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その場のアウトプットをどう残して活かす? 3つのビジュアルレコーディングの視点から考える、価値を増幅させる「キロク」の可能性(原 純哉さん、印南 敬介さん、沖山 誠さん)

みなさんは普段、記録をしていますか?
そして、その記録はうまく活用できていますか?

そんな記録との付き合い方を、グラフィックレコーディング・スクライビング・図解という異なる分野の専門家と一緒に考える公開インタビューが、2026年3月12日(木)に開催されました。

『場を描く。思考を残す。未来へつなぐ。3つのビジュアルレコーディングの視点から』と題した当日の様子をレポートします。

社員の問題意識から、共創活動を生み出す

本企画の発起人は、株式会社オカムラの乾 亜里沙。実はWORK MILL実践型教育プログラム「共創アンバサダー」の一人でもあります。

これは株式会社オカムラの中で主体的な意識を持って共創に取り組む人を増やしていくことを目指し、WORK MILLチームが企画運営するプログラム。

今回の公開インタビューは、一体どのような背景で生まれたのでしょうか?

私は普段、大学などの教育施設の空間づくりを担当しています。その中で、ワークショップやイベントで考えたアイデアやワクワクした気持ちをもっと日常に活用できればいいのに、と考えるようになりました。きっと、次の活動や日常に繋がる記録、参加できなかった人にも広く発信できる記録方法があるはず。

そんな想いから、単なる「記録」を超え、価値を増幅させる「キロク」手法を考えるプロジェクトをスタートさせました。

乾 亜里沙(いぬい・ありさ)。株式会社オカムラ オフィス環境事業本部 施設環境事業本部 パブリック推進部。本イベントの発案者であり、モデレーターを務める。

また、今回を「トークイベント」ではなく、「公開インタビュー」にしたことも、乾さんとしての狙いがあるのだそう。

今回は一般的なトークイベントではなく、ゲストの方々に「公開インタビュー」として、より深く広くテーマについて語っていただきます。

さらに、その様子をWORK MILLの記事に記録し残していくことで、参加者の記憶にも残ることを目的としています。

グラフィックレコーディング・スクライビング・図解の違いは?

3つの手法の特徴を、ゲスト3名に事例を交えてお話をしてもらいました。

まずは、グラフィックレコーディング(以下、グラレコ)に取り組むSketch Communication 代表・原純哉さん。

原純哉(はら・じゅんや)。大学院で造船工学を修了後、重工業メーカーで15年にわたり造船技術、鉄道車両新規事業開発、自律走行ロボット事業開発を担い、現在は同社で新規事業創出支援を手掛けつつ、事業共創施設の運営に従事。エンジニア・事業開発・コーチングの知見を活かし、アイデアやビジョンを整理し図にするサービスや、図解を使ったファシリテーションを提供する、Sketch Communication事業を運営中。

グラフィックレコーディング(以下、グラレコ)は、リアルタイムで可視化していくことがポイントだと考えています。

イベントやセミナーのイメージが強いかもしれませんが、僕は会社の会議メモとしてもグラレコを使うんです。

(提供画像)

ただ、最近は「記録だけでは不十分なのではないか?」と考えるようになっていまして。

グラレコにファシリテーションを加え、会議でもイベントでも参加している人たちが「メタ認知できる」そんな効果を生み出せるように工夫をしているところです。

続いては、スクライビングに取り組む、株式会社スーパーステーション 業務執行役員・印南敬介さんです。

印南敬介(いんなみ・けいすけ)。1989年生まれ。2013年に株式会社スーパーステーションに入社し、グランフロント大阪の中核施設で“知的創造・交流の場”の「ナレッジキャピタル」にコミュニケーターとして参加。多様なバックグラウンドを持つ人々をつなぎながら、新たなプロジェクトやコミュニティの創出に携わる。現在は国際プロジェクトを主軸に、内外の関係構築や各種イベントの企画・運営を担っている。

スクライビングのポイントは、リアルタイム性ではないかと感じています。

キーワードを挙げるなら、ビジュアル化、理解促進、合意形成の支援、共創の促進などなどでしょうか。

印南

(提供画像)

私がコミュニケーターとして参加していたグランフロント大阪・ナレッジキャピタルの会員制交流スペース「ナレッジサロン」では、今でも「木曜サロン」という交流会があり、そちらでスクライビングを使用しています。

原さんのお話を聞くと、「実はファシリテーションもしているな」と思いました。グラレコとスクライビングには共通点がたくさんありそうですね。

印南

最後のゲストは、株式会社図解総研の沖山誠さんです。

沖山誠(おきやま・まこと)。1995年生まれ。明治大学経営学部会計学科卒。経営コンサルティング企業を経てフリーランスとなり、現職。ビジネス書・教養書などを図解したnoteの解説記事が人気を博し、フォロワー数は3万人を超える。図解総研としての、目指したい社会像や存在意義について、研究および内外への共有に取り組む。また、図解をベースにした「本を読まずに参加できる読書会Booked」を主催し、大手企業や教育機関等に提供している。共著に『ビジネスの仕組みがわかる 図解のつくりかた』『会計の地図』がある。

今日はよろしくお願いします。みんなからは「きょん」と呼ばれているので、今日も「きょん」と呼んでいただけたらうれしいです。

図解は、グラレコやスクライビングと異なり、リアルタイム性には長けていませんが、情報を構造化し論理的に整理することができることが特徴です。

ある程度の記述ルールがあるのも我々の図解の特徴です。ここでは「図解の基本パターン」を紹介します。

きょん

(提供画像)

ここまでのお話を聞いて、表現の方法はそれぞれ違っていますが、3つとも「情報の構造を見極め、可視化する」という点が共通している部分なのかな、と感じますね。

きょん

ビジュアルレコーディングはタイムカプセルだった?

ここからは、3名に公開インタビューをしていきます。インタビュアーは、有限会社ノオトの鬼頭佳代さんです。

鬼頭佳代(きとう・かよ)。有限会社ノオト所属の編集者・ライター。2022年からWebメディア「WORK MILL」の企画・編集に携わる。

鬼頭

今日はよろしくお願いします! 公開インタビューということで、時間が許す限りみなさんのお話を伺いたいと思います。

まずは、皆さんがビジュアルレコーディングにハマった「きっかけ」を教えてください。

僕はもともと落書きが大好きで。初めてグラレコを見た時に「これなら、落書きを活かせるかも?」と思って始めたのがきっかけです。

やっていくうちにちょっとずつ上手になっていく過程もうれしくて、ハマっていきました。

私はビジネスモデルの図解を初めて見た時に「なんて画期的なんだ!」と衝撃を受けて、そこからハマっていきましたね。ある種の「図解ハイ」と呼べるくらい、図解を作るのには快感があるんです(笑)。

きょん

図解ハイ、いいですね(笑)。

スクライビングにハマったのはコミュニケーターになった時なのですが、振り返ってみるとアナログで文字を書くことが好きだったところにたどり着くかもしれません。実家が活版印刷の工場で、幼い頃から“活字”に親しんでいたんです。

印南

鬼頭

皆さん、いろいろなところから興味を持ち始めたんですね。続いて、記録する際に大切にしていることを教えてください。

脳みそがつながるようにすることを大切にしています。たとえば、「新規事業」って聞いても立場によって言葉の印象は変わってくるんですよね。

その場にいる人たちの脳みそを同じイメージでつなげるためにはどう表現したらいいか……? 獲物を狙う狩人のように狙いを定めて、描いています。

私も全く同じことを思っていました。ただ、情報をまとめて記録するのが正解ではないんですよね。

聞いている人たちがどう感じて、何を受け取ったのか。それが同じか、違うか……など、記録を通して議論が生まれるポイントを作っていきたいですよね。

印南

私の場合、「目の前にある図解でどういうコミュニケーションをしてほしいか?」という観点を入れながら、共通理解できるルールを生み出していくことが大切だと考えています。

図解の場合は、図解したいテーマに対してあらゆる事例に当てはめられる普遍性もポイントです。正確性と、図解の利用者にとってのわかりやすさとのバランスを心がけています。

きょん

あの〜……。きょんちゃんのプレゼンを聞いている時から感じていたのですが、実はめっちゃ熱い人なのでは!?

図解は最終的に公開される見た目だけを見ると論理的でシンプルですけど、そこに辿り着くまでに専門家と沢山の議論を交わしていて。だから、熱量も大事な要素なんです。

きょん

鬼頭

なるほど。ちなみに、今はちょっとした図を作れる生成AIもかなり普及していますよね。

熱量はまさに人間だからこそ生まれるものですが、みなさんは人が記録する意味はどこにあると思いますか?

人と人との交流を促すため、演出のひとつとしてスクライビングを使っています。

生身の人間がやることで生じるあたたかさ、安心感、人間らしさを滲ませられることが意味合いとして大きいのだと思います。

印南

まさに演出ですよね。参加者側の立場で考えてみると、グラレコはひとつの「体験」でもあります。体験を通じて体で感じ、知ることが、これからの時代はポイントになる。

実は同じ手描きでも模造紙とモニターに映し出す方法では、参加者の積極性や関わり方が全然変わってくるんです。

鬼頭

そうなんですか!

デジタルで描いたグラレコをモニターで見てもらった時には、「どんなプロンプト使ったの?」って聞かれたこともあるくらいです。

やっぱり模造紙に描いた方が、イベント後に立ち寄って見てくれる人が増えるんです。アウトプットがアナログかデジタルかだけでこれだけ違うんですから、不思議ですよね。

会場となった共創空間Open Innovation Biotope “Sea”には、以前に原さんがグラレコした模造紙も貼られており、実際に休憩時間に見ている方も。

図解の場合は、グラレコのような人がその場で作る臨場感は求められていないことが多くて。そのため、演出として生身の人間が実施することが必須ではありません。

その意味では、究極的に考えるとアウトプットを作るのはAIでもなんでもいいと思うんです。

でも、図解はコミュニケーションツールです。そのため、最終的な図解に至るまでに図解で可視化したいテーマに関わる人たちの意見が適切に反映できているか? 独りよがりになっていないか? これらが、図解作成において重要だと感じます。

きょん

鬼頭

なるほど。冒頭、乾さんが話していた問題意識でもあったように、ビジュアルレコーディングを活かせるケースと活かせないケースがありますよね。

記録を上手に活用するためのコツを教えてください。

記録を活かすために「課題マップ」というものをつくりました。これはワークショップやアンケートなどで地域の方々から集めた移動に関する課題とその因果関係を1枚の図解にしたものです。

課題マップがあることで、ワークショップの意見をその場で発散するだけじゃなく、これまで積み重ねてきた議論を振り返ったり、さらに発展させたりすることが可能になります。

これまでは図解総研が制作を担わないと作れなかったですが、今後はAIを活用しながら、より多くの人が自主的に課題マップを制作できるツールにブラッシュアップしていく予定です。

きょん

図解総研が開発した課題の可視化ができる無料アプリ「KADAI」。イベントの後の2026年春にリリースされ、誰でも使うことができるようになった(提供画像)

わぁ! これは模造紙じゃできないですね!

触りながらあーだ、こーだ言えるのがいいですね。

スクライビングの場合、そこに置かれているだけでは活用されません。私たちは交流を目的としているので、スクライビングがあることで人間関係にどんな影響を与えることができたのか? ここに落とし込まないと「上手に活用された」ということにはならないと感じますね。

印南

「イベントが終わった後にバズらせたいのか」、それとも「参加者の記憶に残したいのか」で、活用方法が変わってきそうですよね。

グラレコの場合、その場にいた人たちの体験をまるごと思い出せるツールになればいいな、と思っていて。言い換えるなら「体験まるごとzipファイル」のような感じです!

鬼頭

ビジュアルレコーディングが「タイムカプセル」のような役割を担っているとも言えそうですね。

最後に「これからの可能性」について、お伺いできますか?

現代はインプット過多な時代です。僕は、どうやって情報を消化していくかが大事だと考えています。消化するためには、体験が欠かせません。

また、一人よりも誰かと体験したことの方が前のめりになれるので、コミュニケーションツールとしての可能性を引き出しながら、グラレコを広めていきたいですね。

最終的に、記録に残せる情報や体験を生み出せるのは人間だけではないでしょうか。

人と人とをつなげたり、コミュニティを創出する時にも、記録の力は役立つと信じています。スクライビングの可能性を信じて、続けていきたいですね。

印南

テクノロジーは日々発達しているので、図解のアプローチの幅も広がっていくでしょう。かならずしも図解するために自分で訓練する必要もなく、自動生成もできるようになるかもしれません。

ただ、図解を作る前提として、何を伝えたいのかという目的や想いが不可欠です。これからはAIの力も使い、図解を気軽に作れるツール開発を進め、誰でも自分が可視化して整理したいことや伝えたいことを発信できるような環境整備に取り組んでいきたいです。

きょん

参加者を巻き込んで、「キロク愛」は止まらない!

テーブルごとのリフレクションタイムをはさみ、会場からの質疑応答へ。

ここでは印象的だった質問とゲストの回答をご紹介しましょう。

Q. 企画の仕事をしています。明日からビジュアルレコーディングをやってみたい気持ちになっているのですが、絵が得意なわけでもなく……。まずは何から始めるのが良いでしょうか?

うれしい感想をありがとうございます! 最初から作品をつくることを目的にしないように、面白がってなんでも描いてみてください。

あとは、座らずに立って描くという姿勢も大事かも。楽しい雰囲気で、どんなことでも書いていい。そう思って始めてみてください。

印南

図解も難しく考えずに始めてもらいたいですね。構造を整理することがポイントとお話しましたが、図解に落とし込む行為はテクノロジーを駆使していくのがいいですよ。

たとえば、「この情報を整理して」「整理した情報を図解して」とAIに投げかけていいと思います。

きょん

グラレコの場合、まずホワイトボードの前に立つっていうのが大事です。社内で初めてグラレコをする時、めちゃくちゃ勇気がいったんですよ。

まずはあなたがホワイトボードに慣れること。次第に欲が出てきて「もっとうまく描きたい」と思うはずです。さらに上達したくなった方には90分講座もやっているので、よかったらぜひ(笑)。

「まずホワイトボードの前に立つ」を実演する原さん。確かに勇気がいる瞬間ですよね。最初の一歩踏み出しちゃいましょう!

Q. みなさんのビジュアルレコーディングを見ていると『センスあるな〜』と唸ってしまいます。レイアウトが大事だと思うのですが、記録の完成形を意識して描いているのでしょうか?

レイアウト、実は無理やり埋めてます……(笑)。

私もです……(笑)。あまり絵心がないタイプなんですが、そこで起こっていることが伝わればいいんですよ。

ある程度経験を重ねていくと、「ここは盛り上がって膨らむな」とか「そろそろまとめに入るな」っていうのがわかるようになってくる。

美しいスクライビングより、伝わるスクライビングを目指す。失敗してもいいってお伝えしたいですね。

印南

それでいうと図解もそうです。

最初にある程度のフォーマットは決めますけど、とにかく試行錯誤しながら発散してたくさんのプロトタイプを作る。そして、「これがいいかも」というものを探りながら、最終的にフレームワークとしての図解を完成させるんです。

きょん

その葛藤がみえるのが人間ですからね。大事なことだと思う。

印南

そうなんですよ。論理的に正確に伝えるだけじゃなく、何を伝えたいかによって情報の優先度は変わりますから。

きょん

同じアウトプットが出てきても、そこにどんな意味付けができるか、どれだけ人間の葛藤があったかってすごく大事なんです。これ、話しだしたら止まらないですね……!(笑)

本当にもっともっと聞きたいところなのですが、お時間がきてしまったので、今回はここまでにできればと……!

皆さん、本当にありがとうございました!

会場の「キロク愛」はイベント終了後も止まることはなく、「楽しかった」「明日からすぐ活かしたい」という声があちこちから聞こえてきました。

私たちは記憶に残るようにどうキロクするか? これからも深く広く、考え続けてまいります。

登壇者のみなさんと一緒に! 「レッツ! キロク〜ッ!」

2026年3月取材

執筆=つるたちかこ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)