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宮大工の棟梁精神が生きる「高層木造ビル」の可能性 - 竹中工務店

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。

あらゆる業界で具体化が求められる脱炭素社会の実現。グローバル社会では木という自然資源の価値が再評価され、高層木造ビルが建てられている。


脱炭素に先進的な欧米諸国やグローバル企業では、木がもつ炭素貯蔵機能に着目し、中高層木造ビル建設を徐々に進めている。米・グーグルも英国で木造ハイブリッドの社屋を建設中であり、建築業界において今や「木造建築」は世界的なトレンドとなっている。

 その中で日本は、少しだけ事情が違う。日本にある約2500万haの森林のうち、およそ4割は人工林。これらは第二次世界大戦で荒廃した森林の復旧や、高度経済成長期の基盤となる木材供給のために拡大され、育成が続けられてきた。現在、それらの森林資源は、成長し使うフェーズに立っている。そこに脱炭素化という大きなニーズが生まれた。こうした時代を背景に、国内では竹中工務店が中高層木造ビル建設に大きく動き出している。

耐火仕様の燃エンウッドにより実現可能となる、20階建ての高層木造建築モデル「Alta Ligna Tower(アルタ・リグナ・タワー)」

現代の技術を活用した木のハイブリッド建材、誕生

宮大工の棟梁を起源とする竹中工務店は、1610年に創業した。江戸時代の棟梁は、設計から施工、修繕まで、注文主の思いに一貫した思想のもとで対応し、その品質に一元的に責任をもっ
ていた。同社は、神社仏閣の造営を主業としていた時代から、この棟梁の精神を脈々と受け継ぎ、社会の思いに応え続けている。いまでは誰もが知る大手ゼネコンとして、国内外で数々のラ
ンドマークとなる建築物を手がけ、歴史的・文化的な価値の高い建築物の保存・再生プロジェクト、伝統建築の再建・修復にも数多くの実績がある。

 鉄やコンクリートで造られる近代建築の歴史は100年余り、それ以前の300年超を宮大工として研鑽してきた竹中工務店は、木に対して強い思い入れがある。

 2010年、日本の建築業界のこれからを示す法律が施行された。公共建築物等木材利用促進法により公共建築物に対する木材利用が推進され、21年の同法改正で民間建築物も対象となった。
こうした社会環境の流れを受けて、竹中工務店は13年に木材利用と木造建築にイノベーションを起こす木製の“燃え尽きない”ハイブリッド建材を実用化した。さらに、16年には木造・木質建築推進本部を発足。同社が掲げる森林資源と地域経済の持続的な好循環を実現する「森林グランドサイクルⓇ」の実行部隊を担うなかで、新たな技術を引っ提げ、日本初となる10階建ての中高層木造建築物を実現した。以降、全国各地で中高層木造ビル建設を推進し、25年竣工を目指す国内最大・最高層のオフィスビル建設計画も着々と進めている。

 ただ、建築物のすべてを木材で造るわけではない。木・鉄・コンクリートそれぞれの特性と長所を生かすことで、文字通りの“適材適所”によって夢を現実に、というわけだ。

人が集まる場にこそ木造は生きる

木造建築に備わるSDGs達成、ESG投資、サステナブルといった環境面での価値は、今後さらに高まっていくだろう。一方で、竹中工務店が手がけた中央大学・多摩キャンパス「FOREST
GATEWAY CHUO」には、さらなる要素が組み込まれている。同社参与木造・木質建築統括の松崎裕之は「建材の一部に多摩・青梅の杉を使用し、同大の学生や教育者らが伐採などの作業に参加している。自らが使う建物の材料を切り出し、造ることで愛着が生まれ、大事に使おうとする。いわば地産地消の建築で、これが森林グランドサイクルのあり方のひとつ」と話す。この取り組みは、出来上がった建物にとどまらず、それを構成する建材サプライチェーンの持続性も支える新しいスタイルとなる。

2020年2月に都市部で木造・木質化建築を実現するためのさまざまな技術を採用して建設された、12階建て単身者向け社宅「フラッツ ウッズ木場」。高層ビルの内外装に、木が“現し”の木造部材や木質建材を取り入れることで、やわらかな風合いを実現し、木のぬくもりのある快適な空間を実現した。

 また、働き方においては、別の意味での“環境”も効果を発揮する。「ストレス軽減など、木による癒やし効果が研究結果として出てきている。そうした健康やメンタルに関わる付加価値が求められつつあり、海外では木のぬくもりを感じられるオフィスをもつ企業に、優秀な人材が集まりやすいというデータもある」

 テレワークなど柔軟な働き方がもてはやされる一方で、木造オフィスが今後の人材獲得シーンで重要な役割を担う可能性は高い。

 経済成長が最優先とされた時代、効率と生産性が求められ、より高くより大きくと建築は発展してきた。時代が変わり、地球環境と人のウェルネスに重きが置かれ、地域に根差した建築とは何か?が問われた。世界が出した答えのひとつが、木造だった。

「都市の木造建築において、宮大工が数百年もの間、伝統文化として継承してきた日本には、先人の知恵と営みの蓄積という強みがある。建築業界でなくとも、木造への親しみはDNAに刻まれているでしょう」

 建物は仕事、生活、娯楽など、あらゆるシーンで人が活動する場となる。日本独自の建築物と培われてきた技術を顧みれば、その中にはグローバルにサステナブル社会を実現するヒントが隠れている。

2022年5月取材

テキスト:中村大輔
写真:竹中工務店 提供