シナリオ・プランニングで描く「未来の働き方とオフィス 2030」
Future4:Human based Working(人間が中心に働く)×サステナビリティファースト(持続可能性主義)
老若男女が幸せを目指す、多世代型 コミュニティ共創社会
「国内総生産(GDP)より「国内総幸福度(GDW)」が重視される時代、幅広い世代が共に楽しみながら働く社会へ
パンデミックや大きな自然災害を経て、「一致団結」の精神が基盤となる世の中で、世界は国力を測る指標をGDP(国内総生産:Gross Domestic Product)から、GDW (国内総幸福度:Gross Domestic Well-being)に変えたため、日本も経済的な国力を伸ばすこと以上に、心の豊かさを重視した生活にシフトする。
国の施策として、働き方改革、環境対策、地方創生などが進み、イノベーションの対象もサステナブルで心を豊かにすることが中心になる。政府の「働きがい」改革法施行により、企業は従業員の「働きがい」の公開が義務となり、いかに生産性とWell-beingを上げるかに注力する。その流れの中で、大都市に集中していたセンターオフィスの地方移転とオープン化が一般的になる。「働きたい会社ランキング」ではトップ5が、地方・地域に本拠地を置く企業となり、積極的に移住する人が増え、大都市に住む・働くといった優位性はほぼなくなる。
テクノロジーは進展したが労働力不足が続くため、10代の若者から70代以上のアクティブシニアまで、みんなが積極的に仕事に従事する。一人平均7枚の名刺を持ち、さまざまなコミュニティで人材シェアリングするため、一人当たりの総労働時間は長くなる。しかし協力し合いながら、仕事を楽しみ幸せを感じるために働く人が増える社会となる。
国や企業が、失業保険やジョブリターン制度、リカレント教育など労働に対する社会保障の充実を図ったため、人々は雇用を失う恐怖心もなく、持続的に働ける環境が日本でも実現。その結果、「はたらく」は生活の幸福度を上げるための手段となり、働きたい企業を選べることは当前で、10代の社会起業家も続々と誕生するようになる。世間では、働きながら辛そうな顔をしている人はほぼいなくなる。さらに、人々は仕事以外に、非金銭的価値による幸福度を求め、プロボノ等を通して、社会貢献活動にも積極的に参加する世界が広がる。
さまざまな立場の人が集いコミュニティを形成、各地域で「公民館オフィス」が生まれ仕事をシェア
働く場は、地域住民へのオープン化が進み、子どもやパパママ、若手社会起業家やベテラン会社員、障害者や高齢者まで幅広い世代や立場の人々が共生する公民館のような場になる。
2020年のパンデミック後から普及したリモートワークを活用しながらも、リアルで会ってコミュニケーションを図る重要性も浸透。働く場所を中心として、その近郊に相互支援を可能とする多様性と調和に富んだコミュニティ「町ごと家族」が形成され、仕事からプライベートの話までさまざまな話題が飛び交う場になる。みんなで集まって地域が抱える課題の解決策をディスカッションしたり、企業人と地域住民による交流イベントなども盛んに開催されている。
また、同じ価値観を持った者同士による「価値観コミュニティ」の形成が盛んになる。料理に関心ある者同士はキッチンを囲み、農業に関心ある者同士は公民館前の畑でフィールドワーク、学びに関心ある者同士はラボスペースで学習や新しい実験に勤しみ、それぞれで価値創造や課題解決に挑戦している。
そこには、豊富な知恵と愛情を持つAI搭載ロボットがコミュニティマネージャーとして常駐し、人々に寄り添う存在として重宝される。日常生活のお悩みから企画アイデアまで、一人ひとりの相談や要望に、親身になって応えてることで、持続的なコミュニティ形成を各地域・オフィス内でつくり出している。
未来への答えではなく、問い
2020年コロナ禍とそれにより引き起こされた様々な変化。原因は異なれど大きな変化の波は今後も必ずやおこるでしょう。このような変化に対応していくために私たちに求められていることは何でしょうか。
実際の2030年の働き方・働く場は、これら4つの世界のいずれかに近いかもしれないし、全然異なっているかもしれません。これらシナリオは、「未来予測の答えや正解」を示しているのではなく、「未来をどう創造するかの問い」といえます。
将来の変化の兆しに敏感になる、無意識のうちに変わらないと考えていた前提に気付く、起こって欲しくないと考えることを避けていたことに向き合う。このようなシナリオを描くプロセスを通して、予期しない未来への準備の第一歩を踏み出し、シナリオの世界を俯瞰することで具体的なアクションを考えていけるのではないでしょうか。
2021年8月23日更新
テキスト:山田雄介、谷口美虎人、六車文明、齊藤 達(オカムラ)
シナリオ・プランニング協力:アイディール・リーダーズ株式会社 後藤拓也
イラスト:大久保ナオ登