ラテンアメリカにおける企業主導SDGsプロジェクトとは? 前編
アジア諸国編に引き続き、今回はラテンアメリカにおいてSDGsがどのように実現されているのか、企業ごとのポリシーやプロジェクトを取り上げる。また、今回も17あるSDGsのゴールのうち、3つ、特に人の暮らしに関わる題材を選んだ。日本ではあまり取り上げられる事のないゴールであるから、各企業の取り組みだけでなく、各国の実情や歴史的な背景についても言及する。
No Poverty 「貧困をなくそう」
「地球上のあらゆる形の貧困をなくそう」というスローガンの元、国連は2030年までに社会インフラの整備や国家のシステムを改善することで、様々な度合いの貧困をなくそうとしている。現在までにこの項目が達成された国に主に北欧やカナダ、ロシア、中国などが挙げられる。一方、日本やアメリカ、ラテンアメリカでは未だ課題が残っているものの、達成まであと一息の段階だ。アフリカ大陸のほとんど全ての国は主要な問題が残る国となっている。
Grupo Éxito (コロンビア)
コロンビアでは、現在失業者の数が人口の1割を超えており、原因として雇用の60%以上を占めていると言われる非正規雇用形態が挙げられる。結果、福利厚生や金銭的な手当てなどの国の保護を受けないために失業しやすく、その後貧困にも陥りやすい。
コロンビア発の大手小売企業Grupo Éxitoは失業による貧困を防ぐべく、大型量販店の台頭に負けないよう、地域の小さな個人事業を支援する活動をしている。活動の一環として、ラテンアメリカだけでなく、アメリカ国内における農村地帯で職業訓練や起業の機会を無償で提供している。また、Grupo Éxitoのロゴの使用を許可することで、個人ビジネスでも地域コミュニティからの信頼が得られるようにサポートしている。
CEMEX (メキシコ)
現在メキシコでは世界的な気候変動の影響からかんばつが多発しており、より安定した職業を求め、農村部から都心部への移民が増加している。その結果不動産価格も高騰、住宅不足が深刻化。その結果、都市部でのホームレスや治安悪化が問題となっている。
メキシコの建材メーカーCEMEXは、都市部および準都市部の低所得家族の為に手ごろな価格の、環境にも優しい建築資材を提供することで、物理的にも安全で、健康に害のない住宅の増加を目指している。また、CEMEXは貧困救済に加え、サステナビリティ向上にもフォーカスを当てている。急速に都市化が進む国々では増加する住宅需要に追いつくため持続可能性を無視した開発が盛んである反面、建設プロセスでは二酸化炭素排出量を削減し、地域の自然環境を保護していくことを企業理念として掲げている。
Zero Hunger 「飢餓をゼロに」
国連は、飢えをなくすため、地球の環境を守りながら農業を進めることを主たる目標としながら、小規模生産者の生産性や収入を保証することも挙げている。また、農業のサステナビリティも重要視しており、災害に見舞われた際の回復力や持続可能性を向上させる取り組みも行なっている。
Quinua Real (ボリビア)
ボリビアでは人口の約半分をアンデス山脈地方に住む先住民族ケチュア族、またはアイマラ族が占めており、これは割合でいうと世界で6番目に多い。しかし国内の先住民たちは未だ、植民地時代から続く人種差別と偏見に苦しめられており、社会的な地位の低さの原因となっている。
食品流通会社Quinua Realは2011年ボリビアで設立されて以来、伝統的で持続可能な農法を使用し、フェアトレードの実現を推進する活動をしてきた。取り扱うのは主にウユニ湖周辺で生産されるキヌアと呼ばれる穀物である。同社は先住民族によって経営される農家を中心に直接提携しており、先住民コミュニティの雇用増加、食と収入の保証にもつながっている。得られた報酬の一部は生産地域の先住民族コミュニティに集められインフラや農具の購入、メンテナンス、教育、食べ物の購入に使われる。
Arcor (アルゼンチン)
世界有数の農業供給国であるアルゼンチンは2022年夏に世界的な未曾有の熱波に襲われて以降、全国でかんばつが深刻化し続けている。結果農産物は減少し、全人口の約7割がある程度の食糧不足に直面している。
世界で5番目に大規模なアルゼンチンの製菓会社Arcorは国内の子供達を対象に飢餓、栄養不足改善に特に尽力している。同社は国内外の学校に水分補給ポストやヘルシーなスナックの自動販売機を設置する他、子供でも簡単に作れるヘルシーなレシピや料理教室も開催している。更に、特徴的なのはメタバースやVRを使ったプロジェクトで、子どもたちは楽しみながら食についての意識を高めることができる。
Good Health and Well-being 「すべての人に健康と福祉を」
一部の地域では、2人に1人の子どもが命の危険があっても治療を満足に受けられない。国連は2030年までに伝染病を根絶、また心身ともに健康でいられるよう福祉を充実させることもゴールの一つだ。
Natura &Co(ブラジル)
ブラジルでは過去に女性が大統領に就任するなど、女性の政治参加率が比較的高い。しかし、大統領が女性から男性に変わった2016年以降、女性の社会進出は再び後退し始めた。ブラジルのフェミサイド(男性による、性別を理由とした女性の殺害)は増加の一途を辿り、現在では4.3%とラテンアメリカ地区では最も高い国の1つである。
Natura &Coは、ブラジルを拠点とする美容製品メーカーで、健康と福祉に重点を置いた事業を展開しており、オーガニック製品を提供し、持続可能な開発を推進している。ビジネスパートナーの多くは女性であり、扱うオーガニック製品の材料は主に女性が経営する農家によって生産され、女性の販売員によって消費者の手に届く。雇用機会を提供し安定した収入を保証することで、女性の社会進出に総合的に貢献している。ラテンアメリカだけでなく世界中で貧しい子供達に無償で教育を提供したり、環境保全にも取り組んでおり、多面的にSDGsに取り組んでいる。
Grupo Bimbo(メキシコ)
前述の通り、メキシコでは現在かんばつが進み、農作物の減少が深刻な問題となっている。国内では何らかのレベルでの食糧不安に直面している人々が全体の半分であり、特に深刻な飢餓状態を経験している人が人口の約1割を占めている。
メキシコを拠点とするGrupo Bimboは、ラテンアメリカ全土で展開する製パン会社である。健康的な食品を提供することに力を入れており、砂糖や塩の削減、栄養価の向上などの取り組みを行っている。また、同社は消費者の生活の質だけでなく、パートナーシッププログラムを通じて地域の食品生産に携わる人々の心身の健康にも目を向けている。プログラムにはフェアトレードの他、ボランティア、災害時の人道支援などが含まれている。また、Grupo Bimboは環境保護にも貢献しており、廃棄物を共にゼロにするための工夫も欠かさない。
過去を大切にしながら、未来へ向かうラテンアメリカ
急速に進む都市化に加え、気候変動による農地減少など、これまで以上にラテンアメリカ全体で社会が大きく変化しつつある。各国がそれぞれ適切な政策づくりを迫られる中、企業レベルでのよりローカルな努力は非常に重要であると言える。
また、企業ごとの取り組みはそれぞれ非常にユニークであり、各国の土地柄に非常にマッチしているものが多い中、興味深い共通項も存在した。今回の記事では各SDGsのゴールごとにまとめているものの、ほとんど全ての企業において自然環境保全の取り組みが見られた。アマゾンやアンデス山脈などの大自然に囲まれた南アメリカ大陸において、都市化、工業化が着々と進んでいく現在でも自分たちのルーツを大切する姿勢が感じられた。今後、ラテンアメリカ全体が如何に先進国の仲間入りを果たしながら、自然と共に歩んでいくのか、注目していきたい。
ー後編ではより規模の大きな環境問題に関わるSDGsを取り上げる。
テキスト:松尾舞姫