永山祐子さん・佐宗邦威さんに聞く「プレイフルワーク」を実現するヒント Future Work Style Session 2023イベントレポート
「NO PLAY, NO WORK 『遊び』こそ生産活動だ! 北欧流プレイフルワーク」がテーマの『WORK MILL with Forbes JAPAN 08』が2023年7月に発刊されました。
高い幸福度と生産性を両立する北欧に注目し、「遊び」という視点でその働き方から学び方までを探究した同誌。
9月5日には、「Future Work Style Session 2023」として、「遊びを生産活動へと導く『プレイフルワーク』に重要な空間づくりとは?」をテーマにトークセッションとワークショップを組み合わせたイベントを開催しました。
今回は、第一部として行われた建築家の永山祐子さん、戦略デザインファームBIOTOPE代表・佐宗邦威さんを迎えたトークセッションの内容をレポートします。モデレーターは、株式会社オカムラ WORK MILL統括リーダー / 編集長 山田雄介が務めます。
自分らしい楽しみを創造的に作りながら夢中で働く「プレイフルワーク」
山田
そもそも「プレイフルワーク」とは何なのか。皆さん、遊んでいる状態を思い浮かべてみてください。どんな状態でしょうか?
WORK MILLでは、プレイフルワークを「自分らしい楽しみを創造的に作りながら夢中に働くこと」と定義し、3つのメッセージをつくってきました。
1.「主役」になれ!
自分事化が最強のモチベーションになる。2.「余白」をつくろう
自由と選択をもち、自ら突き進んでいくことで、新しい可能性が生まれる。3.「夢中」を見つけよう
そこに飛び込める熱量が新しい道を切り開いて、価値創造になっていく。
山田
本日はお二人のゲストとともに、そんな「プレイフルワーク」について議論をしていきます。
積極的に「余白」を作る、そこから新しい「プレイフルワーク」が生まれる
―永山祐子(ながやま・ゆうこ)
建築家。1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。 主な仕事は「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、World Architecture Festival 2022 Highly Commended(2022)、iF Design Award 2023 Winner(2023)「JINS PARK 前橋」など。 現在、2025年大阪・関西万博にて、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」と「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。
―佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表 チーフ・ストラテジック・デザイナー / 多摩美術大学 特任准教授。
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部でファブリーズ、レノア等のヒット商品を担当後、ジレットのブランドマネージャーを務める。その後ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げ等に携わる。退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。各種事業会社、自治体等、多くの企業・組織のイノベーションおよびブランディング支援と、企業理念の策定・実装プロジェクトについても実績多数。
建築家の永山です。私は今まで大小さまざまなモノをデザインしてきましたが、根幹となるモチベーションは同じでした。
それは、モノをきっかけにどういう状況を作り出すのか。状況をつくるためにモノを用意している感覚でデザインをしています。本日はよろしくお願いいたします。
永山
株式会社BIOTOPEの佐宗と申します。新規サービスやコンセプトをつくる仕事をしているのですが、企業の中に新しいモノを生む場があまりないと最近感じています。
それを作っていくには、会社がビジョンを示していくことが大事なのではないでしょうか。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
佐宗
山田
まさに、空間とそこで起こる人々の新しい価値創造の専門家であるお二人です。最初のトークテーマは「プレイフルな空間の定義とは?」。
僕は目的もなくやってしまうことが「プレイフル」だと考えています。
以前働いていたソニーには、本業ではなく、実際に役に立つかわからないけれど、とにかくエンジニアが自分の好きなことを研究する「闇研(やみけん)」と呼ばれる文化があって。
そういう文化こそ究極の自主性で、新しいモノを作ってきたソニーのDNAの源だと思うし、それってとてもプレイフルだと思うんです。
ただ、リモートワークが増え、そういう文化が伝染しにくくなっている時代になりつつあります。バーチャル上で働きながら、新しいモノを生みだしていく楽しさを伝え、熱を生み出していくことは、今後の大きな課題になってくると思います。
佐宗
私にとっての精神的なプレイフルは、まだ定義されていないものを自分なりに想像を膨らませながら、新しいアイデアのもとに再定義することです。
それは空間も同じ。目的は決められていないけれど、ピクニックをする人もいれば、オンラインで仕事をする人もいて、自分も行けば何かできそうな気がする……。そんな場所がプレイフルな空間だと思います。
永山
山田
あくまで僕のイメージですが、目的が曖昧だと空間をつくっていきづらいと思うのですが、そこにチャレンジするには何が重要ですか?
昔はまずはクライアントによる要項があって、場所に対して目的がきっちりと決められていたのですが、最近は余白を積極的につくろうとするチャレンジングなクライアントも少なくありません。
永山
しかし、それを進めるには「何かわからない空間にお金をかけている」ではなく、「余白に意味があった」と納得してもらわなければいけません。
それができたときは、クライアントにも一緒に戦略を練っていく仲間だという意識が生まれていることが多いんです。
永山
山田
遊び仲間のような?
そうです。
そして、そういう面白い場所がだんだん増えている実感はあります。
永山
山田
佐宗さんは、曖昧な空間に人を投入したとき、どう仕掛けていけばプレイフルになると考えますか?
軽井沢の隣にある御代田町の役場裏に、「みよたの広場」いう広場があるんですよ。
完成しない、みんなの広場ということで、使い方に余白が残っていて、地域に開放されています。誰でも来られるだけでなく、誰でもその空き地を使って何かをできる場になっているんですね。
以前、ここをどうしていくかを、夜な夜なそれをネタに飲みながら住民が話している場に同席した時、これってまさにプレイフルだと感じました。
佐宗
山田
面白いですね。
会社にあまり余裕がない場合、役に立たないかもしれない新規事業のアイデアを出すのは、とてもプレッシャーに感じますよね。
でも、会社の中に「これ面白くない?」「やってみようよ」と言える余白を存在させるだけで、会話は変わっていく。あえて無駄な空白を作って、そこに理屈はないけどやってみたいことをやるスペースをデザインするというのは、最初にできるステップなのかなと思いました。
佐宗
意図的に「遊び」をつくったあと、どんな価値が生まれている?
山田
さまざまなスペースの設計を手掛ける永山さんに、意図的に遊びをつくりだした実際の事例について伺いたいです。
平河町のオフィス(東京・千代田区)
こちらは古いオフィスを遊びがある空間にしたいというご相談でした。なるべく開放感のある余白を作るため、床を抜いて吹き抜けスペースを作りました。
オフィス入口には、ボルダリングスペースも設け、会議室のある階からボルダリングの様子が見える構造にしました。また、屋上に庭園テラスをつくり、働きながら気分転換ができるスペース場所を用意しています。
永山
「うみのハンモック」(東京ミッドタウン芝生広場)
昼間は子どもたちが自由に遊び、夜はカップルが一緒に空を眺め、平日には働くビジネスパーソンがくつろぎながらオンラインミーティングをしていました。
使い方や目的を定義しなかったので、さまざまな人々が思い思いの時間を過ごせる、多様性のある空間になっていたのが面白かったです。
それこそ、昼間は子どもたちの遊び場、あるときはサテライトオフィス、夜はデートスポットとして考えてもいいかもしれませんね。
永山
「JINS PARK」(群馬県前橋市)
「JINS PARK」では、地域貢献型のお店を作りたいという要望がありました。フレキシブルな使い方ができるように、芝生がひろがる屋外スペースをつくりました。ここでは、地域の人を中心にさまざまな企画が開催されているんです。
永山
山田
まさに意図以上でしたか?
はい。「コロナ禍で中止になったお祭りをやりたい」という持ち込み企画もあって。
公共施設でなくても開かれた場所が地域にあるのは大事なことかな、と。
永山
特に、一人暮らしのおばあさんが「病院に行く前にここでパンを買って、一番店内が見渡せる場所でお茶することを毎日の日課にしている」という話は嬉しかったですね。
永山
山田
いかに寄り道を作るか。その寄り道から新しい接点や気づきを得たり、その人の一つの習慣になったり、とても可能性を感じますね。
企画が持ち込まれるのが素敵ですよね。新しいアイデアを創発し、触発している証拠ですし。
新しい企画を持ち込ませてもらうために、企画側がどう見せていくかも重要なのかなと思いました。
佐宗
山田
佐宗さんは人の意識醸成、組織文化を率いていくうえで、意図的に遊びを取り入れた事例はありますか?
今まではオフィス空間に遊びをつくることを大事にしていました。それは何のためにやっているのか。一度深く考えてみると、自分の中のセレンディピティをつくっていくことだと思ったんです。今の時代、必ずしも家やオフィスで働かなくてもいいと僕は考えています。
たとえば、旅というキーワードはこれから面白くなるのではないでしょうか。特に半分は目的があって、もう半分は目的がない「少しゆるい出張」くらいがちょうどいい。それを仲間と一緒に体験することで、お互いの好きなこと、面白いことを話すきっかけになります。
佐宗
昔のイノベーションスペースがオフィスの一角だとしたら、今はバーチャルの旅をデザインしていく時代。そんな学びの旅をしていくほうが、むしろ濃く強い経験になるはずです。
そして、それを共有した仲間とリモートで議論を繰り返していくのが、一つのプレイフルのあり方になるのではないでしょうか。
佐宗
「熱中」を継続する空間づくりに大事なこと
山田
人を惹きつける習慣を主体的に生み出していく……。生まれた熱を継続させるデザインしていくのは、難しそうだと感じました。
一番悲しいのは、つくった余白が活用されないこと。それを防ぐためには、もちろん運営者の熱量や工夫も大切です。
ただ余白があればいいのではなく、そこに1本の木がある、ベンチがある……といった人の“関わりしろ”が生まれるデザインをどう空間に取り入れるかを意識しています。
コンセプトから運営まで一本線をひいて、「まずは試してみよう」という一つのケーススタディができるといいんですよね。それが綿密にクライアントとつくり手でできている状況が、成功例ではないでしょうか。
永山
僕は3つのキーワードが浮かんでいます。1つは「手を動かす」。人は手を動かすことで熱中していくので、その環境をつくることが重要です。
次に、「難易度とスキルのバランス」が取れていること。人はあまりに難しすぎても簡単すぎても熱中できないもの。適度な難しさとチャレンジを、日常の中で調整していくのも大事だと思います。
最後に、「自分が好きなことをやってOKな職場」であること。
仕事とは直接関係なくても、一人ひとりの小さなビジョンやマイプロジェクトを共有しながら、お互いに応援し合う環境をうまく作れるといいのかな、と。リモート環境の難しさもありますが、必要な意識だと思います。
佐宗
山田
マイプロジェクト、いいですね。もっとお話を聞いていたいのですが、時間が来てしまいました。最後に一言ずついただけますか?
旅をしながら仕事するという働き方も、自ら遊びをつくりにいっている部分があります。答えがない領域ですが、こういった環境は積極的につくっていかないと、新しいモノは生まれてきません。
皆さん、それぞれの会社で意図的にチャレンジしていただきたいですし、うまくいったらぜひやり方を教えてください。今日はありがとうございました。
佐宗
佐宗さんのお話を聞きながら、自分の事務所の働き方はどうかを考えたのですが、創造力を働かせられるシチュエーションづくりはいつも意識しているな、と思いました。
もちろん余裕がないときもありますが、時間の使い方も強弱をつけるといいかもしれません。仕事として熱中するときもあれば、吸収・リサーチするときもある。
そういった時間を仲間と共有しながら、仕事へのモチベーションをいかに高くキープしてもらうか、インプットをどうしていくか。遊びの種類と質を、もう少し考えていくことが大事だと感じました。
永山
山田
少しでもプレイフルワークのヒントが見えたら、ご参加いただいた価値があったのかなと思います。今日はありがとうございました!
2023年9月取材
取材・執筆=矢内あや
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)