キャリアアップのために本当に必要なマインドセットとは? 「転職すればいいや」をやめよう

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
転職がしやすい世の中になりました
多くのビジネスパーソンの方々は、ネットサーフィンをしている最中に転職サイトの広告を目にしたことがあるでしょう。今や、転職はどんどん当たり前になってきました。
ボクが転職したのは1997年。生命保険会社のIT子会社から、マイクロソフトの日本法人に転職しました。IT関連のEXPOを見に幕張メッセに出かけた時に、転職エージェントの方から声をかけてもらったのがきっかけでした。
その当時は、まだ転職というのがそこまで一般的ではなかった印象です。もちろん、最初に入った会社にも転職で入ってきた人が多くいましたし、同期の連中で何人も転職した人はいました。でも、今に比べればまだまだ転職というのは「特別なこと」だった記憶があります。
時代は変わり、多くの経営者たちが「終身雇用は終わった」と口にするようになり、転職も視野に入れたキャリア作りが当たり前になりました。実際、それを後押しするサービスもどんどん充実してきています。
ボク自身、JACリクルートメントという転職エージェント会社のアドバイザーをしていますし、ビズリーチは創業当時から上場するちょっと前まで顧問としてあれこれおせっかいを焼いていました。
そういう意味では、転職というキーワードはボクにとって実に身近なものですし、その内情についてもかなり詳しい方だと思います。そんなボクから見ても、今は転職がとてもしやすくなり、常に人材マーケットに目を向けながら仕事をするのはビジネスパーソンの基本動作となってきました。
転職市場のリアル
さて、転職がしやすくなってきた反面、転職そのものへの勘違いをする人が増えてきているのも事実です。
これは、転職サイトの広告が「年収アップ」などを謳っているからということもあるのですが、「転職すれば給料が上がる」と短絡的に考える人が少なくないのは事実です。
もちろん、年収が大きくアップする転職も存在します。しかし、それは無条件ってわけにはいかないんですよね。年収アップができるのは、転職先での活躍が入る前から証明されていたり、高い期待値を満たしてくれたりする可能性が高い人に限られます。
立派な肩書や前職での成功体験だけではなく、「未来に活躍ができる」ということが求職者・求人企業の間で合意できた場合に大きな年収アップにつながるのです。転職はしやすくなりましたが、それは「求人にアクセスしやすい」「応募しやすい」という意味であって、「転職が成功しやすい」という意味ではありません。
「転職=給料アップ」という安易な思考になってしまう人がいる背景には、日本特有の雇用制度があります。新卒一括採用、年功序列による昇給制度、終身雇用を前提とした人事制度などが数十年にわたって定着してきたため、「人材マーケットにおける自分」を認識する機会が元々少なかったと考えられます。
元々は転職者を受け入れるのに積極的ではなかった業界でも、「外部人材を入れていこう」という動きが出てきました。そんな動きもあって、転職者を受け入れる側の目もどんどん厳しくなってきており、転職市場がオープンになって転職活動がしやすくなってきている反面、競争も激しくなってきていると言えるでしょう。
その中でも、「今の会社が嫌だから転職しよう」という求職者は、なかなか転職先が決まらないパターンが増えていると、転職エージェントの方からも聞きますし、ネットの記事などでもよく目にしますね。
なぜうまくいかないかというと、転職の動機が自分のネガティブな心理に偏っていて、転職先でのキャリアという部分に対する思考が足りていないことが多いからです。
「会社に入ればお給料がもらえる」というマインドは、前述の日本固有の雇用制度の影響でしょう。学校に入るのと同じようなリズムで、「みんなで一緒に就職!」というのが「ビジネスパーソンとしての意識づくり」を遅らせている一因だと思っています。
キャリアアップに必要なマインドセット
年収アップは転職において大事な要素ですが、他にも自分のやりたい仕事ができる・大きなチャレンジができる・夢に見ていたキャリアを作れるというのも、転職の魅力です。
このような幸せな転職をするためには、何が必要でしょうか? まず大前提として「会社は自分に給料を払ってくれる機関ではない」という原理原則を頭に叩き込みましょう。
給料というのは、会社という器を通して社会貢献をした見返りとして支払われるのです。社会貢献が大きくできる人に、高い給料が支払われるのです。
ということで、まず自分自身を見返してみて、
「自分は社会に貢献できる力を持っているか」
「転職先の仕組みを使って自分の力を増幅させられるか」
「それが持続的向上が可能なのか」
を定義してみてください。
これが定義できなければ、転職はうまくいきません。「今の仕事がつまらないから、とりあえず転職でもしよう」という人が、素晴らしいキャリアに出会える可能性は極めて低いでしょう。
もちろん、ハラスメントにあっているとか、自分のスキルと業務内容のアンマッチで心折れそうとか、そういう理由で転職を考えるのは悪いことではありません。
その時は慌てず、自分自身を安全な場所に避難させることに集中してから、転職のことを考えましょう。脳が何かのストレスにさらされている状態では、冷静な判断ができずに間違った転職をしてしまうリスクがあるからです。
転職は、心の余裕をある程度確保した状態で考えましょう。数日休暇をとったり休職届を出したりして、そこでじっくりと転職エージェントの人と会話をしてもよし、自分のキャリアの棚卸しをしてもよし。
やめちゃってから考えるのもいいんですけれど、退路を経ってしまうとそれはそれでストレスの原因になりかねません。今いる場所を確保しながら転職活動するのは、大いに結構です。(休暇も休職も、労働者の権利ですからね)
安易な気持ちでの転職で失敗したり、現状から逃げたい一心での転職でさらに不幸になったりした事例は、枚挙にいとまがないほどです。転職するなら、まず自分が落ち着いた状態を作ってからにしましょうね。
アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト