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今が一番、楽しい。ヴィジュアル系インサイドセールス・MIHIROさんに聞く「自分に嘘をつかない」働き方

働き方が多様化し、自分らしい働き方を模索する人が増えてきました。しかし、心から楽しいと思いながら働いている人はどのくらいいるのでしょうか?

今回は、株式会社ホットリンクでメールや電話でアポを取る営業職「インサイドセールス」として働くMIHIROさんに話を聞きました。

20代はヴィジュアル系バンドのギタリストとして活躍し、30代から会社員に転身。さまざまな挫折を乗り越え、現在は「ヴィジュアル系インサイドセールス」という独自の立ち位置を開拓しています。

「思ってもみなかった展開だけど、これが本当の自分だと思う。今が最高に楽しい」と語るMIHIROさんに、自分に嘘をつかず、楽しく働くコツを伺いました。

ヴィジュアル系バンドのローディーを経てバンド結成

本日はよろしくお願いします。SNSや記事も拝見していたのですが、こうしてMIHIROさんご本人にお会いできて光栄です! まずは名刺交換を……。

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MIHIRO

そうですよね。ちょっと待ってくださいね、手袋のままだと名刺が取り出しにくくて。

ハッ……! 

こんなところにもヴィジュアル系インサイドセールスの苦労が(笑)。

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本日の衣装もメイクも髪型もばっちりなMIHIROさんですが、まずは現在に至るまでの道のりから聞かせてください。

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MIHIRO

高校卒業後から32歳までバンドマンでした。

高校を卒業してすぐに、ヴィジュアル系バンドDué le quartz(デュール クォーツ)(※1)のローディー(※2)を1年ほど経験します。

※1:1999〜2002年まで活動していたヴィジュアル系ロックバンド。先日発表された「THE LAST ROCKSTARS」でも注目を集めたギタリストMIYAVIさんもメンバーのひとり。活動期間がわずか3年ながら、香港でのワンマンライブも成功させた。

※2:アーティストやミュージシャンがコンサートツアーやライブを行う際に、楽器や機材の手配、運搬、メンテナンス、セッティングといった管理業務を行うスタッフのこと。ロードマネージャーと呼ばれることも。

ローディーからバンドマンになるって一般的なのでしょうか? バンドを組んで、そのメンバーとデビューするものだと思っていました。

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MIHIRO

そうですよね。僕はヴィジュアル系バンドが大好きで、もともと地元仲間とバンドを組んでいました。

そんな学生時代に読んでいたバンド雑誌のインタビューで、ローディーからバンド組んだって書いている人が結構いたんですよね。その時、「ローディー」の存在を知りました。

だから、「本気でデビューを目指すならローディーだ!」と、どこか思い込んでいて。大好きだったDué le quartzのチラシにローディー募集の告知が載っているのを見つけて、事務所に履歴書を送ったのがはじまりです。

ローディーの頃は厳しい仕事もたくさんありましたが、メンバーが本当にいい人たちで、楽しかったですね。

MIHIROさんの現役時代(MIHIROさん提供)

MIHIRO

自分のバンドも結成することができ、デビューしてからは「Dué le quartzのローディー」って認識されていたので、集客も苦労せず、音楽活動を続けることができました。

けれど、年々若い子たちに追い越されるようになってきて……。少しずつ歯車がズレてくるんです。

「活躍できる人は、ひと握り」だとよく言われますが、デビューできても人気を維持していくって、とても大変なことなんですね。

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バンド活動のために始めたバイトが転機に

MIHIRO

20代後半になると音楽だけで食べていくことができなくなりました。そこで、見た目のルールがゆるく、短時間で稼げる電話営業のアルバイトを始めたんです。

そのアルバイトが「ヴィジュアル系インサイドセールス」につながってくるのでしょうか?

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MIHIRO

きっかけのひとつではあります。ただ、その時はまだ「バンドのために稼がないと!」というモチベーションで働いていたので。

でも、バンドはうまくいかない……。そんな焦りと反比例するように、バイトの営業成績の方は社員さんより良くなり、社員にならないか?って声をかけられるほど好調になってきました。

そんな時、バイト先の会社にいた元バンドマンの上司にこんなことを言われたんです。

「バンドを続けているのはすごい。でも、これからも食べていけるのか? 一度売れた経験があるやつほど、やめられなくなるんだ。すでにお前もそうだろ?」って。

厳しい……。現実を突きつけられたわけですね。

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MIHIRO

自分でも心のどこかでわかっていたけど、ショックでしたよ。音楽以外に僕の居場所はないって思っていましたから。

そこから、すぐに営業マンには転身できたのでしょうか?

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MIHIRO

いいえ。すぐに決断はできず、1年ほど悩みながら働きました。

その間に、バンド活動が思うようにいかなくなり、引き続き「社員どう?」って誘ってもらい……。いろんな理由が噛み合うタイミングがきて、「バンドは成功できなかったけど、自分が納得いくまでできたじゃないか」と思えたんです。

それで、音楽業界からの引退を決意しました。32歳の時です。

13年続けてきた活動だからこそ、そう簡単に「次!」とはならないですよね。すごく大きな決断だと思います。

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MIHIRO

引退後は、アルバイトをしていた会社で社員雇用してもらい、営業マンとして人生をリスタートさせます。 1社目では営業部長にまでなったんですが、体を壊してしまい退職。

1社目は気合と根性で戦う営業手法だったのですが、2社目は大手企業向けのインサイドセールス。

しかし、ビジネス知識と経験のなさが露呈して、2社目は思ったように活躍できず。逃げるように退職してしまいました。「僕ってこんなにできないんだ」って挫折感を味わいましたね。

そして3社目が、現在働いている株式会社ホットリンクです。

「ヴィジュアル系インサイドセールス」の誕生!

ホットリンクさんに入社してからは、インサイドセールスについてかなり勉強されたんじゃないですか?

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MIHIRO

そうですね。1からインサイドセールスと向き合って、勉強ばかりの日々でした。

取材当日は、株式会社ホットリンクさんのオフィスをお借りしました。

 

MIHIRO

働いていく中で、「ライブ活動とインサイドセールスって、リンクするところがたくさんある」って気がついたんです。営業もライブステージも、お客様の時間をいただく行為。その時間で役立つことをお伝えしようとか、いい時間にしようって思いは、共通しているんですよね。

だから、表舞台に立っていた経験のある人は、インサイドセールスに向いていると思うんですよ。

なるほど! 思いもしなかった共通点です。

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MIHIRO

あともうひとつ、インサイドセールスって電話とメールだけでコミュニケーションを取ることが多いので、少ない情報から相手の気持ちを“読み取る”能力が大切になるんです。

ライブでも「いつもと同じセットリストなのに、ノリが悪い」って感じたら、その場でパフォーマンスを変えたりするんですよ。その臨機応変さが営業でも活かされることが、多々あります。たまたまかもしれませんけどね。

挫折しながらでも続けていったことで、これまでのバンド経験と今の仕事の共通項を見つけることができたんですね。

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MIHIRO

そうかもしれませんね。そんな中、ありがたいことにSalesforce(セールスフォース)さんのイベントへ登壇する機会をいただいたんです。うれしくて上司に報告したら、後日、ホットリンクCEOとの1on1がセッティングされて。

いきなり、社長と1on1ですか!?

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MIHIRO

はい、普段はそんなことないので、びっくりしました。いざ面談が始まると、「元バンドマンだよね? せっかくのイベントだからさ、ばっちばちにメイクしてギター、ギュイーン! ってやっちゃいなよ」って言われて。

ええ〜〜!!

WORK MILL

MIHIRO

驚きますよね? 僕も「とっても真面目なイベントですよ? 無理ですよ! そもそも先方もOKするかどうか……」って伝えました。

イベント主催者のSalesforceさんは、なんと回答されたのでしょうか?

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MIHIRO

ノリノリでOKでした(笑)。「いいですよ、やっちゃいましょう!」と……。

ええ〜〜!!

WORK MILL

MIHIRO

それでも、心のどこかで「冗談でしょ?」って思っていたので、黒髪で少しエクステつけて、軽くメイクして出ればいいやって思っていたんです。

そしたら、ヴィジュアル系が大好きな僕の妻から「ヴィジュアル系の本気見せろや!」って怒られて……。それで僕の心にも火がついてしまい、「ヴィジュアル系を本気にさせたらこうなるんだぞ!」と、髪をピンクに染めました。

こちらは現在の髪色。薄ピンク、濃いピンク、青の3色。(MIHIROさん提供)

うーん、強いっ(笑)。

でも、イベントの前には、まず出社しないといけませんよね? 社内の反応はどうだったのでしょうか?

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MIHIRO

ピンクに染めた後の出社初日は変な空気になって、ざわついていました。事情を知っている人は笑ってくれましたが(笑)。

というのも、それまでの僕はスーツで黒髪。周りからも、“落ち着いた真面目な人”って思われていたと思うんです。

だから、他部署の方からは「どうしたんですか?」って真面目に聞かれました。

でも、本当の僕はこっち。ヴィジュアル系の姿の方が、僕らしいと言うか、素なんだと思います

セールスフォースのイベント登壇当日(MIHIROさん提供)

大好きなヴィジュアル系の姿こそ、素でいられるって素敵なことですね! イベントの反応はいかがでしたか?

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MIHIRO

100人くらいお客さんもいたのですが、盛り上がって大成功でした。それに、大好きなヴィジュアル系の姿で登壇できたことが、うれしくて、楽しかったんです。

CEOからも「よくやった、今後もこれでいこう!」って言ってくれたので、「CEOが言うならとことんやってやろう!」と、2019年6月からヴィジュアル系インサイドセールスという肩書きで活動するようになりました

セールスフォースのイベントに登壇する様子。(MIHIROさん提供)

 

イベントをきっかけに、今のMIHIROさんが誕生したわけですね。ちなみに、普段もばっちりメイクで働いているんですか?

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MIHIRO

フルメイクは1.5時間くらいかかるので、メイクはイベント時のみです。普段はすっぴんに私服で働いています。ただ、髪は地毛なので、この色のままです。

インサイドセールスとして関わるクライアントやお客様には、髪がピンク色だってことはバレていないのでしょうか?

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MIHIRO

電話でのやりとりなので、バレていませんね。ただ、名乗った時に「あのヴィジュアル系の!?」って言われたことはあります(笑)。

それは嬉しいリアクション! 仕事上でもメリットになりますね!

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MIHIRO

はい。こちらもアポを取りたくてお電話しているので、「お話したかった」と言っていただけるのは本当にうれしいです。

あと、ヴィジュアル系インサイドセールスとして活動するようになってからの方が、「仕事で成果を残そう」って意識が高まったんです。

身近で働く社内のメンバーに信頼してもらおう、お客様に有益な情報を伝えよう、イベントに登壇するならもっといい話をしようとか、周りの人のことを考えて働けるようになりました。

メイクをしているだけの「ヴィジュアル系」ではなく、「インサイドセールス」としての成果を残せてこそだと思っています。

取材やイベント限定のフルメイク姿。オフィスの中の撮影でも、ホットリンクの社員さんたちは慣れた様子で仕事を続けていました。ちなみに、MIHIROさんが髪をピンクに染めてからは、社内が髪の色に対して寛容な雰囲気になったそう。

まだまだこれから。いつかライブもやってみたい

真面目に「ヴィジュアル系インサイドセールス」を貫くMIHIROさんは、本当に楽しそうに働いていますよね。自らその道を作って、居場所を作っていくような……。今後やってみたいことはありますか?

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MIHIRO

ヴィジュアル系インサイドセールスとして、めちゃくちゃなことをやりたいと思っています。

めちゃくちゃですか!?

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MIHIRO

できることなら、ライブもやりたいです。目標を10としたらまだ1くらいの位置にいるので、いろんなことに挑戦したいですね。

ヴィジュアル系インサイドセールスとして楽曲『インサイドセールス・ラプソディ』を発表している。

ライブする時には、ぜひ呼んでください!MIHIROさんのように、自分に嘘をつかず、心から楽しく働きたいと思っている人はどんなことをしたらいいと思いますか?

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MIHIRO

考える前にやってみるのがいいと思います。僕自身も振り返ってみると、新天地に飛び込んだことで、楽しい今に辿り着けているんです。

デビューしたいから、ローディーに応募した
・ローディーを続けていたら、デビューできた
・バンドのために、電話営業のバイトを始めた
・バンドをやめて、誘われるがまま営業マンになった
・挫折から、インサイドセールスを必死で勉強した
・ヴィジュアル系の格好でイベントに出た

狙って「ヴィジュアル系インサイドセールス」になったわけではなく、導かれたというのが正しいかもしれませんね。飛び込んでみて、楽しいと思えたら続けるのは自分次第。やっちゃえば、一旦何か変わりますからね。

今後、ローディーをやりたいって人も出てくるかもしれませんね(笑)。飛び込んでから、続けるかどうか考えるっていいですね。

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MIHIRO

やる前からあれこれ考えてもわからないから、その都度、合わせて調整していけばいいんですよ。僕は今が一番、楽しいんです。もちろん幸運だったのもありますが。せっかく仕事するなら、楽しくしていたいですよね。

2022年10月取材

取材・執筆=つるたちかこ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト