集中したいときはオレンジの小物を。「色」の専門家に聞く、リモートワークしやすい部屋づくり
新年度・新生活が始まり2カ月。忙しなさから一息ついてふと身の回りを見渡し、「自分の働く環境、もっとしっかり整えたいな」と感じる人もいるのではないでしょうか。
リモートワークのためにデスクを準備し、オフィスチェアに腰掛け、最高なネット環境を整えたはずなのに、なんだかやる気が湧いてこない……。もしかしたら、「色」を無視して部屋づくりをしてしまったせいかもしれません。
今回は、「色彩」の観点からリモートワークに最適な部屋づくりについて考えます。教えてくれたのは、色彩の専門家・山下真知子さん。「色」を上手に活用し、リモートワークしやすい部屋にしちゃいましょう。
―山下真知子(やました・まちこ)
色彩環境心理学研究者。アパレル業界でデザインや商品開発、カラートレンドアナリストとしてマーケティング職に従事。その後、大学院にて色彩環境心理学・生活環境学分野で博士号を取得。大手前大学教授を経て現在は大手前大学客員教授として「色のチカラで社会貢献」をスローガンに社会活動を行っている。
色と心はつながっている?
そもそも色は、私たちの心にどんな影響を与えるのでしょうか?
WORK MILL
山下
まず、私たちがどうやって「色」を認識しているのかをご説明しましょう。
色を判別するには、光が必要です。真っ暗な部屋では、色を見分けることって難しいですよね?
朝起きて、カーテンを開けて、光が差し込むと、部屋の壁やインテリアに光が反射します。その反射した光を見て、脳が瞬時に「色」を認識するんです。
そうでした! 理科の授業を思い出します(笑)。
WORK MILL
山下
次に、「色」の役割。
私の専門分野である色彩環境心理学では、福祉施設や教育機関などさまざまなファクターの方々の実験協力を得て、ヒトの気分や感情と色が相関していることがわかっています。
色は何も語りませんが、無意識的にも意識的にもヒトの心に多くの力を与えています。
突然ですが、闘牛士はどうして赤いマントを振り回していると思いますか?
牛を鼓舞するためでしょうか?
WORK MILL
山下
いいえ、実は違うんです。牛は人間のような色の認識はできません。
理由は、赤は強い刺激を与える色だから。スタジアムで観戦する人間たちを奮起させられるんです。マントが黒や白、もしくはリラックス効果のある緑では、会場は盛り上がらなかったかもしれませんね。
牛のためだと思っていました! 人間が無意識に見ている色が心の変化を生み出しているってことなんですね。
WORK MILL
山下
さらに、色と感情のつながりは万国共通です。日本語でも英語でもゆううつな気分を、青の色と関連づけて「ブルー」と表現しますよね。
私たちの暮らしの中には当たり前に色がありますが、感情と色のつながりを知ってうまく活用できれば自分の味方になってくれます。リモートワークの部屋づくりにおいても大切な要素になるはずですよ。
集中したい時は「オレンジ」がいい!
ここからはリモートワークの部屋づくりについて伺います。
ワンルームで仕事をしたり、家族と一緒の空間で仕事をしたり、日常の延長でリモートワークをしなければいけない人もいます。そういう場合も、色を活用して「仕事をするための環境」に整えることは可能なのでしょうか?
WORK MILL
山下
はい、できます。
最近では、リモートワークに慣れてきて、日常の中でも苦労なく仕事できている人も増えたのではないでしょうか? むしろ、家の方が集中できるなんて人も多いかもしれませんね。
まずは家の中で落ち着けるスペースや、仕事モードになれる場所を探してください。そして、そこに自分の目的に合わせた色を活用していくのがおすすめです。
落ち着ける条件は人によって違いますもんね。オフィスと同じ環境にしたい人、ダイニングテーブルでも十分な人、隔離された空間がいい人など。まずは「家のどこで働くか」を探すことが大切なんですね。
WORK MILL
山下
もし雑多な日常から隔離された空間を作りたいなら、白・黒・グレーの無彩色や、ビビットな色を避けたパーテーションやカーテンで区切るのがおすすめです。
白はすべての光を反射し、黒はすべての光を吸収する波長です。グレーはネガティブな感情を想起させるカラーで、PCや仕事ツールにもシルバーの金属色が使用されていることが多いため、背景と同化すると効率ダウンになりかねません。
そうなんですね! 以前、真っ白な壁に向かって仕事していたんですが、なんだか落ち着かなくて……。
WORK MILL
山下
白い壁に向かって仕事をしているのであれば、森林や風景の写真やポスターを置いておくだけでも落ち着きますよ。パソコンの壁紙に出てくるようなものがおすすめです。
山下
また机の色も、真っ白より木目のナチュラルテイストのものを選ぶ方が良いでしょう。オフィス空間と同じ色にする必要はありません。
仕事をする場所が決まったら、次は集中できる環境にしていきたいのです。集中力をアップさせる色は、どんな色がいいのでしょうか?
WORK MILL
山下
集中力を持続させるなら、オレンジなどの暖色を取り入れるのがおすすめです。暖色(オレンジ)と寒色(青)の壁の勉強部屋を用意し、どちらが集中や記憶力に効果があるのか実験したのですが、暖色の方が集中できるという結果が出ました。
山下
とはいえ、おうちの壁紙をオレンジにするのは大変なので、見える位置にオレンジ色の小物を置いたり、花を飾ったり、洋服を着るだけでも効果が期待できます。
オレンジ色は、普段の照明に近いナチュラル感と温かさを感じさせる色なので、情緒を安定させます。また、脳に適度な刺激を与えてくれることから、適度な緊張感を保てて、集中力が維持できると考えられます。
同じオレンジでも、ムーディーなオレンジの場合、集中というよりリラックス状態になってしまうのでしょうか?
WORK MILL
山下
その通りです! 集中するためには、適度な明るさが必要です。
人間は、光によって色を認識しています。色を取り込まないと脳は働いてくれません。次の写真のようなお部屋では、脳が休止モードになってしまいます。
山下
仕事の合間のリフレッシュに効果的なのは、色よりも外の空気に触れること。遠くの景色や青い空を眺めたり、さまざまな色のビル群をぼ〜っと見つめたりするだけで、脳をリセットできますよ。
自然の色が脳をリセットさせてくれるんですね。次に「ここぞ!」というやる気を出したい時におすすめの色を教えてください。
WORK MILL
山下
やる気を出したい時は、強い刺激を受けられる「赤」。
絶対に終わらせたいタスクを赤ペンで書いたメモ帳や、赤い小物を見える位置におくだけでも十分です。
山下
カバンの中に赤い小物を入れるのもいいですよ。外出先で、重要なプレゼンをする前に見て、「よし!」と気合を入れることができるでしょう。
赤ペンでもいいのは手軽でいいですね! 気持ちの面でいうと、リモートワーク中はふいに孤独感や寂しさを感じる瞬間があります。そういった気持ちを和らげる色はありますか?
WORK MILL
山下
そういうときは、ピンクやクリーム色、青磁色など柔らかい色調の有彩色を取り入れてみましょう。
メイクにピンクを取り入れるだけでもポッと心が弾みますし、クッションカバーや茶器、雑貨などでも気持ちを落ち着かせてくれます。
オンラインMTGの服装や背景で印象よく見せるには?
ここからは相手に与える印象についても教えてください。オンラインMTGの背景などで印象を変えることは可能なのでしょうか?
WORK MILL
山下
オンラインMTGの背景にこだわるより、服装やメイク、男性ならネクタイなどの小物でアレンジする方がおすすめです。
例えば、赤は自分のやる気を引き出してくれますが、Zoomの背景で使うと、赤の主張が強すぎて相手に「闘争心」を与えてしまいます。
オンライン上で相手に安心感を与えたいのなら、ピンクのような優しく包みこむカラーが良いでしょう。もし相手に信用してもらいたいのなら、空のような水色を選んでみては。
自分のテンションを上げる色でも、相手に与える印象は変わってくるんですね。
WORK MILL
山下
オンラインMTGの場合、見えるエリアが限られます。お互いボックスの中で会話している状態になるので、どうしても相手に圧迫感を与えてしまうことを覚えておきましょう。
以下に背景色を使う際に、覚えておきたいポイントをまとめました。
背景色のまとめ
【おすすめカラー】
薄いブルー:(新人)信用されたい場合
やさしいピンク:(ベテラン)商談に挑む時
ミディアム〜ライトグレー:素朴・実直に見せたい場合
【NGカラー】
赤:闘争心を与えてしまう色
濃い青や紺:圧迫感を与えてしまう色
黒:冷たく頑固そうな印象に
山下
相手と落ち着いて話をしたいなら、単色背景よりも、明るい自然の写真もおすすめですよ。
優先して考えていただきたいのは、目的に応じた色を使うこと。自分のためなのか、相手のためなのかを理解しておくことが大切です。
自分が好きな色を意識してみよう!
色って奥が深いんですね! 今回はリモートワークの部屋づくりを切り口にしましたが、こんなにも色が大切な役割を果たしているとは思ってもいませんでした。
WORK MILL
山下
人は、無意識にその時に惹かれる色を収集してしまうこともあるんです。雑貨など、気がついたらいつも同じ色になっている……なんてことはありませんか?
私は気がつくと黄色の雑貨ばかり買ってしまうんです。スマホケースやペンケース、ポーチなどは黄色が集まってきますね。
WORK MILL
山下
黄色や赤などのビビッドな色が多い人は、「がんばらなきゃ」というプレッシャーが深層にあり、頑張りすぎている自分に疲れている時です。
ふんわりとしたパステルカラーが多い人は、「しっかりしなきゃ」というプレッシャーがかかっていて、ふんわりとしている自分を変えたいと転換を求めている時とも言えるんです。
頑張りすぎている自分に疲れている……。間違いなく私の状態ですね(笑)。
WORK MILL
山下
最近は、インテリアや洋服にも流行があるので、自分の好みとは関係なしに「流行っているから」という理由で服や物を選ぶ人が多いですよね。だけど、それでは落ち着かないはず。
「本当は何がしたいのか?」「自分が好きなスタイルは何か?」を意識することが大切です。それがわかった上で、色を活用すると暮らしがもっと豊かになるはずですよ。
「これが正解」というわけではなく、まず自分が好きな色は何かから探していくのがいいのかもしれませんね。
WORK MILL
山下
嫌いなものは意識できるのに、好きなものを意識できていない人の方が多いと思います。
色と心の関係は奥深くて面白いですよ! 好きなものにフォーカスできるようになると、心も軽くなってきますから。
まずは、持っているアイテムなどをゆっくり眺めながら、自分の好きな色、落ち着く色、しっくりくる色を見つけてみてくださいね。
2023年3月取材
取材・執筆:つるたちかこ
アイキャッチ制作=サンノ
編集:桒田萌(ノオト)