働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

趣味と仕事を重ねたら、役員を巻き込む変化が起きた 日水真理さんが富士通で始めた「スナックまり」の軌跡

仕事で思ったような成果が出せない時、キャリアにモヤモヤを抱えた時。あなたならどうしますか?

こんなもんだと諦めてしまう、新たな活躍の場を探して転職する、気持ちを奮起させ挑む……とさまざまな考え方があるでしょう。富士通株式会社の日水真理さんは、そんなモヤモヤを社内でのスナック運営で解決し、なんと部署異動まで実現してしまった人。

新卒入社後、仕事の成果を出せず悩んでいた時にプライベートでスナックを開始。そこから様々な“運命”に導かれ、なんと入社4年目には社内でスナック活動を展開。オンラインスナックにはなんと660人を集客するほどに! 現在は社内でも「まりママ」の愛称で親しまれているのだとか。

今回は、日水さんがまりママになるまでの経緯と会社の中で「自分らしく」働くためのヒントを伺いました。

会社のコミュニティから脱したくて始めた、スナックのママ活

日水真理(ひみず・まり/まりママ) 2017年に富士通株式会社へ入社。4年間ビジネスプロデューサーを経験した後、2021年から現在までスマートシティを中核とする新規事業創出を目的とした未来社会&テクノロジー本部に所属。社内有志活動として、2020年よりオンラインコミュニティ「スナックまり」を立ち上げる。

色々と聞きたいことがいっぱいなのですが、まずは日水さんがスナックのママになったきっかけを教えてください。

WORK MILL

まりママ

富士通に新卒入社後、配属されたのが営業部でした。ただ、1年経ってもなかなか思ったような成果が残せず……。仕事やキャリアについてモヤモヤが募っていました。

そんな時、友人から「ゲストハウスに行ってきたら?いろんな人と話すと世界が広がるよ。」と言われ、救いを求めて人生初のゲストハウスへ行ってみたんです。そこには宿泊者が集まって話すBarカウンターがあって、家族のような心地よさがありました。それが衝撃で。「いつか私もこういう場を作りたい!」と思うようになったんです。そこから、スナックの活動に繋がっていきました。

急展開すぎます……!(笑) なぜスナックだったのでしょうか?

WORK MILL

まりママ

スナックは、人と話したり、話を聞いたりするのが好きなわたしには持ってこいだと思ったからです。それで、会社員をしながら月1くらいのペースで場づくりができる場所を探し始めました。

そうしたら、たまたま日替わり店長のバー「ソーシャル バーPORTO」が1日店長を募集しているというSNSの投稿をみつけまして。「これは運命だ!」と感じてすぐに応募し、『スナックまり』活動が始まります。

その頃、会社の人たちにはスナックのママの活動を始めることは明かしていなかったのですか?

WORK MILL

まりママ

はい。当時は仕事もうまくいっていなかったので、とにかく会社のコミュニティから離れたくて。

趣味の一環としてママの活動を半年くらい続けて楽しくなってきた頃、仕事の大きなプロジェクトで挫折を味わってしまい……。「このままでは、会社で何も実績を残さないまま終わってしまうんじゃないか」と思ったんです。

それはつらい……。

WORK MILL

まりママ

それが嫌だったので、必死に考えました。仕事で挫折も経験していた私にとって「このままでは終われない! 会社に爪痕を残す!」という気持ちが大きくて。「ひとり背水の陣」状態ですね(笑)。

そうしたら、ちょうどコロナ禍のリモートワークが始まり、2020年春頃からは、オンラインを使った社内コミュニケーションが推奨されるようになったんです。それで、「社内に『スナックまり』持ち込めないかな?」と考えるようになりました。

これまた急な展開!

WORK MILL

まりママ

「やわらかデザイン脳になろう」という社内コミュニティがあり、そちらのミートアップイベントがありました。そこの主催者に『スナックまり』のことを話したら、面白いねと共感してもらえたんです。その一言が、社内に持ち込む後押しとなりました。

まずは、運営メンバーを集めるために仲間を募集して、夏にはオンラインスナックを始めることができました。

10人だったオンラインスナックが、660人にまで拡大!

そこまで、「会社に爪痕を残したい」と思ったのはどういう感情だったのでしょうか?

WORK MILL

まりママ

そうですね……。昔、上司から「自分にしかできない仕事はない」って言われたことがあるんです。

大手の企業だからこそQCDを担保するために仕事が最適化されているのは当たり前かもしれませんが、私は自分の名前で仕事がしたかったし、私だからできる仕事を見つけたかった。だからこそ、自分の宝物でもある『スナックまり』で勝負しようと考えたんだと思います。

オンラインスナックで楽しく語らう、まりママ。

かっこいい! 実際にスタートして、社内の反応はいかがでしたか?

WORK MILL

まりママ

まずはZoomを使って、双方向でコミュニケーションができるスタイルで始めました。初回の参加者は10人ほどで。

大企業特有の「他部署の人とは話したことが全くない」という悩みも解決でき、新しいつながりを生み出すことができました。

また「まりママのおかげで、私も新しいことにチャレンジできたよ」と感謝の声をもらえたのは、本当に嬉しかったですね。

実のところ、最初は「社内活動でスナックってどうなんですか?」とネガティブな声もあったんです。けれど、活動が広まるにつれて、だんだん応援してくれる人が増えていきました。

『スナックまり』をOKしてくれた富士通さんも懐が深いと思っていたのですが、やはりいろいろな意見がありますよね……。

WORK MILL

社内で始めた『スナックまり』初回10人の参加者から少しずつ増え、多い時には35人参加するほどに!

その後はさらに広がって、経営陣も参加したんですよね?

WORK MILL

まりママ

はい。2020年10月に「Talking about my challenge-富士通社員若手座談会-」という富士通の社外向けのオンラインイベントに参加して『スナックまり』の話をさせてもらったんです。

それを見た福田譲EVP CIO兼CDXO補佐から社内SNSを通じて連絡があり、ウェビナー形式のオンラインスナックを開催することができました。

役員の方から直接声がかかるって、すごいことでは……!?

WORK MILL

まりママ

声がかかったときは本当にびっくりしました!一般社員からすると雲の上のような存在でしたからね(笑)。ただ、スナックという場の設定が功を奏して、普段では見られない顔をたくさん知ることができて、役員も人なんだなぁ〜と感じましたね。

集客力も上がって、最大660人が『スナックまり』に参加してくれたんですよ。

『常連客のふくちゃん』こと福田譲EVP CIO兼CDXO補佐と『連れのJulian(ジュリアン)』こと大西俊介SEVPを招いて行われた『スナックまり(特別編)』での1コマ。みんなが笑顔で、楽しそう!

まりママ

またスナック独特の“気さくな雰囲気”が参加者にも伝わって、チャット上でも「スナックだから言えること」がたくさん出てきたんです。

会社が主催する交流会とも異なり、ゲストたちの人柄もよくわかったし、何より社員同士で共感の輪が広がっていくのが手に取るように実感できました。

たった数カ月で本当に大きな岩を動かした感がありますよね。続けていく中で、まりママの気持ちにはどんな変化がありましたか?

WORK MILL

まりママ

自分を取り巻く環境が大きく変わったことから、今後『スナックまり』をどういう取り組みにしていきたいか、考えることが増えてきました。正直、最初は趣味で始めたことだったので、ここまでのプロジェクトになることは想定していませんでした。ただ、その中で少しずつ自分なりの覚悟が固まっていきました。自分の軸が見つかってきたというか……。

『スナックまり』の活動を通じて「私もやりたいことにチャレンジしてみよう」と思ってくれる人が出てきたことから、そうした頑張る人たちの後押しになりたいと思うようになったんです。

まずは「言ってみる」、そして「やってみる」

これを読んでいる人の中には、キャリアについて悩んでいる人もいると思います。これからについてモヤモヤを抱えている人は何をしたらいいと思いますか?

WORK MILL

まりママ

まずは「言うこと」だと思います。「モヤモヤする〜!」でもいいので(笑)。

すぐにカタチにならなくてもいいから、チャレンジしてみたいことを口に出したり、SNSに投稿してみたりすると思わぬところへ連れて行ってくれる人が現れます。

私が趣味を社内の企画にできたきっかけも、社内のミートアップイベントに参加し、『スナックまり』をやってみたいと言ったことでしたから。

話を聞いていて思ったのですが、まりママが前向きに「これは、運命だ!」と感じる力、本当に素晴らしいですよね。言ってみる、そしてやってみることが良い連鎖を生み出していると感じます。

WORK MILL

まりママ

ありがとうございます。社会人5年目には、企画職への部署異動も叶いました。これも『スナックまり』のおかげです。

現在は、未来社会&テクノロジー本部で、エキマトペ(※1)をより多くの方に知っていただくため、社内外へのPR活動を支援しています。

また副業として、コワーキングスペース「SAAI」のBar変態でもチーママ(コミュニティマネージャー)を担当しています。

※1:駅のアナウンスや電車の音といった環境音を、文字や手話、オノマトペとして視覚的に表現する装置のこと。富士通株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、大日本印刷株式会社 (DNP)、株式会社JR東日本クロスステーションがプロジェクトチームとなり、2022年6月15日から12月14日までJR上野駅の1・2番線ホームで実証実験が行われている。

営業で挫折していた頃の自分にこんな未来があるよって言ってあげたいですね!

ちなみに、社内では『スナックまり』の活動を続けているのですか?

WORK MILL

まりママ

今は、Zoomなどオンラインでの実施はしていません。言い方が難しいのですが、『スナックまり』は場を超えて、概念になった感じなんです。

概念?

WORK MILL

まりママ

私がいる場所が『スナックまり』というか……(笑)。例えば、社内SNSでオンライン上の相談箱を設置し、社員のお悩みにこたえる企画を実施しました。

それが好評でいろんな相談が寄せられる様になりました。スナックという場を作らなくても、どこにいても『スナックまり』ができるようになったんですよね。

ありのままの個の想いを繋いで、“心震わす”体験を

今後の目標を教えてください。

WORK MILL

まりママ

全国にいる富士通社員をつなげていけるよう『スナックまり』全国ツアーに挑戦したいです!

オンラインだけでお会いした社員が全国にたくさんいるので、今度は私がそれぞれの地域にお邪魔して、活躍している社員さんと交流できたら楽しいだろうなぁと。

楽しそう! まりママを中心として、今までつながることのなかった人たちが出会い、会社としても可能性が広がっていきそうですよね。

WORK MILL

まりママ

私自身が『スナックまり』を通じて、「やってみたい!」という想いを形にできたように、それぞれに抱えている「想い」をありのままに話せる場をつくり、個と個を繋げていきたいと思っています。

「実は私もそれ、やってみたかったんだよね!」と心に抱えていた想いを共有し合えた瞬間って、心が震えるような感動があると思うんです!そんな瞬間をたくさんつくることができたら嬉しいです。

6/8開催イベント:「シン・オフィス探求 スナック編」申し込み受付中!

富士通の中で「スナックまり」を展開する日水真理さんをお招きし、組織の垣根なくフラットなコミュニケーションがとれる場として、オフィスに「スナック」をつくると仮定した際のお話を伺います。

2022年9月取材

取材・執筆=つるたちかこ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト