コロナ禍を経て「地域性」を活かし、明確な「運営目的」を持つコワーキングスペースが増えていく(コワーキングスペース7F・星野邦敏)
コロナ禍の後押しもあり、身近な存在になってきたコワーキングスペース。しかし、少し前にさかのぼると、日本でのコワーキングスペースの知名度は決して高くはありませんでした。リアルな場での新しい人との出会いがしづらくなったコロナ禍。そんな今、あえて「Co-Working」をするのはどうしてなのでしょうか? 今回の書き手は、コワーキングスペース7F(ナナエフ)のオーナー・星野邦敏さんです。
「地元に戻って何かしたい」から始まった
2012年12月から、埼玉県さいたま市の大宮駅近くで「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」を運営しています。
オープンのきっかけは、2011年に起きた東日本大震災の復興活動の様子を見たことでした。そのころ私は東京でIT企業を経営していましたが、「生まれ育った地元・さいたま市に何も貢献していない、地元に戻って何かをしたい」と感じたのです。
2012年当時の埼玉県さいたま市には、フリーアドレスで利用できるシェアリング型のワークスペースである「コワーキングスペース」はまだ存在していませんでした。
そこで、創業支援や地域活性化など「何かやりたい」と考えている人たちが集まる施設を作ろうと思い、大宮駅東口徒歩1分のビルを借りて、IT事業と並行で7Fをはじめました。地場企業が運営するいわゆる「郊外型」のコワーキングスペースです。
現在まで、これから起業したい人や起業したての人、埼玉県で支店を持ちたい、何かしら地域との接点を持ちたい、イベント開催したい人などに7Fをご利用いただいています。
もともと1フロアのみでしたが、2015年に「貸会議室6F(ロクエフ)」と「シェアオフィス6F(ロクエフ)」の3フロアへ増床。現在は、合計約140坪の広さになり、1日約200人、1カ月約6000人の方にご利用いただくまでに成長しました。
コロナ禍で全国のコワーキングで利用者の変化が起きた
私はこれまでに、コワーキングスペース施設運営事業者の非営利型業界団体「一般社団法人コワーキングスペース協会」の運営を手掛け、「コワーキングスペース運営者勉強会」を合計85回以上開催してきました。
そこからつながった全国数百カ所のコワーキングスペース運営事業者から得た情報を踏まえると、コロナ禍を経てコワーキングスペースの利用者には大きな変化が起きているようです。
コロナ以前は、小規模事業者やこれから起業したい人などが、自分の仕事に関係する事業者同士のコミュニケーションや情報収集・交換、イベント参加などからのつながりを期待してコワーキングスペースは利用するケースが多いと感じていました。
しかし、2020年から始まったコロナ禍以降、大手企業に所属するビジネスパーソンの方が自分の仕事をするために活用するケースも増えました。
特に、新型コロナウイルス感染症の発生直後は、職場に行けなくなったものの、自宅のWi-Fi環境が整っていなかったり、子どもが小さく自宅で作業するのに適しておらず困ってしまった方も。そんな中、自宅の近くで働ける場所を求める人の利用が増え、コワーキングスペースは「作業をする場所」という印象が強くなりました。
さらに、オンライン会議が急速に普及し、会議ができる個室の需要が急拡大。そのような機能を備えた施設として、コワーキングスペースを利用するケースが増えたのではないかと思います。
また、コロナ発生からしばらく経つと、テレワーク・リモートワークの普及に伴い、地方に移住する人も登場。移住先での事業者や地域の人との交流の接点の場所としてコワーキングスペースを利用する事例も出てきたようです。
地域性と運営目的が明確なスペースは増えていく
「Withコロナ」という視点では、作業場所としてのコワーキングスペースの機能がどうしても注目されがちです。
しかし、コロナがあけた後の「Afterコロナ」の時代においては、コワーキングスペースが本来持っている「交流の機会」への期待がまた高まっていくなど、利用目的がさらに多様化していくのではないかと考えています。
都市部では、作業場所や打ち合わせの間のタッチダウンオフィス、大手企業の従業員のテレワーク拠点などとして、利用する事例が増え、空きテナントの有効活用方法として不動産業界からの注目もさらに高まっていくのではないでしょうか。
大手企業が社内にコワーキングスペースを設けることで、社内外の人を結び付けるオープンイノベーションや求人という目的にすることもあるかと思います。
人口が減少している地域には、仕事の種類が少ないためにUターンやIターンが進まないという課題があります。こういった場合も、産業や仕事、交流などの循環や、移住者・定住者・関係人口の増加することを期待して、コワーキングスペースが作られるケースが増えていくのではないでしょうか。
地方自治体においては、行政の持つ遊休不動産の活用する事例や、地域性に合わせた異なる運営趣旨をもつコワーキングスペースが増えていくと思います。
コワーキングスペース運営を、事業として成り立たせることはとても大切です。しかし、一般社団法人コワーキングスペース協会を運営する中で、採算性を超えて、それぞれの地域性と施設運営目的を明確にもったコワーキングスペースが増えているのを感じるのです。やはりコワーキングスペースは、大変興味深く面白い業界だと思っています。