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出島組織は日本にあったビジネス戦略。倉成英俊さんが長崎で見出した、新しい価値を生む組織の条件

「出島組織」という言葉を聞いたことがありますか?

今、新しいプロジェクトに挑むため、多くの企業や自治体が本体から離れた「出島」のようなチームを作っています。私たちWORK MILLも株式会社オカムラの「出島組織」に近いチームです。

とはいえ結局、既存の枠組みや制約に囚われてしまったり、既存組織との軋轢に悩んだりすることも……。どうしたら、出島組織をうまく機能させ、自由な発想でイノベーションを起こせるのでしょうか?

今回お話を伺ったのは、倉成英俊さん。本業以外の個人活動(B面)を持つ社員が集まり、今までとは違うやり方(Plan B)を提案する電通の出島組織「電通Bチーム」を10年前に創設。現在はプロジェクト専門株式会社Creative Project Baseにて、出島組織を活性化する活動も含め、様々な事業を展開しています。

私たちもこのテーマの当事者であるからこそ、ぜひ話を聞きたい。そんな想いから、倉成さんのオフィスを訪ねました。

倉成英俊(くらなり・ひでとし)
1975年、佐賀県生まれ。小学校の時の将来の夢は「発明家」。東京大学機械工学科卒、同大学院中退。2000年電通入社。クリエーティブ局に配属、多数の広告を企画制作しながら、プロダクトを自主制作し多数発表。バルセロナのプロダクトデザイナーMarti Guxieのスタジオに勤務を経て、各社新規事業部の新プロジェクト創出支援など様々なジャンルのプロジェクトをリードする。2014年より、電通社員でありながら個人活動(B面)を持つ社員56人と「電通Bチーム」を組織、2015年に答えのないクリエーティブな教育プログラムを提供する「電通アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」をスタート。2020年7月1日Creative Project Baseを起業。

新しい価値を生み出すために、世界中をリサーチした

今日は倉成さんのオフィスにお邪魔しているのですが……。部屋の大部分が本棚! 圧倒されてしまいます。

オフィスのど真ん中に置かれた、大迫力の本棚。ほとんどの来客が15分くらいは本棚に夢中になるのだそう

倉成

ありがとうございます。12年前、ロッテルダム出張の時に出会った建築家の小林恵吾さんに作ってもらいました。

本のカテゴライズができて、本棚の中に入って読んでいたらアイデアを思いつく図書館のようなものが欲しかったんです。ここに3000冊くらいあります。

腰を屈めながら内側に入ると、こちらにも本がびっしり。中には1人用の椅子が置かれており、倉成さんが本を読んだり、考えごとをするときに使う場所になっている

本のジャンルも多様ですね。

本棚の話をもっと聞きたい気持ちは山々なのですが……、今日の本題に入りたいと思います。

倉成

意思が強いですね(笑)。よろしくお願いします。

こちらこそ、よろしくお願いします!

倉成さんは、長崎の出島のように本体組織から何かしらの形ではみ出して新しい価値を生む「出島組織」について、ご著書も書かれていますよね。

どういうきっかけで、「出島組織」に関わるようになったのでしょうか?

倉成

2009年に、当時所属していた電通クリエーティブ局が新しいビジネスを探索するために、ビジネスデザインラボという組織を作って、そこに異動しました。そのオフィスは電通ビルの中にはあるにはあったんですが、鍵のかかる、ちょっと違う場所に設けられて。その時、誰かに「出島だ」と言われたのが、出島組織という概念との個人的な出会いです。

始まりも面白かったですね。最初に伝えられた唯一のミッションは、「今までとは同じことをしないでください」。

え!?

倉成

そこで「新しいことをするなら、リサーチが絶対に必要」と当時の室長に訴えたら、「じゃあ、倉成さんだけブラブラしていてください」と言われたんです。

広告のクリエイティブは、音楽やデザインやアートといいった表現領域の組み合わせで課題を解決するものです。今まで違うことをするのなら、違う情報を徹底的に集めなければならない。

世界中、広告業界の人が行かない場所ばかりに足を運び、リサーチしていました。

倉成さんがリサーチした内容をまとめた小冊子(写真左)。調べたことをまとめるにあたって小冊子という形式はちょうどいい、とのこと。写真右はオフィスの本棚の設計にあたって、建築家の小林恵吾さんが行ったリサーチをまとめたもの。

リサーチの結果、ビジネスデザインラボではどんな活動を始めたんですか?

倉成

1つは様々なクライアントの新規事業部のアイデア発想支援。広告を作るのも大事だけど、その前の商品やサービスをより良いものにする方が大事だし、効果があるので。広告じゃなくてファクトを作る。そっちにシフトしました。

そうしているうちにいろんな変わったオファーが来て、JAXAの金星探査機のプロモーションとか、APECの首脳会議でどうジャパンプレゼンテーションするかとか、モーターショーをどう変革していくかとか。色々挑戦しましたね。

どれでも面白そうですね。

倉成

5年くらい経った頃、電通総研で新しいコンセプトを発信するチーム作ってくれないかと言われたんです。

詳細は端折りますが、色々と拡大解釈して(笑)。次なる出島組織「電通総研Bチーム」(のちの電通Bチーム)を作りました。

このB」は、B面などに使う「B」ですよね。ユニークな部署名ですが、どのように付けられたんですか?

倉成

メンバーのひとりが、「電通総研みたいなトラッドな組織なら、“Bチーム”くらいがいいんじゃない?」と言ったのがきっかけです。

ど真ん中のAチームはセンター争わなきゃいけないから、どんな組織でも新しいことがやりにくいから、と。

それに、集まったメンバーの個人的な「B面」をネットワークして活用する、というアイデアがあった。B面を活かして、Plan Bを作る。Bの1文字で全て言えたんですね。

個人的なB面?

倉成

個人活動(わかりやすく言えば副業)だったり、学生のときに特殊なことを学んでいたり、実は一味違う趣味を極めていたり、本業をA面とした場合に、個人的な側面をB面と呼ぼうと。

たとえば、DJ、小説家、スキーヤー、平和活動家、インスタグラマー、建築家、旅ブロガーなどいろんなメンバーが56人。私自身も広告の仕事をする傍ら、自分のプロダクトを作ったりしていました。

入社3年目、夏のボーナスで同期のデザイナーと紙飛行機で郵送できるポストカード・封筒「flying card」を制作。2008年にはグッドデザイン賞を受賞した。

そんな個性的なメンバーが集まると、今までとは違う方法での課題解決アイデアが出てきそうですね。

ちなみに、電通Bチームのような組織が作られたのは、社内では初めてだったんでしょうか?

倉成

そういう特殊組織は、過去にもあったんです。

電通の社史を紐解くと、1960年代に「プランニングセンター」という、日本の広告業界で初めてとなる企画部隊ができました。企画書を作らず、ルーティンワークを持たないチームだったようです。

そんな時代から、自由な働き方をする人たちがいたとは驚きです!

本体から離れて新しい価値を生み出すのが「出島組織」

改めて、少し視点を引いて考えていければと思います。

電通Bチームのような、本体から離れた「出島組織」とは、そもそもどのようなものなんでしょうか?

倉成

「出島組織」は自然発生的に生まれた言葉、概念です。1980年代の新聞記事にすでに登場しています。おそらく記者発のものですね。

そんなに前から……。

倉成

はい。チームのあり方としても、物理的な場所が離れていることもあれば、組織図上で出島になっているケースもあります。精神的に出島だと思っている場合もあるでしょう。

なので、僕らは長崎の出島のように「何らかの形で本体から離れて」「新しい価値を生む」組織を「出島組織」と定義しています。コンセプトであり、運動のようなものではないかと。

なるほど。

倉成

そして、出島組織でもっとも大切なのは本体組織と「橋」がかかっていること。長崎の出島も、本土との間に橋がありますよね。

そうですね。本体組織とつながっているのが大事ということでしょうか……?

倉成

橋はお互いをつなぐだけでなく、「閉じる」機能もあります。ここがポイント。

現在の出島にかかっている橋。他の場所からは入ろうと思っても入ることができない(編集者撮影)

倉成

新しいものを生み出すために、既存組織の理論を出島組織に持ち込まないようにする。

でも、新しいものを小さく生んで、スケールさせるときに、つなぐ機能としての「橋」が効く。本体組織のインフラを使えますからね。

独立して活動できる環境でありながら、必要に応じて大きな資産が使える関係性が理想なんですね。

歴史を見ても、出島組織は成功する

ところで事業会社の場合、出島組織で利益を求められることもありますよね? そういう場合、どうすればいいのか悩んでいる方もいると思うのですが。

倉成

ケースバイケースですね。出島組織の目的に応じて、利益の場合もあれば、お金ではない成果が求められることもあります。

その場合、出島組織で成果を出すための秘訣のようなものはありますか?

倉成

メンバーやそのときの状況など、条件によるので一概には言えません。

けれど、まず大事なのは場所でも組織図上でも組織文化からでもなんでもいいから、「出る」「はみ出す」ことではないでしょうか。

倉成

うまくいかず悩んでいる出島組織は、本体組織と同じ動きをしてしまっているという共通点があります。

たとえば、パーパスだとかデザイン思考だとか競合もみんなやっている流行りや既存のやり方に沿って考えようとしたり、新しいことをやる勇気がもてなかったり。

わかる気がします……!

倉成

歴史を紐解くと、長崎にある出島は鎖国していた江戸時代に作られて、世界中にインパクトを与えた成功体験をもつ場所です。

世界で成功した長崎の「元祖」出島は日本で生まれたことを考えると、出島組織は元々日本にあったビジネス戦略です。だから、勇気を出して取り組んでほしいですね。

現代の私たちが、歴史から学べることはたくさんあるんですね。

倉成

他にも歴史上、成功した出島組織の例はいくつもあります。

たとえば、高杉晋作が率いた奇兵隊は正規の武士ではなく農民や漁師などで構成された奇策部隊。

そのルーツを辿れば、孫子の兵法の、正攻法と奇策を混ぜる理論に行き着きます。まさに出島組織的な動きですよね。

そう考えると、出島組織を既存組織と並存させて攻めていくのは自然の摂理なんだと感じます。

『最高の戦略教科書 孫子』(守屋 淳)より。他にも、本棚には歴史の本も並ぶ。

倉成

現代は、高度成長期に作られてそのまま置き去りにされた多くの資産を生かすチャンスにあふれている、面白い時代だと思うんです。

組み合わせたり、リノベーションしたり。知恵、つまりアイデアと勇気で、いかようにでも新しいことは生める。はみ出して、作り変えるには持ってこいの時代なのではと。

とはいえ、今までとは違うことで成功するって、難しいですよね。

倉成

「奇策」の作り方は無限にありますからね。

もし悩んだら、現代の出島組織の事例もたくさんありますから見てみてはいかがでしょう。本当に面白い、成功している組織がたくさんあるんですよ。

書籍『出島組織というやり方』(翔泳社/共著)では、出島組織を9タイプに分けて紹介しているので、ご自身の組織がどこに当てはまるか考えるのはヒントになるのでは。

1 新規事業部タイプ
2 新会社タイプ
3 外部連携タイプ
4 研究所・総研タイプ
5 集合体形成タイプ
6 自治体タイプ
7 大学タイプ
8 伝統工芸タイプ
9 ひとり出島タイプ

ありがとうございます!

WORK MILLは今日のように取材でいろいろなお話を聞いてメディアによるリサーチをしつつ活動を進めているので、「研究所・総研タイプ」や、全国4拠点の共創空間をベースとした共創活動から「集合体形成タイプ」などに当てはまりそうです。

外の世界に触れよう。そして出島へ行こう

出島組織が絶対に成功する秘訣はないということだったんですが……、こうした組織で活動するメンバーは、どのようなマインドや行動が必要でしょうか?

倉成

まずは「何かを変えたい」という気持ちがあればOKです。

そして、違う業界、自分が住んでいないエリア、日本以外の国など、外の世界をたくさん見ることが必要だと思います。同じ時代、同じ世界には本当に面白いことをしている人いっぱいいますからね。

昔の出島がオランダからの技術や情報を仕入れたみたいに、出島組織が外からの情報を仕入れて、本土に教えてあげる。

まさに、倉成さんが電通で実践していたことですね。

倉成

あとは、その業界に染まってない人で出島組織を作っている企業もあるのでそれは参考になるかもしれませんね。

日本人はまじめだから、ビジネスを受験勉強の延長のように捉えて、与えられた枠の中に物事を埋めていく考え方になりがちだと思うんです。

海外のコピーバンドみたいな国家になってどうする!と。オリジナルを生まなくちゃ。外部の人は、その枠を取り払ってくれるきっかけになりますよね。

どのような形でも、外の世界に触れることが大切なんですね!

もし本当に悩んでしまったら、どんな「はじめの一歩」を踏み出したらいいでしょうか……?

倉成

ぜひ長崎に行って、橋を渡って、本物の出島を感じてみてほしいですね。たくさんヒントがあるはずです。

倉成さんは出島に行ってみて、どんな発見がありましたか?

倉成

出島にある世界地図を見ると、各国に出島の形をした港があり、そこに寄港しながら貿易をしていたことがわかります。

各国の出島同士がつながったから、世界のあらゆる文化が混ざって、新しいデザインが生まれたんです。

出島にあるカピタン(商館長)の部屋。日本の伝統的な唐紙が、オランダ的な手法で壁に貼られ、和洋折衷の雰囲気を醸し出している。(編集者撮影)

そうなんですね! 私も出島に行ってみたくなりました。

倉成

ぜひ。「小さな出島組織から、どれだけでも大きなことが生み出せる」という勇気がもらえると思います。

そこからヒントを得て、長崎出身の鳥巣智行、中村直史と、さまざまな会社や自治体の出島組織が集まる「出島組織サミット」を開催していて、2025年3月には東京で初開催予定です。

出島組織同士が連携することで、たくさんの成果が生まれていますよ。

WORK MILLも、他の出島組織とつながることを考えていきたいと思います。ありがとうございました!

2024年10月取材

取材・執筆=御代貴子
撮影=小野奈那子
編集=鬼頭佳代/ノオト