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国内4000個近くのベンチ情報がここに。会社員が7年かけて「座れる場所」をまとめた理由

アポ先にちょっとだけ早く着いてしまったとき、外出先で急にファイルを送らないといけなくなったとき。

「カフェに入るほどでもないけれど、一瞬だけPCを開いて作業できる場所があればいいのに!」と思うことはありますよね。

そんなお悩みを解決してくれるサイトがあることをご存知でしょうか? 全国各地のベンチを探せる『座れる休憩場所検索』です。

このサイトには全国4000近くのベンチ情報が集約されており、そのうちの半分以上を管理人のペン太さんが収集しています。集め始めたきっかけは一体? ペン太さんにたっぷりとお話を伺いました。

ペン太
『座れる休憩場所検索』の管理人。平日は都内のメーカーでエンジニアとして働きながら、全国の“座れる場所”を収集している。社会人5年目だった、2017年5月頃からサイトやSNSでベンチ情報の発信を開始。個人だけで全国2800以上のベンチを調査し、サポーターメンバーも集まってきたこともあり、2024年8月1日時点で3943件のベンチが登録されている。

なぜ座れる場所、ベンチの調査を……?

本日はよろしくお願いいたします! 早速なのですが、なぜ「ベンチ」の情報を集めようと思ったのでしょうか?

ペン太

社会人4〜5年目の頃、仕事の移動中に大手町付近で体調不良になってしまったんです。「とにかく外の空気を吸いたい」と外に出たはいいものの、どこにも座れる場所がなくて……。

誰かに休める場所を尋ねる元気もなく、カフェを探して入る気力もなく、さまよっていたところたまたまベンチを見つけて休むことができました。

この経験から僕と同じように困っている人もいるのではないかと考え、『座れる休憩場所検索』を始めたんです。

「座れる休憩場所検索」では、地図・駅・ジャンル別、そしてキーワードを入力し、座れる場所を検索できる。(提供画像)

ご自身の体験から生まれたサイトだったんですね! その時のベンチは掲載されているのでしょうか?

ペン太

それが、どこにあったベンチなのか全く記憶になくて……。

え〜!?

ペン太

体調が悪くて、頭もぼ〜っとしていたので、どこのベンチに座ったのか思い出せないんですよ(笑)。

「これかな?」というベンチがあればぜひ教えてください。

1日も早く、幻のベンチと再会してほしいです!

ちなみに7年もサイトを運営されていますが、ウェブの知識やSNSは得意だったのでしょうか?

ペン太

学生時代にちょっとWebサイト制作をしたことがある程度で、ITの知識はほとんどありませんでした。

まずはブログのような形から始めて、2年目に「キャラクターをつくろう」とペンギンのペン太を知人に描いてもらいました。

なるほど。

ペン太

その後、地図検索を追加したり、LINE上で検索できるプログラムを作ったり、投稿できるようなメンバー制度を構築したり、少しずつ現在の形に近づけていきました。

LINEの友達登録をすると、目的に合わせた座れる場所を推薦してくれる。(提供画像)

ベンチはポテンシャルの宝庫だ

働きながら全国のベンチを見つけ、紹介する……。

それだけでも大変なのに、LINEスタンプの販売やYouTubeチャンネル運営、インスタの投稿もかなりこだわっていますよね? お休みはあるんですか?

ペン太

正直、休みたいよりも、作りたい気持ちが強くて。

『座れる休憩場所検索』が自分の作品のような気持ちになっているんですよね。どんどんこだわりが増してしまい、あれもしたい、これもしたいと欲求が止まらないんです。

その情熱は一体どこから……?

ペン太

う〜ん……。振り返ってみれば子どもの頃から追求したい気持ちが強かったのかもしれません。自由研究の創作課題でも、細部にまでこだわらないと気が済まない子どもでした。

たとえば、大学生の頃にたまたま手に取った『ツーリングマップル』(昭文社)に、面白そうな場所がたくさん掲載されていたのを見て。

全国の秘境や絶景を見たいと巡っているうちに、いつの間にか日本一周していたんです。

え、どういうことですか!?

ペン太

「日本一周するぞ」と決めたわけじゃなく、長期休みなどを使って気になる場所を巡っているうちに、最北端も最南端も行ってしまっていたという……(笑)。

本州最南端の鹿児島県佐多岬のソロツーリングでキャンプした時(提供写真)

ペン太

実は『座れる休憩場所検索』も似ていて、日本一のベンチサイトを目指して始めたわけではなく、こういうサイトがあったら便利だな〜と、始めました。

「もっと使いやすいように」とこだわっていくうちに、何千箇所ものベンチ情報が集まっていったんです。

訪問できるエリアに限りがあるためどうしても偏りは出てしまうものの、さまざまなエリアのベンチ情報を歩いて探索して掲載している。(提供画像)

ペン太

僕自身がいろんなことにチャレンジしたくなる性格で、考えるよりも行動派なんですよね。

あと、自分が作ったものを誰かに使ってもらう、役に立っていることを実感することでモチベーションがわいてくるようにも感じます。

常に高いモチベーションが保たれているわけですね。

ペン太さんの熱意と工夫が詰まった『座れる休憩場所検索』ですが、どんな人たちが使っているのでしょうか?

ペン太

一言で傾向をお伝えするのが難しいくらい、さまざまな方にご利用いただいています。

まずは、持病をお持ちの方や子連れの方のお休みスペースですね。そして、会社員の方のランチスペースやテレワークスポット、読書やコーヒーを楽しむ憩いの場、待ち合わせ場所など。

「〇〇〇〇なシチュエーションで使えた」「このサイトがあって助かった」という連絡をいただくこともあって。

座ってお休みするだけじゃないんですね!

ペン太

ベンチって、時代の変化にも柔軟に対応できるんですよ。

(ペン太さんの目の色が変わった……)

そ、そ、そうなんですか? 詳しく聞かせてください。

ペン太

一般的なベンチって、昔からあるし、あまり目立たないですよね。

しかし、ここ数年だけでも、コロナ禍で起きたソーシャルディスタンスやテレワーク、テイクアウトの増加などの変化がありましたが、ベンチはその時々のニーズに柔軟に対応しているんです。

確かに、当たり前の存在だと思っていましたが、助けられているのかも……。

ペン太

自然に時代の変化にフィットできるベンチのポテンシャルは高く、今後も地域コミュニティや商業活性化につながっていくと考えています!

ベンチの可能性についてはスライドでもわかりやすくまとめている。(引用:https://sitdownplace.com/siteinformation/)

ベンチ探しをしながら「歩く楽しみ」を

ペン太さんが、ベンチのポテンシャルに気づいたのはいつ頃なのでしょうか?

ペン太

サイトを立ち上げて2〜3年、ちょうどベンチを1000カ所くらい投稿したタイミングでしたね。

最初は一人で投稿していたのですが、この頃から誰でもベンチ情報が投稿できる「メンバー制度」を導入しました。現在、1300人ほどが登録しています。

メンバー制度?

ペン太

メンバーとして登録すると、ベンチ情報を投稿できるんです。

それだけでなく、ここのベンチの情報が知りたいというリクエストを送ったり、お気に入りのベンチ情報を保存したりすることもできます。

提供画像

ペン太

個人的に、特におすすめしているのが「ベンチカード」。

サイトに登録されているベンチにチェックインするとオリジナルのカードがゲットできるシステムです。

提供画像

投稿したくなる仕組みを作っているんですね……!

ペン太

はい。私自身が都内在住ということもあって、現在は首都圏を中心にベンチ情報が集まっています。

ですが、今後は全国各地にメンバーを増やして、活動を広げていきたいと思っています。

取材前に近所のベンチ探しをしてみたのですが、思っていた以上に楽しかったです。

後ほど、投稿しますね。

ペン太

ありがとうございます。楽しいですよね。

僕自身も街を歩くのが好きなので、なんとなく「この角にいいベンチありそう」とか「あの屋上にあるだろう」ってピンとくるんですよ。

すごい能力……!

ペン太

そもそもベンチの情報がまとまっているサイトがないので、自分で探すしかないんですよね。

ベンチを探すためには、大通りではない道や商業施設の屋上などもくまなく歩かないといけません。すると、意外な場所でおいしいお菓子屋さんやオシャレなお店を発見できたりするんです。

ベンチを探しながら街を歩くのが楽しみにもなっています。

ペン太さんおすすめのベンチって?

ペン太さんがおすすめするベンチを知りたいです!

ペン太

まず、銀座の東急プラザにある「銀座キリコテラス」のベンチはおすすめです。無料でくつろげる、銀座のオアシスのようでした。

銀座の東急プラザにある「銀座キリコテラス」のベンチ(提供写真)

都会のど真ん中ですね!

ペン太

立川市のGREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)という商業施設。椅子と机が一緒になったアメーバのようなベンチが最近は増えているんですよね。

この場所は屋根もあるので、テレワーク場所としてもおすすめです。

立川市の商業施設「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」(提供写真)

確かに、屋根はテレワークの必須条件かも……。

ペン太

香川県の本島にはこんなアートベンチも。全国的にもパブリックアートのようなベンチは増えている感じがしますね。

香川県・本島にあるアートベンチ(提供写真)

ワーケーションの合間にも良さそう……!

ペン太

他にも東京の品川区では「お休み石」といってサイコロ型のひとり用ベンチが設置されていたり。地域の中で、独特の発展をしているケースもあります。

あ、見たことあります!!

ペン太

日本はベンチが少ないと言われることもありますが、肌感としてはここ数年でベンチの数は増加しているように思います。

コロナ禍で一時使用できなくなっていたベンチもありましたが、再開も増えてきました。

老後の楽しみは、日本中のベンチを巡ること

素敵なベンチをたくさんご紹介いただき、ありがとうございます! 今後の目標を教えてください。

ペン太

アプリを作りたいです。利用者さんからのニーズがあったので、チャレンジをしてみたものの自力ではなかなか難しくて……。

クオリティが高いものを作ろうとすると、誰かにお願いしなければいけない、と諦めています。

ここで募集しちゃいましょう!

ペン太

いいんですか!? ありがとうございます。もしアプリを作ってもいいよ、一緒にベンチのポテンシャルを信じて進んでいただける方、ぜひペン太までご連絡ください。

他にも行政や民間などベンチのデータベースを活用できるような取り組みにも展開していきたいですね。スポンサーさんも大募集中です!

最後に、ペン太さんのアツい想いを改めて教えてください!

ペン太

ベンチは日々いろんな場所にできては、消えていいきます。生きている間に、全てのベンチ情報を『座れる休憩場所検索』に集約することは叶わないかもしれません。

でも、ベンチを探しているとその土地でのオリジナルの思い出が残ります。これって素敵なことだと思うんです。

一生終わらないテーマに挑戦できるって面白いと思いませんか? 老後は日本中のベンチ巡りができるのも楽しみです。

素敵です!

ペン太

この7年を振り返ってみて、細く長く続けていくことが大切だと実感しました。

世の中のトレンドの移り変わりが激しいので、正直「今のまま、ベンチの情報を発信してるだけでいいのかな?」と思ったこともありました。

そうですよね……。

ペン太

でも、続けていくうちに、一周回って今のままがいいって素直に思えたんです。

これから何かを発信しようとしている人も、現在何かを発信していて壁にぶつかっている人も、周囲の意見に惑わされずに自分のスタイルを続けてみてください。

きっと自分のやっていることが楽しく感じられて「これでいいのだ」と思える時がやってくると思いますよ。

ありがとうございました!

提供写真

2024年7月取材

取材・執筆=つるたちかこ
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト