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ウェルビーイングを高める、コロナ後のオフィスインテリア海外トレンド

新型コロナウイルスの世界的なパンデミックは社会のさまざまな側面に恒久的・普遍的な変化をもたらした。オフィス環境もその一つである。リモートワークという新しい働き方の効率性や利便性が証明され、定着しつつある現在だが、一部では既にワーカーをリモートとオフィスの「ハイブリッド」の形でオフィスに戻そうとする動きもある。Ford、TargetやCitigroupなどの大企業もその中に含まれている。

コロナに伴って変化した働き方であるが、同時にワーカーの意識、そして彼らが求めるものも変化しつつある。ポストコロナの時代に、オフィスはそれらにどのように順応していくのだろうか。今回は、コロナ後に予測されるオフィスインテリアの家具の素材、レイアウトなどの新しいトレンドを紹介していく。

ポストコロナのオフィス トレンドは「ウェルビーイング」

ポストコロナではワーカーの肉体的な健康だけでなく、精神、社会的な健康などの、ウェルビーイングが重要になってくると指摘する専門家も多い。例えば、フロリダに本社を置くインテリアデザインの会社、Studio Plusは、このパンデミックにおける世界のニーズに応えながら、ハイエンドなオフィス環境を提供するためのソリューションとして、ワーカーの健康とウェルビーイングを大切にする姿勢を見せている。ワーカーにとって安心して働くことのできるオフィスをつくることが今後のオフィス環境づくりの鍵となってくるだろう。

自然との触れ合いでリフレッシュ・リラックス効果を

去年から始まった新たな流行として、オフィスをよりリラックスして仕事が行える場所にする、自然との繋がりを大切にする、というものがある。American Psycological Associatonの研究でも、自然に触れることが直接脳に刺激を与え、ストレスを軽減、集中力を向上させ、気持ちを明るくしてくれる効果があることがわかっている。

オフィスに自然を取り入れるためにできること

➀アウトドア・屋外へのアクセス

アメリカの建築設計事務所Genslerは2021年のオフィストレンドの一つとして、「アウトドアとインドアの融合」を上げている。 

ーサンフランシスコ フェイスブック社のテラス (Gensler ホームページより引用)

屋外とオフィスとの往来により自然な空気の流れが生まれることが、テラスやバルコニーへのアクセスが重要視される理由である。自然とこまめな換気がされるため、ワーカーの空気感染に対する心配を緩和できる。

実際に、Gensler社の抱えるプロジェクトの一つ、Assembly at North Firstプロジェクトは、カリフォルニアで建築中の建物は長屋スタイルの水平な建物を中心とし、周囲に自然の多い庭やテラスなどを意図的に配置することでアウトドアとインドアの融合を実現しようとしている。

ーサンホゼ Assembly at North First プロジェクト建物マップ (Gensler  ホームページより引用)

また、同様に屋内においても自然を取り入れようとするアイディアも広く受け入れられており、自然を感じさせるデザインや素材の家具も現在のインテリアトレンドの一つだ。

②グリーンウォール ビジュアルだけじゃない、もう一つの魅力

屋内で楽しめる自然的な要素の一つ、オフィスに自然を導入する為の画期的な案として、昨今パンデミックに伴い人気が急増しているグリーンウォールを紹介したい。 

ーマクドナルド シカゴ本社 (OFFICE SNAPSHOTSより引用)

現在世界中で再びニーズが急上昇している大きな理由として、コロナウイルスの影響で建物内の空気の質に対する意識が高まったことが挙げられる。屋内における植物は、視覚的な効果やストレスを軽減させることだけが目的ではない。光合成の過程でCO2や毒素を取り込み、きれいな酸素を送り出すことで、室内の空気をきれいにするシンプルで効果的なソリューションを提供してくれるのだ。

更に、最近になって植物がウイルスの空気感染対策に一役買っている可能性があることがわかってきた。ハーバード大学医学部の研究によると、室内の湿度は40〜60%に保つことが望ましい。湿度が低いと、喉、皮膚が乾燥し、風邪をひきやすくなったり、空気中や表面に生息するコロナウイルスや、インフルエンザなどの病気にかかりやすくなってしまう。生命活動の一環として常に水分を空気中に吐き出し、一定の湿度を維持してくれる植物は、それらの懸念を払拭する存在だ。

また、グリーンウォールは持続可能な環境づくりの一環としても高い評価を得ており、ポストコロナ以降も、より普及していくだろう。

コロナによって加速したインテリアデザインのトレンドは?

ここまでは、ウェルビーイングを高めるためにオフィスへ取り入れられる、「自然」を意識した要素について取り上げた。一方で、オフィスのインテリアはどういったものが好まれているのだろうか。

➀Resimercial design   居住空間とオフィスの調和

在宅・リモートワークを余儀無くされる状態が終わりを迎え、ワーカーたちがオフィスへ再び戻ってくる動きを見せつつある欧米諸国では、「Resimercial design」(レジマーシャルデザイン)が再度注目を集めている。これは住居(Residence)と、商業やビジネスといった意味を持つ(Commercial)を合わせた造語で、一般的に、オフィスに家の様な雰囲気を取り入れたレイアウトや家具のスタイルのことを指す。

在宅勤務を経験したワーカーは、自宅で仕事をすることに慣れてしまったため、従来の堅苦しいオフィスに抵抗をもつワーカーが増えている。オフィスをよりリラックスできる場にし、過ごしやすくすることが、この新しいトレンドの大きな目的と言える。既にMicrosoft、Google、Uber、Yelpなどの大企業が取り入れており、実際に効果を上げている。 

ーリビング・ダイニングを意識したオフィス例

家とオフィスを融合させたこの新しいインテリアデザインは、いくつかのポイントさえ押さえれば誰でも比較的簡単に取り入れることができる。例えば、

  • 実際の家の様に、家具に多種多様な素材や仕上げを使用して、空間を無機質に感じさせないようにする
  • 従来のように蛍光灯だけでなく、バリエーション豊富なタイプの照明を取り入れ、落ち着いた雰囲気を出す
  • 状況や必要に合わせ臨機応変に変化するために、可変性を重視した家具を組み合わせる

といった工夫がある。

Resimercial  design は、職場環境のウェルビーイングを向上させるために必要不可欠だろう。ソファやカジュアルな椅子を増やし、従来の固定されたデスクなどを無くすことで、オフィスをよりアクティブな場所にすることができる。デザインの大きな特徴の一つとして、ストレスを軽減することに加え、人々がより活発にオフィス内を動き回るので、積極的なコミュニケーションの促進にも繋がる。

②アースカラー・色彩で感じる大自然

次に、インテリアを構成する重要な要素として色彩に注目したい。今年最も注目を浴び、ポストコロナの時代に人気はさらに高まっていくことが予想されるカラーパレットに、「アースカラー」がある。 

ーアースカラーを使ったインテリア例 

インテリアデザインを主に取り扱うメディア、Elle Decorは、アースカラーについて、自然に根ざした色であり、落ち着きのある落ち着いた色調で、汎用性が高いのが特徴、としている。チョコレートブラウン、モスグリーン、マスタードなどの濁った色は、すべてアースカラーのカテゴリーに属する。これらの色は屋外からインスピレーションを得たもので、ナチュラルな色合いはインテリアをより家の様な落ち着いた雰囲気にしてくれる、魅力的な色だ。

ーアースカラー イメージ

ーアースカラー イメージ

 アースカラーに入る色は暖色だけではない。緑や紺などといった、植物や海などを思い起こさせる色も含まれている。屋内でありながら、大自然を感じさせ、空間に広々とした奥行きを持たせてくれるアースカラー。トレンドの背景には、やはりパンデミックから外出自粛を余儀なくされた背景があるだろう。

居住空間とオフィス空間を融合させ、リラックスした空間を作り出すResimercial design と、落ち着いた色合いのアースカラーは非常にバランスが取れた、相性の良い組み合わせだ。

③Curved Shape   穏やかな曲線で優しい雰囲気に

また、色の他に、家具の形もインテリアを形作る重要な要素の一つだ。曲線や丸みを帯びた形は、今年の大きなトレンドだと言える。角のない、丸いモチーフは優しさや居心地の良さを感じさせ、丸いラグやミラー、テーブル、ソファは空間をより居心地のいいものにする。

米国の住宅向け家具通販会社Wayfairは、丸み帯びた家具のトレンドについてForbesの記事で、丸みを帯びた家具やその他の要素は、空間に明快さ、正確さ、新鮮さをもたらす、と絶賛している。

ーCurved shapeの家具を使った空間イメージ

また、オフィスにおいても同様に、緩やかな曲線は空間にエレガントでもの柔らかな印象を与えてくれる。ストレスを軽減し、家にいる時間と同じ質の高い時間を過ごすことのできる場所はポストコロナのオフィス回帰のためのトレンドになるだろう。 

オフィス家具の素材はどう変化している?

以上、家具の形状について取り上げたが、コロナを受けて、家具を構成する素材はどの様に変化しているのだろうか。

➀マイクロファイバー・コロナを受けて衛生面の配慮も

コロナ前と比べ一番変わったのは、私たちの衛生面への意識ではないだろうか。外出時も手や使用後の机、椅子などの定期的な殺菌消毒は欠かせない。そこで、消毒液で拭いてもシミにならず、掃除のしやすいマイクロファイバー素材の家具への注目度が高まっている。

マイクロファイバーとは、直径が10マイクロメートル以下のポリエステルやナイロンの超極細繊維で作られた生地だ。耐水性に優れており、細かい織り目が水分を内部へ入り込みにくくしている為、シミができにくい。また、同じ方法で汚れを表面だけに留めるので、消毒時に綺麗に拭き取ることができる。表面が乾くのが早いのも魅力的な特徴だ。

②木材 セルフクリーニングで手間を省く

マイクロファイバーと同様に、衛生的な面で人気を集めつつあるのが木製の家具だ。森林に特化したフィンランドの専門メディアforest.fiによると、コロナウイルスなどのウイルスは、プラスチックなどに比べ、木の表面では感染力が急速に弱まることが分かっている。そのためオフィスだけでなく空港、病院など人が多く集まる場所での木製の家具の使用が急増している。

木材でできた表面はウイルスだけでなく、細菌にも有効である。木には天然の抗菌・殺菌作用があり、汚染物質を除去することができる。また、木の表面は比較的乾燥するのが早い為、細菌にとって住みづらく、繁殖しづらい環境を作り出せる。

例えばスウェーデンのデザイン会社Green Furniture Concept によって開発された Ascent Seriesと呼ばれる椅子は、掃除のしやすさ、機能性、柔軟性などを兼ね備えており、ポストコロナに最適なデザインのプロダクトとして最適だ。 

ーAscent Series 空港での使用イメージ(Green Furniture Concept ホームページより引用)

全て持続可能な天然素材、リサイクル素材で作られており、木製の座面は抗菌だ。また肋材は取り外すことも可能であり、用途の幅も広がる。衛生面はもちろん、様々な形のバリエーションがあるこのプロダクトは柔軟性の面から見ても魅力的だ。社会情勢によって、刻一刻と変化し続けるオフィスの形にとって、こういった家具の需要は高まっていくことが予想される。

③吸音素材 雑音のない、落ち着いた空間

人が集まるオフィスには雑音がつきものだ。会話、電話の呼び出し音、キーボードのクリック音などが絶え間なく続く。これらの音は、発生源から放射され、あらゆる表面に反射する。そこで、注目を集めているのが吸音効果の高い素材で作られた家具たちだ。例として圧迫感が少なく柔らかな表面材によるソファブースがある。 

ー吸音素材を使ったソファの例 (Muffle オカムラホームページ

パーティションとセットになったモジュール式のソファは、繋げることでよりプライベートな、機密性の高い情報を落ち着いてシェアしあえる環境を提供してくれる。騒音を減らし、静かな環境を作ることで、オフィスを家のような居住空間に近づけている。

これからのCMF、注目されるのは「ワーカーの健康への配慮」

ポストコロナのオフィスデザイントレンドに共通して言えることは、いかにオフィスをリラックスでき、ストレスの少ない場所へと変身させられる点だ。前半で紹介した自然を取り入れることやアクセスできるレイアウト、Resimercial design然り、トレンドの背景にはワーカーが心身ともに健康であり、仕事にベストを尽くせるオフィス空間作りがコンセプトとしてある。どちらも、コロナ加速したウェルビーイングへの意識の変化による影響がうかがえる。

 今回紹介したトレンドは、ポストコロナにおいてワーカーが求めるオフィスのあり方の一部でしかない。そして今後、オフィスインテリアに問われるのは、社会の情勢やワーカーの求めるものに合わせて素早く対応、変化できるフレキシビリティ(柔軟性)を持った空間なのではないだろうか。

2021年7月14日更新

テキスト:松尾舞姫