企業のカルチャーを醸成するオフィスをどうつくる?雑誌『商店建築』コラボセッション(森ビル・稲原攝雄さん、Athena Inc.・北村紀子さん、楽天グループ・仲山進也さん)
多様な働き方が広がるなか、「ワークプレイス」に求められる価値とは?
ワークプレイスは単なる仕事をする場所だけでなく、そこで働く人々をつなぎ、企業カルチャーを醸成する空間へと進化してきました。70年続く最新のストアデザインを紹介する月刊誌『商店建築』でも、近年オフィス特集は人気になっているのだとか。今回は、そんな商店建築とWORK MILLのコラボイベントの様子をお伝えします。
ゲストに、従業員のウェルネスをテーマに入居企業の支援のための商品企画に取り組む森ビル株式会社 新領域事業部 稲原攝雄さん、楽天創業期からのメンバーで「自律型の人材・組織育成」の専門家である楽天グループ株式会社 楽天大学学長 仲山進也さん、オカムラのオフィスデザインも手がけたAthena Inc. 北村紀子さんを迎え、「企業カルチャー」を醸成する環境についてディスカッションしていきます。
モデレーターを務めるのは、月刊商店建築 編集長 塩田健一さんと株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部 浦口昂久です。
オフィスのあり方が建築の世界でも注目のテーマに

今回のテーマは「企業カルチャー」。モデレーターを務める塩田さんは、会場のみなさんに「オフィスづくり界隈で、最近よく耳にするのが『企業カルチャー』。ただその言葉の意味について、自信を持って答えられる人は少ない」と話します。


塩田
これまでに設計者やデザイナー、またオカムラのようなオフィス家具やデザインを手がける企業にも取材してきました。実は最近、オフィスデザインを特集すると雑誌がとてもよく売れるんです。それだけ注目されていることがうかがえます。
それでも、「企業カルチャー」について問われるとまだまだはっきり答えられる人が少ない印象です。まずは、ゲストのみなさんに自己紹介と一緒に「企業カルチャーとは何か?」という問いの答えを伺いつつ、参加者のみなさんとともに考えていければと思っています。
オカムラからは、働き方コンサルティング事業部の浦口がモデレーターとして参加いたします。


浦口
今回は各界で活躍されている非常に豪華なゲストのみなさんにお越しいただきました。
参加者のみなさんの参考になるお話ばかりだと思いますので、ぜひ楽しんでいってください。私自身、日々の仕事の参考になることがたくさんありそうで楽しみにしています。
企業カルチャーは「企業理念の周辺に現れる」もの
最初に登壇いただいたのは、森ビル株式会社 新領域事業部 稲原攝雄さん。「森ビルのオフィスを借りていただくのはひとつの過程。企業成長を支援するのが我々の仕事」と話されていました。

我々はオフィスという場所だけではなく、そこで働いている従業員のみなさんが心地よく働くことができる環境を提供していく必要があると考えています。
私たち森ビルはオフィスビルを作るだけでなく、「街全体をワークプレイスにする」をコンセプトに掲げているんです。街そのものをキャンパスとして考え、森ビルが提供できるサービスや仕組みを整え、長年、働く人々をサポートする活動を行っています。

稲原

しかし、コロナ禍以降に人々の価値観は変化しました。今、オフィスをどう作ったらいいのか迷う声も多数聞こえてきます。
変化の多い時代でも企業の根幹である「カルチャー」が大事なのではないか?
それを模索するため、2025年よりオカムラさんと『MORI ワークスタイルラボ』という活動をスタートさせました。

稲原

「どのような働き方がいいか?」という問いへの正解は、誰かが決めるものではありません。ともに働くみんなで、共創して答えを探していくのではないかと考えています。
『MORI ワークスタイルラボ』はまだ始まったばかりのプロジェクトですが、森ビルに入居されている企業の皆様と一緒に「企業カルチャー」について探索しているところです。今のところの自分なりの答えとしては、「企業理念の周辺に現れるもの」でしょうか。

稲原
じわじわと滲み出るのが企業カルチャーなのでは?
続いてお話いただいたのは、長年オフィスづくりに携わっているオフィスデザイナーの北村紀子さんです。
デザイナーの仕事について「仕方のないことだけど、設計の前にクライアントと対話する時間が取れないことにモヤモヤしていた」と振り返った北村さん。これからは、現場の声を活かしたオフィスづくりに力を入れたいという思いから、独立されたそう。

企業カルチャーについてお話する前に、私がオフィスデザイナーを志した理由からお伝えさせてください。
まずスライドに投影したオフィス空間を見ていただきたいのですが、こちらは1990年代初頭の一般的な日本のオフィスです。コンピューターはなくてテレックス。
統一されたグレーのデスクが並んでいて、女性社員は15時になったらお茶を淹れる。そんなカルチャーが浸透していた空間で、私自身もこの空間に疑問を抱くようなことはありませんでした。

北村

3年ほど商社で楽しく働いていましたが、自分らしいキャリアを思い描けずに退職を決意。「手に職をつけたい」とサンフランシスコの大学へ入学し、デザイナーの道を志しました。
学生時代を過ごした90年代後半は、まさにITの風が吹き荒れていた頃。アメリカのオフィスデザインには腰が抜けたし、目から何百枚もの鱗が落ちるほどの衝撃を味わいました。だって、日本では当たり前だったグレー色のオフィスがどこにもなかったんですから。

北村

私も企業カルチャーは滲みでてくるものだと考えています。「企業カルチャー」は、社風と似ていますが一緒ではないと思うんです。文化にしていくためには、第三者との対話を重ねて、言語化していく必要があるのではないでしょうか。
「企業カルチャー」は、その企業の意識の根底にあるもの。隠そうとしても出てきてしまうものだと考えています。

北村
カルチャーの語源は「耕す」。あなたの会社は痩せた畑になっていませんか?
3人目のゲストは、楽天グループ株式会社の仲山進也さん。「カオスな働き方をしているので自己紹介が難しいのですが……がんばります!」と会場を和やかなムードにしてくれました。
これまで様々な企業に向けて、人が育ちやすい環境づくりを伝えてきた仲山さんが考える企業カルチャーとは?

普段は「自律型の人材・チーム・組織文化ってどうすればできるのか」などをテーマに活動しています。働き方でいうと「自由すぎるサラリーマン」と紹介していただくことも。
原則として副業NGな楽天の正社員でありながら、兼業自由で、会社に行っても行かなくてもよくて、上司もいなくて、仕事内容も自由という働き方を20年ほど続けています。

仲山

今日は「組織のイヌ」と「組織のネコ」についてお話ししてみます。 イヌは組織に忠実なタイプで、ネコは組織に属しているけれど”自分の価値基準”を大事にするタイプです。

仲山

この話をすると、よく「ネコがよくて、イヌがダメってことですか?」という質問をいただくのですが、そういうことではなくて。
よいのは「すこやかなイヌとネコ」で、ダメなのは「こじらせたイヌとネコ」です、と伝えています。ネコの上位互換がトラ、イヌの上にライオンがいる、という話もあるのですが……、長くなるので今日はこのくらいで(笑)。

仲山

今回のテーマである「企業カルチャー」についてですが、そもそもカルチャーの語源を調べてみると「耕す」という意味に辿り着くんですよね。
つまり、企業を土にたとえると、どのように耕すかで企業の文化が変わってくる。トラクターで均一にするか、微生物が調和した状態にするか。または、もし畑が痩せてきたら、化学肥料を加えるのか、休ませるのか。最近はそもそも「耕さない」という農法も聞くので興味深いなと思っています。

仲山
時代とともに進化する「企業カルチャー」

ここからは、ゲストとのトークセッションへ。みなさんが考える「企業カルチャー」を軸に、なぜ今「企業カルチャー」が重視されているのか?
また時代とともに変化するオフィスのカタチについても考えていきましょう。


塩田
北村さんの1990年代オフィス空間のお話は、とても面白かったですね。その当時には「企業カルチャー」はなかったのでしょうか?
いえ、存在していたと思いますよ。終身雇用のもと「俺たちのカラー」を文化として色付けていたはず。私がいた商社には野武士のような男性たちがたくさん働いていて……(笑)。
今では考えられないこともいっぱいありましたけど、それが当たり前の企業カルチャーだったと思います。

北村
昔のオフィスは、島型の配置になっていたじゃないですか?
ヒエラルキー型の組織形態を表したレイアウトだと思うので、あえてそういう設計にしていたのかもしれませんね。

仲山
日本全体がそうでしたよね。カタチの見える製品を商材とする産業から、ITなどカタチのないサービスへと時代とともに進化していきましたが、その筆頭は外資系だったのかもしれません。
特に森ビルさんは、この変化に敏感だったのではないでしょうか?

北村
そうですね。工場でいかに素晴らしい製品を作るかから、クリエイティビティが重視される時代へ変化したことが、オフィスづくりの転換期になったと思います。
また、終身雇用が当たり前ではなくなり、人材確保を考える時代に突入しているとも感じます。そこで重要なのはいかに人を惹きつける企業になるかです。

稲原
惹きつけるという点ですと、森ビルさんのアークヒルズがある赤坂や六本木は、昔は「陸の孤島」なんて言われていましたよね?
それが、アークヒルズにあったカフェやスタンディングバーが併設された「イケてる」空間ができて、人が集まっていたと聞きました。

北村

金融規制緩和で外資系金融企業が日本進出する90年代ですね。皆様、なかなかにオフィスに対するご要望が高くて……(笑)。
そんな中、私たちは一生懸命にご要望に対応して誘致しました。その結果、外資系企業が集まり、足元の店舗はそういった企業で働く方々のたまり場になりました。
外資系企業はどうしても時差があるので、背広を着た金融マンたちが一杯お酒を飲んでオフィスに戻るなんてこともあって。その姿が、かっこよかったですよね。

稲原

塩田
このかっこよさは、お金では買えないですからね。自分もその仲間になりたいと人々を惹きつける。スペックからカルチャーへと移り変わっていく原体験とも言えそうですね。
仲山さんの「耕す」というキーワードも気になりました。
楽天で、オフィスづくりの失敗談があるんです。たしか社員が150人を超えた頃にオフィスを移転したのですが、島のように並んでいるデスクに高い個人用パーテーションが設置されたんです。
当時は「ECコンサルタント」という肩書だったのですが、外資コンサルのように一人ひとりが独立したプロフェッショナルとして働こう、という趣旨だったと思うんです。でも、当時の楽天はまだ創業ステージで、毎日違う問題が起こって、みんなで試行錯誤していたカオスな時期。
話しにくいけど話さなければ仕事にならないので、みんなで机に昇って、パーテーションから顔を出して朝礼をするようになりました。「これはダメだね」ということで、1週間くらいで撤去されたんです。仕事の内容とオフィスの形のつながりって、大事ですよね。

仲山


浦口
企業カルチャーを醸し出していくためにもコミュニケーションは欠かせないのですね。最後に、みなさんが考えるオフィスにおけるコミュニケーションの重要性についてお伺いできればと思います。
いろいろな企業の皆様と接していて感じるのが、オフィスをつくる目的が進化してきている、ということです。
「何のためにオフィスが必要なのか?」 そして、すでに企業カルチャーという共通認識を持っている企業であれば、「どうやって自社のカルチャーが滲み出る空間をつくるのか?」を考えること。
きっと、その先に社員たちがいいパフォーマンスを出して、自ずと成長してい空気が醸成されるだろうと個人的には考えています。

稲原
また語源の話なのですが、ファシリティとファシリテーションもつながっていますよね。いいファシリティは、いいファシリテーションをするんです。
最近、この会場のように交流を目的にしたスペースを持つ企業って増えていると思うのですが、そこのコミュニティマネージャーさんってネコタイプなんです。楽しそうにスペースを活用してイベントなどをやる。
ただ、イヌタイプの人が設計した「ここで交流しなさい」という感じの綺麗すぎるスペースは、ネコにとっては居心地がよくない気がして使わなかったりするのですが……(笑)。どうでしょう?

仲山
あまりにも意識した設計は「その通りにしてやるものか」という感覚になりますよね(笑)。
仲山さんがおっしゃるように、コミュニケーションには“余白”が大切だと思うんです。企業カルチャーを表すのは、やっぱり人だと思うので、余白ある空間で、人から人へといい風土が伝播していく。そんな空間がコミュニケーションを活発にしていけると考えています。

北村

2026年1月取材
執筆=つるたちかこ
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代/ノオト


