資格取得は自分の可能性を探る旅。980個以上の資格保持者に聞く学びの醍醐味(鈴木秀明さん)
仕事に関係のある資格を取得すれば、社内外への説得力が増すし、向上心も評価される可能性がある。もしかしたら、転職や独立の際にも役立つかもしれない……。
そんなことを考えてみるものの、忙しい日々の中で勉強時間を確保するのは容易ではありません。
キャリアが多様になった今、資格との付き合い方をどう考えればいいのでしょうか?
これまでに980以上の資格を取得し、毎年約80個もの資格試験に挑戦している鈴木秀明さんに、資格のメリットや付き合い方についてお話を伺いました。
鈴木秀明(すずき・ひであき)
1981年生まれ、富山県出身。総合情報サイト「All About」資格ガイド。東京大学理学部卒。東京大学公共政策大学院修了。米国公認会計士、気象予報士、中小企業診断士、行政書士、証券アナリストなど980個以上の資格を取得。年間80個以上のペースで資格試験を受け続け、資格の専門家として多方面で活動中。雑誌・テレビ・ラジオなどのメディア出演実績は500件以上。著書に『効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法』(ダイヤモンド社)、『小学生にもとれる!資格・検定カタログ 』(小学館)などがある。
今の時代の「資格」の価値
現時点で980個以上の資格をお持ちとのこと、本当に驚きました……!
そもそも、鈴木さんが資格取得にハマったきっかけは何ですか?
鈴木
大学時代に所属していたサークルが発行していた広報誌の連載で、「いろいろな資格試験を受けて受験体験記を書く」という企画を担当することになったのがきっかけです。
今ならYouTuberさんがやりそうな企画ですが、当時は「学生が体当たり企画のようなことをやって世間に発信する」というのがまだ珍しい時代でした。
資格好きだったからというよりも、そういう発信や活動が楽しくてやっていたという感じです。
なるほど。
鈴木
私はもともとRPG(ロールプレイングゲーム)でも、最終ボスを倒すよりスキルやアイテムをコンプリートする遊び方が好きなタイプ。
資格取得は、そんなコレクター精神に合っていたのではないかと思います。
資格を取得し、維持するためには時間的にも経済的にもさまざまなコストが発生します。
こうしたコストと資格取得の価値をどのように考えていますか?
鈴木
資格を取る意義は、仕事や収入につながるとかだけではなく、もっと広い目で考えるべきだと思います。
結局は人それぞれの生かし方次第ですが、たとえば次の4つの価値や意義があると考えます。
・キャリアアップ
・人的ネットワークの拡大
・自己成長(学び)
・人生の質の向上
鈴木
これらの価値は短期的なコスパで評価しようとしてもうまくいかないので、長期的な視点で捉えることが重要です。
人的ネットワークの拡大や人生の質の向上とは、具体的にどういったことでしょうか?
鈴木
たとえば、日本城郭検定を受けに行くと全国からお城好きの人が集まってくるわけです。これは共通の趣味嗜好を持つ仲間づくりにつながりますし、自分の好きなジャンルの知識や活動をより深めていくきっかけにもなります。
趣味系・雑学系の資格は取ってもあまり意味がないとも言われがちですが、これからの時代、目先の収入につながるかどうかよりもこのような側面に注目するほうが「人生がより豊かになる」ことにつながるのではないでしょうか。
なるほど!
ビジネス関係の資格でも、同じ資格を目指す人たちと知り合い、質の高い人脈の構築につながることもありそうですね。
自分にあった資格をどう選ぶ?
資格を調べていると、自分のキャリアの場合はどれを選べばいいか……と迷うことがあります。
どのように考えればいいのでしょうか?
鈴木
これまで積み重ねてきたキャリアをベースに考えるほうが、無難というか失敗はしにくいとは思います。
ただ、一番いいのはやはり自分の将来の理想像から逆算して考えることですね。
・自分は今後どうありたいか
・どのような人生を送りたいか
のイメージをまず固めて、
・その実現のためにはどういう資格が必要か、役立ちそうか
という観点で考えるとよいでしょう。
自己分析が重要なんですね。
鈴木
そうです。私自身、これまでの人生でまったく接点のなかったジャンルの資格も積極的に挑戦するようにしています。
そうやって勉強していくと、「この分野、意外と自分に向いてるかも」「もっと早くこの世界に出会えてたらこっち系の仕事をしてたかもしれないな」と思えることもたびたびあります。
今までまったくふれたことのない領域にあえて踏み込んでみてこそ、自分の意外な一面に気付けることもあるわけです。
自分が向いているかどうか分からない資格を選ぶのは少し不安ですが、どうしたらいいでしょうか?
鈴木
もし周囲に気になる資格を持っている人がいれば、話を聞くのが一番です。
ただ、実際にある程度勉強を進めてみないと分からない部分もあります。もし勉強を進めていく中で、「自分には向いていないかも」と思えることがあったなら、
・どんな理由でそう思ったのか?
・逆にどういうことが理想なのか?
と深掘りして考えていく。
これによって自分の志向や価値観についてあらためて見つめ直し、整理するきっかけになります。それをふまえてさらに自己分析や「理想の将来像」の明確化を進めていくといいでしょう。
どうすればモチベーションを保って勉強できるのか
「勉強するぞ!」と決意しても、長続きしなかったり、ふとしたことで勉強をやめてしまったりすることがあります。
どうすれば資格取得のためのモチベーションを維持できますか?
鈴木
モチベーションを意識しすぎるのはあまりよくないですね。
なぜなら、いちいちモチベーションを高めないと勉強できない人になってしまいますから。
なので、「モチベーションがあろうがなかろうが、少しでもいいから勉強はする」という形を目指す。勉強を生活の一部にすることが大切です。
その考え方は理解できるのですが、具体的にどうすればいいかイメージがわきません……。
鈴木
勉強を続けるには3つのポイントがあります。
・習慣化する
・挫折しないマインドセットを持つ
・周りの人を巻き込む
鈴木
特に大切なのは、挫折しないマインドセットです。資格の勉強というのは基本的に、未知の領域への挑戦ですから、最初は分からない点が大量にあって当然ですし、すべてが計画通りには進まなくて当たり前です。
なるほど。
鈴木
たとえば、問題集を解いてみて10問中9問を間違えたとしても、
・むしろ伸びしろだらけだ
・簡単に解ける問題ばかりでは成長できないからむしろ難しいくらいで良い
・自分の足りないところが試験本番前に明確になってよかった
と考えるようにしましょう。
「自分が無能だから解けないんだ」と落ち込む必要はまったくありませんし、それで嫌になって勉強をやめてしまうのは非常にもったいないことです。
知識を得ることと資格を取ることの違い
昇進試験や業務に必要な資格を除けば、働くために資格は必須というわけではありません。ただ、資格の勉強によって得られる知識はあります。
鈴木さんは知識を得ることと資格を取ることの違いをどのように捉えていますか?
鈴木
知識やスキルを高めることを目的とした勉強と、資格試験に合格するための勉強は別物だととらえたほうがいいですね。
どういう目的かによって効果的・効率的なやり方は大きく変わってきます。
ただ、何か新しいことを勉強したい、知識を深めたいと考えたときに、本などを読むだけよりも資格試験を活用することで大きな意義やメリットがあるのは間違いないです。
大きな意義?
鈴木
資格試験で問題として出されるのは、一定の試験範囲の中でも特に重要なポイントです。
ただ本を読むだけの勉強では「この一冊全部覚えないといけないのかな」と考えてしまい途中で嫌になる人もいるのですが、実際に問題として出るところを重点的に学ぶことで、ポイントをついた効率的な勉強ができます。
また、ただ本を読むだけより、問題を解くほうがゲーム感覚・イベント感覚で進められるので、単純に飽きにくいですよね。
確かにそうですね。
鈴木
さらに、自分の理解度や弱点を明確化しやすいというメリットもあります。
本を読むだけの勉強では「なんとなくわかったつもり」になりがちですが、本当の理解度は実際に問題を解いてみないとなかなか明確化できないんですよね。
「解けなかった箇所」は「自分にとっての課題」であると同時に「そこを伸ばせばより成長できるポイント」です。
それを可視化できるだけでも有意義ですし、「間違えて悔しい」という体験が印象に残って記憶に定着しやすいというメリットもあります。
確かに、ただ本を読んだり動画を見たりするだけの学習では気づきにくいポイントですね。
鈴木
鈴木
試験を受けると決めることによって到達目標とタイムリミットを設定できることも大きなメリットです。
ただ「英語力を高めたい」よりも「10月のTOEICで600点取る」といった具体的な目標を立てることで、「いつまでに」「どのレベルを」目指すのかが明確になり、やるべきことを絞り込めます。
逆に、こういうベンチマークやマイルストーンが何もないと、人は具体的な行動に移れないものです。
でも、資格試験で頻出でも、実務ではあまり使わない知識もありますよね?
鈴木
そうですね。
よくあるのは、資格試験では細かい数字やワードを問われるので暗記しておかないといけないけど、実務上ではそういう知識は必要になったら都度調べればいいので別に暗記する必要はないというケースです。
逆に、実務上よく出てくる必須知識でも、資格試験では問われないこともあります。
実務で使わない情報を試験のためだけに覚えるのは無駄だと感じてしまいそうです……。
鈴木
なので、これは結局「そもそも何を目的とした勉強なのか」という話になるかと思います。
実務力を高めるための勉強であれば、極論「試験のためだけに必要な暗記」は捨ててもいいと思いますし、逆に資格取得が目的なら、実務ではほぼ使わない知識でも割り切って覚えないといけません。
確かにそうですね。
鈴木
ひとつ言えるのは、こういう「実務と試験のギャップ」に必要以上に違和感やストレスを感じてしまって勉強が嫌になるというのは損でしかないということです。
そういうものだというマインドでいるほうがいいですね。前述の「別物だととらえたほうがいい」とはそういうことです。
鈴木さんが感じる資格の魅力とは?
鈴木さんにとって資格とはどのような存在ですか?
鈴木
資格取得は、単なるスキルアップの手段ではなく、自己成長と新たな可能性を探る旅です。
なので、難しく考えすぎず、まずは興味のある分野から気軽に始めてみてほしいと思います。その過程で得られる学びや気づきが、きっとあなたの人生を豊かにしてくれるはずです。
鈴木さん自身が勉強していて、特に楽しかったり、意外な発見があったりした資格はありますか?
鈴木
たとえば、産業廃棄物適正管理能力検定や安全保障輸出管理実務能力認定試験は、私がこれまでふれたことがない実務領域の資格でしたが、ゴミ廃棄や輸出に関して「今まで考えたこともなかったけど、こんなルールがあるんだな」という、事前の勝手な想像を大きく超える発見がありました。
なるほど。
鈴木
趣味としての楽しさを感じたのは、名探偵コナン検定や野球知識検定ですね。
名探偵コナン検定では、当時90巻くらいまで出ていたコミックスをひたすら読みました。
好きなジャンルの検定は勉強自体が楽しいというか、勉強を勉強だと感じないですし、スポーツの検定は名選手や記録を知る楽しさもあります。
鈴木さんはまさに資格による学びを楽しんでいるんだな……、と感じます。
鈴木
私はできるだけ幅広く、世の中の物事を知りたいと思っているんです。
資格の勉強をしていると、新しい知識の領域をどんどん埋めていきたいという欲求が満たされる。「資格を極めることは森羅万象を極めること」だと思っています。
改めて、学びの楽しさについて考えさせられました。今日はありがとうございました!
2024年8月取材
取材・執筆:奥野大児
アイキャッチ制作=サンノ
編集:鬼頭佳代(ノオト)