まずは他人の不完全なアウトプットを褒める 完璧を目指すのをやめよう(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
職場にはびこる呪いの言葉
仕事をしているとき、次の言葉をよく見たり聞いたりしませんか?
「ちゃんとする」
確かに、仕事をちゃんとするって、大事なことっぽいですよね。ChatGPTさんに「ちゃんとする」ってどういうこと?と聞いてみたら、下記のような答えが返ってきました。
「ちゃんとする」という表現は、日本語でいくつかの意味を持ちますが、一般的には以下のような意味で使われます。
- きちんと行う: 任務や仕事、約束などを正確かつ丁寧に行うこと。「仕事をちゃんとする」「約束をちゃんと守る」といった使い方です。
- 整理整頓する: 物や場所を整え、きちんと片付けること。「部屋をちゃんとする」というと、部屋をきれいにすることを意味します。
- 行動や態度を正す: 自分の態度や行動を適切にすること。「ちゃんとする」と自分に言い聞かせる場合、真面目に振る舞うことを意識することを意味します。
具体的な状況によって、この表現の持つ意味合いは多少異なる場合があります。どのような文脈で使われるかにより、どの意味が適用されるかが決まります。
うん、どれも仕事する上ではとても大事なことばかりです。みんながちゃんとしていれば、業績アップは間違いなさそうです。
でも、この「ちゃんとしなくちゃ」というのは一歩間違うと呪いに化けます。それは、ある言葉と組み合わさったときに発生します。
それが、「XXしてから」です。
「ちゃんとする」と「XXしてから」を組み合わせると、「ちゃんとしてから」になります。
「え?なんかまずいことあるの?」ってお思いになるかもしれませんが、ここに大いなる罠が潜んでいるのです。それは、「とんでもなく時間が浪費される」というリスクです。
「この状態で出したら怒られそうだから、もうちょっとちゃんとまとめてから提出しよう」とか。
「だらしないって印象を与えたくないから、とにかくちゃんとした結果を出してから面談してもらおう」とか。
「このデザインだとクライアントの評価が下がりそうだから、もうちょっとちゃんと作業してから連絡しよう」とか。
いずれの場合も、「他者基準を優先させて、時間をかけることを決めている」のが特徴です。
もちろん仕事には他者の評価は大事な要素ではありますが、ここで「使われているリソースが時間である」というのは問題として認識したほうがいいでしょう。なぜならば、時間は絶対に増やすことのできないリソースであり、不可逆であるという特性があるからです。
「ちゃんとしてから」の先には「もっと早くやればよかった」の落とし穴があり、この後悔をリカバリーするのは、さらなる時間が必要となる場合があります。
この「ちゃんとしなくちゃいけない」という、やや強迫観念的な完璧主義の背景には、日本の職場の中における「怒る・怒られる」の問題があると思っています。
ボクは長く外資系企業で働いてから独立して、多くの日本企業と契約をして「半分中の人」として仕事をしています。その中で、数多くの「怒る・怒られる」に基づくビジネス判断の現場を見てきました。
もちろん、外資系にも「怒る・怒られる」のケースはあります。ただ、たいていの欧米企業ではJD(ジョブ・ディクリプション/職務記述書)やKPIが厳格に決められていることが多く、誰かの感情よりも数値的な目標を優先させる傾向が強いと感じています。
そして、とにかく判断をスピーディーにするという点において、たいていの日本企業は多くの外資系の後塵を拝しているのは事実だと思います。(「日本企業」ってでかい主語だけど、これはボクの主観ということでご勘弁を)
では、どうやればスピードを上げられるのでしょう。そのためにキーワードとなるのが「たたき台」という言葉です。
ボクが敬愛する人物に、「フィラメント」という会社のCEO角勝さんという方がおられます。もともと大阪の市役所で公務員をされていた方なのですが、安定した場所を飛び出して起業し、いまは様々な企業向けに新規事業創出、人材開発、組織開発などの領域のコンサルティングを手掛けています。そんな角さんが、めちゃくちゃいい記事を書いておられます。
そう、これです。たたき台を作る人はえらいんです。
なぜなら、周囲の人も含めて「一歩目」を踏み出すきっかけを作っているからです。
たたき台ですから、ちゃんとしてない場合もあるでしょう。でも、いいんです。まず、思考のきっかけをつかむためのモノなので、その時点での完成度をあれこれ言うのは本末転倒です。
とりあえず、なにかしら一歩目を出す人を尊重するという考え方があれば、おのずとビジネスのスピードは上がり、ゆがんだ完璧主義から脱却できるかもしれません。
シリコンバレー的カルチャーに学ぶ
これまたボクの親しい友人で、サンフランシスコでデザイン会社「btrax」を経営しているBrandon K. Hillさんがいます。彼が、シリコンバレーの企業カルチャーについてブログにまとめてくれています。
この記事の中で、非常に印象深い一文があります。
「日本企業が完璧なプロダクトを1つ出す間に、シリコンバレーの競合は20%の完成度のものを5つ出し、ヒットしたものだけを残し改善すると言われる」
25年ほど前まで、「あんな完成度の低いものを出して恥ずかしくないのかね~」と欧米や中国の製品やサービスをからかっている日本人の姿をよく目にしました。実際、ボク自身もそう感じていた一人です。
しかし、マイクロソフトに入社して、その考えは大きく変わりました。とにかく「すぐリリースし、すぐ修正し、すぐ再リリースする」というサイクルを重要視していることを知ったからです。欧米や中国を笑っていた日本が、今どうなっているかは説明するまでもないでしょう。
とにかく完璧主義に縛られることから解放されて、とにかくスピードを上げるのが急務ではないか、と思います。そのためには、「不完全なものでも早く出すことは正義である」というカルチャーを醸成する必要があります。
まず、これを読んでくださったあなたから始めてください。不完全でもなんでも「これはたたき台です!」と胸を張って堂々と出しちゃってください。
「えー、たたき台って言っても周囲の人が受け入れるとは限らないじゃん……」って思うかもしれませんね。
そんなあなたにやってほしいのは、「他人の不完全な状態のものを褒める」という行動です。「え、その資料なんかすでにいい感じじゃん! これをベースにしてみんなで共同作業をしようよ!」と言い出す張本人になってください。
自分もたたき台を出し、他人のたたき台を絶賛する。その震源地になってくれることを期待していますよ!
アイキャッチ作成=サンノ
編集=ノオト