず、自分の主張ばかりして、各自が勝手にいろんなことを決めてしまう。そうなると、互いに「自分が正しい」と思ってかみ合わないことがかなり発生していく。どちらも悪くないにもかかわらず、物事がうまくいかないといった不思議な現象が多発してくるのです。

だから、私はリモートも織り交ぜながらオフィスにも出社して、価値観のすり合わせや、状況の共有といったことをする必要が大いにあると考えています。

オフィスに出社できない状況が長く続いたことで、図らずも「本来のオフィスの意味や価値」「集まって働くことの本質的な意義」を考える機会になっているように思います。これだけリモートワークが浸透しても、オフィス不要論に傾くことはありませんでした。

池田:最近、倫理学者と「実際に会うことの意味」について話をしました。リモート環境で失われるものは、やはり「倫理」そのものだと彼は語っています。倫理というものは正義と違い、決定的に何かが正しいとか、悪いということではありません。相手と自分の状況によって価値観が変化する、それが倫理なんですね。極端な例を出せば、「戦争で人をあやめるのは殺人罪になるのか?」という具合に、戦時と平和な社会では倫理観というものは違います。

同じように、私たちが仕事をする際、あるいはチームで働く際に「相手がどんな状況なのか」「自分がどんな状況にあるか」ということを共有するうちに、そのチームや会社の価値観、つまり倫理が変わっていくわけですね。

相手のことを考え、よく見る大切さ

池田:あとは、「つながらない権利」というものを認めることが、これからの働き方で大事なテーマになります。フランスでは法制化されましたが、自分のプライベートな時間にメールやSNSを見なくていい、会社がプライベートに侵入してくることを防ぐ権利です。

―図4

図4の『WORK MILL』読者に尋ねたアンケート結果では、「アフターコロナにオフィスで行いたい・求めたい体験」の第1位が「人と人が自然につながること」でした。この「自然に」という言葉が大事なんですね。

池田:その通りです。現代のワーカーはデジタルツールによって24時間働けるようになってしまっていて、どんなタイミングでも迅速に返事をしないと仕事が成り立たない雰囲気があります。しかし、「勤務時間にカウントされない時間に働くのっておかしいんじゃないか?」と思う人が増えました。

単純にオフィスへ植栽を入れれば人は癒やされるのではなく、自分の決めたタイミングで休めるとか、自分のペースで交流できることが大事です。強制されて何かをやらされるのがいちばんよくありませんから。ワーカーが感じる時間的な余裕、心の余裕をもたせるために、こうした「つながらない権利」が今後、日本でも議論されてくるはずです。

今号の『WORK MILL』制作ではSlackが大活躍しましたが、一歩誤ると「悪魔の発明」になる恐れも感じます。元々はスタートアップのような気心の知れたチーム内で使われるツールだったのが、一度も会っていない人とも頻繁なコミュニケーションを取るようになりました。

池田:元気なときはそれで構わないんです。「俺はガンガンやるんだ!」みたいな人たちが使うのであれば、まったく悪魔のツールではなく、神の業わざなわけですから。でも、体と心が少し傷んでいて「ちょっと待って」という人たちに対して「返信が遅い」「既読がついてない」とプレッシャーになるとよくないですね。

キーワードは「コントロール」だと感じます。それは時間であったり、自分の心のレベルといった総量の把握です。今号の巻頭インタビューでジャック・アタリ氏は、ポジティブな意味で「自己監視」と表現しました。今後、こういったコーチングをする仕事も出てきそうです。

池田:そう思います。スーザン・ソンタグ(1933-2004、アメリカの批評家・作家)は「アテンション(傾注)」と表現しましたが、相手や自分が本当は何を考え、どんな状況にあるのかよく見ないといけない。そこを見逃すと、何もわからない空虚な存在同士で会話してしまうことになると指摘したのです。長引くコロナ禍のなかで傷んでいる人と接するときは、単にその人の肩書などを見るのではなく、その人物に傾注することが大事です。そういうことを考えながら、相手と仕事をしていく。コロナからの「回復期」において、非常に大事になる姿勢だと思うのです。

―池田晃一(いけだ・こういち)
1975年、東京都生まれ。オカムラワークデザイン研究所主幹研究員
大学で農業、大学院で情報デザインを学ぶ。2007年〜10年に東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻本江正茂研究室に国内留学。博士(工学)。

2021年6月9日更新
2021年4月取材

テキスト:神吉弘邦