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大阪・関西万博での経験を大好きなエンタメの発展に活かす。ドローンショーオペレーター、レッドクリフ・岩崎郁也さんが夢洲で得たもの

各国の文化や英知、アイデアが集結する世界的イベント「大阪・関西万博」が開催され、会場の夢洲は連日大勢の人でにぎわいました。そんな万博も2025年10月13日をもって閉幕しました。

場内では、各国のスタッフから民間企業の出展者、警備員、ダンサー、配達員に至るまで、国籍も職種も異なる多様な人々が働き、会場運営を支えていました。

今回は、会期中にドローンショーに携わった現場スタッフをインタビューし、その職を選んだ理由や日々のやりがい、未来に残したいことなどを深掘り。「はたらくのこれからを考える」という視点から、会場内でのリアルな仕事の姿に迫ります。

岩崎 郁也さん(いわさき・ふみや)
株式会社レッドクリフ プロデューサー兼オペレーター
2025年3月の入社後すぐに、大阪・関西万博のドローンショーのオペレーターに着任。会場内で実施されていたドローンショーのオペレーションを担当。

184日間にわたって国内外の技術やアイデアを展示してきた大阪・関西万博は2025年10月13日をもって閉幕しました。その期間中、毎晩のように上演されたスペクタクルショー「One World, One Planet.」は、夢洲の夜を象徴する名物の一つになりました。

ドローンが万博の夜空を彩るドローンショーもこの一部。ショーが始まると、多くの人が足を止め、その緻密な演舞を見上げていました。

1,000機のドローンは、事前に構築されたプログラムにより正確に制御されていましたが、毎晩安全に運用するために、人の目と手は不可欠でした。今回は、そんな責任重大な任務を日々遂行していた人物に光を当て、ドローンショーの実施に当たった「株式会社レッドクリフ(以下、レッドクリフ)」のオペレーター、岩崎郁也さんにお話を伺いました。

※本取材は大阪・関西万博の開催期間中に実施しました。本文の発言や言い回しは、取材当時のものをそのまま掲載しています。

国内有数のドローンチームが手掛ける壮大なショー

レッドクリフ社提供

レッドクリフは「夜空に、驚きと感動を。」をミッションに、全国各地でドローンショーを手掛ける企業です。強みの一つは、6,500機超という国内最大級の保有機数。大規模な演出設計と編隊制御を得意としています。

⼤阪・関⻄万博には、協会企画催事のプラチナパートナーとして参画。悪天候の日などを除き、ほぼ毎日開催したドローンショーを運営しました。この中で、従来のLEDライトの約6倍の輝度で発光する「フラッシュモジュール」搭載のドローンが飛行する特別演出「Flash Wish Tree」も展開し、高い表現力を発揮。2025年4月13日の万博の開幕式では2,500機を飛行させ、ギネス世界記録™を獲得しました。

達成したタイトル:Largest aerial display of a tree formed by multirotors/drones(マルチローター/ドローンによる最大の木の空中ディスプレイ)
記録:1,749機
挑戦日:2025年4月13日(日)
挑戦場所:2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博):大阪市此花区

株式会社レッドクリフ
東京に本社を構え、ドローンショーを企画・運営する、空のクリエイティブ集団。花火・高輝度発光ライトなどを装着できる多機能機を用いた演出も可能。大規模かつ高密度の三次元フォーメーションと、ストーリー性を両立させたパフォーマンスが高く評価されている。
公式サイト

このショーの現場で指揮をとったのが、同社のプロデューサー兼オペレーターである岩崎さんです。2025年3月の入社からほどなくして万博担当に抜擢され、会期中の半年を通して、安全運用のための業務に当たっていました。万博閉幕が迫った夢洲を訪れ、職業観やライフスタイルの変化などについて尋ねました。

取材は万博会場のウォータープラザにて行われた

喜んでくれる顔を見たくて、天気予報と格闘する日々

まずは、岩崎さんが担当している業務について教えてください。

岩崎

一言で表すと「ドローンを飛ばすオペレーター」となります。業務はオペレーション全般と、現場チームの運営の二つに分けることができます。たくさんの機体を使うショーなので、準備はチームで行います。毎日15人ぐらいで動いていますが、現場で指示を出しながら、僕も動いています。

どのようなスケジュールで一日を過ごしていますか?

岩崎

お昼から夢洲に来て、14時からバッテリーの充電を始めます。続いて、機体を1台ずつケースから取り出して並べて、バッテリーを入れて……と言葉にすると地味ですが、ドローンが1,000台もあるので大変です。

それだけの台数があると、広いスペースも必要になりますね。

岩崎

みなさんからは見えないのですが、大屋根リングの外にドローンをセットするためのスペースを設けてもらっています。このときに、機体に異常がないかチェックするのも重要な仕事です。プロペラのフレームが損傷していないかなどを確認します。飛行自体に影響がない場合でも修理やパーツ交換をするなど、安全には常に気を使っています。

そして夜、本番を迎えるのですね。

岩崎

はい。本番前にもいくつかタスクがあって、日によってはテストフライトを行うこともあります。そして、本番の40分前から風速を測ります。ショーを上演できる風速が定められており、それをオーバーしていないかチェックするんです。上演中も空を見上げて、小さなエラーが発生していないか常に確認しています。終演後は準備の逆で、ドローンをケースに戻して所定の場所に格納します。

ドローンショー用の機体、EMO-JP

これでようやく業務終了ですか?

岩崎

そうですね。とはいえ、僕は寝るまで気が抜けなくて……。というのも、毎晩寝る直前まで天気予報をチェックしているんです。雨天や強風の日などドローンを飛ばせるか怪しい天気の日は、気付いたら朝から晩までスマホを見て、雨雲レーダーをチェックしています。

観客として見たドローンショーに感銘を受け、異業種からチャレンジ

オペレーターのお仕事で一番大変なことは何ですか?

岩崎

やはり、天候がコントロールできないことですね。特に風は当日会場に来てみないとわからないものなんです。万博期間中は、7〜8割の割合で予定通り実施できていますが、やむなく中止にする日もあります。中止のアナウンスが流れると、みなさんがっかりした雰囲気になるので、僕らとしても悔しいんです……。とはいえ、空高くドローンを飛ばすショーなので安全第一。ドローンの動きこそあらかじめ決まってはいますが、「今日も何事もなくショーを終えられた」というのが、僕たちの最低限かつ成功ラインだと考えています。

逆に、最も喜びを感じるのはどんなときですか?

岩崎

ショーを見たお客さまが喜ぶ顔を見られたときです。僕たちは、少しでも多く上演したいと思っています。「今夜はあまり天気が良くないけど、ショーの時間だけは雨雲が切れそう」「もうちょっと粘ったら風が弱まりそう」という日も何日かあり、ギリギリまでドローンに雨よけカバーを被せたり外したり、開始5分前まで風速を測って実施できた日もありました。特にそういうとき、会場から歓声が聞こえると、上演して良かったと思います。

このショーでは上空に巨大なQRコードが現れるので、そのときはお客さまがスマホを向けるんです。地上の無数のスマホの光とドローンを眺めていると「今日もたくさんの人が見てくれているんだな」とうれしくなりますね。ショーの最中に客席側にいることは少ないので、万博のライブカメラ(YouTubeライブ配信)でたくさんのお客さまがショーを楽しんでいる様子を観ると胸が熱くなります。

岩崎さんはレッドクリフに入社する前はどんなお仕事をしていたのですか?

岩崎

以前は現場系、飲食店の店長、イベントの企画運営……とさまざまな仕事に従事してきました。

ドローンとは直接関係のない業界だったんですね! この世界に入ったきっかけを教えてください。

岩崎

2024年に観客として見たレッドクリフのドローンショーです。そのときの感動は忘れられません。周りのお客さまの反応も見て「こんな素敵な仕事に携わってみたい」と惹かれ、門をたたきました。それで、実際に入社が決まったのが2025年です。振り返ると、経験してきた職種はバラバラですが「人を楽しませたい」という思いは一貫している気がします。

レッドクリフ入社前の岩崎さん(提供写真)

2025年ということは、入社してすぐに万博のショーのオペレーターに任命されたのですね。

岩崎

そうなんです。 最初は、正直「自分で良いのか?」という思いもありました。でも、万博が開幕し、毎日の業務をこなしていくうちに経験値が積み重なっていった実感があって……気づいたら、社内で最も場数を踏んでいるスタッフになっています。

世界的イベントで得た知見で、ドローンショー普及に貢献したい

万博にはもともと興味があったのですか?

岩崎

ありました。SNSでは弊社代表の佐々木孔明を含め、ドバイ万博に行った人たちの投稿を見ていました。それもあり「自分も万博のエンターテインメントに携わってみたい」という思いはありましたが、参加した経験はなく、具体的なビジョンがあったわけではありません。それでも縁あってチャンスをつかむことができ、今では自信につながっています。

万博会期中の184日間、自身にどのような変化がありましたか?

岩崎

まずは、ドローンに関する専門知識が深まって、成長できたことですね。また何よりも、人とのコミュニケーションを通じて、さまざまな人と協力できたことも大きいです。お話した通り、この規模のショーではスタッフ同士の連携を欠かすことができません。万博のドローンショーは、お客さまが会場を後にする際に見る最後のイベントになることが多い。いわば見送り役です。経験を積むほどに、使命感が強くなっていった実感がありますね。

レッドクリフ社提供

ほかのスタッフと働く上で、気を付けていることはありますか?

岩崎

日々メンバーを入れ替えながらショーを実施するチーム体制なので、わかりやすく正確な言葉で指示することを心掛けています。同じオペレーションで何度も実施する万博のドローンショーは、実は会社としては絶好の実践教育の場でもあるんです。先輩として新入社員と関わることも増え、チームのマネジメントについても考えるようになりました。

チームメンバーを鼓舞するのは、ショーを円滑に運営するための大切な要素ですよね。特にコミュニケーションで心掛けていることがあれば教えてください。

岩崎

チームで働くときは「常に楽しく」を意識していますね。15人という大所帯ですが、誰か1人でも落ち込んでいると、不思議と雰囲気は悪くなるもの。そうなるとパフォーマンスも落ちてしまいます。表情を見て少しでも「大丈夫かな?」と感じたときは、率先して話しかけるなど、メンバーが笑顔でいられる環境づくりを重視しています。これも、過去の職場で人を楽しませることを追求してきた経験が影響している気がします。

楽しむ側から運営側に移った岩崎さんが考えるドローンショーの魅力は何ですか?

岩崎

当社は同業者の中でも「特に見応えがある」と評価されることがありますが、万博にも共通する点でいうと、言語に縛られず表現できるところが魅力です。この万博が目指す世界観を、ショーを通じていろいろな国の人と共有できていればうれしいですね。最近では1日20万人以上の方が夢洲を訪れています。ショーを見て感じたことを、それぞれの国に持ち帰ってほしいと願っています。

これからの目標を教えてください。

岩崎

万博で初めてドローンショーを見た、という人が多かったと感じています。あのときの僕と同じように、ドローンショーの魅力を知った人が増えたはずなので、今後開催がますます求められるようになると思います。将来的には「毎週どこかの街でドローンショーが行われている」という状態になる可能性もあると思います。弊社がその担い手として期待に応えたいですし、僕自身も今回学んだ運用のノウハウを活かして貢献できればうれしいですね。

レッドクリフ社提供

2025年9月取材

取材・執筆:山瀬龍一
撮影:小椋雄太(あかつき写房)
編集:人間編集舎/南野義哉(プレスラボ)