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アイドルで介護職員。HIKARUが語る「世界で僕だけ」のパラレルキャリアの中で見えたもの

煌びやかなスポットライトを浴びる「アイドル」と、利用者の生活を支える「介護職員」。対極とも言える二つの世界を走り続けるHIKARUさん。

5年におよぶ「パラレルキャリア」の現場である特別養護老人ホームを訪ねると、そこにはステージ上のクールな表情とは違う、泥臭くも温かい、もう一つの「プロフェッショナル」の顔がありました。

「老人ホームのアイドル」として、異なる二つの仕事場を行き来するHIKARUさんが感じた2つの仕事で働くことの意味とは?

HIKARU(ひかる)
1999年3月30日生まれ、埼玉県出身。身長182cm。アイドル/インフルエンサーとして活動する傍ら、週3〜4日は介護施設の職員として勤務するパラレルワーカー。2021年、オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」に出演し話題に。特技のダンスを活かし、施設では健康体操の指導やレクリエーション企画も担当。「世界で唯一の介護職アイドル」として、業界の光となることを目指している。

介護職アイドルHIKARU、老人ホームでの日常とは?

施設に到着したのは、朝の10時30分。なかをそっと覗くと、そこにはひときわ大きく、張りのある声が響き渡っていました。

Evoto

HIKARU

皆さん! 大きな声でおはようございます!

動きやすそうな姿で利用者のみなさんの前に立つのは、HIKARUさん。恒例の「朝の会」が始まりました。

「今日は令和何年ですか?」
「令和7年!」
「お昼ごはんのメインは、たらの味噌バター焼きですよ。おいしそうですね」

こんななふうにテンポよく声を掛け合いながら、瞬く間に場の空気を温めていきます。

続いて行われたのは「朝の健康体操」。

Evoto

HIKARU

まずは首を回します。次は肩! 声を出して数えてくださいね。せーの、イチ、ニ、サン!

彼の指導は、ただ身体を動かすだけではありません。

Evoto

HIKARU

次は指の体操です。右手が親指から、左手は小指から。

これ難しいですよ、僕も間違えますから(笑)

笑いを誘いながら、脳トレ要素を取り入れた複雑な動きを実演。利用者さんも楽しそうに動きを真似しています。

続いては、「デュアルタスク(二重課題)」運動。「あんたがたどこさ」を歌いながら、「さ」のタイミングで手を叩いて足踏みをしたり、童謡「ふじの山」を歌いながら足踏みをしたり……。

Evoto

HIKARU

歌詞を忘れたらハミングでいいですよ。

そんなふうに、マスクの下の笑顔で優しくフォローするのも忘れません。体操の合間には「水は飲みましたか? 暑くないですか?」と細やかに利用者の体調を気遣います。

食事の準備やお茶出しもテキパキとこなし、すっかり施設の職員として周りからも頼りにされているHIKARUさん。

食事もそれぞれ利用者一人ずつへ配慮したメニューのため、慎重な配膳が求めれます

でも、夕方に介護の仕事が終わると所属する事務所へ移動し、ライブ配信などアイドル/インフルエンサー活動を行っていると言います。

なぜ彼は、このタフな二足のわらじを履き続けるのか? 午後の休憩時間、静かになった相談室でじっくりとお話を伺いました。

「家が近いから」で始まった、異色のキャリア

先ほどの体操、素晴らしかったです。

後ろの方の席までしっかりと声が届いていて、利用者さんも楽しそうでした。

Evoto

HIKARU

ありがとうございます。いつもは、もっとふざけてるんですよ。今日は取材だからちょっと猫かぶってしまいました(笑)。

普段は自分で「暴れん坊職員HIKARUです!」って自己紹介するくらい、賑やかにやってます。

それも見たかったですね(笑)。声の大きさだけでなく、通りの良さも印象的でした。

Evoto

HIKARU

元々声は大きかったんですけど、ここで働くようになってさらに鍛えられましたね。

耳が遠い利用者さんもいらっしゃるので、お腹から声を出さないと伝わらないんです。

なるほど。アイドルと介護職。あまりにかけ離れた二つの世界ですが、この「パラレルキャリア」はどうやって始まったのですか?

Evoto

HIKARU

きっかけはちょうどコロナ禍だった21歳の頃に遡ります。当時は居酒屋でアルバイトをしていたんですが、緊急事態宣言でお店の営業ができなくなり、シフトも激減してしまって……。「これは稼ぎがないぞ、やばいな」と。

それで、働ける場所はないかなと探していた時、ふと小学校のころ、老人ホームを職場見学したことを思い出したんです。

それで後先考えず、近くの老人ホームに電話して「すいません、バイト募集してますか?」って聞きました。

えっ、そんなに直接的なアプローチだったんですか?

Evoto

HIKARU

そうなんです。「経験あるの?」って聞かれたんですが、「全くないです!」と答えましたし、動機も「家が近いから」というだけで……(笑)。

正直、最初は介護の仕事に強い思い入れがあったわけではなかったんです。それでも、面接を受けたらそのまま採用してもらって、気づけばもう5年が経ちました。

魔法が解ける「ギャップ」と、それでも介護職に帰ってくる理由

5年間も続いているというのは、単に「家に近いから」だけの理由ではない気がしますが、いかがでしょうか?

Evoto

HIKARU

アイドルの仕事は、華やかなステージに立って、ファンに応援してもらって、ある種「魔法」にかかっているような時間だと感じます。

でも、そこから家に帰ってきて、翌朝ここに出勤すると、現実が待っているんです 。

現実、ですか?

Evoto

HIKARU

はい。やっぱり介護の現場ですから、排泄や入浴のサポートといった仕事もあります。キラキラした世界から帰ってきて、いきなりそういった業務に入ると、魔法が解かれるというか……。「ああ、現実に戻ったんだな」という感覚になるんです。

正直、そのギャップの存在が、精神的にしんどい時もあります。「自分はまだアイドルとしては下積みなんだな」って実感させられるんです。

しんどいギャップでもあるんですけど、ここは「いつでも変わらずに帰ってこられる場所」なんです。

Evoto

HIKARU

芸能界はどうしても浮き沈みが激しい世界です。でも、利用者のおじいちゃん・おばあちゃんたちは、僕がテレビに出ようが何しようが、「職員のHIKARUくん」として変わらずに接してくれる。

それに、利用者の方から「あなたがテレビに出ている姿を見るまでは死ねないわよ」とか「またテレビ出てね」って言われると、グッとくるものがあって。

「応援してくれる人がこんなに近くにいるんだ」って感じられる。それがモチベーションの源泉ですね。

続けられる理由は、職場に広がるチームで「背中を押す」文化

PRODUCE 101 JAPAN SEASON2に参加した際のHIKARUさん(提供写真)

オーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』に参加された時は、長期間お休みされたんですよね。

介護の職場の方々の反応はどうでしたか?

Evoto

HIKARU

あの時は4カ月半くらい休職したんですが、最初は「もう辞めることになるかな……」と思っていたんです。その頃は、入ってまだ数カ月でしたし。

でも、当時の上司や同僚は「頑張ってこい!」って快く送り出してくれました。

それはうれしいですね!

Evoto

HIKARU

番組が終わって戻ってきた時も、「残念だったね」じゃなくて「おかえり! また一緒に働けるの楽しみにしてたよ」って迎えてくれて……。

番組期間中も職員の皆さんが投票や応援をしてくださったと聞きました。本当に温かいチームだな、と感謝しています。

職場の理解がすごいですね。

アイドルのお仕事は、オーディションのように長期だったり、突発のお仕事もあると思います。シフトの調整などはどうされていたのでしょうか。

Evoto

HIKARU

ありがたいことに、かなり融通を利かせてもらっています。

普通のバイトなら月ごとのシフト提出だと思うんですが、僕は芸能活動のスケジュールが不規則なので、「週単位」で出させてもらっているんです。「今週は木・金が入れます」といった感じで。普通ならありえない対応ですよね。

チームのみんなが許容してくれているからこそ成り立っている働き方なのです。本当に、いつも感謝しています。

2つの世界を見ているからこそ感じる。チームに求められるモノの違い

働き始めて5年目となると、介護の世界でも職員として頼りにされはじめますよね。後輩になる方にお仕事を教える場面などもあるのですか?

Evoto

HIKARU

はい、そういうこともあります。

介護業界ならではなんですが、最近入ってきた後輩は60代の方だったりするんですよ。

60代!

20代のHIKARUさんにとっては、まさに人生の大先輩ですね。

Evoto

HIKARU

そうなんです。仕事とはいえ、僕の倍以上生きている方に、「ここはこうしてください」って教えることに、最初は戸惑いました。

でも、向こうも「先輩、教えてください」って姿勢で来てくださる。それで僕も変に遠慮せず、でも敬意を持って接するようにしています。

なるほど。でも、人に教えるのもなかなか難しいですよね。

Evoto

HIKARU

とくに意識しているのは、口で説明するより、まず自分がやってみせること。

そして、一度言っただけでは伝わらないことも多いので、根気強く、丁寧に、何度も伝えることです。

これは利用者さんとのコミュニケーションで培った「忍耐力」が活きているところですね。

幅広い年代の人と働くからこそ、介護の現場におけるチームワークで、もっとも大切にしていることは何ですか。

Evoto

HIKARU

シンプルですが「助け合い」です。

特に排泄介助や入浴介助などの体力を使う業務や、心理的に負担がかかる業務は、「私やるよ」「次は代わるよ」という声かけが自然に飛び交っています。

誰かが大変な時は誰かが支える。この連帯感は、介護現場特有の強さだと感じますね 。

一方で、アイドル活動やオーディション番組など芸能活動のなかでの「チームワーク」には、また違った要素が必要になりそうなイメージがあります。

Evoto

HIKARU

そうですね。介護とアイドルではゴールが違いますから。

僕が感じているのは、グループで一つの目標に向かう上では、ある程度の「距離感」が必要だということです。

どれだけ仲が良くても、目標に向けてパフォーマンスするなかで、仕事として割り切りが必要な一面もあります。

それでも、相手のパフォーマンスや才能に対して「リスペクト(尊敬)」があれば、チームは成立するんです。

アイドルとして活動するHIKARUさん(提供写真)

なるほど。お話を聞いていると、介護は「互いに支え合う家族のようなチーム」。

一方でアイドルは、「個々がプロとして自立し、距離感を保ちながら並走するチーム」。そんな違いがあるように感じました。

「介護職系アイドル」として、業界の光になりたい

最後に、今後の展望をお聞かせください。

Evoto

HIKARU

最初は「家が近いから」で始めた仕事でしたが、今は「介護職系アイドル」という唯一無二の肩書きが自分の武器だと思っています。

正直なところ、最初は排泄介助などの業務には抵抗があったんです。でも、ある一線を超えたらそれが当たり前になって。逆に「利用者さんを楽しませたい」「笑顔にしたい」というポジティブな気持ちの方が大きくなったんです。

今は仕事というより、おじいちゃん・おばあちゃんの家に「遊びに来ている」感覚に近いかもしれません。

その感覚になれるのは素晴らしいですね。

Evoto

HIKARU

ありがとうございます。だからこそ、今後はもっと表舞台で売れて、メディアで介護職の魅力を発信できる存在になりたいですね。バラエティ番組や討論番組に「介護職代表」として呼ばれるようになりたいです。

現場のリアルを知っている僕だからこそ話せることがあると思うし、僕が活躍することで「介護の仕事って面白そうだな」「かっこいいな」と思ってくれる若い人が増えたら嬉しいです。

いつか名前の通り、この業界の「光」になれるように、これからも二足のわらじを履き続けていこうと思います。

2025年11月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
撮影=小野奈那子
編集=鬼頭佳代/ノオト