コミュニティがビジネスの価値を生み出す時代。うまくいっているコミュニティの秘訣とは?(黒田悠介さん)
ビジネスで「コミュニティ」が大切と言われて、ある程度の時間が経ちました。コミュニティは情報共有やネットワーキング、コラボの機会など、多くの価値を生み出しています。
しかし、コロナ禍を経て大きく変化をした今の社会でうまくいっているコミュニティとはどういうものなのでしょうか?
今回お話を伺うのは、コミューンコミュニティラボ所長の黒田悠介さん。自らコミュニティ運営をしながらコミュニティの研究や事例分析をし、書籍『コミュニティシフト:すべてがコミュニティ化する時代』をはじめ、さまざまな形で発信しています。
インタビューでは、改めて現在のビジネスにおけるコミュニティ運営を取り巻く状況や課題を俯瞰し、今後おこりうる変化への対応などを伺います。
黒田悠介(くろだ・ゆうすけ)
コミューンコミュニティラボ所長。問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を主宰。以前は経営者、キャリアアドバイザー、フリーランス研究家、ディスカッションパートナーを経験。コミュニティ論とキャリア論を発信し続けている。著書に、『ライフピボット 縦横無尽に未来を描く 人生100年時代の転身術』(インプレス)、『コミュニティシフト: すべてがコミュニティ化する時代』がある。
コミュニティとは? 会社やチームとどう違う?
まずお伺いしたいのですが、「コミュニティ」とはそもそも何でしょうか?
人が集まる場所というイメージはあるのですが、きちんと理解していなくて。
黒田
コミュニティの語源は、ラテン語の「Communis」。何かを共有するという意味があります。そう考えると、共有するものがあれば、コミュニティと呼べるんです。
実は、会社を指す「カンパニー(Company)」も近い語源です。ただ、会社はコミュニティではなく「チーム」に近いと思います。その違いは、目的がどこにあるかです。
……というと?
黒田
チームはその「外側」に目的があり、コミュニティは「内側」に目的があります。
サッカーチームなら、大会で優勝するなど自分たちの外側にあるものが目的になる。
一方、サッカーコミュニティという言葉からは、自分たちが楽しむという、内側に目的があると感じられませんか?
たしかにそうですね……!
ということは、チームとコミュニティは完全に別物なんですか?
黒田
交わらないわけではありません。
コミュニティの中に「コミュニティを円滑に運営する」という目的をもった運営チームが存在することもありますし、チームの中に自主勉強会などのコミュニティが立ち上がることもありますから。
コミュニティとチームが近い場所に存在することもあるんですね。
ところで、黒田さんがコミュニティ運営に携わるようになったのは、どんなきっかけがあったんですか?
黒田
フリーランスとして仕事をしていた2017年に、フリーランス同士が助け合う「FreelanceNow」というコミュニティを立ち上げました。
当時は「個の時代」と言われていましたが、ひとりで仕事をしていくのは大変だと感じたのがきっかけです。
他にもコミュニティを運営されていますよね。これはまた違う目的があるのでしょうか?
黒田
そうなんです。運営している、問いでつながるコミュニティ「議論メシ」は新しいアイデアを生み出す「共創」が目的です。
その後、自分の経験を組織で生かしたいと思い、2024年3月からコミューンコミュニティラボの所長として、コミュニティ研究や発信をしています。
オンラインとオフラインを融合させたコミュニティ運営がトレンド
黒田さんがコミュニティ運営に携わる中で、コロナ禍を経てコミュニティにどのような変化が起きていると感じますか?
黒田
オンラインとオフラインを融合したコミュニティ活動が増えています。
オンラインとオフライン、それぞれの役割ができたと思っているんです。
役割というと?
黒田
オフラインは「熱量」が生まれる場所。たとえば、商品のファンミーティングのようなリアルイベントでは、登壇者や参加者の話を聞いて、交流できるメリットがありますが、そこで生まれるのは「熱量」です。
ただ、この熱量って、翌日には消えてしまったりするんですよね。
一晩経つと、イベントの盛り上がりがおさまってしまう感覚、わかります。
黒田
そこで大事になるのがオンラインです。オンラインは、この熱量を「保温」する役割があります。
新たなプロジェクトや勉強会など、リアルイベントで出たアイデアを具体的に進めやすいのはオンラインですね。
オフラインとオンライン、両方の特徴を理解してうまく使い分けることがポイントですね。
黒田
そうですね。オンラインで交流し、またオフラインで集まるという循環が起きているのが、今のトレンドです。
逆に、うまくいかないコミュニティは、オンラインかオフラインのいずれかが欠けているケースが多くあります。
コミュニティの力が、ビジネスの成長につながる
最近では、ビジネスにおいてもコミュニティの力を活用する動きが盛んになっています。
これには、どういった背景があるんでしょうか?
黒田
私たち消費者が、SNSなどのオープンな場で意見を言いにくくなっていることがあると思います。炎上するリスクがあるし、普段のキャラクターにマッチしないマニアックな側面を出すのは抵抗がある。
そのため、好きなことを発信する場として、半分オープンで半分クローズドな雰囲気があるコミュニティが注目されていると思うんです。
なるほど。そうしたファンコミュニティのようなものは、企業が立ち上げるんでしょうか?
黒田
企業がつくるケースもありますし、個人が立ち上げたコミュニティに企業が入っていく動きも見られます。
企業と個人のニーズが合致しているのが今の状況です。
そうなんですね。
消費者は安心して発信できますし、企業にとっては素直な意見を聞けて、商品やサービスの改善に生かせる。どちらにもメリットがあるように思います。
黒田
顧客同士が商品やサービスの使い方について情報交換して、サポートし合う動きもありますね。企業が入らなくても問題解決ができてしまったり。
これからもこの流れは続きそうでしょうか?
黒田
続くと思います。
日本の人口が減少傾向にある中で、企業はLTV(顧客生涯価値)を増やさなければなりません。顧客と長く付き合い、意見を取り入れ、価値を提供し続けるのにコミュニティは適していますから。
コミュニティを活用することは、企業にとってメリットが大きいんですね。
黒田
既存顧客のLTVが増えるだけでなく、コミュニティで生まれた熱量や口コミによって、新規顧客の獲得にもつながりますね。
ちなみに、BtoBビジネスでコミュニティが生かされている具体的な事例はありますか?
黒田
私が所属しているコミューン株式会社は、企業のコミュニティづくりとその成功を支援するサービス「Commune(コミューン)」を提供している会社です。
そこでは、「Commune」を使ってコミュニティを運営している顧客企業のためのコミュニティ「SHIP」を運営しています。
具体的にはどんな活動を?
黒田
コミュニティ運営を成功させるための情報やヒントを発信するイベントや勉強会、コンテンツの発信をしています。BtoBビジネスのコミュニティは、単に楽しいだけでなく、実用性も必要ですね。
Communeのコミュニティ「SHIP」では、コミュニティマネージャーの仕事に役立つノウハウが得られるので、そこに価値を感じてくれているのだと思います。
そのほかに、ビジネスでコミュニティを活用している事例はあるのでしょうか?
黒田
身近な例としては、LEGOは「LEGO IDEAS」というプラットフォームを通じて顧客がアイデアを提案していますし、Appleはユーザーや開発者がブランドへの強い帰属意識をもっていますよね。これもコミュニティの一種です。
いずれのケースでも大切なのは、ユーザーがコミュニティに何を求めているかを理解することですね。コミュニティが続くために欠かせないことだと思います。
テクノロジーによってコミュニティが変わること、変わらないこと
この先、ビジネスにおけるコミュニティはどうなっていくと思いますか?
黒田
新しいテクノロジーによってコミュニティは姿を変えていくでしょう。
コロナ禍でオンラインによるコミュニケーションが浸透しましたから、次はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)が活用されるかもしれません。
遠く離れていても、直接会っているかのように交流できるイメージですね。
黒田
そうですね。コミュニティメンバーの何割かがAIになることもありえます。
ただ、現時点はこうしたテクノロジーに興味がある人が活用している段階です。一般化するのはこれからですね。
ワクワクする話ですね! 一方で、変わらないこともあるのでしょうか?
黒田
今もこれからも変わらないのは、コミュニティの目的を明確にして成果につなげることの大切さですね。
あとは、テクノロジーが発達しても、人と人とのコミュニケーションは残り続けるでしょう。特に熱量を生み出す部分ですね。すべてがAIで完結することはないと思います。
今、コミュニティに関わる人たちは、どんな心構えがあるといいでしょうか?
黒田
コミュニティで自分は何ができるかを考えて、能動的に関わるとより楽しめると思いますし、自分の居場所も生まれます。
消費者ではなく、生産者として関わろうとするとエンジョイできるのではないでしょうか。
自分から種を蒔きに行って、それをみんなで育てるようとすることがコミュニティを楽しむポイントですね。
今日はありがとうございました!
2024年8月取材
取材・執筆=御代貴子
撮影=小野奈那子
編集=鬼頭佳代/ノオト