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チャンバラ合戦がチームビルディングにつながる。「参加したくない研修」を「面白そうなイベント」に変えるコツ(株式会社IKUSA・赤坂大樹さん)

研修や防災訓練、社内運動会と聞くと、正直「あまり参加したくない……」と思ってしまいます。

しかし、そんな「つまらない」「参加したくない」と思われがちな活動を、「面白そうだな」と思わせるイベントに変える事業を展開している会社があります。

それが、企業や自治体、商業施設向けにあそびを提案しているあそび総合カンパニー、株式会社IKUSA。リアル合戦アクティビティ「チャンバラ合戦」やオンライン謎解き「リモ謎」などを企画・運営しています。

「研修やイベントにあそび要素を入れれば、チームビルディングやエンゲージメントにつながる」と話すIKUSA代表の赤坂大樹さんに、ビジネスにおけるあそびの効果について聞きました。

赤坂大樹(あかさか・だいき)
株式会社IKUSA 代表取締役。2005年に株式会社キーエンスに入社。2012年に独立後、2018年から現在に至るまで株式会社IKUSAとして「あそび」をビジネスソリューションへと展開し、企業や自治体、商業施設などに対して提案・運営を行っている。チームビルディングや地域活性化など、企業や地域の課題を解決する100種以上のサービスを展開。年間1000件以上の研修・イベントを実施している。

謎解き研修や防災運動会、BBQ。実は企業は「あそび」イベントを求めている

株式会社IKUSAさんは「あそび総合カンパニー」とのことですが、具体的にどのような事業を展開しているのでしょうか?

赤坂

弊社はあそびをビジネスソリューションとして、企業や自治体、商業施設、学校法人などへ提供しています。

企画の提案から、イベント・研修の運営までを一貫して行っています。

赤坂

おもな事業としては、
・リアルのイベントを行う「リアルイベント事業」
・ビデオチャットツールを活用した社内イベント・研修「オンラインイベント事業」
・食事を含めたパーティーのコンテンツ企画・提案を行う「ビジネスパーティー事業」
・体験型アクティビティの後に講義のインプットを行うことで没入感を高める「あそぶ社員研修事業」
・LPサイト制作やコンテンツマーケティング支援を行う「デジタルマーケティング事業」
の5つです。

どんなあそびがあるのでしょうか?

赤坂

運動会やチャンバラ合戦、謎解き・宝探し、パズルゲーム、推理ゲーム、あそびのノウハウを活用した体験型SDGs 防災イベントなど、100種類以上のサービスを用意しています。

なぜ、あそびをビジネスに繋げようと思ったのですか?

赤坂

最初は仲間と一緒に、普通のあそびとしてチャンバラ合戦をやっていました。相手の腕についているボール「命」を刀で打ち落とすという、合戦ゲームです。

やっていくうちにこれをビジネスにできないかと考え、自治体へ営業をかけ始めました。参加型コンテンツとして、お客さん同士であそんでいただくサービスとして展開していきました。

チャンバラ合戦の様子(提供写真)

赤坂

そうするうちに特別な営業をしないのに需要が年間100件、150件と増えていきました。いまでは、チャンバラ合戦の開催依頼の7割は企業からになっています。

企業はなぜ、チャンバラ合戦を開催したがるんですか?

どういうニーズがあるのか、気になります。

赤坂

一番は社内イベントや運動会です。そこにチャンバラ合戦を入れたり、謎解きを入れたり。

新しい形の社内コミュニケーションイベントは、すごく求められていると感じました。

戦国風チームビルディング型運動会「戦国運動会」(提供写真)

赤坂

あと、もう一つ人気なのは、謎解き・宝探しです。発想力やひらめき、チームビルディングに使いたいという需要ですね。

ほかにも忘年会や新年会、周年事業、バーベキューの運営などいろんな需要があります。

謎解き脱出ゲーム(提供写真)

防災のイベントもあるそうですね。

赤坂

防災イベントは中でも需要が伸びていて、年間200以上のイベントをお手伝いしています。

防災を楽しいものとして捉えつつ、役立つ知識を得てもらう。そういうコンテンツが世の中の事情にマッチしているのではないかと思っています。

社内運動会で防災も学べる「防災運動会」(提供写真)

年間1000件以上のイベントを実施されているとのことですが、依頼する企業に何か傾向はありますか?

赤坂

企業のお取引の全体の7割が売上100億円以上の大企業です。

コロナ禍のときは「オンラインで、社員同士のコミュニケーションが増えるイベントをやりたい」という需要が急激に伸びました。

コロナ禍以降、オフィスは縮小したり分散化したりしている一方、「リアルに人が集まるイベントや周年企画には、ちゃんと費用をかけよう」という意識が強くなっています。いまは9割がリアルイベントです。

ただ食事して終わりではなく、自社ならではのコンテンツを作りたい

そういう企業は、一体どんな理由で運動会やチャンバラ合戦をやるのでしょうか?

赤坂

チームビルディングや社員研修、レクリエーションなど、いろんな理由で予算を組んでいると思いますが、共通しているのは「社内に盛り上がりがほしい」ということです。

あるとき、一般向けのチャンバラ合戦に参加していただいた方から「うちの会社の社員旅行でやりたい」という話が出ました。

社員旅行でチャンバラ合戦を?

赤坂

はい。いまの社員旅行って、何かを見たり食べたりするだけじゃなくて、みんなで体験がしたいんです。

でも、やっぱり社員旅行の幹事はあそびのプロではありません。幹事が「こんな企画どうですか?」と一生懸命に提案したのに「面白くない」と言われたら、傷つくでしょう? だから、場を作って後はなんとかしてほしいとなるのかもしれません。

場は作っても、何をやるかは考えたくない、と。

赤坂

そうです。だから、ソフトコンテンツを外注するんです。もっとぶっちゃけていえば、幹事が辛いという需要ですね。

社内バーベキューの代行サービスを始めたとき、最初は需要あるのかな?と半信半疑でした。でも、やってみたら予想以上の反響があって。

理由を聞くと、「酔った人の対応が面倒」「幹事はちゃんとご飯が食べられない」「盛り上がらなかったら気まずい」といった話が挙がりました。

確かに、幹事は大変ですよね。

赤坂

昔は慣習的に若い人が幹事を引き受けるケースも多かったと思いますが、今はそんな簡単に命令できません。そうすると、たいてい人事や総務の人が幹事になります。

でも、人事や総務からすると、幹事って荷が重いですよね。どの会社もかなり真剣に、「盛り上げ役」に困っているんです。

なるほど。ほかに、企業から挙がってくる課題や悩みはありますか?

赤坂

「社員同士のコミュニケーションを増やすには?」「クイズをやることは決まっているけど、どうすれば盛り上がる?」など、企画に悩んでいる企業は多いですね。

ただ食事して終わりではなく、何かしら自社ならではのコンテンツを作りたい、というニーズはすごく感じます。

「内輪盛り上がり」と、チームビルディングにつながるミッション

あそびの中身は、どんな人が作っているのでしょうか?

赤坂

最初の頃は僕と取締役の2人で考えていました。今はオンラインサービスや謎解き、パズルゲーム、ボードゲームなどを考えるクリエイティブチームが作っています。

ただ基本的には、「社員は誰でも企画・開発してOK」という形にしていて。自分が好きなあそびを、ビジネスにつなげていくんです。

サバイバルゲームやマーダーミステリーが趣味で、それを研修プログラムとして開発をしたメンバーもいます。

物語の中で起こった事件の犯人を捜しながら、それぞれのプレイヤーに設定された秘密のミッションの達成を目指す推理ゲーム(提供写真)

本人が楽しいと思っているからこそ、ビジネスと組み合わせてパッケージ化できるわけですね。

企業に合わせてあそびをカスタマイズしているそうですが、イベントを設計する際のポイントがあれば教えてください。

赤坂

社内イベントで一番大事なのは、内輪盛り上がりです。たとえば、イリュージョンっぽい演出で社長が登場する、社長や取締役クラスの人たちに「社長が好きなお酒を当てましょう」ゲームをTV番組風にやってもらう、とか。取締役の方に「監査役」「副社長」などと書かれた陣羽織を着て対戦してもらったこともあります。

イベントを盛り上げるために、芸人さんを呼ぶ企業もあるかもしれません。ただ、自分たちが普段からよく知っているチームの代表が壇上で企画に参加するから、社員たちが没入するわけです。

それは確かに盛り上がりそうですね。

赤坂

もちろん、前後の文脈も大事です。イベントの後に研修があるのなら、前のあそびはライトなものにしましょう、とか。

ほかに、あそびを企画・運営する上で注意すべき点はありますか?

赤坂

「チャンバラ合戦やりたい」「謎解きイベントやりたい」というお問い合わせはよくいただきます。

でも、お話を聞いてみて、「参加者の年齢層が高そうなので、こっちのイベントの方がいいのでは?」など、違うプログラムをご提案することも多いです。

そういう場合はどんなふうに提案を?

赤坂

まずは、
「目的は?」
「参加者はどんな人たち?」
「終わった後どうなってほしい?」

というポイントを明確にすることが大事です。

そこがブレると、イベントの趣旨もズレてしまうので。

年齢層によって合う、合わないはありそうですね。

赤坂

企業向けで頭を使うイベントでは、面白さやキャッチーさとともに「落伍者を出さない」という点が大切です。

40~50代だとそもそもあそびに興味がない人も多いので、そういった方も一緒に参加できるよう、難易度を調整しています。

あとは、必ず情報共有がいるゲームやチームで歩き回らないといけないゲームなど、チームビルディングにつながるミッションを入れることも多いですね。

企業イベントにおけるあそびの価値は「接点」

一般参加者向けのイベントと企業向けのイベント、両方を手掛けてらっしゃるかと思いますが、何か違いはありますか?

赤坂

一般向けのイベントは、「見栄えがいい」「見たことがない」「それなりに難しい」が大事なポイントです。

一方で企業向けのイベントは、「落伍者を出さない」「安心安全に」「みんなが楽しめる」「クレームがない」が大事です。全然違いますよね。

企業イベントにおけるあそびの価値は「接点」じゃないかと思います。

接点?

赤坂

「苦しいときもあったけど、頼りになる先輩がいて、気の合う仲間がいたからこそ頑張れた」みたいな経験って、誰しもありますよね。

「あそび」の本質的な部分は、そういう経験を意図的に作ることなんです。

お花見や内定者懇親会、バーベキュー大会、納涼祭、ファミリーイベント、忘年会、社員研修……。すべて社員同士の接点につながるイベントですよね。

会社としても「社員が集まるイベントをより大事にしたい」という意識があるんですね。

赤坂

それは強く感じます。特にコロナ禍以降は、多くの企業が「能動的にイベントを催す必要がある」と考えたのではないでしょうか。

オフィスでの勤務が少なくなるなど働き方が多様化しているため、どうしても社員の一体感が薄れたり受け身の姿勢になったりしてしまいますからね。

研修やイベントなど、何か持ち帰ってもらう機会を提供し続けることが大事

あそびイベントを実施した企業は、その後どういう効果が出ているのでしょうか?

赤坂

内定者向け研修を実施した大手アパレル企業さんでは、内定辞退率がほぼゼロになったそうです。飲み会以外での、内定者とのコネクションづくりがうまくいったのでしょう。

あと最近は、若手社員の定着率を測る企業も出てきました。ただ実際のところ、定着率の変化や生産性の向上を正確に調べるのは難しいかもしれません。

仕事に対するモチベーションの低下や離職って、いろんな理由がありますよね。

赤坂

そうなんです。それでも、その中で「あそび」ができることは、楽しい体験を共有することによる帰属意識、エンゲージメントの向上だと思っています。

業務上、他部署の人と全く話さないケースもありますよね。それで問題ないならいいのですが、やっぱり社内コミュニケーションが多いほうが会社への帰属意識にもつながっていきます。

今後は新規採用と同じぐらい、社員の定着も重要になっていくはずです。

従来の社員研修が「つまらない」「参加したくない」と思われてしまうのは、どういう理由があるんでしょうか?

赤坂

自分で勝手に学んでいく優秀な社員からすると、「研修なんていらない」という意見が出てくるのも理解できます。

ただ研修は、会社全体の底上げのためにも必要です。たとえば、ビジネスマナーの習得が不十分な人に「教えてもらってないから」と言われるのは、会社としては避けたいですよね。

じゃあ、エキサイティングで没入感のある研修、あそび要素を取り入れた研修にしよう、というのが我々の提案です。

でも、社員研修って強制参加なのでは?

赤坂

いまは強制じゃなく、任意参加にしているケースが多いんですよ。

なので、なるべく社員が参加したくなるような研修やイベントにしたいですよね。

「実務につながる研修じゃないと意味がない」など、あそびを取り入れることに関して抵抗感を持つ社員もいるのではないでしょうか?

赤坂

いまは書籍やeラーニングなど、個人で学べる機会はたくさんあります。かといって、「会社は社員教育する必要がない」「自分自身でインプットできない人はダメだ」というのは極論すぎますよね。

社員に対して、何か持ち帰ってもらう機会を会社側が能動的に提供し続ける。それって、すごく大事なことだと思います。

確かに……。

赤坂

堅いインプット型の研修や、コミュニケーションを増やす目的のイベントなど、いろんな可能性を用意しておく。その中に「あそび」の要素を取り入れてみてもいいのではないでしょうか。

参加したくなる場があるのは、会社と社員双方にとってポジティブですね。貴重なお話、ありがとうございました!

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
会社で何か盛り上がるイベントを企画したい。そしてできるだけ多くの社員に参加してもらいたい、と悩みを抱える企画担当者。一方で、社員の中には楽しいことに興味はあるものの、参加するためのきっかけや理由を求めている人もいます。そこで、両者の思いが交わるポイントとして「あそび研修」の価値が見えてくるのだなと感じました。チャンバラ合戦、私のチームでもやってみたい!
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / Sea コミュニティマネージャー 宮野 玖瑠実)

2024年11月取材

取材・執筆:村中貴士
撮影:栃久保誠
編集:鬼頭佳代(ノオト)