【現地レポート】作業が終わるまでは帰れない! 高円寺の「動画編集カフェ」ってどんな場所?
「動画が完成するまで帰れない」「とんでもないカフェができてしまった……」とTwitterトレンド入りした『動画編集カフェ』というキーワード。その正体は、動画配信スタジオ「高円寺三角地帯」が不定期にオープンする、動画編集者だけが利用できるカフェです。
入店時に「今日はこの動画を編集します!」と店主に宣言し、シートに記入。その宣言が達成されるまで帰れない仕組みになっているのだとか。これだけ聞くと、めちゃくちゃ怖い……!
一体、どんなお店なのか? ズルして帰る人はいないの? ライターのつるたちかこさんが実際に『動画編集カフェ』に潜入し、店主の川井拓也さんにお話を伺いました。
―川井拓也(かわい・たくや)
六本木・大手町・高円寺の動画配信スタジオ「ヒマナイヌスタジオ」代表。スタジオ運営をしながら、全国のスタジオコンサルを手掛け、配信ディレクターとしても活躍中。2021年11月には、撮影スタジオとして利用している高円寺三角地帯を、動画編集カフェとしてもオープンさせている。
「頑固親父のいる店」をやってみたい!
「完成するまで帰れない」と聞いて、とても怖い場所なのでは……?と思っていたのですが、すごく居心地のよい店内ですね。
つるた
川井さん
全然怖くないですよ!(笑)
今、コーヒー淹れますね〜。
(コーヒーまでいただけるの!?
すごい優しい……!)
つるた
川井さん
『高円寺三角地帯』は、基本的には動画配信スタジオなんです。飲食店の居抜き物件だったので、イタリアンバーのリアルな雰囲気を活かし、スタジオとして幅広いジャンルの方に活用いただいています。
けれど、平日の昼間などどうしても「空き時間」ができてしまう。経営者としては、その時間をうまく活用したいじゃないですか? そこで、何か面白いことできないかな〜と考えて生まれたのが「動画編集カフェ」でした。
なるほど!
スタジオの空き時間を有効活用するためだったんですね。
つるた
川井さん
飲食店許可も取っていたので、最初は飲食店でもやろうかと考えましたが、その道のプロには敵いませんし、カウンター中心の店なので、コロナ禍を考えると集客も難しい。コワーキングスペースとして開放することも考えましたが、高円寺の周辺には格安で使えるスペースがたくさんありました。
この場所を何か特徴づけて、他にはない価値を生み出せる方法を考えていたとき、「頑固親父がいる店がいいなぁ〜」と思いつきまして。
頑固親父……ですか?
つるた
川井さん
頑固親父のいる店って、敷居の高さはあるけれど、ハマると心地よいでしょう? その雰囲気を再現したいな、と。クリエーターたちがコンテンツを発信するような場所になったら、僕自身も楽しいし、この場所でやる意義がある。
方向性を決めた後は、クリエーターズラボやビデオグラファーラウンジなど、いろんなネーミングを考えましたが、カッコつけずわかりやすい「動画編集カフェ」と名づけました。
そして、「動画が完成するまで帰れない」というルールを付け加えました。「明日までになんとか作業しないと!」なんて、お尻に火がついている動画編集者たちが集うカフェをイメージしたんです。これがドMなツイッター民にハマったんでしょうね(笑)。
完成したら褒める! “タスク達成型”で満足度もUP
ふら〜っとやってきて誰でも入れるオープンなカフェというよりも、「締め切りに追われている動画編集者」とターゲットを限定したカフェなんですね。
つるた
川井さん
ノートパソコンが1台あればいいので、最近はいろんな場所で動画編集できるようになりました。けれど、近所のカフェには電源コンセントがなかったり、Wi-Fi速度が遅かったり、2時間以上いると周りの目も気になったり……。頑張りたい気持ちがあっても、公共の場では集中できない。
そんな「動画編集者」にとって心地よい場所はどんなところだろうか?と、ニーズを探りながら最適な環境を作っていきました。
川井さん
また入店した際は、シートに記入いただくのですが、何時間で何を終わらせるか、タスクを書いてもらいます。そうすることで、僕も「調子どう?」なんてたま〜に声をかけてあげることができます。
なかには手を上げて、「川井さん、今日のタスクを達成しました!」って報告してくれる人もいるので、その時は全力で「〇〇さんができました! みなさん、拍手〜〜!」と褒めます。
みんな動画編集という共通の目的で集まってきているので、作業内容は違ってもどれだけ大変なことなのか苦労は分かち合えます。仲間がいて、頑固親父が見張っているからもっと頑張れる、そんな雰囲気がありますよ。
めちゃくちゃアットホーム!
みなさんどれくらい滞在されるのでしょうか?
つるた
川井さん
多くの方は、「2時間でタスクを達成する!」と宣言されますが、実際は4時間くらいの利用が多いですね。もちろんタスク達成できない方もいますが、大事なのは宣言して、達成しようと頑張ること。
30分ごと150円(税込・キャッシュレス決済のみ)を支払えば、コーヒーは飲み放題で、飲食の持ち込みもOK。
目の前にコンビニもあるんですけど、編集を始めると多くの人がゾーンに入ってしまって、「交差点を渡る時間もいやだ!」と思っちゃうみたいで。最近では「川井さん、その冷蔵庫にあるドリンク売ってくれない?」と聞いてくる人も増えました(笑)。
すごい集中力……(笑)。
お仕事で利用される方が多いのでしょうか?
つるた
川井さん
個人・法人問わず、いろんなジャンルの動画制作者が集まっています。
動画編集と聞くと企業の仕事と思う人も多いかもしれませんが、最近では、個人間で仕事を請け負っている人も増えてきました。
撮影から編集・配信までひとりでやっているYouTuberもいますし、フリーのクリエイターさんに動画編集をお願いしているYouTuberもいるので、「今月は20本編集があって〜」とやってくる方もいます。
これまで動画編集の仕事は企業が企業へ依頼するのがメインでしたが、今は誰もが動画を作れる時代。
企業から個人、個人から個人への依頼も増えてきています。もちろん、大学の課題や趣味の動画を編集しにやってくる人もいますよ。
利用者3名に質問! 動画編集カフェはどうですか?
席の間隔を空けて利用できるよう、現在は定員5名にしているそう。この日は3名の方にお話を伺うことができました。
1人目は、趣味で撮影した動画の編集にきた今江 誠さんです。
今江さん
店主の川井さんと知り合いなのですが、動画編集カフェをオープンしたと聞いてやってきました。
今日は、趣味で撮影していたタイムラプス動画が溜まってきたので整理したと思っています。家だとなかなか集中できないのですが、ここにくると環境がいいので集中できて快適ですよ。
編集中の動画を見せてもらいましたが、とっても素敵な軽井沢とお台場の動画でした。趣味の動画だとついつい後回しにしてしまいますが、思い出の時間を振り返りながらの作業も楽しそうでした。
2人目は、もともと高円寺三角地帯の利用経験があり、Twitterで話題になってから「動画編集カフェにも行きたいなぁ」と機会をうかがっていたという、写真家・ライブ配信エンジニアの下司 智津惠さん。
下司さん
カウンターに座ると、外が見えるのがすごくいいんですよ。
すぐに作業できるので、撮影したその日の気持ちが切れないうちに、『とりあえずここまでまとめる』とここへ来て編集するのがいいかも。
普段はついダラけちゃうんですけど(笑)、入店時の目標シートに記入することで、いつもより作業が早く終われそうな気持ちになりました。早めに作業を終わらせて、動画の出来を確認して帰れればベストです!
動画編集カフェには、大きなディスプレイがあるのでそこで動画のチェックができるのがおすすめとのこと。完成後にみんなで確認できるのはいいですね。
3人目は、イベントアクセラレーターとして活動されている西舘 聖哉さん。下司さんに誘われてやってきたそうですが、すっかり動画編集カフェの虜になってしまったそう。
西舘さん
ワーケーションブームで全国の好きな場所で仕事ができるようになりましたが、Wi-Fiが遅かったり、電源コードが足りなかったり、いまひとつ……な場所もありました。
この動画編集カフェは、動画編集に特化した環境が整っているのがいいですよね。
それにここにいる人は、全員が動画編集者。店主の川井さんとお話するだけでも本当に楽しいですし、いろんな人が集まってくるので、駆け出しの人にとっても刺激的な場所になると思いますよ。
全国を飛び回りながら、動画配信のサポートもされている西舘さん。コロナ禍で動画ニーズは確実に増えていると教えてくれました。
利用者同士のコミュニティづくりに繋げたい
実際に利用いただいた方の声もお伺いしましたが、皆さんの満足度もとても高く「全然怖い場所じゃない!」と感じました(笑)。
つるた
川井さん
全然、怖くないですから! Twitterで話題になったことで、警戒されているかもしれませんね(笑)。
今後は、動画編集というつながりを大切にしながら、ティップスを共有しあったり、動画編集スクールだったり、コミュニティ化していけるといいですよね。
なかなかコロナ禍で難しいですが、落ち着いたら「動画編集酒場」もやってみたいです。同じ仲間が集い、情報交換できる場になれば、僕自身も楽しいですし、コミュニティが広がりますからね。
個人的には、「ライターカフェ」もほしくなってきました!
つるた
川井さん
実は今、「原稿執筆カフェ」の話も進んでいて。こうしたタスク限定型コワーキングスタジオを広げていきたいと考えているんですよ。
ライターはもちろん、フォトグラファーカフェ、音楽制作カフェ、デザイナーカフェと横展開も考えています。
店長さんはそのコミュニティに属している方にお願いして、全国いろんな場所にクリエイターたちの溜まり場ができると楽しくなると思います。
今後の活動についても気になる「動画編集カフェ」。怖さどころか、川井さんの優しさに包まれ、あたたか〜い気持ちになりました。
カフェのオープンは不定期とのことなので、最新の営業情報は店主・川井さんのTwitterで確認するようにしましょう(2022年2月に取材実施)。
動画編集カフェ
東京都杉並区高円寺北2丁目1−24
2022年2月取材
編集:ノオト