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時代が移ろっても変わらぬ「会食」の価値。会食専門家・yuuuさんが培ってきた会食メソッドとは

来月、会食の幹事をしなければならない……。その状況に、一種の緊張感を覚える方もいるかもしれません。

お店選びから相手の好みの料理、出席する顔ぶれ、その会で実現したい目的など、さまざまな要素が絡み合う会食。どこから手をつけていいか、どこまで気を遣うべきかパニックに陥るかもしれません。

今回は大手広告代理店の勤務時代に、“会食メソッド”を確立し『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』を上梓した会食専門家・幹事研修講師のyuuuさんに、その極意や現代における会食の価値をお聞きしてみました。

yuuu(ゆう)
会食専門家。京都大学大学院修了後、新卒で大手広告代理店に入社するも、社内での挫折感を味わう。先輩の言葉をきっかけに会食に全力で取り組んだ結果、誰もがすべての会食・食事会を成功に導ける体系的な会食ノウハウを独自に生み出す。
会食をきっかけに、新規プロジェクトやスタートアップ企業への転職なども実現。著書に『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』(ダイヤモンド社)がある。

働き方改革で「会食」はどう変貌したのか

今日はよろしくお願いいたします!

ご著書を拝読しましたが、「1回の会食で、ここまで相手のことを事前に考えてセッティングするのか!」と圧倒されました。

yuuu

ありがとうございます。ビジネスの現場において、より良い食事会をセッティングして相手に喜んでもらい、結果的に業績を上げてほしい。

そんな想いからこれまでのノウハウを書籍にまとめました。

ビジネス会食 完全攻略マニュアル』(ダイヤモンド社)

yuuu

こういう本を書いていることもあって、だいたい幹事を頼まれるんです。

それで転職をした今も、月15回くらいはこういった食事の機会を企画しています。

月15回も!

yuuu

ただ、やはり回数も多いので……。

私自身、書籍に書いた内容をいつも完璧にできているわけではありません(笑)。

むしろ安心しました!

「会食=接待」という昭和のイメージを持つ人もいると思います。最近は、このスタイルが変化しているのでは?と思うのですが……。

yuuu

たしかにコロナ禍や働き方改革といった世の流れや個人の価値観の変化があって、全体的に会食の件数は減っていると感じます。

ランチ会にしたり、スタート時間を早めて1次会で解散して自分や家族の時間を大切にするといった風潮もありますね。

エグゼクティブ層だと、開始が18時スタートで、2次会もせずに早めに解散、なんてこともあります。

もう終電を逃して帰れないのが当たり前、みたいな時代ではなくなったとも言えそうですね。

yuuu

会社が会食にかかる費用の投資対効果をよりしっかり見るようになった、という面もあります。

その一方で、やはり精神的な繋がりの大切さは変わらないどころか、さらに重要視されるようになってきていると思っていて。

そのため、会食そのものは価値が高まっていると思います。

一次会やランチの限られた時間でどこまで仲良くなれるか……、さらに難易度が上がっているようにも感じますね。

yuuu

会食相手に「ここまでしてくれたんだ」と感じていただける場が作れれば、一次会だけでも十分ビジネスの結果に繋げることはできるのではないでしょうか。

もちろん会食は公式な商談の場ではないので、成果にこだわりすぎず、わきまえることも重要なのですが……。

なるほど。

yuuu

ただ、やっぱり夜遅くまで飲んで印象に残るというのも価値ではあるんですよね。もちろんお互いの相性もあります。

回数を重ねていくうちに、深い時間まで付き合う機会もあるでしょう。重要なのは、相手の呼吸の見極めだと感じています。

会食はまず相手を知ることから

ここからは具体的なポイントに移ります。幹事を任された場合、事前のリサーチって、どこまですればいいのでしょうか?

yuuu

その会の重要性と準備期間によりますね。

大きなプロジェクトに関わる大事な会ならば、準備の時間も必要になります。

たしかに、このあたりで受注に繋げたいというタイミングだと準備も周到に行うべきですよね。

yuuu

はい。

もし準備期間が長くて、エクゼクティブも参加する重要な会食ならば、プロフィールシートの用意をおすすめします。

プロフィールシート?

yuuu

はい。まずはこちらの出席者の経歴や趣味などをまとめたプロフィールシートを送るんです。こちらの参加者情報を先に伝えれば、相手も返しやすくなります。

「ビジネス会食 完全攻略マニュアル」より

yuuu

こういう情報が事前にあると、お互いに短い時間でもより深い情報が得られたりします。

また、その会をより良くしようという共通認識も生まれやすくなり、喜んでもらえますよ。

そこはビジネスパートナーとして、お互いありがたい情報ということなんですね。

どうしても時間がなかったり、送れない関係の場合もあると思いますが……。

yuuu

そういう時は、会食相手の名前を検索してインタビュー記事や各種SNSをチェックします。誕生日や出身地は知れたりしますし。

そうした情報がない場合は、関係性の近しい人に話を伺ったりする場合もありますね。

近しい人、ですか?

yuuu

相手がエグゼクティブ層の場合は秘書の方など。やりとりの窓口として対応いただける方は、味方にしたいところですね。

「ご予定の日時の前後は、フレンチの会食が続いているようです」などを教えてもらえたら、大きなヒントになります。

yuuu

直近で三つ星フレンチでの会食があったのに、自分たちが一つ星フレンチを選んでしまうのは避けたいじゃないですか。

確かに……。

yuuu

ただ結局、リサーチはキリがないんです。でも、時間にも限りがあるので、リサーチにかける時間を決めておくのがおすすめです。

あと、この情報を掴んだら勝てるな、というポイントが見つかるといいですね。

たとえば、どんなことですか?

yuuu

趣味や好きなプロ野球の球団とか。

社内で共有すれば「アイツやるじゃん」となるケースもあります。

そこまで調べるのですね!

yuuu

ただ、こちらが行った事前リサーチで得た情報を会食中の会話で出すことはありません。あからさま過ぎて不自然じゃないですか。

押さえるべき価値観や方向性を理解して、大枠を外さないことが大事です。

自分が幹事になったときの心構え・相手を唸らせるお店選びについて

次に、お店選びで押さえるべきポイントはどんなところでしょう?

yuuu

自分が行きたい店ではなくて、リサーチを踏まえて相手が行きたい店を選べるといいですね。

基本的なところでは参加者のアレルギーはもちろん、あと「隠れ苦手」な食材にも気をつけたいですね。

「隠れ苦手」?

yuuu

たとえば、ホルモンが苦手なのにモツ鍋にいってしまうとか。意外と区分けが曖昧なので選ばれてしまいがちです。

確かに! ホルモンとモツ鍋は別モノとして扱われているので、うっかりするかも……。

yuuu

あと、レバーや牡蠣、パクチー、ナンプラーあたりも隠れ苦手のケースがあります。

そのため、もつ鍋、やきとん、タイ料理あたりは会食では避けています。

箸での取り分けなどが必要な鍋料理は、そもそも会食に向いていないんだそう

なるほど……。その他、気をつけるポイントはありますか?

yuuu

個室かオープン席かにも注意が必要です。

たとえば、相手が政治家だった場合、一緒に食事をしているところを偶然見られただけでも、あらぬ誤解を生んでしまうこともあります。

予算感は上がってしまいますが、個室の方が無難です。

いざという時のために、覚えておきます。会食が終わったあとのお礼についてはどうですか?

yuuu

次の日に必ずお礼の連絡をします。スピード重視ですね。

できれば直接伝える、できなければ電話、さらにできなければメールを朝のうちに送ります。方法はもちろん相手との関係性によります。

最後まで気を抜かないことが大切ですね。

yuuu

いい会食の場をセッティングすると、終わった後も人に喜んでもらえますよ。

単純に「この前のお店が良かったよ」とか「ここまで自分のことを考えてくれるなんて」という言葉をもらえると、嬉しいですよね。

人として気に入っていただいて好かれるようになると、いろんなことがうまく回りはじめることが多いですね。

会食を成功に導けば最大のコストパフォーマンスを発揮する

最後に、yuuuさんがここまで会食に本気で取り組むのは、どうしてなのでしょうか?

yuuu

私が会食に全力で取り組むようになったきっかけは、前職の広告代理店勤務時代、上司から「この会食のセッティング、頼んだぞ」と言われたことでした。

当時の私は仕事が全くできないダメな社員でした。それでも、いい会食の場を企画することに試行錯誤しながら全力で取り組んだんです。仕事ができない分のリカバリーとしてやっていました。

そのうち、会食のセッティングを頑張って喜ばれると可愛がってもらえるようになって。

yuuu

仕事がなかなかうまくいかなくて怒られていても、「でも、お前は忘年会でよく頑張ってたよな」って先輩に言ってもらえたら、会社内で居場所はできると思うんです。

こいつ良いやつだなって思っていただくのが大事ですよね。

可愛がられるって重要ですよね……。

yuuu

はい。それは社内外に対しての自分のやりたいことの通行手形にもなります。結果、やりたい仕事ができるようになり、転職にもつながりました。

会食で会社の中で活路を見出し、人生が好転したといっても過言ではありません。

なるほど、まさに人生を切り拓くため「会食メソッド」だったわけですね。

貴重なお話をありがとうございました!

2024年10月取材

取材・執筆=赤坂太一
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト