「アクションにつながる」のが絶対条件 「凝り過ぎた資料を作る」のをやめよう(澤円)
仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。
「プレゼンの表側」にとらわれ過ぎていないか?
社会人になると「資料作成」というタスクからはなかなか逃げられませんね。特に発表用資料の作成となると、世に充ち溢れるかっこいいプレゼンテーションの風景が脳裏に浮かんできて、すごいプレッシャーを感じてしまう人もいるかもしれません。
プレゼンテーションという言葉は大昔からありますが、ここ15年くらいは「プレゼン」そのものへの注目がめちゃくちゃアップしている気がします。おそらくは「TED」の影響だったり、スティーブ・ジョブズさんのApple製品の紹介だったり、すぐれたプレゼンテーションを目にする機会が増えたことも影響しているでしょう。
また、近年スタートアップへの注目も増してきているので、いわゆる「ピッチコンテスト」も頻繁に行われています。そして、新規事業のアイディアピッチなどが行われている企業もとても多いですね。
ボク自身、キャリアにはしっかり「プレゼンテーション」というタグがついているので、プレゼンが脚光を浴びる時代の流れは大歓迎です。その一方で、なんだか手段と目的がごっちゃになってしまっている状況も散見されるようです。
というのも、「かっこいいプレゼンをしたい」と思うあまりやたらとスライドを豪華にしようとしたり、「抜け漏れがないように……」と考えすぎて情報過多になったりして、結局とても見にくい・分かりにくい資料を作り上げてしまう人が、決して少なくないのです。
このような事故は、プレゼンテーションの本質がつかみ切れていないことから起きているとボクは思っています。顧客へのプレゼン資料や社内会議での発表用資料の本質は全く同じです。では、その本質とは何でしょか?
アクションにつなげる
仕事で使われる様々な資料の目的は何でしょうか? 自社ビジネスの現状把握、発生した問題の原因分析、人事関連の事務連絡などなど……。なんとなく「正しい事実を伝える」という雰囲気がありますね。
でも、正しい情報を共有することが最終目的ではないとボクは考えています。もちろん、情報が正しいことはとても大事です。ただ、正確な情報だけが存在していることは、ビジネスにおいて必要条件にはなっても、十分条件にはなり得ないのです。
仕事において共有されるすべての情報は「アクションにつながること」が絶対条件だと思っています。PDCAサイクルやOODAループといったビジネスにおける意思決定や改善をするための考え方においても、最後に来ているのは「A」すなわち「Action」になっています。
アクションなしではビジネスでは何も起きません。すべてのビジネスは社会貢献のために存在していて、社会に貢献するためのアクションをするためにメンバーの人たちは働いているはずです。
メンバーがどう動けばいいのかを理解するのが最大の目的であり、「見た目が整った資料」や「配置が美しい資料」、あるいは「あらゆる情報が網羅された資料」が本当に必要かと言えば、いささか疑問です。むしろ、飾り立てられた資料はアクションがぼやけるリスクが増すとも言えます。
文部科学省のHPで「STEAM教育」に関する資料があったのですが、その資料の1ページがこちら。
もちろん前後の文脈があってのこのページだとは思いますが、これを見て具体的なアクションが連想できる人はいないでしょう。(ちなみにほかのページも文字数が多すぎて頭に入りませんでした……)
中央省庁が出している資料なので、大きな目的の一つは「正しい情報を漏れなく共有すること」でしょう。なので、これだけを切り取って一方的に批判をするつもりはありません。ただ、少なくとも「アクションを引き出す」という私の観点からは改善の余地があるサンプルとして取り上げさせてもらいました。
ちなみに、これが社内のミーティングであれば相当な問題です。アクションが明確にならないミーティングは、経営においては徹底的に排除しなくてはならないものです。共有される資料がアクションを引き出すことに寄与しないなら、その資料は使わない方がいいでしょう。
「聴いてもらう」のか「読んでもらう」のか
「社内会議用の資料だから、プレゼンとは違うんですけど……」とお思いになる方もおられるかもしれませんが、もしその資料を使って誰かが話すのであれば、「参加者の耳と目から入る情報によって脳内でアクションがイメージできる」ことが求められます。
そのためには、視覚情報をなるべく絞った方が効果的です。人間は80%以上の情報を目から得ていると言われています。目に映る情報を増やせば増やすほど、脳はそちらの処理に忙しくなり、話が耳に入らないという状態になりかねません。
聴いてもらうためには「何の話をしているのか」がすぐにわかる資料である必要があります。
例えば売り上げ推移に関する話であれば、そのことを「見ればわかる」ようにするのが大事。
他の情報を排除することでデータが浮き上がってきます。
店舗を展開している会社の売り上げに関する資料を試しに作ってみました。
このグラフだけで、6-9月の売り上げが下がっているのは一目瞭然ですね。そうしたら、次に情報を追加します。
当然、多くの人が思い浮かべるであろう疑問に答えるために情報を追加します。ここから先は、それぞれのビジネスの現場ごとでアクションが変わってくるでしょう。資料を作った人がアクションまで考えるなら、この次のページにアクションプランを書けばいいですし、参加者とディスカッションしたいのであれば、この報告をもとにしてアクションプランを立てていけばOKでしょう。
もしも、「読んでもらう」前提が作れるのであれば、スライドよりもWordやGoogle Docsによる文書にしておいた方がベターだとボクは思っています。ちなみに、Amazonでは社内会議でパワポや箇条書きを使うことが禁止されているとか。
これはこれで効果的なアプローチだなと思います。発表者が文章を書くことによって、ロジックエラーや情報の抜け漏れに気づくという効果も期待できます。
ただ、この場合には「事前に呼んでから会議に参加する」というルールも併せて作った方が効果的でしょう。その場で朗読会を始めてしまうのは、あまりにも時間がもったいない。事前に書いた文書を共有しておいて、読んでから会議に出るようにすれば、もっと効果的に時間を過ごすことができるでしょう。
ということで、ついつい凝りたくなってしまうビジネス資料ですが、大事なことはステキな未来を作るアクションにつなげること。
アンドリュー・カーネギーも「やるべきことと、それ以上のことを行いなさい。そうすれば、未来は自然に開けるものです」という言葉を残しています。凝った資料じゃなくて、ステキな未来を作りましょう。
アイキャッチ制作:サンノ
編集:ノオト