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鉄道のグループ会社だからできた「さこすて®」で、駅をまちづくりの拠点に。人とまちをつなげ、新しい価値を生み出す働き方

日本には、約9500もの駅があると言われています。しかし、人口減少やモータリゼーションに伴い、利用者数の減っている地方の駅も……。

これまで地域の交通の要所として親しまれていた駅に新しい価値を与えられないか? そう考えたのが、ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社の武部俊寛さん。2019年より「さこすて®」という事業を社内で立ち上げ、駅を通して人とまちをつなげる取り組みを続けています。

交通というインフラを作ってきた会社が、交流というコトづくりにも関わるようになった背景にはどんな意図があったのでしょうか?

今回は「さこすて®」の立ち上げから、運用していく中での気づき、そして武部さんを動かす原動力についてお伺いします。

武部俊寛(たけべ・としひろ)さん
1993年、大阪府出身。新卒でジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社に入社し、2023年からは社内唯一の「さこすて®」専任担当者。専任化されるまでは、西日本エリアの駅舎設計も行ってきた。滋賀県湖南市にある「石部駅」などを担当し、鉄道建築協会賞入選。仕事以外では月に1度、バーの店長をしているそう。

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利用者の少ない駅がまちづくりの拠点に。地域住民を巻き込む「さこすて®」

本日はよろしくお願いします! 武部さんには、これまでエフェクチュエーション考など、WORK MILLのイベントなどにもご登壇いただいてきました。

改めて、武部さんが取り組む駅がまちづくりを支援する「さこすて®」について教えてください。

提供画像

武部

「さこすて®」は、今まで「交通」の拠点だった駅を、「交流」の拠点として運営・活用していく取り組みです。

「さこすて®」の「さ」はサステナブル、「こ」はコミュニティ、「すて」はステーションのこと。

駅とまちの好循環を生み出すため、何か企画をして終わり、施設を作って終わりではなく、地域の方とともに構想から考えともに運営していくコトづくり主導で進めるプロジェクトです。

地域の方とのコトづくり……。具体的にどんな活動を?

武部

今回は、奈良県桜井市にある三輪駅の「さこすて®︎みわ」を例に紹介させてください。

奈良県桜井市にある三輪駅での「さこすて®︎みわ」の様子(提供写真)

武部

三輪駅は木造の古い駅舎の無人駅なのですが、近隣には三輪山を拝する日本最古の神社「大神神社(おおみわじんじゃ)」や素麺や酒造り発祥の地としても知られている場所です。

2022年に我々から働きかけたことがきっかけで、2023年から住民の方々と一緒に毎月「地域作戦会議」を行っています。そのアイデアを元にいろいろなまちづくりイベントを駅で開催してるんです。

地域作戦会議の様子(提供写真)

地域作戦会議とは?

武部

月1回ペースで地域の人が集まって、駅舎を使ってやりたいことを考える場です。

最初は私から地域の人に声をかけたのですが、いつの間にか、地域の方が開催する会議に私たちが呼ばれるようになりました。

提供写真

武部

「さこすて®」が一般的な地域イベントと違うのは、駅舎が使えるところです。どの駅にも言えることなのですが、駅舎はJRが管轄している場所が多いので、勝手に敷地内で催し物を行うことができないんです。

私はJRと地域住民のつなぎ役なんです。三輪に住む人たちから「駅で〇〇をしたい!」「駅をこんな場所に変えていきたい」とアイデアを出してもらい、それを実現できるようにする。

なるほど! だから、地域の人は駅を使ったアイデアをいろいろ考えられるんですね。

武部

そうなんです。今は、本当に参加するみんな、やりたいことがあふれていて、アイデアが渋滞するほどで。

最近は、安全管理面で関わるくらいで、地域の中で自走するようになっています。

提供画像

武部

これは、2025年7月に開催した「三輪駅縁結び広場」です。

「おいしいとうもろこしがあるからみんなに食べてもらいたい」と地元の農家の方々と協働し、朝獲れのとうもろこしを花壇に植えて、もぎとり&まるかじりイベントを実施しました。

畑のようですが……。

ここは三輪駅前の広場なんですか?

武部

そうです! 実は普段はとうもろこしは植えられていなくて(笑)。

使われていなかった花壇に、とうもろこしを苗ごと刺して、参加者に収穫体験をしてもらいました。

とうもろこしを設置する様子(提供画像)

なるほど……!

駅を使える「さこすて®」だからこそ、できた催しだったんですね。

駅やその周辺を活かせるのは「さこすて®」ならでは(提供写真)

武部

一時的なイベントではなく、住民のみなさんの声を実現させながら継続的に行っていくものなので、「次はこれ」「今度はこれ」と盛り上がり続けていて。

ついに行政からも一部補助をいただけるようになりました。駅でイベントを行うメリットがこんなにもたくさんあるのか、と毎回驚かされています。

すごい!

「駅」は地域の人なら誰もが行ったことのある場所ですし、親しみを持ちやすいですよね。

提供写真

駅舎を設計する中で考えた「持続可能な駅」のあり方

武部さんは、どのようなきっかけで「さこすて®」を立ち上げることになったのでしょうか?

武部

10年くらい前からSDGsや持続可能なんてキーワードをちらほら耳にするようになりましたよね。

僕自身も、仕事で駅舎を作る中で「持続可能な駅ってなんだろう?」と考えるようになりました。開業した時がピークでどんどん使う人がいなくなってしまう駅って持続可能なのかな、と。

確かに、地方に行くとドキッとするほど利用者のいない駅を見かけることもあります。人口減少を感じます。

武部

偶然なのですが、私はもともと駅舎の中でも特に地方にある駅舎の設計に関わってきたんです。

だから、ただ新しい駅を作るだけじゃなく設計前から地域の人との交流を深めて、開業後の運営にも関わってもらうような、持続可能な駅まちづくりをやってみたい。

そんなところから、「さこすて®」の構想が始まりました。

なるほど!

地方の駅舎を設計してきたからこそ、持続可能な駅にはそこに住む人たちの協力やアイデアが必要だと考えたのですね。

会社にはどのように事業化へアプローチしたのでしょうか? 「やりたい」と言うだけでは難しいような……。

武部

はじめは、社内で行われている開発プロポーザルいわゆる技術開発のアイデアを募集していたので、そこに応募しました。

このプロジェクトを技術……で応募したんですか?

武部

そうです(笑)。

他に応募されていたのは、線路の異常を計測するシステムの構築とか「新しい施工法を開発します!」といった技術屋さん的なアイデアばかりで。異質だったと思います。

果敢なチャレンジ! まさか会社もまちづくりのアイデアが来るとは思っていなかったのでは?

武部

そうかもしれません。ただ、その時はちょうどJR西日本グループとしても「地域共生」を掲げた時期で。

「地域共生とはなんぞや? 俺たちの答えを出したるで!」みたいなことにも触れて提案をしました。

武部

正直、即効性や数値化できる企画ではなかったのですが、会社からは「まずは、やってみようか」と承認してもらえました。

ゆくゆくは社会から求められる取り組みになるというのを、会社としても期待してくれた部分があるのかもしれませんね。

たくさん広がってほしいですね!

とはいえ、「さこすて®」は会社の事業なので、実施する駅もきちんと理由をつけて選ばないといけないですよね。どのように選んでいるのでしょうか?

武部

そうなんです。現在、「さこすて®」は三輪駅(奈良県桜井市)、紀伊由良駅(和歌山県日高郡由良町)、神辺駅(広島県福山市)の3つで実施しています。

2022年まで坂越駅(兵庫県赤穂市)でも行っていましたが、現在は一旦終了となりました。とはいえ、地域の方とは個人的に継続して交流をしていて、関係は続いています。

盛り上げたいと思っている地域はたくさんあります。とはいえ、今の私たちのマンパワーでは、全ての駅に携わることは難しいのは明らかで。

提供画像

 

武部

現在、まだまだ項目を精査中ですが、実施駅の選定は「さこすて® トリアージ」という基準を元に行っています。

「さこすて®」は、上の図の黄色い部分である「熱量の高いキーパーソンがいて、多様なコンテンツがある駅」から順番に実施しています。

何もしなければ、赤色の「措置の猶予がない駅」となってしまう駅を緑色の「自力のある地域の駅」へと押し上げていくことを目指しています。

なるほど……。

いろいろな視点で可能性を探っているんですね。

武部

そうなんです! 

乗車人数だけではなく、私たちのものさしで駅や地域を見ていきたいと考えています。

「さこすてフェス」を社内で開催! 社員が応援団に

「さこすて®」は、社内で武部さんだけが専任で行っている事業と伺いました。しかし、ここまで大規模になると、社内の協力も必要なのでは……?

武部

実は社内に、1カ月に1回程度「さこすて®」の活動に関わってもらう「さこすて®応援団」がいるんですよ。部署や役職関係なく参加でき、応援団長もいます(笑)。

応援団には先ほどの三輪駅のイベントや産学連携の取り組みなどのサポートメンバーとして参加してもらっています。

昨年は、応援団を増やすために「さこすて® フェス」も開催しました。

応援団にフェス!?

社内に向けての取り組みなのに、楽しそうな言葉が並んでいますね。

武部

ただ「説明会します」と言っても人は集まらないだろうな〜と思ったので、フェス好きの社員からのアイデアを採用してフェス形式にしました。

トークライブや外部の関係者さんをお呼びして、ある意味で外圧をかけつつ……(笑)。社内でも「さこすて®」の活動を広く深く知ってもらうきっかけを作ったんです。

自社の事業にたくさんの方が関わっていることが見えると、自然と応援したくなりますよね。武部さんの見せ方がお上手!

武部

ありがとうございます(笑)。

やはり会社のお金を使っている活動なので、社員が「さこすて®」をよく知らないっていう状況はあまりよくないと思ったんです。そうやって活動を理解してもらった上で、応援するかどうかを決めてもらえればな、と。

そして、あわよくば仲間も増やしていければ……と楽しそうな形式を導入しました。

応援団は今どれくらいいらっしゃるのでしょうか?

武部

約450名の社員のうち約20名が応援団として関わってくれています。

「以前からこういう活動をしてみたかった」という声や、新たに入社される方の中には「地域活動に関わっている企業だったから選んだ」と言っていただける方もいて、社内での広がりも感じているところです。

結局、仕事は「人」と「人」がつくるもの。関係性も設計していきたい

武部さんのこれからの目標を聞かせてください。

武部

「さこすて®」で関わる地域を増やしていくことが第一の目標だと考えています。また、JR西日本だけに限ったことではなく、日本全国でも「さこすて®」の活動を広げていきたいですね。

「人口減少で近代日本におけるインフラを支えてきた鉄道が危機だ!」で終わらせてしまうのではなく、いろんな地域と連携していきながら新たな価値を見出してもらえるプロジェクトに育てていきたいです。

一緒にやりたい自治体もいっぱいありそうですね。

武部さんのように、新規事業など新しくチャレンジしたい方がいたら、どんなアドバイスをしますか?

武部

「やれる範囲でやってみる」っていうのがいいと思いますよ。

僕も過去にバーの1日店長をしたことがあります。それは副業ではなく趣味で。最初から儲けようとかじゃなく、やりたいと思い立ったことがあるならやってみる。もしかしたら、それが仕事になっていくかもしれませんから。

なるほど、まずは小さくでもやってみると見えることがありますよね。

武部

あとは「仲間を増やす」こともいいですよね。

以前、WORK MILLのエフェクチュエーションのイベントに登壇させてもらったのですが、行動していくことで人とのつながりって広がっていくと改めて実感できました。

武部さんのお話を伺っていて、すごく「人間」が好きなのだろうな〜と感じました。

最後になりますが、武部さんがプロジェクトを進める上で大事にしていることを教えてください。

武部

入社当初は設計の仕事をしていたのですが、その時に「受注」と「発注」で上下関係ができる働き方をしたくないな、というのは常に思っていました。

仕事って、結局「人」と「人」で成り立っていると思うんですよね。駅舎の設計も、上下とかじゃなくよりよい人間関係を構築していくことから始まっていると考えているんです。

ほかの仕事にも当てはまりそうです。

武部

だからこそ、コミュニケーションは欠かせない部分ですよね。

「さこすて®」の取り組みって一見すると「ただ地域の人と酒飲んでワイワイしているだけやん」って思われるかもしれません。そういうところからも案外、仕事や我々の価値って生まれてくるのかな? と。

なるほど。

武部

ちなみに、さこすて®の取組では従来の就業規則では無理が生じることもあります。

そうしたことが生じた時間が業務になるかどうかなども、きちんと社内でルールをつくってもらいました。

守りの部分もしっかりしているんですね……!

よりよい関係を設計するためにはコミュニケーションは欠かせませんが、最近は時短のために余計なコミュニケーションを省くのが良しとされている風潮も感じますし……。

武部

個人的には、「人間だな〜」って感じながら働きたいですよね。

最近では、AIが仕事を奪っていくなんてことも聞きますが、AIは地元の人たちと一緒にお酒は飲めませんから(笑)。

僕は、人間らしく、楽しく、豊かに人生を過ごしていきたいなって思っています。

「さこす~」の掛け声に合わせて「て~」と手をあげるのが、さこすてポーズだそう!

2025年7月取材

取材・執筆=つるたちかこ
写真=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト

【申込受付中】
10/7 鉄道業界から生まれる柔らかな共創~地域と描く社内プロジェクト

ゲスト:武部 俊寛さん
    ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社 建築設計本部(さこすて担当)係長
    菊池 祥子さん
    京王電鉄株式会社 開発事業本部 課長

安定感のあるイメージを持たれやすい鉄道業界の中で、自身の「やりたい」という想いを熱源に、地域の人々を巻き込みながら、自社だからこそできるプロジェクトを育てあげているお二方。
社内で「自分らしさ」を活かしたプロジェクトを始めてみたい方、仲間の事例からヒントを得たい方、そして地域や組織との関わり方をもっと広げたい方にとって、新しい気づきや出会いの場になるはずです。ぜひご参加ください!

日時:2025年10月07日(火)19:00~21:00
場所:point0 marunouchi
  (東京都千代田区丸の内2丁目5−1丸の内二丁目ビル 4F)