“生態系”と“土づくり”から考える、組織に必要な共創のための場づくり(富士見 森のオフィス・津田賀央さん)
多くの企業が「共創」を掲げるようになった一方で、研修や制度を整えても思うように共創が生まれない……。共創は、管理や制度によってさせるものではありません。それは、多様な個が影響し合い芽吹いていく自然の生態系に似ているのかもしれません。
2026年2月26日(木)、Open Innovation Biotope “Sea”にて、書籍『ゼロからの共創』&『十草十載(じっそうじっさい)』出版記念トークイベント「“生態系”とその“土づくり”から考える、組織に必要な共創のための場づくりとは?」が開催されました。
地方移住と新しい働き方の先駆的コワーキングスペース「富士見 森のオフィス」運営代表・津田賀央さんをゲストにお招きしました。
モデレーターを務めるのは、「共創」をテーマに書籍を執筆した株式会社オカムラの庵原悠と、共創ディレクター・岡本栄理。組織に必要な共創のための場づくりを、生態系とその土づくりの視点からひも解いていきます。
10年前から『ワーク・シフト』に影響を

庵原
今日はよろしくお願いします。簡単に自己紹介をしますと、私は2012年頃から「共創」に興味を持ち、国内外のフューチャーセンターやコワーキングスペース、まちづくりなど、共創を推進する場の調査研究を続けてきました。
これらのトライアンドエラーから見えたことを、2025年「共創」の本にまとめました。


庵原
実は私、慶應義塾大学に所属して共創に関わる研究もしているのですが、2016年にある産学連携プロジェクトの研究レポートのインタビューで津田さんにお会いしているんですよね。

感慨深いですね。
そのレポートを改めて読み返してみたんですが、お互いに言っていることが全く変わっていなくて驚きました(笑)。今日はよろしくお願いします。

津田

私は2015年に長野県富士見町へ移住し、大学の保養所だった建物をリノベーションして「富士見 森のオフィス」を立ち上げました。

津田

単なるリモートワークの場所としてだけでなく、経済活動や社会活動を促進するためのコミュニティを育成し、そこからプロジェクトを生み出すことをミッションに掲げています。
おかげさまで、10年間で大小合わせて200以上のプロジェクトが生まれました。まちの素材を使った新商品をつくったり、有志のボランティアチームが町に影響を与えるようになったりと、さまざまな動きがあります。

津田

まちの状況としても6年連続で転入超過になっていて、今は移住希望者が多すぎて家が足りないほどです。シャッター街だった商店街におしゃれなお店が増えるなど、街の風景も変わってきました。
『十草十載(じっそうじっさい)』は、富士見 森のオフィスでの10年を振り返り、利用者の人生にどんな変化があったのかのインタビュー、そして僕らがいかにその土壌を育ててきたかをまとめたものになっています。

津田

ただ、この現象が他の場所でも再現できるのかという疑問がずっとありまして……。2023年に私の地元・横浜で立ち上げたのが「PILE(パイル)」というコワーキングスペースです。
相鉄線の高架下にあり、クリエイターが24時間、音を出しても汚してもいい場所としてつくりました。パソコン作業の隣で油絵を描いたり木工をしたり、アーティストの支援プログラムも行っています。

津田

共創を支える良質なコミュニティの3つの条件

庵原
ここからは、「共創×生態系」について話していきましょう。まず、なぜ今これほど共創が求められているのでしょうか?
背景には、人口減少という日本の縮小シナリオがあります。限られたリソースをバラバラに使うのではなく、集約させて知の創造を行うことが不可欠な時代になったからです。


庵原
加えて、テクノロジーの進化で遠隔地との共同作業が可能になりましたが、コロナ禍を経て改めて対面の重要性も見直されています。
また、個人がSNSで社会に直接影響を持てる今、会社という枠を超え、一人の生活者としてワークとライフを分けすぎずに活動する大きなシフトが起きています。


庵原
私は共創を「誰もが取り組むことができるみんなで取り組む価値のある働き方」であり、「共通善(社会的利益)に向けて価値創造をすること」と定義しています。
利益重視の協業はギブ・アンド・テイクが前提ですが、共創は「まずはやってみよう」という持ち出しの精神が求められるんです。


庵原
そして、この共創を支える土台こそが、コミュニティだと考え、過去の研究成果や経験則などから良質なコミュニティの3つの条件を見つけました。
これらを提供できない限り、共創をドライブするようなコミュニティとは言えません。


庵原
15年ほど前、リンダ・グラットンさんが書籍『ワーク・シフト』で述べていた、これからの働き方に重要な3つのコミュニティから引用しています。
単に場所に集まるだけでなく、その上で共に創ることまで踏み込む……。まさに富士見 森のオフィスは、共創を先取りして実践してきた先行事例です。
私自身、まさにその『ワーク・シフト』を読んで、「その変化が起こる2025年まで待っていられない!」と思って長野への移住を決意したくらいですので……。
今のお話は非常に納得感がありました。

津田
運営者は「ミミズ」になれ。人的資本を循環させ、自律的に芽吹く「コミュニティ育成のための土づくり」
ここからは津田さんが10年間のコワーキングスペース運営を通じて気付いた、コミュニティ育成に対する考え方について伺います。

私は、良質なコワーキングスペースとは、単なるハコ(場)ではなく、一つの生態系だと考えています。
多種多様なスキルを持った会員という個がいて、彼らが交わることで偶然の機会が生まれ、プロジェクトが芽吹く……。成功も失敗もありますが、そういった具体的なものを通じて交流し合ってより強固な場所になっていく。そうやって複雑な生態系になるのかなと思っています。

津田

不動産業界では、コワーキングスペース運営は「いかに坪単価での収益を効率的に最大化するか?」という視点で捉えています。
しかし、私は「人と人の関係性から生まれる人的資本を維持し、循環させること」にフォーカスした方が分かりやすく、持続可能になると思っています。

津田

私の運営するコワーキングスペース「富士見 森のオフィス」は、自然の中にあって、決して立地に恵まれているわけではありません。横浜のPILEも各駅停車しか止まらない地域にあります。
こうした立地的に不利な場所で価値を出す。そのためには、物理的な価値ではなく、人的価値を事業の源泉にする必要があります。

津田

そう考えながら活動をしていると、「コワーキングスペースは自然の生態系に近い」と感じるようになりました。
運営者は管理(マネジメント)するのではなく、生態系が育つ良い土や栄養を用意する存在。いわば、土の下でせっせと土を耕し、酸素を送り込むミミズのような役割です。土が良い状態であれば、生態系の行末は生態系自らが決めていきます。

津田

これを「コミュニティ育成のための土づくり(Conditioning the Soil for Community)」と呼んでいます。コミュニティはつくるものでも管理するものでもなく、自分自身で成長するための手入れをし続けるという考えに10年で至りました。
これは、土の上に生えてくる植物との繋がりが価値になり、いかに実を付けてもらうかが重要になってくるのだと思います。
こういった人的資本は、「利便性(Convenient)」と「共生(Convivial)」2つの体験設計から生まれると考えています。

津田

Convenientは分かりやすいと思います。利用者が「ここは自由だ」と感じられるストレスのない環境です。その利便性がきちんと満たされるとConvivial(共生)に移行する。
これは「ここなら、この人たちとなら、自分の思い描く人生や仕事を諦めずに追求できる」など心理的安全性が確保されている状態です。そういった先に、人的資本を源泉としたコンテンツサービスが生まれてくると思っています。

津田

森のオフィスでは、カメラマンやライター、デザイナー、マーケターなど腕の良いクリエイターが多数在籍しており、都心から仕事が来た際、彼らが集まれば一つの広告代理店のような機能を持たせることができます。
Convivial(共生)な関係性が出来ているので、阿吽の呼吸で仕事ができる。これは会社から命令されて動くよりも、はるかに強固な関係です。

津田


庵原
利用者にConvenient(利便性)からConvivial(共生)へ移行するための鍵はあるのですか?
当たり前のことかもしれませんが、食事でしょうか。共生する上で、必ずみんなに共通するものは「食べること」です。食事が一緒にできる場や雰囲気を提供することが大切だと思います。
たまたまですけど、森のオフィスには保養所だった頃のなごりで大きなキッチンがありました。これを活かし、お弁当屋さんを始めたい人のために保健所の許可を取って挑戦できる仕組みをつくりました。

津田

庵原
本当に有機的な循環が起きていますね。
PILEでも、心理的安全性を感じてくれているクリエイターが自発的に始めたワークショップが、外部企業から依頼される売り物(コンテンツ)へと成長する現象が起きています。
このように、単なる場ではなく生態系であるからこそ、多様な実がなり、それが新たな資本となって循環していくのです。

津田


庵原
私が示した、良質なコミュニティであるための3つの条件の要素を全て含んでいますね。
でも、「富士見町にたまたまそういう人が多かった」「津田さんがクリエイター出身だから」といった要素もあるのかなと思いますが……。
そうですね。恐らく共通するのは「これをやりたい」という強い想いを持って集まり、それが制限されずに実現できる初期設計があることだと思います。
ポッセのつくりやすさや、プロジェクトの卵や芽を潰さないかが大切だと思います。

津田

庵原
「鍵は、物理的な価値ではなく『人的価値』を事業の源泉とすることにある」ということですね。

事例から紐解く、組織に必要な共創人材を育てる“生態系”

庵原
ここからはオカムラの共創の最前線にいる岡本を交え、組織の中での共創について深掘りをしていきます。

岡本
私がコミュニティマネージャーを任された際に示されたのは「『働く』を良くすることに資するなら何をしてもいい」という指針でした。
会社から「大きな権限と、少ない予算」を渡されたことで、「やりたいことを起点に、リソースを持ち寄り、共通善を共に叶える仲間をつくる」ことへの意識が芽生えたのです。


岡本
また、共創があまり上手くいっていない場所では、サポート役のコミュニティマネージャーはいるけれども、プロジェクトが生まれないという課題があります。
共創に関わる人材を4つのタイプにわけたときに、企業は「主体的にプロジェクトを生み出す人」を求めているんですね。


岡本
そのため、主体的な意識を持って共創に取り組む人をまずは社内で増やしていくことが必要。
そこで、私たちは今、WORK MILL実践型教育プログラム「共創アンバサダー」に取り組んでいます。


岡本
参加者は、最初から自ら燃えてやっていく「自燃性」の人ばかりではなく、誰かの火に触れて燃え出す「可燃性」の人も結構いたと思います。「興味はあるけれど、自分なんかが手を挙げていいのか」と思っている人もいると思い、一人ひとりの話を丁寧に聞く相談会を実施しました。
すると、「実は自分の中に小さなやりたいことの種がある」と話してくれる人がいて、それを皆で聞く。私たちが「それなら外のあの人に話を聞いてみよう」と背中を押すことで、「自分にもできるかも」と思ってもらえたようです。

富士見 森のオフィスの「プロジェクト創出ワークショップ ignite!(イグナイト)」にも似た部分があります。
簡単に説明しますと、組織でくすぶっていた「やりたいこと」の種を社外へ持ち出し、協力してくれる人を見つけ、プロジェクトの卵を伴走しながら育てていく活動です。
3期行いましたが、会社の中だけでは得られなかったスキルや人脈を得て、NPOを設立したりライフワークを楽しんだりする共創人材が育っています。場所の性質は違っても、大切なのはアイデアの芽を拾うことですよね。

津田

岡本
一昔前であれば成り立たなかったようなことが今、実現できている。
それは人的価値を軸に据える意識が浸透し、時代が追いついてきたからだと感じます。

庵原
楽しんでいる人の姿が人を巻き込むムーブメントになる。コワーキングスペースが「未来の働き方を先取りしている」と言われてきたことが、いよいよ現実味を帯びてきました。
その先取りという点で、今、津田さんが見ている次のフェーズは何でしょうか?
基本的には、いろんな人が「ここで働いていていいんだ」と感じられる場づくりをしていくという点は変わらず持ち続けたいと思っています。
最近、これまで以上に土地が持つ文化や歴史に深く関わることがフェーズとして入ってきました。
私は長野県富士見町の住民として、地元の祭りである日本三大奇祭の「御柱祭」に参加するようになりました。これは、次世代へ繋ぐ役割でもあります。これはコワーキングスペースを超え、その土地の文化・コミュニティを守るという責任ある生き方だと思っています。

津田

岡本
土地と歴史からの必然性を引き継いでコミュニティをつくっていく、素敵ですね。
都会と地方をホッピングしながら、組織人がしがらみを脱いで共創に取り組み、それぞれが学んだことを持ち帰り、共有する……。
そのようなやり取りが生まれていくことこそが、次の働き方のあり方になっていくと強く感じます。

2026年2月取材
取材・執筆=西村重樹
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト


